2.高等学校の新教科「情報」の実習用補助教材の紹介

著者は本年度広島県尾道市における携帯電話を利用した観光ナビシステム「どこでも博物館」の開発を行った。そのシステムを高等学校における「情報」の授業で活用することの意義と活用方法を以下に述べる。

1.どこでも博物館の説明

1.1 「どこでも博物館」って何?

尾道は、まち全体が博物館のようなところ。数々の観光名所はもとより、ちょっとした坂道や名もない路地にも、いっぱい物語が詰まっている。それなら、本当にまち全体を生きた博物館にしてしまおう!という計画です。

1.2 具体的には

たとえば街を歩いていて「あれ、ここはどこだろう?」「不思議な坂道だな?」と思ったら、その付近にいる石のふくろうのアイコンの番号をあなたのケータイ(携帯電話)にピッと打ち込んでみて下さい。それだけで、その場所の観光情報やまちの記憶を自由に引き出すことができます。

たとえば歌舞伎や美術館などで、イヤホンガイドを聴きながら見ると、よく理解できることがありますね。あれと同じで、それぞれの場所の記憶や物語が、あなたのケータイを通して聴こえてくる(読むことができる)という仕掛けなのです。

まち全体が生きた博物館のように語りだす!尾道というまちの隠れた魅力をもっともっと伝えたい!?それを可能にするのが、このモバイル時代の新しい観光ナビ・システム「どこでも博物館」なのです。


 

1.3 携帯電話でどうやってみるの?

使い方はとても簡単です!まず、尾道ケータイ観光ナビ「どこでも博物館」のホームページを、あなたの携帯に呼び出します。呼び出し方は三つの方法があります。

1.URLを直接入力
直接携帯電話のインターネット画面にURLを入力します。
*ぜひ携帯電話からアクセスしてください

 

2.サイトスティックを使用
街なかのこのマーク のあるデスクに置いてある、キーホルダーのような小さなソケットを一度差し込むだけで、「どこ博」ホームページが、ダウンロードされます。

3.すぐメルを使用
メールの「宛先」にma3@docomo.ne.jp(ドコモの携帯なら@以下は不要で“ma3”の3文字だけ!)を打ち込んでメールを送信。すると間もなく「どこ博」HPのアドレスが返信されてくるので、それをクリック!

それをブックマーク(登録)しておけば、次からは即このページにアクセスできるというわけです。

1.4 従来の観光ガイドではできないこと

もちろん、それぞれの場所に立て看板をたてて、諸々の解説や周辺地図を掲示することも出来ます。でも、看板ではスペースや情報量に限りがありますし、至るところに看板を立てていたら、それこそ景観を損ねてしまいます。
物理的な景観はそのままに、まち全体を生きた歴史の博物館に変え、それぞれの場所の隠れた情報を、“必要なときに、必要なところで”誰でも簡単にひもとけるようにする。それが、この携帯ナビ・システムの狙いなのです。

さらに、固定的な看板や紙媒体の観光ガイドと違って、毎日新たな情報をインターネットを通じて追加・更新できるので、つねに活きのよい「旬」の情報を提供できることも、携帯電話を使うメリットです。

また、地元の人もとっておきの「場所の記憶」を自由に付加したり(暗黙知としての街の記憶の発掘)観光客も旅の印象や疑問などを、自分のケータイから書き置きしていくこともできます。気持ち通貨掲示板:(地元と観光客の対話の回路)
このように、情報が生きて動いていること、情報に「顔」があること(属人性/属地性)、そして情報が固定的で一方通行の「看板」ではなく、インタラクティブ(双方向)に情報がやりとりされる「掲示板」のようなシステムであること。

携帯電話は、そうしたダイナミックな情報の交差点をつくる、「見えない看板・掲示板システム」なのです。


2.「どこでも博物館」を高等学校「情報」の実習で活用することの意義

「どこでも博物館」を情報の授業で補助教材として活用してもらうことには大きく二つの意義があります。

一つは「情報」の授業で学ぶ情報技術の応用例を体験的に知ることです。システム自体はインターネットのホームページを作成することができ、街のいたるところに番号のついたアイコンを設置することができれば完成するという簡単なものですが、これまでの技術を組み合わせることにより、世界初の試みを実践するにいたったことを知ってもらい、発想力の大切さに気がついてもらえればと思います。

