2002年 森泰吉郎記念研究振興基金 報告書

修士論文テーマ

生物多様性の視点を取り入れた新しい緑地保全に関する研究

〜 鎌倉市を対象として 〜

 

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科

森さつき

 

キーワード:緑地保全、生物多様性、緑地保全施策、ビオトープマップ、市民活動

 

研究のフロー


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 


 


本研究の目的は、「生物多様性の視点を取り入れた緑地保全を推進させる手法を提案すること」である。緑地保全の取り組みの中で、特に都市計画と市民活動に注目し、それらの中に生物多様性の視点を取り入れることが重要であると考え、新たな緑地保全の手法を検討していく。対象地は、緑地保全施策の先進的な都市である、鎌倉市とした。また、本研究は、SFC研究所受託研究の平成12年から平成14年にかけて行われた鎌倉市自然環境調査のプロジェクトの中で基礎調査への参加、植生図、地形分類図、環境類型図など自然環境データの作成を行い、さらにそのデータを使用してビオトープマップの作成、生物多様性評価を行った。

第1に、都市計画の中での緑地保全の事例として、鎌倉市における緑地保全施策の歴史的変遷、緑の基本計画の分析を行っている。それにより、緑地の質的評価の欠如、生物多様性の視点の欠如、自然環境データの欠如を現状の緑地保全施策推進上の課題として指摘した。

第2に、鎌倉市のビオトープマップを作成した。これは、第2章で明らかになった問題点を解決するため、生物多様性の視点を取り入れた都市計画としてドイツやオランダの事例研究をし、ビオトープマップ作成の意義や手法を明らかにしたことに基づく。基礎的環境情報として、小流域図、地形分類図、現存植生図を作成した上でビオトープマップを作成した。しかし、緑地単位の生物多様性を評価する際、ビオトープだけではなく、それらの組み合わせが重要であるという課題が挙げられた。

そこで、第3に、小流域を単位とした緑地評価を行っている。緑地保全推進地区を対象とした鎌倉市自然環境調査における生物生息記録データの種数と環境類型を用いて、小流域単位で重回帰分析を行った。この分析から回帰モデルを作成し、市全域の小流域を単位とした生物多様性予測マップを作成した。

第4には、作成したビオトープマップの活用手法を検討した。まず生物多様度評価の結果から、特に評価の高かった小流域を2箇所選び、水系、樹林系を構成するビオトープタイプの分析し、生物データを重ねて、ビオトープの組み合わせの重要性を明らかにした。

そして、最後に今後の課題を挙げつつ、ビオトープを活用して以下のことを行うことを提案した。@市民が活動する場の自然環境やビオトープタイプの判読の材料として活用すること。A行政による緑地政策の基礎的な資料として活用すること。B自然環境データとして市が保管し、市民の活動によるデータの更新を行い、この地域の財産としていくこと。そして、これらを総合的に行い、ビオトープマップを中心に、市民が持っている豊富なデータや知識をデータベースとして保管することにより、またそのデータを活用して新しいデータを蓄積したり、都市計画へ活用したりすることが可能となる。そのように本研究では自然環境データの共有財産を生み出し、人々のパートナーシップ、ネットワーキングにより新しい緑地保全のひとつの手法を導き出した。