4.衛星データによる砂漠化進行の解析

4.1 使用したデータの特徴

  6時期のTMデータの輝度平均値を表4-1にまとめた.CORONAはバンド別スペクトル値がないが,本研究でもっとも古いデータとして利用するため,表4-1に併記した.

4-1 ランドサットTMデータのスペクトル特性

Data sets

Sensor

Band1

Band2

Band3

Band4

Band5

Band7

採用理由

1961.09.12

CORONA

 

 

 

 

 

 

最も古い画像データ

1984.07.10

TM

116

57

73

104

162

89

最も古いTMデータ

1988.09.23

TM

73

34

41

60

99

50

平年並みの降雨とよい季節

1990.07.11

TM

107

53

69

98

146

81

1984年ものとの比較

1994.09.08

TM

70

37

46

72

109

56

季節がよく降雨が最も多い

1995.09.11

TM

75

34

45

69

107

54

平年並の降雨.94年と比較

2000.09.24

TM

78

35

47

61

111

62

最も新しいTMデータ.

  7月の両画像(1984,1990)はもっとも高い輝度植を持っている. ほかの4画像は顕著な輝度平均値の差が見られない.しかし,各データを以下のように画像として表示すると,色調が異なることがわかる.

4-1 CORONA画像(1961.09.12)

1)CORONA画像

  東西冷戦時代、アメリカは偵察衛星CORONA、 ARGON、LANYARDによって世界で86万枚にも及ぶ白黒の空中写真を撮影しており、その写真は1995年に一般公開するようになった。公開した写真は1961から1980年代初期まであるが、ミッションによって搭載したカメラの性能(KHシリーズ)が異なっていたため、写真の分解能は一様ではない。ミッションナンバーとカメラの詳細については、アメリカ地質調査所(USGS)のホームページhttp://edc.usgs.gov/ Webglis/glisbin/guide.pl/glis/hyper/guide/disから閲覧することができる。

 今回,用いた画像は,1960年10月〜1961年10月まで稼動したKH-2がミッションナンバー9022で撮影したものである。もとフィルムは地上分解能でいうと25フィートまで可能という.図4-1の画像は対象地域を800dpiでスキャンし,Photoshopでモザイクしてから,画像処理ソフトER Mapperで2000年のASTER/VNIR画像(表3-1参照)の地理座標に併せたものである.Photoshopによるモザイクは目視で確認しながら手動で行った.幾何補正の標準誤差は3ピクセル以下に抑えることができた.ASTER/VNIRとよく重ね合わせができた.

2)Landsat画像

  図4-2(a)〜(f)は使用した対象地域のTMフォールスカラー画像である。赤が強いほど植生が強いことを表し、白い部分は植生がほとんどない、つまり砂丘域を示している.

  図4-2(a) Landsat画像(1984.07.10)

7月にはコルチンでは植生がまだ十分に成長していなく,露出する土壌が多いため,輝度値が平均的に大きい.これは表4-1に示したとおりである.

 

 

  図4-2(b) Landsat画像(1988.09.23)

平年並の降雨量と9月時の画像として,1980年代後期の砂漠化の進展を見せる.

  図4-2(c) Landsat画像(1990.07.11)

 1984年の画像と同様,7月のものとして,植生がやや少ないことがわかる.

  図4-2(d) Landsat画像(1994.09.08)

 第3章で示した年次月別降水量では,1994年のほうが高かったため,画像にはもっとも多くの植生量が観測された.

  図4-2(e) Landsat画像(1995.09.11)

 1994年と同じ季節であること,一年しかたっていないことを利用して,降雨量の違いが植生に与える影響をみることができる.

  図4-2(f) Landsat画像(2000.09.24)

 最も新しいTMデータとして,砂漠化の進展の現状を知る.画像は青っぽく映る.それは撮影前日に3.7mmの降雨があって,土壌に多くの水分が含まれていたからと推測する.

3)データ解析の方法

衛星画像による砂漠化の進展をみる場合,正規化植生指数NDVIを利用する方法,各年次の土地被覆分類図を作成して移動砂丘や半移動砂丘と認めた地域を比較する方法,砂漠化指数を評価する方法などがある.NDVIは植生が少ない場合,裸出する土壌の反射を強く受け,NDVIが実際の植生の状況を過大に評価する傾向があると指摘されている.

土地被覆分類図を作る場合,教師付き分類と教師なし分類(クラスタリング)がある.分類クラスをどのように意味づけするかによって,イメージがかなり変わることになる.

砂漠化指数としては土壌指数(主成分分析やTasseled Cap Transformationの明度指標)を利用する方法,土地被覆分類結果を一定の面積で集計し,移動砂丘や半移動砂丘の面積率で評価する方法,地上で植物組成を調査して,退化遷移の段階を評価する方法など,さまざまある.

これらの方法を比較することはこの研究の目的でないが,取得された季節,それまでの降雨,撮影時の観測条件を考慮しないと,信頼性の高い結果を作ることができない.以下では,土地被覆図を作成して,それから,NDVIと主成分分析による土壌指数を用いて検証することにした.

 

4.2         衛星画像の分類による土地被覆図の作成

1) CORONA画像による1961年の土地被覆分類

 ISODATA法を用いたクラスタリングによりCORONA画像を分類した.クラスタリングの際の条件設定は6つの画像に共通して図4-3のように設定した。意味付けのカテゴリーとしては、水域・湿地(Water/wetland)、森林地帯(Forest)、樹林地(Woodland)、潅木地(Shrub)、草地(Grassland)、半草地(Semigrass)、半移動砂丘(Sand2)、移動砂丘(Sand1)の8つを設定した。1961年当時の土地被覆分類図を図4-4(a)に示す。

4-3(0) クラスタリングの条件設定

4-4(a) 1961年の土地被覆分類(1961.09.12)

 CORONAは単バンド画像なので、輝度値が近似する森林地帯と水域・湿地が混合されている。1961年の時点では、まだ砂丘域が少なく緑の多いことが伺える。

2) LandsatTM画像による1988年の土地被覆分類

 1984年,1988年,1990年,1994年,1995年,2000年のTM画像もCORONA画像と同様にクラスタリングを行った.クラスタリングの結果に対して,同様な基準に意味づけを行い,それぞれの年次の土地被覆マップを作成した。その結果を図4-4(b)〜(f)に示す.

 

4-4(b) 1984年の土地被覆分類図(1984.07.10)

  7月の画像では,植生が十分に成長していないため,多くの土地が半移動砂丘系に分類されたように見える.

4-4(c) 1988年の土地被覆分類図(1988.09.23)

 

北西部に点在している森林や樹林地の一部は、水域が誤分類されたものである。この図からは、1988年当時,半移動砂丘が地域全体に点在している様子を見ることができる。

4-4(d) 1990年の土地被覆分類図(1990.07.11)

 1984年の画像と同様,多くの草地は半移動砂丘に分類されている.

4-4 (e) 1994年の土地被覆分類図(1994.09.08)

これまでの同時期の画像と比べると,全体的に白いパッチが多くなり、半移動砂丘から移動砂丘へ遷移が進んだことが伺える。また、1988年時に森林地帯、樹林地と誤分類されていた北西部の水域・湿地の一部が、この画像では正しく分類されていることが分かる。

4-4(f) 1995年の土地被覆分類図(1995.09.11)

 1994年のデータからちょうど一年たっていた.移動砂丘と半移動砂丘域がさらに広がっていることがわかる.

4-4(g) 2000年の土地被覆分類図(2000.09.23)

 この土地分類図から北西部で砂漠化の進行が激しかったが分かる。