研究課題

欧州統合の進展とともに、労働社会政策の分野でも政策目標の共通化が進み、「ルクセンブルクプロセス」というEUと加盟各国との間で調整がもたれるようになってきた。本研究では、イギリスの労働社会政策であるNew Deal 政策とEUの提示する「４つの柱」という政策目標をケースとしてとりあげ、ルクセンブルクプロセスがどのような調整機能を果たしているのかについて、批判的に分析、論文をまとめる。関連する多様な政策の中で主に取り上げるのは、労働市場での需給のマッチングが行われるプロセスを改善するような政策である。具体的には労働移動の促進といった制度的な面と、教育や訓練といった個人の雇用能力の向上というソフト面が挙げられる。研究内容に対応し、手法としてはフィールドワークを重視する。この労働関連政策の欧州での共通化は、これまで困難であったが、近年進展が著しい分野であり、研究そのものの新規性が認められる。

２００１年度　修士論文

ルクセンブルクプロセスの検証　〜イギリス労働社会政策のケース〜

要旨

　本修士論文は、ルクセンブルクプロセスという、EUと加盟各国が行っている労働社会政策の協調プロセスを検証するものである。

本修士論文の目的はこのルクセンブルクプロセスを歴史的な位置付け、そして現在行われている内容、イギリスのケースといったそれぞれの要素を詳述することを目的としている。一方で欧州のガバナンスという分析的視点と枠組みを提示する。ここで注目するのは、ルクセンブルクプロセスが、単に政策形成のプロセスとして捉える以上に、広範な参加主体によるネットワークの形成という視点がありうる、という点である。

本修士論文で行ったルクセンブルクプロセスの検証の結果として、以下の点をまとめる。

　ルクセンブルクプロセスは、ローマ条約以降の欧州統合の漸進的な進展と、80年代後半から90年代前半の単一市場形成、そして90年代後半からちょうど現在にいたる単一通貨導入といった、全体的な流れの中で生まれたものである。特にエッセン欧州理事会以降のプロセスをベースにし、1997年のアムステルダム欧州理事会とルクセンブルク雇用サミットで大きな進展をみた（第１章第１節・第２節）。

　ルクセンブルクプロセスは、欧州雇用戦略、欧州雇用ガイドライン、加盟各国の行動計画、それらを評価し勧告を添えて新たな雇用ガイドラインを設定するという一連のプロセスである（第１章第３節）。

　イギリスの若年向けニュー・ディール政策は、1997年労働党政権誕生と共に生まれた政策である。これは欧州雇用ガイドラインに複数当てはまる、優良なケースである（第３章）。

　ルクセンブルクプロセスは雇用戦略の柱によって進展にばらつきがみられるが、一定の評価ができる。2002年には1998年から2002年までの欧州雇用戦略の全体的な評価が行われる予定である（第４章第１節、第２節）。

キーワード：

欧州統合、ルクセンブルクプロセス、欧州雇用戦略・ガイドライン、ニュー・ディール政策、ガバナンス

政策メディア研究科修士課程2年

グローバルガバナンス（GG）

伊藤裕一

Master Thesis in 2001

Verification of Luxembourg Process

A Case of Employment and Social Policy in the United Kingdom

Abstract

This master thesis will attempt to verify the Luxembourg Process, which is organised by the European Union and the member states in order to coordinate employment and social policy in the EU level.

The aim of the thesis is to place the process on the historical context and to give a detailed account of the process and the case of U.K. As a viewpoint and framework of analysis, a concept of governance in Europe will be introduced. The Luxembourg Process should be regarded as a network among various actors rather as a mere process of policy-making.

The main findings of the thesis are as follows;

・The Luxembourg Process is established in the following historical context; the gradual development of the integration in Europe after the Treaty of Rome; the rapid development of the Single European Market in the ‘80s to the ‘90s; and of the introduction of the single currency. The process is based on the procedure introduced in Essen European Council in 1994 and is developed greatly in the Amsterdam European Council and Luxembourg Employment Summit in 1997 (Clauses 1 and 2 of Chapter 1);

・The Luxembourg Process consists of a series of following elements; the European Employment Strategy, the European Employment Guidelines, the National Action Plans and its assessment and recommendation and the establishment of the new Guidelines for the following year (Clause 3 of Chapter 1);

・The New Deal for young unemployed people has been introduced in United Kingdom since 1997 along with the new Labour government. The New Deal is classified under some guidelines and regarded as the one of good practices (Chapter 2);

・Even though the implementation of the all of Employment Strategy are not successful, the Luxembourg Process should deserve to be praised. Overall assessment of the Process and the Strategy will be issued during 2002 (Chapter 3).

Keywords: European Integration, Luxembourg Process, European Employment Strategy and Guidelines, New Deal policy and Governance

Graduate University of Media and Governance

Global Governance (GG) Program

Yuichi ITO