都心再開発地区を対象とした公開空地分析

〜千代田区・中央区・港区を事例として〜

A Study on the Private Open Space for Public Use in the center core of Tokyo

慶應義塾大学 政策・メディア研究科修士二年 手石方彩夏

Ayaka Teishikata

This thesis proposes the possibility of utilizing precious private open space for public use in cities as urban stock. The subjects are the comprehensive designs in Chiyoda, Chuo and Minato area, which are the center core of Tokyo. The collected 122 data are cluster analysed conducted on construction size and open space function information. These two information sets were summarized in a matrix and this was analyzed in the spatial, design and institutional aspects. As the result, the following facts became clear.1. The current private open space pattern can be classified into 25 types. The one with most constituents was the small open space type.2. The relations among the patters were clarified in the spatial, design and institutional aspects and a desirable institutional operation was discussed. These results can be one of the development guidlines. Moreover, it would be possible to create open space using incentive methods.

Key words:  Private Open Space for Public Use , Comprehennsive Design, Network, Mosaic

1公開空地 2総合設計制度  3ネットワーク  4モザイク 

 


 

1研究の目的と背景

アジアの代表的な大都市の一つである東京では、構造、特性の異なる要素があたかもモザイクのように分布している。環境問題、エネルギー問題、また土地の有効活用等の側面からの超高層ビルの建設により、多様な公開空地(以下O.S.)が生み出され、その様相は今や都市の大きな要素の一つである。特に、インセンティブ制度の適用敷地におけるO.S.が連担し、これまで建築の余剰空間として点的に存在したO.S.が線、ひいては面として都市空間としての広がりをもつ可能性がある。その一方、都心に最も多くのO.S.を生み出している総合設計制度によるO.S.において、その「質」に着目すると、実に千差万別である。市街地環境の整備を図る目的で制定された各種インセンティブ手法の中でも総合設計制度は適用事例が多く(総合設計=434件:昭和51-平成6年(東京都)、特定街区=53件:昭和44年−平成13年)、また制度の改善などにより今後の増加は必至である。しかしながら、その内容は地区計画等と異なり、O.S.の質に関する項目や周辺環境のとの関係には明確な規定はない。数値目標の達成如何であり、適用後の姿は整備主体、立地環境等により大きく異なる。また、同制度によるO.S.は、制度上公共空間ではあるが、本来私有地であり、また、同様の制度として特定街区制度と比べ、法的な担保はないため、その質は民意によるところが大きい。制定以来、幾度かの改正を経て、当初のO.S.拡充による土地の高度利用から、良好な居住ストックの確保までをカバーするようになった。この過程の中で、市街地住宅総合設計(以下、市住総)により、必要な数値条件が条件付で引き下げられたことから、狭小なO.S.が無秩序に発生している。大規模な空地の創出が困難である都心地区において、同制度によって創出される空地は貴重であり、こうして新たに生み出される機能も大きさも異なる空地をいかに有機的に連携させていくか、この問いに答えるべく、本研究では第一に、それらの現時点における構造を明らかにし、第二に、代表的な事例の分析を行い、第三に、O.S.間のネットワークの観点から、魅力ある「都市の公共空間」を生み出すための提案を行うことを目的とする。

総合設計制度に関する既往研究には、空間構成、整備状況に焦点を当て類型化をはかり、その機能を分析している研究、空地の利用形態、頻度等に焦点を当て、分析した研究、利用者の心理およびその要因に焦点を当てた研究、法制度について考察した研究、環境効果を測定した研究、事業展開について考察した研究、空地および制度の変遷を時系列に比較し、考察した研究等がある。その中で、本論文は、都心三区における総合設計制度による開発事例について、経年的、網羅的に調査を行い、建築規模、空地機能の2つの指標に対し、クラスター分析を行い、両者の対応関係から、都心地区におけるO.S.について考察を行った。
研究の対象

