2001年度森泰吉郎記念研究振興基金 研究成果報告書

研究課題名:SFCバリアフリールートを用いた車いすナビの実験

政策メディア研究科修士課程2年 飯塚慶子 

 

はじめに

本研究は、2001年度森泰吉郎記念研究振興基金をいただくことにより、調査研究が遂行できたことを感謝し、ここに成果報告をさせていただきます。

 

研究の目的

SFCの障害学生在籍状況

SFCは創立12年目を迎え、障害学生の入学者数を増やしてきた。1990年創立当初、障害を持って入学した者は1名(慶應義塾調べ)であったが、1999年には5名になり、2001年本年は5名在籍している。

 

平成11年度

学生障害者在籍数一覧

 

 

地区

 

   SFC

 

日吉

 

三田

 

矢上

 

信濃町

 

障害者

 

 

 

 

 

 

聴覚

 

総合1年

 

0

 

0

 

0

 

0

 

視覚

 

2

1年×1

2年×1

 

0

 

1

 

1年

 

0

 

0

 

肢体

 

2

総合 1年

 

1

1年

 

0

 

0

 

0

 

小計

 

5名

 

 

1名

 

1名

 

0

 

0

 

合計

 

7名

 

慶應義塾調べ

 

SFC利用状況を把握する意義と目的

果たして、障害学生はSFCを有効に使えているだろうか。2000年に車いすユーザーの友人をSFCに招こうと試みたが、校内の移動手段がなく、断念したことがあった。その時は「仕方がない」と諦めたが、誰もが通う可能性のある大学という空間に「使える人」「使えない人」がいるのは、軽視できない問題であると考えた。

障害学生だけでなく、SFCに入学した学生はキャンパスに問題を抱えていないだろうか。創立12年目を迎え、SFCの利用状況を把握し、今後、より使いやすいキャンパスを目指すための提案をすること、車いすナビの開発にあたりデータベースを構築することを本論の目的とする。

 

 

研究アプローチ・結果報告

バリアポイント策定

 

バリアポイント策定手順

SFCにおいて学生生活を送る上で、バリアとなっている箇所をバリアポイントとして定め、ユニバーサルデザインの対象とする。以下が策定の手順である。

@     バリアポイントの試験点検・・・SFCバリア実測調査

A     バリアポイントの吟味

B     バリアポイントの決定

C     バリアポイントの優先順位確定・・・アンケート分析

 

 
 

 

 

 

 

 

 


@バリアポイントの試験点検

SFCのバリア調査の第一歩は、SFCのどこに問題があるかを絞り込むことから始まった。この作業の段階で、バリアの的を外してしまうと研究全体の意義が希薄化してしまうため、準備段階ではあるが、慎重かつ多角的に進める必要がある。

 

調査基準

大学別ガイドライン

実態調査にあたっては全国障害学生支援センター(代表殿岡翼)が設定したガイドラインを用いる。これは「大学における障害学生の受入れ状況に関する調査2002」において使用された項目である。朝日出版社より発行されている「大学ランキング2001」によれば、偏差値や大学のロケーションなどの項目に並んで、「障害学生への配慮」という項目が設けられ、障害学生が志望校を選定する際の貴重な情報として活用されている。このガイドラインを採択した理由としては、

 

@     全国の大学すべてを対象とした調査に用いられたこと

A     大学内の設備、授業、支援の三つの柱を立てていること

B     項目が多岐、詳細に網羅されていること

 

以上の特徴から、SFCのバリア実態を多角的、かつ幅広く調査するにあたり、最適であると判断した。なお、この基準項目に、障害学生へのインタビューの中で追加された項目を加筆している。

 

試験点検

<調査内容>

@     通常歩行調査

調査者:飯塚慶子

時期:20018

調査範囲:SFCキャンパス全域

方法:調査者がSFC内キャンパス全域を歩行し、障害者にとってバリアポイントになりそうな箇所を記録する。

 

A     車いす使用調査

調査者:飯塚慶子

調査状況:調査者が手動車いすを使用した状態で調査を実施

時期:20018

調査範囲:SFCキャンパス全域

方法:調査者が手動車いすを使用した状態でSFC内キャンパス全域を歩行し、危険を感じた場所や事項を記録する。

 

