2002年度 森泰吉郎記念研究振興基金 報告書

研究課題名:視聴質調査サイトにおける視聴者ライフスタイル分析

慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士2年:長島 英樹


1.視聴質調査サイト「リサーチQ」の概要

 テレビ番組には「視聴率」という評価尺度がある。視聴率は視聴行動を知る術の一つとして最も単純なものである。視聴率は視聴者の番組視聴の選択結果を定量的に把握することが出来るため、特にCMを打つ広告主側に、どれだけの効果があるのかを測る明確な尺度として重宝されてきた。これに対して、番組の価値を測る指標として、視聴の質を表す評価尺度が必要であることはこれまでも言われてきていた。視聴質は、視聴の量ではなく質を表す評価尺度である。しかし、視聴質は視聴率と違いその調査が困難である。視聴率のように継続調査を行うことも難しければ、そもそも何の指標によって視聴質を測るのか、それを決定することも困難である。しかし視聴行動を知る上で、視聴率という見たか否かの尺度だけでは頼りない。そのため、これまでに様々な視聴質調査が行われてきたが、コスト面など様々な問題から継続的な調査として定着することはなかった。
 テレビ朝日マーケティング部と慶應義塾大学熊坂研究室が行うインターネット視聴質調査「リサーチQ」は、1997年4月から行われているインターネットを用いての番組視聴調査であり、そういった様々な問題をネットワークを用いることで解決し、6年弱の間、12万番組にも及ぶ番組について調査を行ってきた。
 本研究では、この「リサーチQ」のデータを用いて、視聴者のライフスタイルを解析するシステムを構築し、実際にシステムを用いて視聴者ライフスタイル分析を試みた。

2.「リサーチQ」の特徴

 視聴者のライフスタイルを分析する上で、リサーチQは以下の2点の特徴を持つ。

・ 回答の際に個人認証を行う継続調査
・ 自由回答の取得
・ ライフスタイルデータの取得

 第一にリサーチQは、従来の視聴質調査にない特徴として、個人認証を行う継続調査であることが挙げられる。回答の際に個人認証を行い、登録の際には性別や生年等の属性データを入力する。このことにより、各番組ごとに視聴者がどのようなライフスタイルであるかを分析できるだけでなく、逆に、同一回答者がどのような番組を視聴しているのか、番組視聴傾向を分析することも可能となっている。
 第二に、リサーチQでは定量データ以外に、定性データである自由回答を取得していることが挙げられる。リサーチQにおける2002年の自由回答は19604番組556771回答に上る。一回の放送で800件の自由回答が集まる番組もあり、単なる視聴者の意見にとどまらず、解析が行えるレベルまで回答が寄せられている。本研究ではこの自由回答とライフスタイルのデータを自動的に集計・解析するシステムの構築を行った。
 最後に、リサーチQではライフスタイル調査を行い、視聴者のライフスタイルについて尋ねている。通常番組やオプション調査では、番組やタレントなど、視聴行動に直接関わる事柄について尋ねているのに対し、ライフスタイル調査では、リサーチQユーザ(すなわち番組視聴者)の視聴行動以外の身の回りのことを尋ねている。ユーザは、画面に表示されるそれぞれのライフスタイル項目から自分に当てはまる項目をすべてチェックし、回答する。それぞれのライフスタイル項目は以下の4種(319項目)に分かれる。

・テレビやインターネットについて(95項目)
ユーザがテレビやインターネットをどのように視聴・利用しているかについて

・趣味や関心事など(131項目)
ユーザのスポーツなどの趣味や、社会の関心事について

・最近利用したサービス・場所など(89項目)
ユーザが実際に購入した物・利用したサービス・場所、さらに今後購入したい物・利用したいサービス・場所などについて

・雑誌や携帯電話にかけるお金など(4項目)
ユーザが1ヶ月にかける雑誌・携帯電話の額と、本人・家族の年間の収入額について

 なお、これらの項目は、ユーザの生活状況が年々変化していくことを考えて、毎年1回、属性項目とともにデータを取り直している。

3.回答者の構成

3−1.リサーチQ回答者(ユーザ)の性年齢

 リサーチQの2002年4月の時点での総登録者数は20411人。うち男性は6697人(32.8%)、女性は13709人(67.2%)となっており、女性の方が男性の2倍程多くなっている。2001年4月のデータでは、男性3454人(33.1%)、女性6982人(66.9%)となっており、その男女比はやはり1:2である。この傾向はインターネットの男女別の普及率を加味すれば、1997年の開始当初からさほど変わっておらず、安定していると言える。リサーチQには女性が多く登録しているわけだが、これは実際に女性の方がテレビを視聴しているという視聴率データからも合点がいく。ただし、様々な解析をする際に、男女比を考えながら解析しなければならない場合があることを頭に置いておく必要がある。一方、年齢は2000年の日本の年齢別人口との特化係数を取ると、女性は1960年代から1970年代が、男性の方は1960年代がそれぞれ特化しており、リサーチQ回答者はこの世代が中心となっていることがわかる。