本研究の対象地である中央・千代田・港の三区は、首都を担う東京圏の中心に位置し、我が国の政治・経済・文化の中枢としての江戸時代以来の政治・経済の要として機能している。東京のまちづくり指針においては、都心文化、商業、交流などの多様な機能と美しい景観を併せ持つ国際的ビジネスセンターに位置付けられ、日本の中枢管理機能のほか、居住機能、商業、工業、文化、交流など、多様な機能の集積による総合的な国際的ビジネスセンター機能の発揮を求められている。その実現に向けて都は、第1に国際的ビジネスセンター機能の強化、第2に都市を楽しむ都心居住の推進、第3に歴史と文化を生かした都市空間形成といった戦略を提示している。特に、2都市を楽しむ都心居住の推進について、再開発地区計画、特定街区、高度利用地区及び総合設計といった、都市開発諸制度などの活用に触れており、こうした施策の整備、拡充への意欲とその成果に意欲を示している。
 


 
 
 

 

 

 

 

 

 

 

 


図 23区における対象地位置

対象O.Sについて

我が国におけるO.S.は図1-2により分類されている通り、非ぺい地のなかから交通用地を除いたもので、公共O.S.、自然O.S.、公開O.S.、公用O.S.、専用O.S.4種に大別される。そのうち、本研究で対象とするのは、公開O.S.の民営施設のうち、インセンティブ手法を適用することにより公共に提供されているスペース、すなわち、「私有地であるが制度の適用により公共空間としてみなされるスペース」である。さらに、オープンスペースを公共空間、私有空間という観点から分類したのが図1-3である。これによると、市街地におけるO.S.は、(1)道路、公園緑地や河川等「官」(国や地方公共団体)が所有し管理するいわゆる「公共空間」と、(2)民有地(建築敷地)に存する「非建蔽空間」(さらには、建築内部に設置された共有の床空間も場合によっては含む)とに区分され、本研究の対象地となるのは、民有地に存する「非建蔽空間」のうち、小広場を抜いた半公共空間となる。これらのO.S.は、修景、憩いといった、都市のオアシス的な空間としてのみならず、阪神大震災時において実証されたように、都市公園においての焼け止まり機能、また、避難場所として等、防災上非常に重要な観点であることが再確認されている。

本研究の概要及び特徴

対象制度の概要

総合設計制度は昭和46年に制定され、幾度かの改正を経て現在に至っている。都心地区においては、昭和51年に第1勧業銀行が総合設計制度の許可を受けてから四半世紀近い年月を経てきた。昭和51年当初3ヶ所であった適用事例は現在、毎年20箇所程度の適用(都心地区のみ)が見られ、現在、都全体では434個所(平成11年度現在)にのぼる。毎年総合設計制度により創出される「公開空地」は、公的空地の確保が困難である都心地区において重要な位置を占めてきたといえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

研究の手法

本研究は、建築統計年報2000年度版より対象地区における敷地面積、空地率といった数値データを抜粋し、改正した基礎情報に関するデータと踏査によって収集したデータおよびデータシートによる、機能・性格情報データ解析の二段階に分けて行った。当初対象物件を建築統計年鑑の総合設計制度許可実績一覧から抽出したが、許可時のデータであるため、住所、名称に大幅な変更が認められ、収集データと整合性が得られないものがあったので、第一に、既にある敷地面積、空地面積等の数値情報に関しては、増改築等の理由で重複している部分を除いた全てのデータを用いて、平均値による考察を行う。次いで、上述のデータに、収集データを重ねあわせ、実際に調査を行うことができ、かつデータの整合が取れたものを抽出し、クラスター分析による類型分けを行う。必然的に両者の事例数が異なるため、両者を一時に分析することはせず、このような方法を取る事とした。この際、クラスター分析を行うにあたっては、建築統計年報からの数値データを建築規模データ、および踏査により収集したデータ及び記述の際に1(当てはまる)、0(あてはまらない)という基準で表記したデータを空地規模データとし、各々クラスター分析を行い、類型を導き出した。これらのデータは、それぞれの類型が出揃い、分析した後、それぞれを両軸に据え、概念マトリックス化し(実際の統計的なプロットは行っていない)、最終的な類型化を図るものである。なお、クラスター分析においては、ユークリッド距離を用いるものとする。