成果

健常者である調査者が車いすを使用し、障害者を模擬体験する中で、車いすユーザーとして、普段気に止まらなかったバリアは危険を発見することを調査の目的とした。調査者は職務経験から車いす操作に慣れ、車いすユーザーの状況をある程度、把握していたが、@調査では予測しきれなかったバリアがA調査において、明らかになった。

 

Aバリアポイント吟味

障害学生へのインタビュー

障害のある学生がSFCをどう利用し、どんなバリアを感じているか理解するのには、本人たちに聞いてみることを省略してはならない。2001年時点で、障害のある学生、職員がSFCに何人在籍しているのか確認し、インタビュー可能になった方を対象に実施した。よって、インタビュー回答内容は、全員の意見の集約には該当しないことを明記する。

 

調査結果@

 

動線(登校〜正午)

健常学生

正門〜大階段〜アルファ館前〜階段〜教室棟〜生協購買部〜教室棟

障害学生

(アルファ館横駐車場まで自家用車乗り入れ)〜アルファ館前〜スロープ〜教室棟〜生協購買部〜教室棟

車いすユーザーはキャンパス内に自家用車乗り入れが許可され、これが健常学生との動線の差を起因している。大枠では、スロープと階段使用の差が見られる。プラスして、結果Aにおける細かい観点での追跡が必要である。

 

調査結果A

記録方法

試験点検<設備>

○ :現在、整備されている。

△ :現在、整備されているが、何らかの問題がある。

× :現在、整備されていない。

 

試験点検<授業><支援>

       :現在、整備されている。

△ :現在、整備されているが、何らかの問題があり利用できない状態でいる。

× :現在、整備されていない。

− :前例がなく、現時点では回答不可能

 

インタビュー

○ :現在、整備されており、利用している。

△ :現在、整備されているが、何らかの問題があり利用できない状態でいる。

× :現在、整備されておらず、困っている。

− :現在、整備されていないが、必要を感じない。

 

バリアポイント絞り込み方

 

ポイント

説明

試験点検

インタビュー

@

スロープ

スロープ

×

×

 

 

ともに×がついたポイント

 

 


                          解消が望まれているポイント

 

バリアポイントとして絞りこむ

 

バリアポイントとして絞り込んだ項目

 

ポイント

説明

試験点検

インタビュー

@

スロープ

スロープ

×

×

↑黄色着色

 

<設備>

教室棟(カッパ館、エプシロン館、イオタ館、オミクロン館、ラムダ館、タウ館)

*原則、各館に共通する事項について記入。特記すべき項目は館名を明記している

 

ポイント

説明

試験点検

インタビュー

@

スロープ

スロープ

A

エレベーター

車いす対応エレベーター

B

視覚障害者対応エレベーター

×

C

昇降機

階段昇降機

×

D

手すり

階段等に手すりを設置

E

トイレ

車いす用トイレ

×

教室によっては、トイレ到達までに5分以上かかってしまう

×

教室によってはEVに乗ったり、屋外に出ないとトイレに辿りつけないので、休み時間中に戻って来れない

F

座席

車いす用座席

×

机・椅子が散乱していると教室に入れないことがある

G

電話

低位置電話

×

H

音声拡大公衆電話

×

I

駐車場

障害者用駐車場

×

アルファ館のGLから教室棟までの移動が大変なので、車で移動している。障害者専用はない

J

案内図

視覚障害者用案内図(拡大図、触知図)

車いす視線では見にくいが掲示はある

×

外見が似ているので、区別するために入学時だけでも案内図が欲しい。

K

掲示板

点字、拡大文字掲示板

×

L

誘導音

誘導音による位置案内

×

M

ブロック

誘導(点字)ブロック

×

N

表示

視覚障害者用表示(点字、拡大等)を各所に貼付

×

O

出入り口

出入りしやすい扉

×

扉自体重くて、開かない。

 

×

降雨時は滑りそうになる

O

読書器

拡大読書器

×

P

朗読室

対面朗読室

×

Q

FM

FM補聴器、ループアンテナ

×

R

コピー機

障害学生が利用できるコピー機がある

×

コピー機周辺に用紙が散乱しており、アプローチが困難

×

1階にないので、コピー機にたどり着くまでが大変

S

ファックス

障害学生が利用できるファックスがある

×

使う機会はめったにない。あるときは自宅から送る

 

研究棟(カッパ館、エプシロン館、イオタ館、オミクロン館、ラムダ館)

