2001年度 研究成果報告書 

「大学におけるキャンパスの有効利用について」

学籍番号:80131906(legnum@sfc.keio.ac.jp)

政策・メディア研究科修士1年:田中 英雅

 

【はじめに】

2001年度春学期においては、第二次世界大戦後から昨今に到る概況について「制度面」と「社会的側面」という2つの社会的側面から、以下のような項目で概略をまとめた。

<制度面から見た時代背景> 

・戦後の私学助成制度の流れ

・私立学校に対する補助金による効果

・私立学校に対する地方分散政策による効果

<社会的側面から見た時代背景>

・教育と研究の社会的ニーズからの乖離

・実務的教育に対する社会的ニーズの増大

・大学と地域の相互依存関係

8月以降、大学の立地戦略に関して研究テーマをより絞り込むべく、以下の6つのテーマについて調べてきた。

・地域と大学の関係

・高等教育への課題

・日本における高等教育機関の立地政策

・大学の立地変動

・進学移動

・進学率

また、近年の大学の新設や移転の動向を探る目的で“Digital News Archives(DNA)(1985年〜2001年6月まで)”を検索し、該当した約1,000件の記事に目を通した。

 秋学期末にはこうしたテーマ・考えてきた事柄をまとめ、知識の整理をすることで今後の研究活動における参考となるものにするという意味で、プロジェクトにおいて報告書を提出している。

 

【研究テーマ】

調査を進めていく過程で、大学の入学定員が変化することによって大学への進学を志す学生の地域移動(以下、「進学移動」と呼ぶ)にどのような影響を与えるのか、ということを考えた。近郊の大学の入学定員が増えれば学生(若者)の外部への移動(流出)は抑えられるのであろうか。もし抑えられるとすると、大学の入学定員がどの程度の規模であればその地域の外部流出が最低限に抑えられる、適正な規模とみなすことができるのであろうか、という疑問から「都道府県における大学の入学定員の適正規模」について研究してみることを考えてみた。

入学定員を変化させる要因としてはいくつも存在するであろうが、即効性からすると補助金政策が挙げられよう。ただし、入学定員を増加すれば増加する程学生の内部への移動(流入)が生じるわけではなく、入学定員が一定数を過ぎれば学生の不足を招くであろうことから、該当地域の入学定員の適性な規模の把握は政策決定の上でも重要な意味を持つと考える。そしてこうした大学の入学定員の適性な規模の指針が見出せれば、該当地域において若者の育成がどの程度可能であるのかが推測され、地域の知的資源の開発における大学の新増設の意義も説明できると考え、「都道府県における大学の入学定員の適正規模」の分析を研究テーマとし、従来持っていた「大学におけるキャンパスの有効利用」という研究テーマから変更する所存である。

仮説としては地域ごとに、地域の外部流出を抑えられるだけの大学の入学定員に適正な規模というものがあると考えられ、それらは地域の特性とその変化に応じて異なるものであると思われる。こうした地域特性の違いを分析するによって、地域ごとの入学定員の適正な規模がどの程度であるのか見出せるであろう。なお、「地域」は高等教育計画における地方分散政策とのからみから都道府県単位で考える予定である。

 

【研究の方法】

大学の入学定員の変化と該当地域における若者人口(18歳人口)の動向パターンを見つけ、そのパターンをもたらした原因を究明する。まず、かつて学生(若者)の地域外への移動率が高かった地域において大学の新設・増設もしくは定員数の増加といった入学定員の上昇が生じた地域における、若者人口の推移の事例研究を行う。そのために学生の地域外移動率が高かった地域の特定を行うべく、『学校基本調査』における「出身高校の所在地県別大学入学者数」より、各年度の地域残留率(大学の所在地における該当県からの入学者数/該当県からの高校進学者総数)を求める。学校基本調査の始まった1971年と直近である2000年との各都道府県の地域残留率の差をとると、10%の増減があった都道府県だけで20に及んでいる(20%以上の増減に該当するものだと5つ)。またこうした動向を5年毎に把握すべくデータを作成してみたところ、以下のようになっており、都道府県によって異なる状況にあることが推察できる。今後は関連すると思われる論文に目を通す一方で、検討を加えていく所存である。

 

 

 

【おわりに】

2001年度は通年で16科目を履修したが、各課題を処理するに当たり、基金より支給して頂いた研究育成費で購入させて頂いたノートパソコン並びに無線LANは非常に役に立った。また、人口動向を分析するに当たり有益と思われるGISの授業を履修したが、そのデータ処理に当たって膨大なメモリを消費したため、やはり研究育成費で購入したMOドライブは大いに役に立った。2001年度森泰吉郎記念研究振興基金による研究助成対象者に採択して頂いたことに心より感謝しております。どうも有難うございました。