2002年度 森泰吉郎記念研究振興基金 報告書

ユビキタス環境におけるサービス共有モデルの実装

慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科 2年 石井 かおり

研究テーマ

ユビキタス環境におけるサービス共有モデルの実装

1.研究の概要

街など公共な空間において,不特定多数のユーザが利用できる情報端末が多数存在す る.ユーザは多様な携帯端末を保持し,これらを利用して多用なサービスを提供する情報 端末が利用できる.しかし,これらの情報端末は特定の携帯端末と特定のサービス専用に 構築されているため,後から容易に変更できない.本研究では,サービスと利用できる携 帯端末を制限しない情報端末SmartTerminalを提案し,その基盤機構SmartTerminal Frameworkを構築した.SmartTerminal Frameworkではサービスからユーザとのインタフェ ース,認証などの機能を切り離し,モジュールとして提供する.機能をモジュールで提供 し,追加や組換え可能にすることで変化に柔軟に対応できるSmartTerminalの構築が可能 である.

2.研究の背景

近年,無線通信技術が発達し,携帯電話などの小型端末やホットスポットを利用した 屋外におけるコンピューティングが普及している.これにより,街中では,ネットワーク を利用した様々なサービスが提供されるようになった.例えば,ショッピングモールでは, 客はPDAにお店のチラシや割引クーポンなどをダウンロードでき,コンビニエンスストア では,PDAに音楽などのコンテンツをダウンロードできる.

3.問題意識

街中には,ユーザの携帯端末と連携してサービスを提供する情報端末が普及している. しかし,現在の情報端末には以下のような問題がある.

機器に関する問題

ユーザが屋外にて計算機を利用したい場合,ユーザは機器を持ち歩く必要がある.携 帯電話などの携帯端末であれば,小型であるため持ち運びは容易である.しかし,小型で あるために入出力が困難であるという問題点がある.また,ユーザが利用したい資源が多 くなるほど持ち運ぶ機器は大きくなる.ノートパソコンを利用する場合,ユーザはホット スポットサービスに持ち込んで利用する.しかし,ノートパソコンやその周辺機器を持ち 歩くことをわずらわしいと感じるユーザも多い.

携帯端末に関する問題

街中にはコンテンツのダウンロード,チケット予約などのサービスを提供する情報端 末が多数設置されている.しかし,サービスによってはユーザが特定の携帯端末を持つ必 要があリ,利用者が限定されてしまう.

サービス変更に関する問題

既存の情報端末では,端末がサービス専用に作られるため提供可能なサービスが限定 されてしまう.後から新しい機器機能やサービスを追加することや場所や要求に応じて提 供するサービス内容を変更することは困難である.

4.アプローチ

本研究では,既存の情報端末の問題点に着目し,これらを解決するために情報端末 SmartTerminalのモデルを提案し,SmartTerminalを構築するための基盤機構 SmartTerminal Frameworkを実装した.SmartTerminalは街中など公共な空間において情報 や機器機能をユーザに提供する情報端末である.また,SmartTerminalは以下の機能を持 つ.

SmartTerminal

また,SmartTerminalは以下の特徴を持つ.

5.成果物

SmartTerminalを構築するために,本研究ではディスプレイ・プリンタ・携帯端末など 複数の機器を用意し,それらを管理しサービス提供を可能にするためにSmartTerminal FrameworkをJavaを用いて実装した.

SmartTerminal Framework

SmartTerminal Frameworkでは,サービスベンダーが機器や情報サービスを提供するた めの基盤機構を提供する.SmartTerminal Frameworkで複数の通信インタフェースを提供 することにより,サービスベンダーはユーザがサービスを受け取る手段をわざわざ提供す る必要がない.SmartTerminal Frameworkの概要を以下の図に示す.

SmartTerminal Framework

現実装では,SmartTerminal Frameworkとしてユーザとの通信インタフェースを提供す るConnection部,機器および情報サービスを提供するService部,課金や認証の枠組みを 提供するClient部および端末やユーザの位置を管理するLocation部より構成され,それぞ れを実装するためのインタフェースを提供する.

6.今後の課題

現在,利用可能な機器サービス,通信インタフェースおよびそれらを用いた応用アプ リケーションが少ない.今後,これらの実装を増やしていく.

7.出筆論文