クラスター分析とは、ものごとを分類、類型化する際によく用いられる手法であり、数値をベースに客観的に集合(クラスター)に分類するものである。同様の多変量解析には、他に判別関数や数量化理論U類などがあるが、これらにはあらかじめ設定されたグループ(外的基準)が必要である。今回のデータ解析に当たっては、外的基準がなかったため、クラスター分析を用いる事とした。

4−1構成と留意点

本研究のフィールド調査を行うにあたり、港区神谷町周辺地区を調査し、プレサーベイを行った。その結果をうけて、調査項目及びフォーマットの検討を行った。

第一段階:プレサーベイ

港区神谷町周辺地区におけるO.S.調査を行い、空地形状類型、調査項目等の検討を行った。(1999年度4月より)

第二段階:本調査

第一段階で行った調査をもとに、調査便宜上、O.S.の形状及び緑化状況について類型化(下図参照)を行った。また、データシート項目についての精査を行った。また対象地区を、東京都特定街区事例における1例と、建築統計年報における東京都総合設計制度許可実績一覧より都心三区に建設されたものとし、同データのデジタルデータ化を行った。その上で、2000年度6月ころより2001年度10月にかけて実地調査を行い、10月から12月にかけてデータの整理、統合を行った。

データシートは以下の情報について作成した。

基礎情報(建物、用途、法制度、空地率等)

緑化情報(植栽状況、類型)

空地形状(空地形状、接道との関係性)

設置物状況

敷地内通路

 

空地形状類型

緑化状況類型

 

建築規模クラスターまとめ

本段では、建築統計年報より抽出したデータについて分析を行った。まず、指標間の単位が異なっているため、SPSSの記述統計ツールを用い、データを標準化した。次いで、もとめられた標準値を用いクラスター分析を行い、6類型に分けた。その結果、以下のような結果となった。

1クラスター―標準敷地・高建蔽率・低空地率―12例

高さが6例中最も低く、地階は4階までと第5クラスターと同じで最も高い数値となっている。建蔽率が最も高く、また、O.S.率、有効公開空地率は最も低い値となっている。実際に適応事例と対比させてみてみると、中〜大規模敷地の中に空地の広さ自体は広くなく、むしろ道路拡幅程度の空地が多い中、建物の段差やそれによる斜面を利用した緑化や歩道整備(ex.第一勧業銀行、三井海上火災等)が見られるものが多い。また、その大半が丸の内から日比谷にかけての地域に集中しているのが特徴である。

第2クラスター―標準敷地・低建蔽率・高空地率型―11例

O.S.率、有効公開空地率ともに第5クラスターに次いで高く、建蔽率は第3クラスターとともに低い値を示している。また、公開空地率と有効公開空地率は同程度の値である。適応事例に対応させてみると、丸の内にありアトリウムがあるものと、港南から芝浦にかけてあるものが殆どである。敷地内に段差をもつものが多い。

第3クラスター―小・中規模敷地・低建蔽率・高空地率型―32例

O.S.率、有効公開空地率ともに第5クラスター、第2クラスターに次いで高く、建蔽率は第2クラスターとともに低い値を示している。また、公開空地率と有効公開空地率は同程度の値であり、第5、第2クラスターに次ぐ値となっている。

第4クラスター小規模敷地・高建蔽率・低空地率型―49

建蔽率が第1クラスターに次いで高く、O.S.率、有効公開空地率が第1クラスターに次いで低い値となっている。有効公開空地率が公開空地率に比較して若干高い。

第5クラスター―一団地認定型―特殊例―1例

このクラスターに所属する事例は、アークヒルズの一例のみである。有効空地率および建蔽率以外は全ての項目で6例中最も高い数値を表している。特徴は、O.S.、延べ面積、建築面積駐車場面積、敷地面積、有効公開空地の値が他のクラスターと比較して、飛び抜けて高いことである。有効公開空地率、階数に関しては標準的である。アークヒルズは、組合施行の市街地再開発事業の中で、総合設計制度の一団地認定され容積移転が行われた特殊な例であり、敷地面積、空地面積ともに圧倒的に他を凌駕しているため、一事例で一つのクラスターを形成したものと思われる。

