[2003年度森泰吉郎記念研究振興基金 成果報告]



研究課題 「植物ゲノムにおける転写開始点予測法の開発」
藤森 茂雄
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科博士課程一年
E-mail: fujimori@sfc.keio.ac.jp



[研究概要]: 真核生物のゲノム配列データの蓄積に平行して,近年では完全長cDNAのデータが充実しつつあり,それらのデータは大規模な比較情報解析を可能にしている.また,完全長cDNA配列はゲノム配列にマッピングすることで,転写開始点付近の配列を網羅的に分析することも可能にする.本研究では,植物二種(イネ,シロイヌナズナ)を中心とした高等真核生物(ヒト,マウス他)の完全長cDNA配列及びゲノム配列を用いて,転写開始点の上流及び下流における塩基配列の傾向について比較解析を行った.解析の結果,1)植物の転写開始点には他の生物種では見られない特異的傾向があることが明らかになった.その一つが転写開始点付近におけるマイクロサテライトの存在頻度である.マイクロサテライトは高等真核生物のゲノムに偏在する単純縦列反復配列であるが,植物ゲノムではマイクロサテライトが転写開始点下流付近に最も高頻度に存在していることが明らかになった.この傾向は,特に第一/第二エクソン,第一イントロンで強く見られ,転写方向に進むに従って弱まっていった.植物遺伝子の転写開始点近傍に特異的に存在したマイクロサテライトの多くは,CpG,CpNpGやその他,シトシンのメチル化の対象となる配列を含んでいたことから,メチル化による遺伝子発現制御との関わりも示唆される.また,塩基組成比についても解析を行ったところ,2)植物遺伝子の転写開始点のGC(グアニン・シトシン)の組成比において,単子葉植物と双子葉植物に共通した特徴的な傾向があることが明らかになった.現在,これら植物の転写開始点に見られる特徴及び,それらの転写開始点予測への応用可能性について検討を行っている.

上記1)の研究成果の詳細については下に示した論文(Fujimori S., et alFEBS Lett. 2003; 554(1-2):17-22)を参照されたい.
上記2)の研究成果の詳細については現在論文として投稿準備中である.






- Journal Publication (2003) -


    ● FEBS Lett. 2003; 554(1-2):17-22
      "A novel feature of microsatellites in plants: a distribution gradient along the direction of transcription"
      Fujimori S., Washio T., Higo K., Ohtomo Y., Murakami K., Matsubara K., Kawai J., Carninci P., Hayashizaki Y., Kikuchi S. and Tomita M.



- Poster sessions in academic confferences (2003) -


    ● 日本分子生物学会: “植物の完全長cDNAを用いた転写開始点周辺配列の比較解析” Fujimori S., et al. (2003)
    ● International Genetic Resources Workshop on the genus Oryza: “Biased distribution of pyrimidine-rich microsatellites in Rice and Arabidopsis Full-length cDNAs” Fujimori S., et al.(2003)
    ● IECA2003 conference: “Biased distribution of pyrimidine-rich microsatellites in Rice and Arabidopsis Full-length cDNAs” Fujimori S., et al.(2003)
    ● 慶應義塾大学21世紀COE国際シンポジウム: “A novel feature of microsatellite in transcribed regions of plants” Fujimori S., et al. (2003)