2002年度 森泰吉郎記念研究振興基金

「最終成果報告書」

 

研究課題名

   P2Pネットワークのための自律型無線通信機構の実現

研究代表者氏名

斉藤匡人      

所属・職名

政策・メディア研究科・ 修士課程一年

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研究課題

本研究での課題は、次世代ユビキタスネットワーク社会における家庭内やオフィス、学校内、屋外の駅や繁華街などの公共スペースなどにおけるあらゆる場所において、人や機器によるピアツーピアの自律型無線通信を実現させることである。これを実現するために次の4つのコンポーネントから成る機構を開発する。 (1) 各端末が通信の中継を行う自律協調型のP2Pマルチホップ通信システム、(2)街角広告配信などを実現するマルチキャスト無線通信システム、(3) 近接距離にいる人との直接通信を実現するP2Pワンホップ通信システム、(4) 既存のインターネットワークに透過的に接続可能なインターネットアクセスシステム、の4つをあわせて次世代自律型通信機構の実現をはかる。

 


 

  最終成果報告書

 

本成果報告書では、次世代ユビキタスネットワーク社会における家庭内やオフィス、学校内、屋外の駅や繁華街などの公共スペースなどにおけるあらゆる場所において、人や機器によるピアツーピアの自律型無線通信を実現させるために、次世代無線通信環境の一利用形態であるアドホックネットワーク基盤技術の開発・研究について述べる。この基盤技術をもとにした次に述べる4つのコンポーネントを組み合わせることで、現在の有線インターネットや端末基地局などのインフラストラクチャに必ずしも依存しない自律型無線通信機構を研究・開発する。4つのコンポーネントとは、(1) 各端末が通信の中継を行う自律協調型のP2Pマルチホップ通信システム、(2)街角広告配信などを実現するマルチキャスト無線通信システム、(3) 近接距離にいる人との直接通信を実現するP2Pワンホップ通信システム、(4) 既存のインターネットワークに透過的に接続可能なインターネットアクセスシステム、の4つである。

このような次世代ユビキタスアドホックネットワークには表1に代表される様々な利用形態・アプリケーションが考えられる。

表1:次世代ユビキタスネットワークサービスの例

分野

サービス  

個人

Personal Area Networks, Wearable Networks

商業

通行者などへの地域情報・広告配信

交通

ITS (Intelligent Transport Systems)

緊急時

災害・緊急時用の救助(消防士・警察)

軍事

兵士・洗車・戦闘機

基盤技術

センサーネットワーク

 

本研究の実現により、人やモバイル機器の動的な移動を支援し、通信品質の向上と最小限のネットワーク構築コストを達成する自律的な次世代無線通信が可能となる。

 次に、本研究を実現する上での問題と研究課題に関して述べる。まず、有線インターネットや無線基地局などに依存しない、その場で手軽にアドホックネットワークを構築して通信する際の課題に関して触れる。無線端末同士でネットワークを瞬時に構築するといっても、お互いのアドレスを知らなければ通信することすらできない。アドホックネットワーク構築時におけるネットワーク内の端末の名前付け・識別を行う必要がある。またアドホックネットワークにおいて、ある端末がインターネットなどの既存ネットワークへの接続を行いたいという場合の機構も必要である。さらに、現在提案されているルーティングプロトコルの多くは複数の通信経路を持つ場合に単純に最短経路を選択する。そのため回線品質の悪い経路を選択し急激に通信性能が悪化する状況も考えられる。通信品質の向上に関していくつかの解決策が既存研究として提案されているが、現実的な端末の移動パターンや回線品質を考慮しているものは少ない。モバイルアドホックネットワークを基盤とする次世代無線通信の恩恵を充分に得るためには、データ通信効率の改善とサービス支援環境の構築を行う必要がある。

また、アドホックネットワークにおけるセキュリティに関しても研究課題である。具体的には誰がネットワークに参加するのかという認証問題や、悪意のある端末が通信帯域を占有し続ける、誤った経路情報を流すといった問題を解決する手段が必要である。さらに、無線端末は固定端末と比べるとその電力供給が限られているため、効率の良い電力制御機構も必須である。

これらの課題を解決するためのいくつかの機能群に関して以下に述べる。これらの機能群をそれぞれ組み合わせることによって、本研究で開発する4つのコンポーネントからなる機構が構成される。

