大都市臨海部における水辺空間創出に向けた基礎的研究

〜東京ベイエリアを対象として〜

 

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修士課程 

森拓也

 

研究の背景・目的

東京都のベイエリアは工場や倉庫が優越する人々にとって物理的・心理的に遠い存在であったが、東京都が1970年に東京都海上公園構想を策定して以来、多くの公園緑地も形成されてきた結果、数多くのパブリックアクセスが実現するだけでなく、一部の地域においては生物のサンクチュアリーも整備されてきた。また近年の新しい傾向として、臨海部には数多くの都市開発プロジェクトが構想され実施されてきた結果、居住空間や商業空間、業務空間等の都市的な空間が徐々に増加してきた。そのため、東京都臨海部において居住環境整備が必要となり、その手段として、臨海部特有の資源である水辺を生かしたオープンスペースを整備が現在重要な課題となっている。

 

 

以上の背景を受けて本研究は図1に示す地域を対象に、

以下の2つの目的を設定した。

 

1.   現在整備されている水辺のオープンスペースを、その制度・分布・形態・従前土地利用等を元に類型化を行い、類型別の事例分析を行うことでその特徴と課題を明らかにし、水辺のオープンスペースを整備する上での原則を抽出する。

2.   オープンスペースの整備されていない水辺の現状を分析することでその特徴を明らかにし、その上で上記分析結果をふまえた水辺空間整備にあたっての課題を検討する。

 

研究のフロー

研究のフローを図2に示す。

まず対象地の地域構造を分析することでその地域構造の把握する。次に

水辺のオープンスペースの分析を行うため、その特徴を記したデータシートを作成し、それを東京都都市計画地理情報システムのデータとGIS上で統合したデータベースを作成する。そしてそれを利用することで水辺のオープンスペースの特徴を明らかにし、類型化を行う。

そして次に主要な類型について事例分析を行うことで具体的な状況を明らかにし、水辺のオープンスペースを整備する上での原則を抽出する。その後、各類型の創出方法を考察し、現在水辺のオープンスペースが整備されてない地域の特徴を明らかにする。そして最後に総括において

以上のまとめを行い、東京ベイエリア全体の水辺空間の特徴とその課題を示す。

本発表は、時間の制約から特に水辺のオープンスペースの分析以降に関して重点的に発表を行う。

 

 

 

対象とする水辺のオープンスペース

原則水際線を有する街区、または水際線を有する道路に隣接した街区(本研究では水辺街区と定義する)内に存在するオープンスペースを抽出したところ、図3に示すように水辺隣接OS158件、水辺関係OS66件、水辺近接OS48件の計272件の水辺のオープンスペースが抽出された。また、オープンスペースにも様々タイプがあるが、本研究が対象にした主なオープンスペースは、公園(都立公園、区立公園、海上公園)と公開空地(総合設計制度と特定街区制度に基づくもの)と整備された護岸の3つである。

 

 

水辺のオープンスペースの分析

 水辺のオープンスペースの形態分析を行ったところ、ネットワークを形成しているもの5類型、独立して存在するもの4類型の計9つの類型を得ることができた。ネットワークを形成している水辺のオープンスペースの概念図を図4に示す。また、従前土地利用の分析を、得られた類型ごとに行ったところ、大きく分けると未成市街地を新規開発することによって生まれたものと、既成市街地を開発することによって生まれたものがあることがわかり、従前の土地利用という条件に応じて、各水辺のオープンスペースが整備されてきた事がわかった。

 

 

 

事例分析

fらに図5に示すような類型ごとの事例分析を行うことで、水辺のオープンスペースが、1)生活環境の改善、2)業務環境の改善、3)生物の生息空間の確保、4)広域的なレクリエーション需要の確保という役割を担っていて、今後新たに水辺のオープンスペースを整備していく際には、これらの役割を果たすように留意して整備を進めるべきであり、特に前二者を実現する際にはネットワークの形成が不可欠であることを指摘した。

 

水辺のオープンスペースの整備されていない地域の分析

 その後、水辺のオープンスペースの整備されていない地域の分析を、水辺街区に着目して分析することで、大きく分けると、1)水辺のオープンスペースが整備されることによって居住環境の改善が期待できる地域、2)都市及び港における基本的インフラストラクチュアが整備されている地域、3)一般の人が通常の手段たどり着くことのできない地域、4)不明の地域、5)水辺隣接OSを整備することのできない地域という5つの地域に分類することができた。

 

総括

 以上の分析をまとめることで、東京ベイエリアの水辺空間全体についてまとめと考察を行った。表1に示すように、東京ベイエリアは大きく分けると7つの地域に分類することができ、それぞれの類型が図6のように分布していることがわかった。そして、今後も東京ベイエリアにおける水辺空間の質を高めていく際には、水辺のオープンスペースの有る所をより良く改善して、無いところを少なくしていく必要があるが、その際「ネットワークの形成されている水辺のオープンスペースの存在する地域」、「独立して存在している水辺のオープンスペースの存在する地域」、「水辺のオープンスペースの整備されることによって居住環境の改善が期待できる地域」の3地域が重要であることを述べた。そして、

ネットワークの形成されている水辺のオープンスペースの存在する地域は相対的に数が多く、段階的な整備が進行中の公民連携櫛型や公共櫛型は、今後とも再開発や建物の更新の際に適切に公開空地を設けるよう誘導することでネットワークを強化することや、既存の公園や、低・未利用地を活かしてネットワークの強化する必要があることを述べた。また、

独立して存在している水辺のオープンスペースは多くあるが、特に独立線状型、独立小規模型は、小規模な上街との連続性が少ない為、ネットワークの形成が重要であることを指摘した。さらに居住環境の改善が期待できる地域に関しては、その全てに水辺のオープンスペースができるというわけではない事を指摘した上で、水辺のオープンスペースを整備をする際には、それによって1)生活環境の改善、2)業務環境の改善、3)生物の生息空間の確保、4)広域レクリエーション需要の受け皿の4つの役割が適切に実現されるよう留意して、特に前2者を実現するためには、水辺のオープンスペースのネットワークを形成することが重要であることを指摘した。そして、居住環境の改善が期待できる地域は4つの類型から成るが、それぞれの類型についての課題をより詳細に示した。