森基金2003年度研究助成報告書

コルチン砂地における砂漠化の進行過程と政策影響に関する時空間分析


厳網林 慶應義塾大学政策メディア研究科

宮坂隆文 慶應義塾大学総合政策学部

1.はじめに

コルチン砂地は中国で砂漠化が最も進んでいる4大砂地の1つとして,国内外に注目を集めている.中国政府の植林事業や地元住民の努力により,砂漠化地域では植生が一部回復していることが見られる.一方,毎年乾燥が続く中、農業用水や産業用水が増えているため,湖沼や池などの水面が消失し、植生が衰退する場所も多く確認されている。これらは相反するように思われるが、砂漠化対策の難しさを如実に語っている.すなわち,砂漠化防治は局地的な緑化活動では解消されにくく,環境保全や産業政策の面から一体的に取り組まなければいけない.
事実,コルチン砂地における砂漠化の発展は,地域の農業政策や人々の経済活動と密接に関連する.内蒙古自治区ないし中国全土においては,1950年代以降に度重なる農業政策の変更があった.1950年代には人口出産を奨励し,地域に巨大な人口ストレスを作り出した。1958年には大躍進と人民公社運動を推進し,多くの樹林地や牧草地を農地に転用した.1966年から1976年までの文化大革命時代には,食料増産の政策が広く取られて,低地・湿地を水田に、固定砂丘を畑にというように,草原の耕地化をいっそう加速させた。そして,1980年代以降に実施された改革開放政策では,"豊かになる"ことをスローガンに,農牧民たちが家畜生産を大幅に拡大した.これらの農業政策や農業経営はいずれもコルチン地域の環境容量を理解したうえで行われたものでなかったため,いずれもコルチン砂地の生態環境に大きな影響を与えたと考えられる.
 コルチン砂地における砂漠化の発展に関しては,研究調査が一部進められていることもある.烏蘭図雅(2000)は統計データを用いて,コルチン砂地における50年間の農地面積の推移を抽出し,砂漠化の拡大との関連性を示唆した.また,烏蘭図雅(2002)はコルチン砂地における砂漠化の発展の過去300年まで遡って調べたことがある.立入ら(1998, 2000)がCORONA画像やランドサットTMデータを用いて,コルチン砂地奈曼地域における砂漠化の実態を解析したことがある.しかし,これらの研究は衛星データによる土地被覆の変化を,過去の土地利用政策と関連させて,詳細に分析するに至っていない.
砂漠化の発展を長い期間にわたって調査するためには,時系列的な空間データが不可欠であるが,中国に関しては,詳細な空間データを長期間にわたって,入手することが容易ではなかった.幸いにコルチン地域に関しては,国内外に過去の地図データや現代の衛星データが豊富に存在する.それらのデータを使うと,砂漠化地域の土地景観の変化と人間活動の影響を考察することができると思われる.本研究はCORONA空中写真,衛星画像,統計データを用いて、コルチン砂地における土地被覆の変化を時系列に解析し、50年間に及ぶ農業政策が砂漠化の拡大または抑制の効果を明らかにすることを目的とする.

2. コルチン砂地の自然と社会

3.データの整備

4.衛星データによる砂漠化進行の解析

5.考察

6.結論


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