リサーチQ回答者の性年齢分布図

3−2.リサーチQ回答者の家族構成

 次に、リサーチQ回答者の家族構成について俯瞰する。リサーチQでの15歳以上のユーザの既婚率は、男性が50.9%、女性が64.6%、全体で60.2%となっていて日本人15歳以上の既婚率(男性68.2%/女性76.3%/全体72.4%)と比べてかなり低くなっている。理由は、年齢や職業、学歴などの理由が複雑に絡み合っていると考えられるため、一概にこれだとは言えないが、リサーチQ回答者の既婚率は低いことが言える。また、子供との同居率は、男性が40.9%、女性が52.2%、全体で48.6%となっている。

3−3.リサーチQ回答者(ユーザ)の職業・学歴

 リサーチQ回答者の職業は、男性のトップが給与生活者(54.4%)、女性のトップが専業主婦(41.0%)であり、その半数程度を占めている。また2位以下は大きく離れ、男性が自営業(9.6%)、大学・大学院生(7.4%)と続き、女性が給与生活者(17.3%)、パート主婦(15.4%)と続く。学歴を見ると、大卒が多くなっていて、その分高校・高専卒が減っている。
職業: 全体
給与生活者 17.3% 54.4% 29.2%
会社役員 0.8% 3.3% 1.6%
自営業 2.4% 9.6% 4.7%
自由業 1.1% 2.2% 1.4%
専業主婦 41% 0.1% 27.9%
パート主婦 15.4% 0.1% 10.5%
小・中・高校生 5.6% 6.2% 5.8%
大学・大学院生 4.9% 7.4% 5.7%
短大・専門学校・予備校生 1.2% 1% 1.1%
フリーター 4.5% 4.3% 4.4%
家事手伝い 3.1% 4.3% 3.5%
その他 2.7% 7.2% 4.1%
最終学歴: 全体
中学校卒 3.7% 4% 3.8%
高校・高専卒 34.6% 30.3% 33.3%
短大・専門学校卒 35.1% 11.5% 27.5%
大学・大学院卒 19.1% 44.4% 27.2%
在学中 7.4% 9.8% 8.2%

 以上が、リサーチQ回答者の属性である。なお、当初、インターネットユーザーによる回答のため、代表性について疑問が持たれていたが、テレビ朝日系列で行っている全国規模の「アトラス調査」の結果に比較しての検証などから、同一の性年齢構成で行った一般の調査と差のないデータが得られることが明らかになっている。

4.ライフスタイル分析

 

関心事
趣味・スポーツ
購入物・サービス
 
 

 

 リサーチQでは通常調査以外にライフスタイル調査を行い、ユーザの視聴行動の背景にどのようなライフスタイルが関係しているのかの調査を試みている。この解析の自動化を図るために、まずライフスタイル項目ごとに性年齢などの属性項目で集計し、各ライフスタイル項目を選択するユーザの大まかな特性を知るプログラムを作成した。そして、このプログラムを改良し、各番組ごとに番組回答者のライフスタイルを表示するプログラムを作成した。
 図は、「空から降る一億の星」の回答者のライフスタイルを表示するプログラムの結果である。まず、回答人数を性年齢別にグラフにし、さらにユーザ全体との比較での特化係数を性年齢別に表示している。その下に番組回答者の既婚率、子供同居率を性別に割合で表示し、職業の分布、最終学歴の分布をそれぞれ性別に分けて表にした。最後に、番組回答者が選択したライフスタイル項目と、ユーザ全体と比較した特化係数を求め、特化係数順に並べた表を表示している。その際に、番組回答者の項目選択数と項目選択率、各ユーザ全体の項目選択率を表示した。


「空から降る一億の星」のライフスタイル

 

 このシステムは

 また、各番組の自由回答の単語ごとにもライフスタイルが表示できるようなプログラムも作成した。このプログラムにより、番組の出演者やコーナーなどの


 これらのプログラムを自由回答解析システムに実装することで、番組間で視聴者のライフスタイルがどのように異なるのかを解析することが出来る。また、同様に自由回答の単語についても、番組内のコーナー名や出演タレントについて解析を行うことが出来るが、自由回答は辞書の整備の必要性や構文解析の困難さなど、システムとして実装するまでには様々な問題がある。現在はこういった問題点の解決に向けて研究を続けている。

「リサーチQ」URL:
 http://www.rq-tv.com/

自由回答解析システムURL:
 http://ellington.gel.sfc.keio.ac.jp/rq/