第6クラスター―大規模敷地・低建蔽率・標準空地率型―4例

空地機能クラスターまとめ

クラスター1空地1―デザイン・多様性・緑化型

このグループに属する公開空地の約半数に噴水があり、なかには小川があるもの等、親水空間が充実している。建物エントランス前はほぼ全数に広場状空地があり、側面にも約半数が広場状空地を有している。外周通路が蛇行しているものも多少あるものの、直線が殆どである。内側通路が蛇行、直線ともに大多数を占めることから、比較的大規模な空地を有していることが分かる。オブジェに関してもほぼ全数が所有しており、空地形状は前庭型が殆ど無く、バリアフリー多層型と周囲取囲み型が高い値を示している。しかし、内部貫入は殆ど見られず、アトリウム等は整備されていないものと推察される。用途からみると、複合的に使用されているものが多く、デザイン、緑化等に相当の配慮が見られる。特に緑化に関してはほぼすべてが高い水準で特殊空間緑化も見られるのが特徴である。アクティヴィティはスポーツ以外高い数値。

クラスター2空地2―オフィス街ショートカット型

このグループに属する空地には親水空間見られず、外側のほぼ全数が直線であり、L字型、OSショートカット型が多く、コの字型やバリアフリー・多層型が見られないことから、通路状空地主体の整備でありオフィス用途であることが伺われる。周囲取囲み型が半数を示しているが、これらは通路状の空地であると思われる。前述した通り、用途はほとんどオフィスであるが、次いで共同住宅等見られる。デザイン要素も若干見られるのみである。基本的な設えとしてベンチはほとんど見られるものの、他の項目はスロープを除き見られなかった。その一方、規制は車止め程度であり、利用を阻害しているというわけではない。(地冷施設、中水施設が見られる。)緑化が植栽は線少数であり地被、プランター、低木、中木中心を中心に見られる。まさに通路としての用途がほとんどであるというタイプの空地であるといえる。

クラスター3空地3―デザイン重視型

このグループに属する空地には、親水施設は殆ど見られず、広場状空地はエントランス前というタイプである。外・内蛇行が見られる。OSショートカット型若干、オブジェ殆ど、コの字型、周囲取り囲み型が若干見られるが、殆ど前庭型。用途は学校共同住宅、店舗がみられ、殆どは事務所。地冷、中水、備蓄倉庫などの付設設備、スロープの整備がなされているところから、公共に関係する施設であることが伺える。植栽は線形殆どであり、プランター、地被、中木、斜面緑化が若干見られる程度であるが、デザイン的要素の値が高く、規制も殆どなし。

クラスター4空地4―小規模空地玉石混合型

このグループに属する空地は噴水が若干見られる他、特に無く、エントランス前、側面に広場状空地を持つ。外周は直線が殆どであるが、内側通路には蛇行通路を有するものも半数程度見られる。空地形状は、L字型、コの字型で、OSショートカット機能もつものある。オブジェを有するのも少数であり、バリアフリーが見られるが、これは下記の西神田カンダコスモスが入っているためであろう。用途は、分散しており、とくに特徴は認められない。利用促進の設えにはベンチが見られる程度である一方、規制は若干見られる程度である。中水、備蓄倉庫あるもの若干ある。緑化は線少数で、プランター、中、低木中心。特殊空間緑化は斜面緑化がほんの少し見られるだけ通路としての機能が殆どであり、休息、歩行、滞留可能である。用途にはばらつきがある。

