研究成果報告書

「アイマップコミックス iMap.gr.jpデータを用いた多人数による文化事象研究の試み」
代表 政策・メディア研究科 飯尾健太郎



研究概要

 本研究は、第一にコミックスという文化事象の大勢をiMap.gr.jpに格納された歴史化された所与 として包括的に対象とする。第二に本研究は、30余名の人員で2002年10月から始められた 複数名で共同かつ集約的に行われる作品解釈と、それを介した社会分析のためのワークショップで ある。第三に本研究は、そのためのワーキングモデルの構築と手順の方法化をも同時に視野に収め ている。具体的には、iMap.gr.jpで採取されたデータをもとにクラスタリングされたマンガ作家グ ループを個別に分析対象としながら、参加者は作業用webに3種類の項目のリストを入力しつつこ れを集積し、作業仮説に従いながらその選別や意味づけを行う。

問題意識

 文化を語りまためぐる状況はここにきてまさしく百花繚乱である、と言ってもよいのかも知れない。コミックスの分野だけをとってみても、数多の解説本があり、ムックがあり、TV番組があり、ファンサイトがあり、2ちゃんねるをはじめとする掲示板には無数のスレッドが立ち並んでいるし、それは昼夜の別なく言葉を数多に紡ぎ出している。文庫本化や商用サイトによるデータベース化を背景としたリバイバルがあり、再評価があって、専門家でなくともそれがどいうものかをある程度は知っている。そのような解説はどこかで何かの折りに耳に届くこともある。だが、その花々は実を結ぶことのなかなか叶わぬ徒花であった、といってしまってもよいのかも知れない。それは、少なくとも社会の底流との関連が明瞭に見えてくるものではないし、1人よがりに過ぎる場合や表層的な解説に終始する場合がほとんどである。分析としての効果を十分に上げることはなく、消費され、聞き流され、語られるままに語られていく。
 問題は、文化を巡る言説に実証性が希薄である、というだけでは十分ではないし、個別・細分化された文化事象を包括的に議論するための視点や場所を我々は商業的言説以外には持ち合わせていない、というだけでも十分ではない。同様にまた我々はネットワーク環境が誘発する気の置けない、子細に渡って作品の奥深に踏み込んでいく無数のコメンタリーを集約し資源化する仕組みを十全には持ちあわせてはいないし、分野という枠組みを越えつつ社会との関連を明らかにし、広く聞き届けられていくための明晰なロジックや手順をも、持ちあわせてはいない。求められるのは、実証性を伴いながら包括的に文化事象の総体をイメージし、作品の細部に分け入りながらその豊饒を遊離霧散させずに社会へと送り返すための方法論であり仕組みだったのではないか、と思い当たる。
 つまり、現況にあって文化を語ろうとする際、その緒言が口をつき今まさに語り出そうとする刹那には、従来の語り方の礎となるべき文化研究のあり方の、その方法論の有効性がまずは問われることになるのである。


研究成果

2003年度秋学期をもって、本研究は、当初想定していた「レイヤー3」という「社会全体を表す大きな画像」の第一次的分析を全て終了することが出来た。
具体的には、120名を越える漫画作家を数名づつのクラスター(特定の漫画作家グループ)に分割しながら、その35のクラスターを多人数(7〜10名ずつ)によって、作業仮説に従いつつ、「作品分析+データ解析」の行程を行った。作業前提である、「3種類のリスト入力」をアウトプットの1つとして保持しつつ、35x平均7=245前後のそれぞれ「固有の特異性(=ハイライト)」を持つ分析テキストを結果として残したことになる。

また、同時に、「参加者のパースペクティブからの距離感の不連続的な総体」として「クラスターの特徴を表現」することが主眼であった本研究であるが、その作業結果をどのように集約するかがとして残っていた。これを、テキストから特徴的な動詞とアウトラインを抽出し、組み合わせていくことによって、「回路図」を作成し、それぞれを比較するという手順を明確にした。その部分は、来学期以降の「phase.3 複雑な変形」という研究段階として、社会の記述という側面から追求される筈である。

「参考url アイマップコミックスphase.3 シラバス」

http://vu.sfc.keio.ac.jp/project/html/2004/2004_17184/http/web.sfc.keio.ac.jp/~ikn/imcs/syllabus/2004spring.html


さらに、研究成果を現在発行部数1000部の冊子として編集中であり、方法論含め、世に問う予定である。


冊子アイマップコミックス



ここでは、冊子というフォーマットとして研究内容をブラッシュアップしながら、より外部に遡及するための方法論が問われた、といえる。

具体的には、内部で共有していた前提の言語化や、先に述べた回路図のシュアーなビジュアル化、各手順の位置づけの明確化、参考文献の明示による本研究の位置づけなどが行われている。

体裁は、全体の1/3をフォローする内容であり、全132pとなる。
詳細は、上の画像から飛ぶリンクに譲りたい。


以上で、研究成果の報告とする。