通信プロトコル制御機能

本機能は限られた無線資源を効率的に利用し、ユーザの通信品質の向上を実現する。まず、無線端末が無線媒体の回線品質に応じてデータ通信速度を自律的に調節する。回線品質が悪いフローが通信速度を自動調整することで、無駄なパケットロスを防ぐ。また、基地局切り替えや経路切り替えが起こるタイミングを予測計算し事前にデータ送信を停止することで、基地局切り替えや経路切り替え中に生じるパケットロスを未然に防いだ効率的なデータ転送を実現する。

名前割り当て機能

アドホックネットワーク内の端末の把握・識別を可能にすることで、ネットワーク内の円滑な通信サービスを実現する。無線セル内に自分以外の端末がいる場合、それぞれの端末情報をブロードキャ

ストすることによりネットワーク内の自律的な情報共有を可能にする。セキュリティを考慮したアルゴリズムである。

効率の良い経路制御機能

本機能では、データ通信経路の最適化を行うことによりユーザへのサービス品質保証を実現する。具体的には通信経路情報の中に、経路情報を受け取った時の無線回線品質やデータのキュー長などの情報を加える。各無線端末がこれらの情報を保存し、複数経路があった場合のより安定した経路の選択指標に用いる。またこれと平行してデータ転送中の経路が常に最短経路となるようにそれぞれの端末がリンク状態を監視し、新しいリンクでかつ最適な経路が見つかった場合に経路変更を行う。これにより常に効率の良いデータ配送が可能になる。

有線ネットワークとの接続機能

有線ネットワークや他の無線ネットワークとの接続を行う中継端末をアドホックネットワーク上から選択し、アドレス変換を含めた経路制御を行う。既存インフラネットワークとの接続を実現し、透過的なインターネットとの統合を行う。

マルチキャスト・ブロードキャスト無線通信機能

     街角情報配信などにおいて使用するためのマルチキャスト無線通信を実現する。ここでは、配信する情報を誰に渡すのか、どの範囲にまで情報を流布するのかといった配信制御機能と、広告配信を受けたくない場合やある一定数以上の広告を配信した端末には情報を流さないといった機能も実現する。また、不特定企業や個人によるこの機能の悪用を防ぐための、認証技術や権限制限といったセキュリティ機能も組み込む。

P2P直接無線通信機能

     本機能では、通信したい相手の情報を必要とすることなく、ピアツーピアで直接通信ができる無線技術を実現する機能である。これは、例えば、地下鉄に乗り入れた列車内から、隣の反対方向に向かう列車に乗る昔の友人などを見つけてなんとか話をしたい、と言った状況で使用することができる。無線通信技術として赤外線を用いて、テレビのリモコンなどを扱う感覚でその離したい相手に通信を向けることで相手との無線通信コネクションを確立するといった機能である。本機能に関しても、認証や通信間違え、悪用などを防ぐために認証、認可、身分証明といったセキュリティメカニズムと組み合わされている。

 

 以上の機能群を組み合わせて、先に述べた4つのコンポーネント、(1) 各端末が通信の中継を行う自律協調型のP2Pマルチホップ通信システム、(2)街角広告配信などを実現するマルチキャスト無線通信システム、(3) 近接距離にいる人との直接通信を実現するP2Pワンホップ通信システム、(4) 既存のインターネットワークに透過的に接続可能なインターネットアクセスシステム、を統合して次世代自律型通信機構の実現をはかる。

 

テクニカルレポート

 technical-report [pdf]

関連論文

"A Dynamic Path Shortening Scheme in Ad Hoc Networks", M. Saito, H. Aida, Y. Tobe, Y. Tamura, and H. Tokuda  情報処理学会 第9回 マルチメディア通信と分散処理(DPS)ワークショップ 2001年 10月pp.169-174

 

"OR2: A Path Tuning Algorithm for Routing in Ad Hoc Networks", M. Saito, H. Aida, Y. Tobe, Y. Tamura, and H. Tokuda IEEE LCN Workshop on Wireless Local Networks (WLN '01) November. 2001 pp.560-567

 



copyright 2003, Graduate School of Media and Governance, Keio University, Masato Saito