クラスター5空地5―オフィス・居住大規模空地型

親水空間が多く、どの部位にも広場状空地が見られる。外周通路、内側通路ともに直線も蛇行もあり、敷地規模が広いことが推察される。OSショートカットの機能を果たし、オブジェが殆ど見られる。形状は殆どが周囲取囲み型のバリアフリー+多層型かつ内部貫入型と、大規模な空地を有していると推察される。用途は共同住宅、事務所が殆どであり、商業、店舗も若干見られる。利用促進の工夫は8類型中一番高い値を示している。植栽パターンはランダム、線形共に多数、他の項目も高い数値を示しており、斜面緑化が見られる。唯一スポーツが可能であり、(半分くらいの事例で)他の行動全て高い数値を示している。

クラスター6空地6―小規模空地型

このグループに属する空地には殆ど親水空間が見られず、広場状空地はエントランス前に見られるものがある程度である。外内ともに直線であり、形状はL字型、コの字型、前庭型が同程度なことから小・中規模の空地を有することが推察される。内部貫入、バリアフリー・多層型に関しては全く見られない。用途は共同住宅、店舗。促進はベンチ以外殆ど見られずない。緑化パターンは、線形・少数のものが殆どであり、通路としての歩行目的の空地である。

クラスター7空地7―小公園的空地型

親水空間は噴水が若干見られるのみである。内・外通路ともに直線が殆どであり、OSショートカット型の機能をもつものが若干ある。形状はL字型、コの字型に分散しており、バリアフリー・多層型も若干見られる。用途は殆どが共同住宅であり、次いで事務所。促進はベンチが殆どだが木陰も見られる。規制はプランター、車止め、植え込み若干。地冷、中水、備蓄倉庫見られる。緑化パターンが線形少数が最も多いが、殆どの植栽に当てはまる。通路としての機能であり、行動は休息、歩行、滞留が見られる。用途地域では分散しており特徴はみられない。

クラスター8空地8―小・中規模オフィス緑化型

親水空間は見られず、エントランス前または側面に広場状空地見られる。外周は直線のみである。ショートカット機能ももたず、形状は前庭型である。用途は事務所・店舗であり、促進のための設えはベンチのみであるが、規制に関しても若干見られる程度である。付設設備なし。緑化に関してはランダム・線形ともに多数であり、すべての項目を網羅している。ただし特殊空間緑化はない。休息・歩行・滞留が高い数値を示している。

7−3−2考察

まず、適応事例数が大きいものに関して概観してみたところ、現在都心地区において最も多いパターンとして、次の2例があげられる。

都心小規模空地型(建築4(傾向:小規模敷地・高建蔽率・低空地率)型×空地6(小規模空地(傾向)型)―22事例)

これらの特徴としては、小規模敷地であり、高建蔽率であり、かつ低空地率である、即ち創造される空地は必然的に狭小なものとなるパターンである。殆どの空地は道路拡幅もしくは前庭部のふくらみ程度のものとなっている。

散策空地型(建築3小・中規模敷地・低建蔽率・高空地率型×空地1デザイン・多様性・緑化型−11例)

このパターンの特徴は、中規模な敷地で低建蔽率、高空地率、即ち、ある程度の広さのある空地を持つ集合である。また、空地クラスター1ということで、デザインや緑化に配慮されたもののグループである。具来的には、親水空間と一体整備されているリバージュ品川、駅前広場の機能を果たしている新御茶ノ水ビル等がある。

次に、特殊なケースについて概観してみる。

アークヒルズ型(1例)

このグループにはアークヒルズ以外のものは入っていないので、アークヒルズ型と命名しているが、全ての建築、空地パターンにおいて、他より郡を抜いて高い数値を示している。敷地内には、ホテル、商業施設、音楽ホール、テレビ局等があり、多様な都市機能を備えた複合的な空間であるということ、また斜面・壁面・屋上緑化が見られる。

リヴァーシティ型(3例)

このグループには、三例が入っているが、全て大川端リバーシティの開発計画となっている。市街地再開発事業と連動して市街地住宅総合設計制度がかかっている。敷地内には住居機能を中心として、美しく整備された街並みとなっている。

その他特徴的なものに関して

日比谷型(3例)