*原則、各館に共通する事項について記入。特記すべき項目は館名を明記している

@

スロープ

スロープ

A

エレベーター

車いす対応エレベーター

B

視覚障害者対応エレベーター

×

C

昇降機

階段昇降機

×

D

手すり

階段等に手すりを設置

E

トイレ

車いす用トイレ

 

F

電話

低位置電話

×

G

音声拡大公衆電話

×

H

駐車場

障害者用駐車場

×

アルファ館のGLから教室棟までの移動が大変なので、車で移動している。障害者専用はない

I

案内図

視覚障害者用案内図(拡大図、触知図)

×

外見が似ているので、区別するために入学時だけでも案内図が欲しい。

J

掲示板

点字、拡大文字掲示板

×

K

誘導音

誘導音による位置案内

×

L

ブロック

誘導(点字)ブロック

×

M

表示

視覚障害者用表示(点字、拡大等)を各所に貼付

×

N

出入り口

出入りしやすい扉

×

扉自体重くて、開かない。研究棟は授業棟に比べ、開放率が低く、毎回開けなくてはいけないのが負荷。

×

降雨時は滑りそうになる

O

読書器

拡大読書器

×

O

朗読室

対面朗読室

×

P

FM

FM補聴器、ループアンテナ

×

Q

コピー機

障害学生が利用できるコピー機がある

×

コピー機周辺に用紙が散乱しており、アプローチが困難

×

1階にないので、コピー機にたどり着くまでが大変

R

ファックス

障害学生が利用できるファックスがある

×

 

大講堂(シータ館)

@

スロープ

スロープ

A

エレベーター

車いす対応エレベーター

×

B

視覚障害者対応エレベーター

×

C

昇降機

階段昇降機

×

D

手すり

階段等に手すりを設置

 

E

トイレ

車いす用トイレ

あるが、利用率が低くメンテナンスが不十分。扉が故障中。

健常者も使えると聞いたが、使っているのを見たことがない

F

座席

車いす用座席

×

G

電話

低位置電話

×

H

音声拡大公衆電話

×

I

駐車場

障害者用駐車場

×

J

案内図

視覚障害者用案内図(拡大図、触知図)

案内図はあるが車いすからだと小さく、読みにくい

K

掲示板

点字、拡大文字掲示板

L

誘導音

誘導音による位置案内

×

M

ブロック

誘導(点字)ブロック

×

N

表示

視覚障害者用表示(点字、拡大等)を各所に貼付

×

O

FM

FM補聴器、ループアンテナ

×

 

大講堂(オメガ館)

@

スロープ

スロープ

×

スロープ自体は設置されているが、空中にぶらさがっているような状態でヒヤヒヤする

×

仕方なくスロープは使用するが、下から覗けてしまうので、不快。手すりがない。

A

エレベーター

車いす対応エレベーター

×

大教室の集まる校舎にしては階段とスロープしかない。Ω21などは履修者が多いので階段が混雑し、通りにくい。

×

Ω21は人気のある授業が多く、履修するが、かなり早くいかないと人の並にのまれてしまう。

B

視覚障害者対応エレベーター

×

C

昇降機

階段昇降機

×

D

手すり

階段等に手すりを設置

×

×

E

トイレ

車いす用トイレ

F

座席

車いす用座席

×

階段教室のため授業後、先生に質問しに行くのに時間がかかる

 

×

車いすは一番後ろの空きスペースに置くしかないが先生や黒板が遠く、聞きづらい。

G

電話

低位置電話

×

H

音声拡大公衆電話

×

I

駐車場

障害者用駐車場

アルファ館横にあり。同じGLで移動可

駐車場からのアクセスはしやすい

J

案内図

視覚障害者用案内図(拡大図、触知図)

×

K

掲示板

点字、拡大文字掲示板

×

L

誘導音

誘導音による位置案内

×

M

ブロック

誘導(点字)ブロック

×

N

表示

視覚障害者用表示(点字、拡大等)を各所に貼付

×

O

FM

FM補聴器、ループアンテナ

×

 

図書館(メディア)

@

スロープ

スロープ

A

エレベーター

車いす対応エレベーター

×

押しボタン位置が高く、車いすユーザーには押しにくい。△と×の中間評価

×

障害者用ボタンにも閉ボタンを付いていないのは不可解

B

視覚障害者対応エレベーター

×

C

昇降機

階段昇降機

×

D

手すり

階段等に手すりを設置

E

トイレ

車いす用トイレ

×

男子トイレと隣接しているため、男子トイレに入るように見られる。広いメディアに一箇所は少ない

F

座席

車いす用座席

×

書棚間の幅が広く通りやすい。踏み台が放置してあるのが困る

G

電話

低位置電話

×

H

音声拡大公衆電話

×

I

駐車場

障害者用駐車場

J

案内図

視覚障害者用案内図(拡大図、触知図)

