SOHOT ステーションのデザイン
氏名 澤村直子
研究課題名 自律分散型ワークスタイル支援施設のデザイン
所属 政策・メディア研究科修士課程1年
環境デザインの手法開発
80131690
carocaro@sfc.keio.ac.jp
言葉の定義
SOHOTステーション=
SOHO・テレワークおよびその他の自律分散型ワークスタイルにおけるコラボレーション・スキルアップ・交流を支援する施設。

自律分散型ワークスタイル=
独立した個人同士が、IT(情報技術)を利用して分散しながら共同作業を進める働き方を指す。SOHO、テレワークに代表される。

SOHO=
スモールオフィス・ホームオフィスの略。一般に10人以下の企業や自宅をオフィスにしている企業を指す。

テレワーク=
ITを利用して、大企業に属していながら本社と離れた遠隔地で仕事を進める働き方。

背景
 SOHOTステーションのデザインを研究テーマとして取り上げたのは、SOHOやテレワークに代表される自律分散型ワークスタイルが、現代社会において有効性を増していると考えるからである。
 その背景は以下の通りである。まず、長引く不況やグローバル化などにより、実力社会が到来し、企業はアウトソーシングやリストラなどの措置によるスリム化を余儀なくされた。その結果、社会構造が一極集中型から自律分散型に移行した。また、ITの発達により、個人が組織に頼ることなく単体で社会とつながることが出来るようになった。このような事実を背景として、個人または小規模単位のグループでもその力を発揮できる土壌が整えられ、個の活動を中心とする社会が到来した。その結果、自律分散型ワークスタイルが有効な働き方として注目を集めるようになった。
 しかしその一方で、このワークスタイルを受け入れるような環境が整っていないため、なかなか浸透していないのが現状である。こうした側面からも、SOHOTステーションデザインの研究は有効であると考える。

目的
SOHOワーカーやテレワーカーの働き方の実態を把握すること、それをもとにSOHOTステーションを設計することを目標とする。これらの実現によってSOHO・テレワーク支援を達成することを最終的な目標とする。

調査概要
SOHOやテレワークに関する学際的な研究は始まったばかりであり、実際にワーカーの現況を示す資料はまだそろえられていない。そこで、自律分散型ワークスタイルの実態を把握するためにアンケート調査を行った。

方法
 対象とする母集団はSOHOワーカー及びテレワーカーである。SOHO協会・テレワーク協会への呼びかけや知り合いのSOHOワーカー・テレワーカーへの呼びかけを通して71の有効サンプルを集めた。71の有効サンプルの内訳は、スモールオフィスワーカー14、ホームオフィスワーカー34、テレワーカー7、その他16である。
 調査項目は、回答者のプロフィール、仕事場の空間、仕事場の設備、ワーカーの有する技術、仕事の進め方、プライベートにおける交流・スキルアップに関するものである。

結果
グラフ1 現在の仕事空間に対する評価。単位:ポイント。(三段階評価)
満足 普通 不満
自宅からの距離 34 28 9
立地場所の交通の便 21 38 12
周囲の環境 18 40 13
整理整頓 11 33 27
休憩スペース 18 38 17
喫煙への対処 28 35 10
照明 12 49 10
空調 10 44 17
家具 13 33 25
設備の充実度 18 34 21
仕事場内部の静けさ 19 38 18
作業内容の変化に対する柔軟性 14 45 12
広さ、収納の充実度 18 29 24

グラフ2 日常的な仕事場ではないが、仕事場としても使う場所。
                           単位:人(複数回答可)
レストラン・カフェ 10
図書館 9
グループ作業のメンバーの自宅 2
自宅 11
レンタルオフィス 2
オフィス 7