この3例は、空地クラスター7と建築クラスター1のマトリックスの欄にあるものであるが、全て日比谷地区であるという特徴を持つ。中でも日比谷シャンテは、地区計画と総合設計制度が同時にかかった例である。他の二例に関しては、空地率自体は低いものの、十分に楽しむことのできる空地となっている。これら三例は近くに内幸町特定街区、日比谷公園といった、都市域にしては恵まれた緑量を有する地区にあり、何らかの相関がみられるものと考え抽出した。

都心景観型(2例)

この二例に関していうと、両方とも大規模敷地でありながら、空地率はさほど高くない。それにも関わらず、限られた空地を美しく憩いの空間として演出しているものである。特に、三井海上火災ビルに関しては、建物の起伏部にくまなく緑化を施し、千代田区の景観賞にも選出されている。

次にそれらの成立条件として、

空間面、デザイン面、制度面から代表例について比較分析する

これらを、空地面、デザイン面、制度面からまとめる。(章末 表7-2参照)

まず、空地面から見ていくと、景観型は緑空間のバリエーションを活かしている。空地内散策型はある程度の広さがあり、同一敷地内にリズムを与え、小公園的機能と、止まって憩える空間を、植栽パターンの変化や、ペイブメントパターンの変化によって示している。

アークヒルズ型は、集約敷地のメリットを最大限に生かし、様々な都市機能を、敷地の広さと多様性によって支えていることがわかる。リバーサイド型は、立地自体に広々とした開放感があることから、空地の質自体は個々の企業により、親水空間と一体整備するもの、建物部位によって、性格を変えるものがある。

ランドスケープ型は、建物内に起伏、分断など、人間の身体感覚をストレートに刺激する地盤面に工夫がある。これらは、自然の地形を生かしたものから、敢えて人工的に変化を起こしたものまで色々であるが、都心部においても広さを演出するのに効果的である。

リヴァーシティ型は、敷地集約開発なので、敷地に自由度があることが特徴である。よって、同一敷地内でも、ハーブガーデンを配した部位、親水空間を楽しむ空地部と様々なアクティヴィティに対応が可能である。

都心小規模空地型は、ほぼ通路としてのみ機能し、その他のアクティヴィティはあまり見られない。日比谷型は空地率は低いものの、サンクンガーデンを配したり、敷地内の植栽を街路樹に合わせたり等の工夫が実際以上に広々と感じる要因となっている。また、周辺にある公園や、特定街区といった潤いある空間をうまく生かした形となっているといえよう。

次に、デザイン面から概観すると、都市景観型は、緑空間に主軸をおき、その他の要素をそれを引き立たせる方向で整備していくのに対して、空地内散策型は、歩行活動に重点をおき、植栽パターンの変化、ペイブメントパターンなどで敷地にコントラストを与え、歩いていて楽しい空間の演出に重きを置く。アークヒルズ型は、開発以前の地形を生かし、有効空地が確保されているため、段差、起伏に富んでいてその部位ごとにデザインは異なるものの、基本的な色調を合わせてあるため、統一感が感じられる。リヴァーサイド型のデザインは、その建築によって大きく異なるが基本的に親水空間へのアプローチを、緑道にしたり、またはスロープにしたりといった、立地を意識した工夫が見られる。ランドスケープ型は、その起伏の強さとバランスをとるかの如く、大きくシャープなデザインのオブジェが多い。また、起伏があるところから、スロープ等、バリアフリーの設えがあるところが多い。

リバーシティ型においては、空地規模が広いため、ペイブメントの個々のデザインや色というよりもむしろ、その配置やパターンに留意し、中でも多かったのは波状にデザインしているペイブメントパターンであった。

都心小規模空地型に関しては、ペイブメントパターンに若干のデザイン性があるものもあるが、大抵は、樹木の配列によるものか、車止め等のミクロのデザインとなっている。

日比谷型は、それぞれの建物の特徴を生かし、緑が少なく、狭い空地である大和生命の場合は、その都会的な雰囲気を演出する、ペイブメントと同じ素材の球形のオブジェを、サンクンガーデンの斜面部が緑化されている第一勧業銀行においては、緑が映えるオレンジの煉瓦を使用している。

