2000年度森泰吉郎記念研究振興基金
修士過程 研究助成金 報告書

口コミによる「消費者の相互作用」の解明

田中 潤一郎
asaka@sfc.keio.ac.jp
政策・メディア研究科 修士課程2年


研究課題

本研究では、 個人間の情報のやり取りが事象全体に対してどのように影響を及ぼすかという問題を 、エージェントベースシミュレーションによって、シミュレートする。


研究目的

本研究では、 個人間の情報のやり取りが事象全体に対してどのように影響を及ぼすかという問題を 、エージェントベースシミュレーションによって、シミュレートする。 研究の計画時点では、消費者の購買行動における口コミなどの伝播による「相互作用」を事例として扱う予定であったが、実際の社会における「口コミ」の相互作用を含んだ社会の枠組みをモデル化することがなかなか難しかったので、枠組みという意味で設定がしっかりとしている選挙における有権者の相互作用を取り上げる事にする。「消費者の相互作用」と状況は異なるが、相互作用を行った後に意思決定を行う(消費者の場合は、購買決定。有権者の場合は、投票)という部分について考察を述べることにする。

そこで、今回は有権者の投票行動のプロセスを取り上げ、インターネットによる選挙運動が解禁となった場合について考察する。 選挙の投票結果は、有権者の候補者選択によって左右されるが、 実際の選挙において、選挙演説や政見放送といった従来の選挙運動以外にも、 友人・家族との会話やインターネットなどによる影響(相互作用)が無視できないことがわかってきている。さらに、有権者は同じ情報を受けても、反応は様々であると考えられる。  

本研究では、有権者をいくつかのタイプに分け、投票行動と情報交換行動(相互作用)のモデル化を行い、WEB解禁後の状況において有権者同士の影響が選挙の投票結果にどのように影響を与えるのかを観察・分析する。シミュレーションでは、実際の出口調査を元に有権者のモデル化を行い、その有権者同士の相互作用の影響を情報ごとに分析する。ここでい う情報とは、有権者が意思決定を行う際に重視する情報、つまり演説やテレビ、会話、イ ンターネットなどの情報を指す。また、WEB解禁後の状況において、インターネットによる選挙戦略と従来の選挙戦略の選択の仕方によって、選挙にどのような影響がでるかを考察する。シミュレーションの結果、有権者の重視する情報によって選挙結果が大きく変わることがわかり、相互作用による影響もある程度示唆された。


研究概要

研究背景

近年のインターネットの普及に伴い、個人間におけるコミュニケーションが容易になり、商品市場における消費者のコミュニケーションが活発になり「企業→個人」といった情報の流れだけでなく、「個人⇔個人」といったような情報の流れも起こっており商品の購入においても様々な影響を与えているといわれている。一方、相互作用の事例として取り上げる「商選挙」においても、インターネットを使った選挙というものが諸外国(アメリカや韓国など)で広がっており、日本にも選挙においてインターネットを使った導入しようという動きがあり、実現の方向になりつつある。

そこで、本研究では、エージェントベースシミュレーションを用いて、日本の選挙においてインターネット導入を想定した選挙(相互作用がおこりやすい環境)と従来の選挙のシミュレーションを行い、その比較などを考察する。

特徴

選挙を個々の有権者を元に表現する
様々な個々の有権者を作りこみ、その有権者の集合(相互作用)が選挙全体だと表現する。

研究スタイルの違い
従来の選挙研究は、「選挙結果から有権者の割り出し、要因分析」を行っていたが、本研究では、「個々の有権者から選挙結果」という流れで行う 。

初期設定を変えて行う
シミュレーションの特徴でもあるが、初期値を変える事によって様々な状況を想定することが可能である。


研究成果

結果

・有権者の重視する情報の違いによる影響

流通する情報の量の違いにより、選挙結果に大きな差が出た。

有権者同士の相互作用によって、有権者の間に流れる情報量が多くなると、候補者の得票数が大きくぶれるようになった。

・候補者がとる選挙戦略の違いによる影響

候補者が重視する選挙運動の違い、つまり有権者にとっての情報の質の違いが選挙の結果に影響を与えた。

有権者同士の相互作用というものを含んでいるインターネットによる選挙運動とそうでないものを比較した時に、候補者の選択する選挙運動(インターネットによる選挙運動とそうでない選挙運動)の違いによって選挙の結果が異なる傾向がでた。

 

結論

有権者同士の相互作用を行うことによる「情報の量と質の違い」によって選挙のシミュレーション結果が限定的ではあるが変わるという興味深い結果がでた。こういった情報の相互作用を扱う際に、「情報の量と質」をコントロールすることが意味を持つことがわかった。


本研究は、2002年度修士論文「エージェントベースシミュレーションによる 個人行動の相互作用の研究 -選挙運動のWEB解禁に伴う有権者の投票行動を事例に-」(政策・メディア研究科 田中潤一郎)にまとめている。 (下の修士論文をクリックすると参照が可能である。)

修士論文