2002年度 森泰吉郎記念研究振興基金

研究成果報告書

 

利用者の心理評価に基づく

アトリウムの魅力的な空間特性に関する研究

 

慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科 修士2年

学籍番号:80131843

氏名:園部ちあみ

 

<研究目的>

 近年、非日常性の演出、アメニティーの向上、人間性を備えた都市空間の確保などを目的にアトリウム建築の増加は目覚しい。アトリウムが都市に登場した当初は、オフィスビルやホテルなどに限られた建築物のみであったが、最近では公共建築や大型複合施設など不特定多数の人々が自由に利用できるものとして一般的に用いられるようになってきた。現代におけるアトリウムとは、「ガラスなどに覆われた大規模な公開型の内部空間」と定義づけられており、建物の天井あるいは壁面を透明な素材であるガラスを採用することによって、建物の内部と外部をつなげ、開放的で快適な空間を創造することが可能になってきている。

 このように、体感的な心地よさや視覚的な美しさの面で注目され急増しているアトリウムであるが、その一方で、完成後、数年を経てアトリウム特有の問題が浮上してきている。高いランニングコストという経済性の問題からガラスの安全性の問題まで多岐にわたるが、特に注目したい問題として、設計者の意図と利用者側の要求のズレが挙げられる。現在のアトリウムの多くは、設計者の立場から考えられた合理性や利便性、快適性に指標が置かれ、空間内で利用する人の要求に重点が置かれておらず、実際には必ずしも利用者にとって居心地の良い魅力的な空間とはなっていない。確かに、建築あるいは都市計画上の法規を十分考慮しなければならないが、以上のような現状から、今後も都市を活性化し、人々に潤いを与える空間として増え続けるであろう、アトリウムのより良い環境を考えるにあたり、「利用者にとっての心地よさや快適性とは何か」の視点に立った空間デザインが是非、必要であると考えるのである。

 本研究では、公共空間としてのアトリウムを対象とし、その現状を把握するために、件数・立地・規模・用途・形態に関する計画特性とその変遷の調査分析、及びアトリウム空間の利用者による空間心理評価とその空間特性分析を行い、利用者の心理評価に基づくアトリウムのあり方を検討し、新しいアトリウムデザインプログラムを提案することを目的とする。

 

<研究成果>

 上記に述べたように、本研究は現代都市において、不特定多数の人々が自由に利用できる公共空間としてのアトリウムを対象とし、

@     立地・規模・形態の特性とその変遷を明らかにすること、

A     利用者の心理評価に基づく快適で魅力的な空間特性を明らかにし、それらの分析結果から、新しいアトリウムデザインプログラムを提案すること

を目的としている。

 対象とするアトリウムは、@においては建築雑誌『新建築』に掲載されている(1982年〜2000年)314件中104件、Aにおいては、件数の最も多い東京都内3地区(新宿区・千代田区・ウォーターフロント地区)のうち、5つの形態をそれぞれ3件づつ計15件を選出した。

 

@     に関しては、立地・規模・形態に関するデータを収集し、統計処理を行った。

その結果、

1)立地に関しては、首都圏・名古屋・大阪・福岡などの大都市に多く見られる。

2)規模に関しては、次第に縮小傾向にあるものの、件数は年々増加傾向にある。

3)形態に関しては、7タイプが認められ、中庭型→連接型→重合型と変化してきている。

ことが明らかになった。

 

A     に関しては、利用者の空間印象による心理評価および官能評価法(SD法)を実施した。

その結果、

1)空間心理的に大きな影響を与える因子は、「爽快さ」因子、「潤い」因子、「特徴」因子、「広がり」因子の4因子である。

2)これらの因子得点により、対象アトリウムは6つに類型化される。

3)大崎ゲートシティなどの「コミュニティ広場型」、シーバンスなどの「オアシス空間型」が最も快適で魅力的である。

ことが明らかになった。また、これらのアトリウムの空間特性には、空間の“ひだ”があること、が明らかにされた。

そして、最後に、これらの分析結果を踏まえ、今後のアトリウムのための新しいデザインプログラムを提案した。