グラフ3 打ち合わせとして利用する空間。単位:人(複数回答可)
オフィス内 会議室、グループ作業のための部屋 36
個人作業を行う部屋 13
休憩室 5
食堂または喫茶室 3
その他 2
街中 レンタルオフィスなど 2
貸し会議室 1
レストラン・カフェ 15
社外で作業に関わりのある人のオフィス 5
住居 自宅 2
社内で作業に関わりのある人の自宅 0
社外で作業に関わりのある人の自宅 5
メール・電話・インターネットで 5
打ち合わせはしたことない 1

グラフ4 家族状況。単位:人
家族状況 全回答者 SO HO T
結婚して子供がいる 38 3 20 3
結婚しているが子供はいない 12 3 4 2
独身で独り暮らしである 10 3 5 1
独身で同居人がいる 6 4 1 1
独身で家族がいる 5 1 4 0

グラフ5 プライベート生活に採り入れたいスキルアップ・交流の機会。
                            単位:人(複数回答可)
少人数の勉強会 18
スキルアップのためのスクール 27
英会話教室 12
仕事の刺激となるようなイベント 21
同業者との交流 22
異分野の人間との交流 18
その他 2
なし 6

グラフ6 現状の仕事の進め方に対する評価。単位:ポイント(五段階評価)
満足度 不満度
納得のいく十分な話し合い 45 20
自分の意見が採用されること 51 11
きちんとしたスケジュール管理 30 32
自分の都合に対する柔軟性 59 13
効率 32 24

表1 仕事空間に対する今後の希望。(自由記述)
空間の質 状況に対し、柔軟に対応できる空間 仕事とプライベートのメリハリ
集中する場とリラックスする場
気分転換ができる空間
可動式間仕切り
クリエーティブなミーティングルーム
仲間が集まる魅力的な場所としての雰囲気
自分好みの空間
情報環境 安定したインターネットインフラ
セキュリティ
ハード面 収納スペース
電気設備の充実
SOHO用家具
機材搬入のできるエレベーター
防音
家賃の低廉化
周辺環境 文化を感じられる場所・刺激を受けられる場所
徒歩圏内で買い物ができる
金融機関の充実
医療機関の充実
コンビニ
サービス 日常の食事のデリバリーサービス
スキルアップの教育

表2 スキルアップに対する今後の希望(自由記述)
スキルアップについて ネットワーク関連技術について学ぶ機会が欲しい
通信教育などで学びたい
自分のスキルを超えたタスクをこなすことで仕事をしながらスキルアップしたい
即戦力となるような技術習得の仕方が望ましいが、実際には難しい
書籍による独学は即戦力となることが少なく、結局身近な経験者に質問している
スキルアップのための書籍が高価で困る
新しい技術のスピードに自分の習得が追いつかない

表3 仕事の進め方に対する今後の希望(自由記述)
個人作業 自己管理が重要 ・スケジュール管理
・健康面・精神面の管理

グループ作業 クライアントとの話し合いは納得がいくまで行う
常時連絡が取れるように配慮している
個人が好き勝手にやるのではなく、自助努力を組織への貢献に結びつけることが必要
上司など他人に頼らず自分で仕事を進める姿勢が必要
指導されなくても自発的により良い仕事を工夫できる人材が必要
仕事が発生するごとにプロジェクトを組み、スタッフを選定するので信頼できるスタッフ層の確保が重要

考察
・ワークプレースの空間的な質を高める必要がある
3段階評価(満足・普通・不満)で点数をつけてもらい、その点数を元に算出したポイントを表したのがグラフ1である。ここから、「整理整頓」、「家具」、「広さ・収納の充実度」など空間的な質に関する項目に対して不満度が高いことが分かる。 また、表1は仕事場に対する今後の希望を自由に記述してもらった回答をまとめたものであるが、これを見ても空間的な質に関する希望が多いことが分かる。これらの結果から、今後、ワークプレースにおける空間的な質を高める必要があると結論づけられる。