空地内散策型の麹町ミレニアムガーデンの場合は市街地住宅総合設計、アークヒルズ型は、組合施行の市街地再開発事業と一団地認定総合設計制度の容積率割増を併用している。リバーサイド型のIBMの場合は再開発地区計画を併用しており、ランドスケープ型のうちグランパークタワーと紀尾井町ビルディングは市住総適用である。リヴァーシティ型の場合は、市街地再開発事業のなかで、市住総で建てられた特殊例である。

都心小規模空地型は市住総を適用している。日比谷型に関しては、日比谷シャンテに関してのみ地区計画と併用している。

つまり、都心小規模空地型以外は制度をうまく利用し、それぞれの立地特性を活かし、かつ空地面、デザイン面からいってもすばらしいものを提供している。しかしこれは言い換えると、現在の都心地区において一番数を占めるのはこのタイプなので、現状において良好な空地は少ないともいえる。

9章 総括

以上、本研究によって、以下についての知見を得た。

1量的視点

総合設計制度による公開空地は、同制度が昭和46年に制定され、都心地区においては、昭和51年に第1勧業銀行が総合設計制度の許可を受けてから四半世紀近い年月を経てきた。昭和51年当初3ヶ所であった適用事例は現在、毎年20箇所程度の適用(都心地区のみ)が見られ、現在、東京都全体では434個所(平成11年度現在)にのぼる。毎年増加しつづける「公開空地」は、公的空地の確保が困難である都心地区において重要な位置を占めてきたといえる。

こうして生み出されてきたO.S.のあり方に関して、本研究では建築規模を指標とした建築規模クラスターと、踏査によって得られた公開空地機能を指標とした空地機能クラスターによって、各々の現状を類型化し、次いで両者の概念マトリックスをとることで、O.S.の現況を把握し、作成したデータシートと併せて分析を行った。その結果、量的に見ると対象地区中22例は、建築4×空地6のクラスターをとり(小規模都心型空地)、11例は建築3×空地1のマトリックス(散策空地型)であった。しかし、量的には少数であるものの、建築5×空地3のマトリックス、アークヒルズ(一例)、建築6と空地5のリバーシティ(三例)など、空地の規模や質に特徴が見られる例が少数ながらマトリックス上に現れている。これらは、他制度との併用によって、従来の総合設計制度を大きく異なる空間構造を持っている。

現在都心地区でもっとも多く見られる都心小規模空地型は、データシートと照合してみると、後者に比べて規模的に小さいことは勿論だが、用途がほぼ通路に限られるのに比べて、後者は殆どのアクティヴィティが可能な空間となっている。また、前者は一区画の敷地に対して一棟が収まっている、という感じであるのに対し、後者は広い敷地に建物が複数配されている、即ち、敷地の統合、もしくは合同の開発がなされていることが分かる。

また、現状において、二番目に多い建築3、空地4のクラスタによるマトリックスによる散策空地型は、前述の都心小規模型と比較すると、敷地に余裕もあり、空地にもある程度広がりが見られる。しかし、敷地全体の規模の違いから、やはり空地的な広がりという点では及ばない。しかし、その中で、ニチレイ東銀座ビルと興和振興ビルは、波止場公園を介して隣接しており、両方ともある程度の規模がありかつ整備されているため、一体的な広がりをもっている。こうした例は、今後公開空地を整備していく上で重要な視点となると思われる。