触知図はない

K

掲示板

点字、拡大文字掲示板

×

L

誘導音

誘導音による位置案内

×

M

ブロック

誘導(点字)ブロック

×

N

表示

視覚障害者用表示(点字、拡大等)を各所に貼付

×

O

出入り口

出入りしやすい扉

×

改札に比べ、開口部が狭く、常時混雑している。

×

自動ドアは快適だが、ひさしが狭く、降雨時は濡れる

P

読書器

拡大読書器

Q

朗読室

対面朗読室

 

R

FM

FM補聴器、ループアンテナ

×

S

コピー機

障害学生が利用できるコピー機がある

×

障害者専用ではない。△と×の中間評価

×

1階にないので不便

現金が使えない

21

ファックス

障害学生が利用できるファックスがある

×

 

 

事務棟(アルファ館)

@

スロープ

スロープ

A

エレベーター

車いす対応エレベーター

とても使いやすい

B

視覚障害者対応エレベーター

×

×

C

昇降機

階段昇降機

×

D

手すり

階段等に手すりを設置

E

トイレ

車いす用トイレ

F

電話

低位置電話

キャッシュディスペンサー横の電話は低位置

G

音声拡大公衆電話

×

H

駐車場

障害者用駐車場

I

案内図

視覚障害者用案内図(拡大図、触知図)

×

J

掲示板

点字、拡大文字掲示板

×

K

誘導音

誘導音による位置案内

L

ブロック

誘導(点字)ブロック

M

表示

視覚障害者用表示(点字、拡大等)を各所に貼付

×

O

出入り口

出入りしやすい扉

扉は重いが、常時開放しており、不便はない

出入り口が複数箇所あるので、混雑しない

N

FM

FM補聴器、ループアンテナ

×

O

コピー機

障害学生が利用できるコピー機がある

障害者専用ではない

使いやすい

P

ファックス

障害学生が利用できるファックスがある

×

Q

事務カウンター

カウンター越しに事務員と対面できる

×

職員によっては外まで出てきてくれる

 

 

生協購買部(シグマ館)

@

スロープ

スロープ

勾配は1/14 かなり急な勾配が8m続く。途中で休む踊り場がないので、一気にかけあがらなければならない

スロープはあるが、急勾配なので、アルファ館横から車道を使用してアクセスしている

A

エレベーター

車いす対応エレベーター

 

B

視覚障害者対応エレベーター

×

C

昇降機

階段昇降機

×

 

D

手すり

階段等に手すりを設置

E

トイレ

車いす用トイレ

×

存在を知らなかった。あるなら便利

F

座席

車いす用座席

×

 

G

電話

低位置電話

×

 

H

音声拡大公衆電話

×

 

I

駐車場

障害者用駐車場

障害者専用ではない

×

アルファ館横と違い、いっぱいで置けない事が多い

J

案内図

視覚障害者用案内図(拡大図、触知図)

×

最初はパンフレットなどで案内が欲しい。慣れれば不要

K

掲示板

点字、拡大文字掲示板

×

L

誘導音

誘導音による位置案内

×

M

ブロック

誘導(点字)ブロック

N

表示

視覚障害者用表示(点字、拡大等)を各所に貼付

×

O

出入り口

出入りしやすい扉

×

開口部が狭い上にチラシ棚が乱立しており邪魔

×

扉が重く、自分では開閉できない

P

コピー機

障害学生が利用できるコピー機がある

×

コピー機はあるが、台数が少ない上に整理されておらず、アクセスが困難

×

用紙が散乱していて近づけない

Q

ファックス

障害学生が利用できるファックスがある

×

R

店内移動

店内を移動しやすい

×

健常学生でも動きにくい。レジも長蛇

×

陳列や人で混雑しており、移動はかなり困難

 

 

経路

 

経路

試験点検

インタビュー

 

@

 

正門〜タロー坂

タロー坂〜バス停(正面大階段)

×

休むスペースのない長い道

歩行:3

車いす12

×

一気にあがるには長いが、後続がいて休むと邪魔になる

 

