2001年度森吉郎記念研究振興基金報告書
「CSとインターネットのメディアフュージョン型エンタテイメントデザイン」

政策・メディア研究科1年
稲蔭研究室 南雲良寛
nag@sfc.keio.ac.jp

  1. はじめに

    はじめに、今年度の活動の概況を記します。
    助成いただいた研究費を、制作機材調達のための一部資金として利用させていただきました。現在は、次章で述べられるような背景・問題点に基づき、コンテンツを作成しています。

  2. 背景・問題点

    BSが2000年に、CSも来夏には、そして、地上波は2003年にデジタル化される。
    放送、特に地上波のデジタル化について通信・放送機構(TAO)がその意義をまとめている。そこから、このデジタル化によってもたらされる主なメリットを抽出してみると以下のようになる。

    視聴者のメリット
    1. 高品質な映像・音声サービス、並びに蓄積型コンテンツや双方向型コンテンツを利用したサービスを受けることができる。
    2. 多くのチャンネルから好きなコンテンツを選べる。


    放送事業者のメリット

    1. 多彩な放送サービスを行うことが出来る
    2. デジタルデータのままノンリニアに撮影・編集・放送・蓄積が可能となり、バーチャルスタジオのようなプロダクションに関するデジタル技術も利用しやすくなり、また、他のデジタルメディアへの副次利用が促進される。


    このようなメリットのそれぞれは理解できる。
    しかし、次世代放送のサービスに投影できるイメージは曖昧なままではないだろうか。高画質で双方向でという特徴を備えた、多彩な放送サービスとは実際どのようなサービスなのだろうか。

    また、放送事業者のメリットの2番目に挙た、デジタルゆえの副次利用の促進は実際、どのような制作プロセスをもってすれば効率よくコンテンツを他のメディアにコンバートできるのだろうかという疑問が浮かび上がる。

    ここで述べられている他のメディアとはインターネットというデジタルメディアを指すと考えられる。そのインターネットメディアは、ブロードバンド化つまり、データ帯域が広くなるという進化の最中である。従来のナローバンドなインターネットと同様、これからもインターネット上のウェブサイトでは、BBSに代表されるテキストベースでのコミュニケーションが行われ、そして、テキストのデータがコンテンツとして楽しまれ続けるであろう。加えて、ブロードバンド化したインターネットに期待されるコンテンツはなんと言っても動画である。従来の56Kモデムでは満足に見ることの出来なかった動画コンテンツも、ADSLでの接続ならば、動画の内容がしっかりとわかるくらいに鑑賞することが出来る。また、MacromediaのFlashの技術を利用したアニメーションなども、インターネット上の動画コンテンツとして特徴的だ。

    このようにインターネットはコンテンツを載せるためのメディアとして発達しており、その力を放送業界は無視できず、積極的に利用する例も多く見受けられる。
    たとえば、フジテレビのF1のサイトのように、レースにまつわるデータなどをウェブでいつでも見ることが出来るようにしている。このように、放送コンテンツの補足データをウェブで利用してもらうことで、従来の放送で出来なかったきめデータによるきめ細かいサービスを行うことができるようになっている。
    このウェブをデータ補足として利用するタイプのコンテンツ展開では、テレビレビの視聴者(ユーザ)をウェブに渡しているモデルといえる。
    また、ユーザをメディア間で受け渡す手法には、ウェブからテレビへという流れも考えられる。これは、ネットを利用してコミュニティを作り出し、そのコミュニティ内部の人やそのコミュニティに参加していなくても興味をもちBBSなどを閲覧していたユーザをテレビの視聴者にする手法である。この例としては、NHKスペシャル変革の世紀が挙げられるだろう。
    そして、ここで上の二つをミックスした手法が考えられる。インターネットから入ればテレビへ、テレビから入ればインターネットへ、どちらのメディアから入ってももう片方のメディアへと受け渡される手法である。この手法は他の二つの手法を組み合わせた強力な手法であるといえるが、さらに、コンテンツ自体がどちらのメディアだけでも面白く、かつ、両方のメディアでコンテンツを体験するとよりいっそう楽しめるようにすることで、今までのテレビだけインターネットだけでは出来なかった体験をユーザに与えることが出来る。この手法で、かつ、今までに無かったコンテンツの体験を与えるためには、はじめから二つのメディアを利用することを想定したコンテンツの企画が重要であるが、現状では実現している例が見受けられない。

    本研究では、上で述べたような、
    放送事業者にとってデジタル化はデータの扱いを簡単にしコンテンツの副次利用を促進すると言われているが、実際にどのような方法が望ましいか、という問題と、
    ユーザにとってまったく新しいコンテンツのためのメディアデザインという問題に対して、次章に記載したコンテンツの制作を通じて研究を行っている。

  3. コンテンツ案

    この章では、本研究を実証するためのコンテンツの企画を説明する。

    3.1コンテンツ概要

     本企画は、まずウェブコンテンツから始まります。ウェブ上では、まず、手相診断と将来の自分像についての診断を行う。そして、診断結果でその人はあるカテゴリに属す。その診断結果/カテゴリを基に、コミュニケーションウェア上でその人と同じ性質の人や、同じ将来を目指している人と知り合ったり、はなしたり、相性のいい人を自動的に紹介されストリーミングによるインタビューも見ることが可能となる。

     つまり、手相と将来の診断という自分のことを入り口にして、自分の有り様やこれからを知り、自分との関係を感じながら動画コンテンツを楽しみ、そして、他人との出会いを楽しむことのできる新しい形のコンテンツといえる。。

    コンテンツの流れ

    Web

    [ 手相/診断 ] → [ 結果 ] → [ 登録 ]
    → [ コミュニケーションウェア/ストリーミング ]

    手相/診断

    Macromedia Shockwave Flash を用いたグラフィカルなインターフェイスを利用しながら、ユーザ視覚的に自分の手相を作り上げます。その手相に加えて、自分の将来やりたいことなどを入力する。

    結果
    先の手相と診断によって、ユーザの特徴とそのカテゴリがここで示される。
    (別紙参照)
    ここで、ユーザは自分の長所、短所などの特徴を知ると同時に、「同じカテゴリの人」「気の合うカテゴリの人」そういった同一カテゴリ、その他のカテゴリの人たちを紹介される。

    コミュニケーションウェア
    • スケジュール機能
    • ランキング
    • 友達検索機能
    • 悩みとなどの疑問に応える機能
    • グループ機能
    • 診断強化ゲーム/カテゴリ別対抗ゲーム
    • 毎日変わる手相の占い


    ストリーミング

    • 登録者の中から、参加者を募って撮影
      (この素材を放送にも利用する)


    CS放送

    • 手相診断カテゴリを利用した内容
      診断カテゴリを基に、そのカテゴリの中で最も突出した人を選び出し、その手相の長所/短所を紹介するような映像(ドキュメンターリータッチな?)。また、その短所を克服して、手相/診断から見た自分の現状と、理想の自分を近づける。(同一カテゴリのユーザには再び、Web上での自分の短所克服ゲームを展開する。
      (番組を見た後で手相を調べたくなるようなコーナー)
    • インタビュー放送
      手相を手がかりに、その人のスタイルを紹介。
    • 新しい見せ方 : Macromedia Flash のアニメーションを利用

  4. 終わりに

    現状では7月に試験放送が始まる予定であるが、これは、2002年3月の予定であったものがずれ込んでのことであり、また、この7月の予定も危ぶむ声さえある状況である。CSの放送はずれたとしても、まずは、ウェブの公開から行うことを予定しており、そのための制作を来年度の初頭までに完了させ、ウェブの公開を行いたいと考えている。