2デザイン的観点

以上を、さらに、デザイン的、制度的観点から見ていくと、現時点で一番多い、都心小規模空地型では、単調なデザインが主流であった。植栽に関しては、修景程度にとどまっているのが現状である。その一方、様々に趣向を凝らしたデザインものも相当数あることがわかった。空地クラスター1に相当するグループがこれにあたり、アークヒルズ型、リバーサイド型、空地散策型、景観型もこのグループに属している。こうしたものは、先のアークヒルズ型をはじめ、大規模な空地のものに見られるが、景観型の三井海上火災や、空地散策型の興和新興ビルなどは、敷地面積自体はアークヒルズ等に比べて広くないものの、ほかのものに比べ良く整備されていることは歴然としている。開発の圧力が強く空地の公的担保が困難である中、こうした小公園的性格を備える空地はますます重要となってくる。それでは、民間の開発である総合設計制度において、どのように作り出していくことが可能なのか。それには、周辺の環境とのバランスが必要であると考える。先程示唆したニチレイ東銀座ビルと興和新興ビルは、両方ともリバーサイドという共通点があり、間に親水公園の補完があって、はじめて空地的広がりを得られた例だといえる。勿論、周囲の環境の変化、建造物の建替えは一時にやってくるのではない。だからこそ、現時点のみならず、時間軸を入れた空地像のイメージを描いていくことが大切なのではないだろうか。また、問題として、良好な空地も多く生まれているものの、何故かこのような多様な空地が創出されてきているにも関わらず、それを実感として享受できないことがある。これは、それぞれのデザインが敷地内で完結しているからではないだろうか。アークヒルズの後に開発された城山プロジェクトでは、既存の緑道をそのまま保存し、現在でも神谷町の駅周辺まで、外部の喧騒から離れて木立の中を通っていくことができる。しかも、先に開発されたアークヒルズとは事業団体が同じことから、統一感があり、アークの起伏ある敷地と多様な緑化、そして城山ヒルズの緑道が、「緑豊かな場」として、一体的なイメージをもっていて、相乗作用しているように思う。

まとめと展望

本研究では、四半世紀の歴史の中で幾度かの改正を経つつも、空地拡充に寄与し、かつ民間開発で用いやすい制度として毎年相当数の適用事例が見られる総合設計制度による公開空地の現状を概観してきたが、質・量ともに多岐にわたっており、他制度との併用によってかなり幅のでる制度であることが確認できた。調査結果として、都心地区に最も多い空地のパターンは、小規模空地を有する都心小規模空地型であることが明らかとなったが、一方で、良好な空地の整備も進んでいることが明らかとなった。このように今なお発展を続ける制度の中にあって、今後の都市に息づく良好な空地をいかにして作り出していくか、デザイン的・制度的要素の検討をすることによって、

1現状についてだけではなく、時間軸を入れた計画の必要性

2立地、地域特性による、空地イメージの確立

が必要であることが明らかとなった。

今後は、こうした認識を、マスタープランや、整備計画の中で誘導施策として位置付け、官民の協力体制の中での開発が肝要となると考える。

謝辞

本研究は、2001年度森泰吉郎記念研究振興基金による研究助成(研究育成費)の援助を受けて行われました。貴重なアドバイスを頂いた指導教授の石川幹子環境情報学部教授をはじめ、副査としてアドバイス頂いた塚越功政策・メディア研究科教授、日端康雄政策・メディア研究科教授に深く感謝致します。また、研究に必要なデータ収集にあたっては、石川研究室後輩諸氏の協力を受けました。ここに記し、感謝の意を表します。

参考・引用文献

1.                      卜部祐加・内山森・田口陽子・那須聖・八木幸二 (2001):都市中心部における街路との関係から見たフリーアクセススペースの構成

2.                      國吉真哉・仙田満 (2000):特定行政庁が制定した総合設計制度の規制における市街地環境の整備改善イメージについて―都市におけるオープンスペースの保全と整備の方策に関する基礎的研究―第35回日本都市計画学会学術研究論文集pp925-930

3.                      國吉真哉・仙田満 (2000):那覇市総合設計許可取扱要綱に基づき整備された公開空地の形態的特性に関する考察、日本建築学会大会学術講演梗概集(東北)pp749-750

4.                      小林優介・福井弘道・石川幹子(2001):小流域を単位とした森林分布の評価手法とその適用、第36回日本都市計画学会学術研究論文集pp271-276