車通学者は2001年から車進入が認可され、アルファ館横の駐車場に駐車しているため、該当経路を使用していない

A

正面大階段

×

歩く歩幅と階段幅があわない。右横にスロープが敷かれているが、車いすでは登れない勾配。常時、雑草が茂っており、介護者がいても車輪が回りにくい

×

雨が降ると滑る。スロープは手すりがなく危険。

 

B

正面大階段〜アルファ館

フラットな石畳

 

C

アルファ館〜教室棟

スロープは1/15勾配

手すりが片方にしかない

 

D

教室棟〜研究棟

屋外の渡り廊下は幅員が細くて危険。

×

屋根があると便利。トイレに行くのに傘が必要なので

 

E

教室棟間

×

扉が重くて開かない。降雨時は傘を持って片手がふさがっているので、片手では開かない。

バリアフリープロジェクトの成果で石畳の整備が行われ、車輪が回りやすくなった。

 

F

教室棟〜シグマ館(生協)

GLが同じなので行きやすい

 

G

研究棟〜タウ館(大学院棟)

×

駐車場側扉は事務に岡野氏がおられるため、常時開放されていることが多い。閉鎖されていると重くて自力では開かない

×

タウ館出入り口前は階段があり、アクセスできず、駐車場側扉を使用。車での移動となる

 

H

アルファ館〜オメガ館

段差のない石畳で快適だが、オメガ館の扉は重い

 

I

アルファ館〜シータ館

 

J

ステンレスの樹〜教室棟

段差はないが、距離が長い

2001年度から車での移動が可能になり、楽になった

 

 

 

補助機器(上記<設備>で該当していない機器)

@

肢体不自由者用のパソコン

×

A

視覚障害者用のパソコン(音声化ソフト、音声合成装置、文字拡大ソフト、文字拡大装置、点字ディスプレイ、点訳ソフトなど)または点字ワープロ

B

点字プリンタ

C

点字器または点字タイプライター

D

立体コピー機

×

通常のコピー機がフル稼働していれば問題ない

E

拡大コピー機

×

F

文字読み取り装置

G

点字対応しているATM、現金自動預払機等

×

×

郵便局まで行かなくてはならないので、キャンパス内に1台欲しい

H

聴覚障害者に時刻や緊急を知らせるフラッシュライト

×

I

視覚障害者に建物の入り口等の位置を音で知らせる誘導装置

×

 

<授業>

@

補助者

補助者(点訳者、朗読者、手話通訳者、ノートテーカー、介助者等)の同席を認めている

A

準備補助者

授業の準備に補助者を認めている

B

録音機

録音機器等の使用を認めている

C

補助機

補助機器の設置及び使用を認めている

D

座席

座席位置を明るい窓際や前列に配置する

×

特にオメガ館の座席確保が困難

×

オメガ館などは連続机なので、ハジの席を確保するために早めに教室に行っている。確保していただけると安心。

E

教科書

教科書等の置き場を確保する

F

辞書

視覚障害者用の辞書を用意する

G

テキスト

視覚障害者用のテキストを用意する

H

プリント

視覚障害者用のプリントを用意する

×

オメガ館やシータ館では人が多く教室内移動が困難、レジュメを取りに行くのが大変。たどり着いた頃にはなくなってしまっている。扉があるところには必置して欲しい。

I

盲導犬

盲導犬の同伴を認める

J

板書

板書の読み上げ

K

外国語

外国語でのスペル読み上げ

L

照明

照明器具の設置

M

図書館

図書館で朗読や点訳のサービスを実施

N

ノート

講義ノートをコピーして渡す

O

パソコン

要約筆記にパソコンの使用を認める

オンラインライティングが導入されている。過去使用していた学生がいる

P

通訳者

通訳者の場所を確保する

Q

机椅子

机や椅子等の設備の配慮

×

R

教室

使いやすい教室に変更

×

×

障害者トイレに近い教室がありがたい。事務に言えば、変えてくれるだろうが、誰に言えばいいのかも分からないので、言っていない。

S

テーカー

上肢障害でノートテーカーを認める

 

<支援>

@

本人

本人への経済的支援制度がある

A

人的

サービス要員への経済的支援制度がある(点字翻訳者、手話通訳者、朗読者、介助者等)

