200年度 研究成果報告書 

「工業等制限法の廃止による進学移動への影響に対する考察」

学籍番号:80131906(legnum@sfc.keio.ac.jp)

政策・メディア研究科修士2年:田中 英雅

 

【はじめに】

本研究では過去25年の間に首都圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)における大学の収容力が変化(減少)することによって、首都圏への進学移動にどのような影響が生じていたのかを分析している。

なお、大学の収容力をみるに当たり各都県における大学進学者数の差異を考慮し、大学の入学者数に対する大学進学者数の割合(以下、「教育機会比率」と呼ぶ)を適用している。

 

 

【首都圏における教育機会比率の変化】

 首都圏における1975年度から2000年度までの教育機会比率の推移をみると図1のようになった。

1 首都圏の教育機会比率の推移

 東京都における減少に比べ、埼玉県、千葉県、神奈川県において増加していることが分かる。

 

 

東京都への大学進学移動者の割合の推移

次に各都道府県から東京都への進学移動者の割合の推移をみることにする。各都道府県から東京都への進学移動者の割合の推移を、1975年度の値を基準(100)として2000年度までの指数を5年おきにみると図2のようになった。

2 東京都への進学移動者の割合の推移(1975年度=100)

 

図2より、すべての都道府県において、進学移動者総数に占める東京都への進学移動者数の割合は近年になるにつれて減少していることが分かる。このことは東京都への進学者数が減少しても生じる現象であるが、逆に東京都への進学者数が増加していても大学進学者総数がそれ以上に増加していれば生じうる現象でもある。

そこで次に進学移動先である東京都の側からみてみる。東京都の大学入学者数に占める各都道府県からの進学者の割合はどのように推移しているのであろうか。

 

 

【東京都における各都道府県からの大学入学者の割合

1975年度の値を基準(100)として2000年度までの指数を5年おきにみると図3のようになった。

3 東京都の大学入学者数に占める各都道府県からの進学者の割合(1975年度=100)

 

図3より、東京都の大学入学者数に占める各都道府県からの進学者の割合は多くの都道府県に関して減少しているが、いくつかの都道府県では増加していた。2000年度に指数が100を超えているのは7都県であり、上位3県は埼玉県、千葉県、神奈川県となっていて首都圏(一都三県)の伸びが著しいことが分かる。またそれ以外の道府県からの進学者の占める割合は1990年度頃まで減少した後安定する傾向にある。

これは図2でみた各都道府県から東京都への進学移動者の割合の推移はすべての都道府県において減少していたことと異なる結果となった。すなわち、全都道府県において進学移動の際に東京都へ進学する割合は首都圏外の道府県において大きく減少し、相対的に首都圏における東京都への進学移動が増加していることが分かった。

 

 

【首都圏における大学の郊外化

次に首都圏内の各都県から首都圏内の進学移動先の推移をみると図4から図7のようになった。

   

図4 東京都からの進学移動先の割合      図5 千葉県からの進学移動先の割合

図6 埼玉県からの進学移動先の割合     図7 神奈川県からの進学移動先の割合

 

図4から東京都における進学移動者の減少分は隣接する千葉、埼玉、神奈川各県に吸収される形となっていたことが分かる。また図5から図7より千葉、埼玉、神奈川各県から東京都へ進学している者の割合は減少しており、反対にこれら三県における自県内進学者数は増加していて、大学の郊外化ともいえる現象が生じていることが分かる。2000年度には各県において両割合はほぼ匹敵するまでになっており、このことから従来の各県からの大学進学の際の東京都への依存が大幅に少なくなっていることが分かる。

千葉、埼玉、神奈川各県から東京都へ進学している者の割合の推移と東京都から千葉、埼玉、神奈川各県へ進学している者の割合の推移を図8にまとめた。

  

図8 3県の東京都への進学割合と自県内進学の推移

 

図8より千葉、埼玉、神奈川各県から東京都に所在する大学へ進学している学生の数が減少し、反対に東京都の側から三県へ進学している学生の数が増えている様子が明らかであり、「進学移動における人口移動転換」が生じているといえる。

なお入手できたデータの関係上、東京都という単位でしか分析できなかったが、東京都内でも23区と多摩地区というように区分した場合には進学移動における人口移動転換が生じている可能性がある。

 

 

【おわりに】

以上の分析から1975年度から2000年度までの間に東京都における大学の収容力が減少する一方で千葉、埼玉、神奈川各県における大学の収容力が増加し、それに伴い進学移動における人口移動転換とも言える現象が生じていることが分かった。しかし工業等制限法が廃止され、東京都における大学の収容力が増加するとなると、こうした郊外化の流れに対し再び都心回帰が生じる可能性がある。