二つ目は「どこでも博物館」を体験することにより、そもそも情報とは、特別に作り出すものではなく、当たり前に私たちの日常に存在している全てのものや場所が持っているものであるということに気づいてもらい、そのことを通じて情報とは何なのかを考えてもらうということです。例えば日常生活において水道の蛇口をひねったら水が出るが、その水の水源はどのようなところで、どのような経路を経て目の前までたどり着いたのかなどということを普段は気に留めないが、蛇口に番号があって、その番号を入力すると手元に届くまでの水の旅路をトレースすることができるということが実現すると、普段何気なく使っている水に対する考え方に変化が起こってくることは容易に想像できます。このように当たり前に通り過ぎている坂道や街の路地には実は物語(情報)が存在するということに気がついてもらうことがもうひとつの狙いです。

「どこでも博物館」で行ったことは物や場所の背景にある普通に見ただけでは知ることのできない情報を可視化する作業です。「どこでも博物館」の提唱者東北芸術工科大学の竹村真一教授は「現物・現場主義」と「生活全体のブロードバンド化」というコンセプトを打ち出し、今その場に手に取った物やその場の情報をそのものに表示してあるID(尾道の場合は3桁の数字)を記入すると携帯電話から読み取ることができるシステムを著者が代表を務めるNPO法人創造支援工房フェイスと共同開発をしました。「現物・現場主義」とは、パソコンの前でインターネットに接続して物の情報や場所の情報を入手するのではなく、その「物」を手に取っている瞬間やその「場」にいる瞬間に情報を取得するということです。「生活全体のブロードバンド化」とは、インターネットの通信がブロードバンド化することだけではなく、朝起きてから晩寝るまでの生活全体の情報環境を充実することは現在のテクノロジーでも十分にでき、ただ単に回線速度が速くなるというのではなく私たちの日常生活がより豊かになるということを意味します。

 

3.「どこでも博物館」を高等学校の実習で活用

(実習例1)

1.学生にデジタルカメラやインスタントカメラ、カメラ付携帯電話を活用して、自分にとって一番素敵なまちの風景や事物の写真を撮ってもらう。

2.教室の床全体のその写真を現像ないしはプリントアウトをする。

3.大きなマップを用意して、とった場所に写真を置きなぜ選んだのか視点を発表してもらう。

4.みんなでその写真をめぐってディスカッションを行う。同じ場所をとった人がいたりするが視点は違う場合が多いのでその差異に気づいてもらう。

5.各発表について評価コメントを書いてもらう。

(6.写真とコメントを携帯コンテンツに加えるところまで作業させることも可能。)

(実習例2)

尾道のまちを案内するテーマ別ガイドを作成する。

例えば文学に興味がある学生は尾道出身の作家林芙美子ゆかりの場所を探して、そこの写真と場所を集める。

例)

・駅前芙美子像
・千光寺公園の石碑(放浪記の一節)
・商店街の中の喫茶店「芙美子」(旧居跡)
・尾道東高(芙美子の母校。「巷にくれば憩いあり」の石碑)
・土堂小学校(これも母校。資料展示室あり)
・波止場と桟橋(自伝的短編「風琴と魚の町」にある以下の描写より、おそらく現在の「渡し場通り」周辺と思われる) 

「山の朱い塔に灯がとぼった。島の背中から鰯雲が湧いて、私は唄をうたいながら、波止場の方へ歩いた。 桟橋には灯がついたのか、長い竿の先きに籠をつけた物売りが、白い汽船の船腹をかこんで声高く叫んでいた。母は待合所の方を見上げながら、桟橋の荷物の上に凭れていた。」ちなみに行商に出た父を待っている場面。

これらのように場所には人の記憶(情報)が詰まっていることを感じてもらう。

(実習例3)

まちの記憶を知っている高齢者の方にインタビューを行い、その方が持っている昔の写真や映像を編集してコンテンツを作成する。

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