×

B

購入

補助器具等の物品購入を予算化

×

C

経費

コピーやファックス送信等の必要経費を補助

×

D

健康

障害学生の健康管理の実施

健康管理センター

E

委員会

障害学生の問題解決を図る委員会がある

サークルが存在する

F

講習会

手話、点字講習会を行っている

×

G

手話員

手話のできる教職員がいる

×

H

点字員

点字のできる教職員がいる

×

I

相談

相談窓口を設置

×

J

職員

職員で特定の相談員がいる

×

K

教員

教員で特定の相談員がいる

×

L

カウンセラー

相談員(カウンセラー)がいる

保健管理センター毎週水曜日に対応している

M

伝達

視覚、聴覚等のコミュニケーションに障害を持っている学生に対して大学側が最低限伝えるべき情報や本人が必要とする情報を確実に伝達する支援を行っている

×

N

交流会

障害学生を交えた交流会を開催している

×

 

 

 

Bバリアポイントの決定

 

調査結果をポイントとして下記のようにまとめる。

バリアポイント

@    正門〜校舎までの歩道

A    バス停前 正面大階段

B    メディア出入り口

C    メディア内エレベーター

D    K,E,I,O館出入り口

E    タウ館出入り口

F    オメガ館内移動 *1

G    オメガ館教室

H    生協購買部

I    コピー機

J    トイレ

 

 

 

Cバリアポイントの優先順位確定

 

アンケート分析

調査概要

 

◆調査方法

質問紙調査、配布回収型

◆調査時期

20011210日(月)

◆調査場所

「社会動態論(大江守之先生)」授業終了15分間

◆被調査者

授業に出席していた学部生、院生

(合計)  89

(内訳)男性43

    女性46

◆回収率

100

*備考

記名式 授業の出欠も兼ねたため、氏名、学籍番号、性別を記入

 

大江守之先生のご協力のもと、アンケート調査を実施した。授業の出欠確認を兼ねていたため、回収率は100%を記録し、89の有効回答を得た。

 

質問紙回答方法

被調査者はバリアポイントにあがった11の項目に対して、

@「とても不便である」「不便である」「どちらでもない」「便利である」「とても便利である」の5段階で評価する。

A「とても不便である」「不便である」と回答した項目には、理由を記入する。理由は与えられた選択肢から選ぶことと、自由に記入することが可能である。

Bバリアポイント以外のバリアがある場合は、自由回答で記入する。

今回の調査で、「バリア」ではなく「不便」という言葉を用いたのは、回答内容をよりイメージしやすいように、普段使用する言葉に置き換えたためである。

 

分析方法

11の項目別の回答に従って、バリアスコアを算出する。算出基準は下記の通りである。男女の回答傾向に差が見られなかったため、数値はすべて合計数値を用いている。

 

バリアスコアの算出基準

回答内容

スコア

とても不便である

−2

不便である

−1

どちらでもない

0

便利である

+1

とても便利である

+2

 

 

分析結果

@   全体結果

11のバリアポイントごとのバリアスコアを算出し、序列化したグラフである。マイナスであればあるほど、学生が不便を感じているポイントであることになる。

 

<バリアスコア一覧>

バリアスコア第一位となった「メディア出入り口」は『雨が降っていると屋根がないので本や自分が濡れてしまう』『狭いので混雑している』などの理由から、多くの学生が不便を感じ、「とても便利である」と回答した学生はいなかった。バスが停車する正面大階段は、SFCの顔的存在であるが、『雨が降ると滑る』『階段の幅が歩幅にあわない』などの理由から、バリアスコアを高める結果となった。それに対し、バリアポイント策定中は懸念されていた「トイレ」が唯一プラススコアに到達し、結果バリアスコアが低かった。以下、バリアスコアが高い順に、結果を分析する。

 

バリアスコア −791位)

メディア出入り口

分析

「とても不便である」「不便である」をあわせると8割に及ぶ。使用頻度の高いメディアであるだけに、不便度も比例して高くなっている。降雨は日常的に起こる現象ではないが「屋根がなく濡れる」が最も多い回答になったのは、日頃の不便さを強く痛感していることが考えられる。メディア全体の規模に対して、狭い出入り口は混雑を招き、授業の開始終了にあわせて人が流れ込み、常時混雑を招いている。

 

バリアスコア −762位)

バス停前 正面大階段

分析

被調査者の2人に1人以上が「階段幅が歩幅にあわない」と回答した。歩幅があわないことをかなり不便に感じていることがわかる。実際、男女の歩幅(平均)と比較すると、1.51.8倍の階段幅がある。次に多かった「雨で滑りそう」という回答も、降雨時の不便さが特に印象に残っていることが考えられる。スロープは障害学生が中心に使用していると予測していたが、健常学生も頻繁に使用していることが判明した。