・街中に点在するミーティングスペース
グラフ2は、「日常的な仕事場ではないが、ときどき仕事場として利用することもある場所」を回答してもらった結果である。「レストラン・カフェ」、「図書館」という回答が多い。また、グラフ3は打ち合わせ場所として利用する空間を回答してもらった結果で、「オフィス内のミーティングルーム」に次いで「レストラン・カフェ」という回答が多いのが目に付く。これらの結果から、普段の仕事場意外に、街中にもワークプレースやコラボレーション・応接スペースとして利用できる空間を用意することが有効であると考える。

・仕事とプライベートとのメリハリをつけられる仕事システム
グラフ4は回答者の家族状況を表している。結婚をしている人が71%、結婚を含め、何らかの同居人のいる人が86%にのぼり、純粋な独り暮らしの人は14%にとどまる。したがって大部分の回答者は同居人との生活ペースを考えながら仕事を進めていかなくてはならない状況にあると言える。表1では一番上の項目に「仕事とプライベートのメリハリをつけられる空間」という希望がある。これらのことから、現在、自律分散型ワークスタイルにおいては仕事とプライベートのメリハリをつけられる仕事システムが求められていると考える。

・生活雑務のサポートサービス
表1より、回答者は周辺環境に対して「徒歩圏内で買い物が出来る」、「医療機関の充実」、「金融機関の充実」、「コンビニ」の存在を希望している。また、サービスの項目では「日常の食事のデリバリーサービス」が求められている。したがって、今後、生活雑務のサポートサービスの充実が求められていると結論づけられる。

・仕事を進めながらそのスキルにおけるプロのアドバイスが受けられる仕事システム
表2はスキルアップに関する今後の希望をまとめたものであるが、ここでは、即戦力となるスキル習得が求められている一方で、書籍やスクールによるスキルアップは即戦力になりにくい事実、結局は仕事をしながらスキルを身に付けていくやり方が最も効率が良いことなどが述べられている。したがって、スキルアップに関しては、スクールや書籍の充実よりも、仕事を進めながらそのスキルにおけるプロのアドバイスが受けられる仕事システムの開発が有効と結論づけられる。

・スキルアップと交流が結びついた機会の創出
グラフ5は、用意された項目の中から、プライベートに取り入れたいと考える機会を選択してもらった結果をまとめたものである。「スキルアップのためのスクール」という回答が最も多く、学習意欲の高さがうかがえる。その後、「同業者との交流」、「仕事の刺激となるようなイベント」が続き、全体的に仕事に対する熱心な姿勢が垣間見える。ここから、スキルアップと交流が結びついた機会の創出が求められていると結論づけられる。

・マネージメント業・秘書業
グラフ6は現状の仕事の進め方について5段階(-2、-1、0、1、2)で評価してもらった結果をまとめたものである。その結果、「きちんとしたスケジュール管理」という項目に対し、とくに不満が高く、ルーズになりがちなSOHO・テレワークの実態を浮き彫りにしているととらえることが出来る。また、今後の仕事の進め方に関する希望の記述結果である表3では、個人作業に関しては自己管理が大切だという意見が目立つ。これらのことから今後、SOHO・テレワークの分野ではマネージメント業・秘書業の可能性があると言える。

・気持ちの良い人間関係を保っていけるような仕事システム
今後の仕事の進め方に関する希望をまとめた表3のうち、グループに関するものを見ると、意思疎通の大切さや、他人に頼らない姿勢、普段からの人脈確保の重要性が強調されており、普段からの人間関係をきちっとしておくことの必要性が見て取れる。したがって、気持ちの良い人間関係を保っていけるような仕事システムの構築が求められていると考える。

今後
今回行ったアンケート調査とその考察を元に、自律分散型ワークスタイルにおいて求められる空間・サービスを具体的な空間設計・システムのデザインに落とし、実際に敷地を定めてSOHOTステーションの設計・提案を目指す。そのためには、アンケート結果の考察やデザイン作業と併行して、事例調査を行う。事例調査を通して実際に存在する自律分散型ワークスタイル支援の形を研究し、SOHOTステーションのデザインの参考にしたいと考える。