 

バリアスコア −75(3位)

生協購買部

分析

「とても便利である」回答は一人もいなかった。「不便である」「とても不便である」を合計すると、85%に及ぶ。生協購買部はSFC内で、唯一、物品や食糧を購入できる場所であることから便利に感じるのではないか、と予測していたが、唯一であるならばもっと便利に使いたいというニーズが浮上した。「混雑」を理由にした回答が最も多く、他にアクセスの不便さなどがあげられている。店内に入るまでの「出入り口」で不便さを感じていることから、長い時間不便さのつきまとうポイントと言える。

 

バリアスコア −68(4位)

コピー機

分析

「とても不便である」「不便である」の回答を合計すると70%を越える。本来、コピー機は便利な機械であるが、配置やメンテナンスに不便さを感じていることがわかる。現金対応の機械が少ない上に、コピーカード販売機がそばにない、コピーをするため2階に上ったのに壊れて使えない、など不便さを二重に感じている学生が多かった。

 

バリアスコア −63(5位)

タウ館(大学院棟)出入り口

分析

大学院生が主に使用する校舎であり、学部生は使用頻度が低いと考えられるが、数回の使用でも不便さが深く印象に残るポイントであると考えられる。その他の中には「大学院のメインエントランスにしては狭い」などが含まれた。大学院棟内では喫煙できないことから、扉のすぐ外で喫煙している学生が多い。その横を通って入館することになる。この扉は階段を昇降できる学生が使うことを前提とされており、車いすユーザーは駐車場側扉を使用している。

 

バリアスコア −57(6位)

正門〜校舎までの歩道

分析

正門から校舎まで遠い」という回答が目立った。「勾配がきつい」回答が二番目に多いことから、上り坂であることが距離感を増徴しているとも考えられる。歩道は左右2線あるが、使用するのは正門を背にして左側が多く、混雑する要因になっている。バスは平日であれば、半分以上がキャンパス内に停車するため、以前よりは不便さが改善されたという意見もあった。

 

バリアスコア −50(7位)

オメガ館内移動

分析

「スロープが遠回り」との回答が一番多かった。回答の内容から、「階段は狭いのでスロープを使用する」学生が多いことが分かった。オメガ館にはエレベーターがなく、障害学生はこのスロープを使用することになるが、健常学生が同時に使用していると予想していなかった弊害が生じる。例えば、障害学生と健常学生では、使用スピードが大幅に異なるので、衝突したり、お互いが障害物になったりする。また、スロープは障害学生が使用することを前提にした規格に標準をあわせているため、健常学生には遠回りに感じることになる。別の指摘としては、スロープの下からスロープを歩行している者が覗けてしまうのでスカートを着用時は使用できない、という女性の声もあった。

 

 

下から覗けてしまうスロープ

健常学生には遠回りに感じるスロープ

 

バリアスコア −49(8位)

オメガ館教室

 

分析

オメガ館を使用する授業は、人気が高い、もしくは必須授業である理由から、受講生が多き、席を確保すること自体に苦労することがある。その中で、机椅子が固定された教室は、端席数が少なく、パソコンの電源を使用できない、との声があった。また、教室がタテイチに長いため「レジュメがもらいにくい」「黒板や先生が遠い」という指摘があった。

 

バリアスコア −24(9位)

K,E,I,O館出入り口

分析

「各館をつなげて欲しい」という声が最も多く寄せられた。晴天時はいいが、降雨時は校舎間を移動するのに、随時傘を広げなくてはならない。また、開放されていることが多いものの、扉自体が重く、開閉しにくい。駐車場側からの扉は「雨風が入るため開放厳禁」と掲示されており、常時閉鎖されていることから、「扉が重い上に、開け閉めが不便」「荷物を持っていて両手がふさがっていることが多いのでさらに開けにくい」という意見があがった。

 

バリアスコア −15(10位)

メディア内エレベーター

分析

健常学生は「使用しない」傾向にある。エレベーターの配置がメディアの中心になく、移動手段としては「階段」を利用しているようだ。設計意図を推測すると、使用頻度の高いエレベーターではなく、階段手段の補佐的な役割を担っているように思う。しかし、障害学生を対象にしているとすれば、ボタンの位置が高過ぎる。また、健常学生を対象にしているとすれば、速度が遅い、という中途半端なデザインとなっている。

 

バリアスコア +25(11位)

トイレ

分析

障害学生を対象にした調査では、検討事項にあがった「トイレ」であったが、健常学生は不便さをあまり感じていない結果が出た。「その他」としては、「照明が暗く、夜間使用するときに怖い」「寒い」「男性用、女性用の区別がつきにくい」と言った声があがった。確かに、男女のピクトグラムが小さく、分かりにくい。サイン環境の充足はトイレにも必要である。

 

今後の課題

本論では学生の利用実態からSFCのハード面におけるバリアポイントを顕在化することを目的とした。限られたアンケートではあったが、その中からソフト面において、今後改善すべきバリアについて触れる。

 

意識のユニバーサルデザイン化

障害のある学生に対して

学生の中には、日常、障害者と会う機会が少ない方が多いと思われる。したがって、障害者との接し方が理解できておらず、いざ障害者に出会ったとき、何を言っていいのか、何をしたらいいのか、分からず、結果として何もできない、という意見が今回のアンケートでも多く寄せられた。中でも、「何か下手に行為をして相手が気に入らなかったらどうしよう」「何か困っていることはわかるが、ベストな方法を考えている間に時間が過ぎてしまう」など、もどかしさを抱いている学生が多かった。

 

障害者としてではなく、一人の人間として

20013月、大手旅行代理店が障害者向けのツアーを売り出す前の事前研修に同行した。参加者は旅行業に携わって10年以上経過した、ベテランばかりであったが、「お客さまが障害者」というだけで、全ての接客業がたどたどしくなっていた。普段接している旅行者は比較的元気がよく、自分の手助けなど必要としない健常者ばかりで、障害者に接するのは初めてのことであるから、不慣れと「失敗してはいけない」緊張感で大事なことを忘れているように見えた。「障害者としてではなく、一人の人間として」旅行に参加するお客様はそう願って、申し込んできたに違いない。それは少し考え慣れれば、分かるはずである。

 

障害への心のバリア

福祉施設に初めて訪れたとき、「痴呆」「障害」「車いす」など、頭では知っていたはずだが、いざ現場に立ってみると、何をしていいか分からず、身体が硬直してしまった。車いすユーザーの高齢者に夕飯の献立を聞かれたとき、返答もろくに出来ず、何か特別なものを見る眼差しで接してしまったに違いない。今では当たり前のように身体が覚えているが、車いすの視線にあわせてしゃがむこともできなかった。

このように、障害者に慣れていないことが心のバリアを築いてしまっている。障害者との接し方には初めて接する段階から友達のように話ができる段階までがあり、以下のように分類できる。

<障害者との接し方>

第一段階:過剰反応

怖いものを見るように接する。話ができない。

第二段階:理解

障害を持つことがどのようなことか分かる。

第三段階:相手を一人の個人として話ができる。

 

 

 

 

 

 

 
 

 

 

 

 

 

 

 


私自身も機会が増えることにより、試行錯誤を繰り返し、第二段階まで到達できたような気でいる。

障害者だから特別な接し方をする必要はない。人を思いやる気持ち、それが出発点である。医療看護学部が創設された今年度、慶應義塾の学生の意識が変わるのか、変わらないのか、社会的に問われる問題でもある。学生の意識が改革されるために、本論がそのきっかけ作りに貢献できれば幸いである。

 

終わりに

SFCが今後、大学の新しい魅力作りとして、バリアフリー、ユニバーサルデザインを目標に掲げて行くとすれば、ユーザーである学生の声と直面し、キャンパスにおける有意義な経験の共有を、約束していかなければならない。また学生の意識としても自分自身のニーズを把握し、大学を動かせるようなニーズの発信を考えるべきである。

SFCのユニバーサルデザインは設計者に委ねられた注文ではなく、学生と大学の問題であること強く主張し、本論を終結する。

 

謝辞

最後に、本論の執筆にあたり、お力添えをいただいた皆様に感謝いたします。

アンケートやインタビューにご協力いただいた学生の皆様、数々のご意見が本論の核となりました。ありがとうございました。

 

平成142

飯塚慶子

 

 

 



*1 オメガ館に関しては「手すり、エレベーター、階段」を総称した。

*2 研究手順であるアンケートの被調査者には障害学生が含まれないため、KLについてはアンケート項目には含めないこととする。