2003 年度森泰吉記念研究振興基金 研究成果報告書



Interaction Design for Cybersound



慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程

豊田 振一郎




◎本研究の概要について



 本研究は、コンピュータを利用した新しい音楽環境、及び新しい音響・音楽デザイン理論の

 確立を目指すものである。現在、コンピュータミュージックは実時間で複雑かつ

 緻密な音響生成を実現し、その表現伝達に高速のネットワーク環境を利用することが

 できる状況にある。これは従来の音楽で保持されてきた「作曲-演奏」の枠組みから飛び出し、

 「作曲、演奏、録音、伝達(放送)」を自在に行き交うコミュニケーション手段として、

 コンピュータミュージックの実力を存分に発揮できる環境が整ったと考えることができるが、

 これらを実現するためには高度な理論や技術が求められ、多くのユーザにとっては依然として

 敷居が高いのが現状である。そこで本研究では、音楽表現のポテンシャルを犠牲にすることなく、

 従来にはない方法で作品制作を可能にすることを目的とし、ソフトウェアの開発、及び

 その過程において制作された作品発表を国際会議にて行った。




◎本研究の成果について



 本研究はコンピュータミュージックのポテンシャルを生かしたソフトウェアなどの新しい

 制作環境の実装を試みることで、コンピュータを利用した表現可能性の本質を理解するための

 新しい音・音楽デザイン理論確立を目指した。


 具体的には従来の「音響プログラミング」と身体性を意識した「楽器」とのギャップを埋めるべく

 音響及びCGのプログラミング環境としてMax/mspを用いたソフトウェアを作成し、

 その有効性を示すため作品を制作し発表を行った。


 新しい音楽ツールとしての可能性を提示していくためには、改めてコンピュータと音楽、

 そしてデザインの在り方を問いなおす必要がある。

 本研究では要素技術としてのインターフェイスから脱却したデザイン、そして聴くことを

 アルゴリズムに生かすことを可能にするデザインを実現することを念頭に開発が行われた。

 この新しい音・音楽デザインアプリケーションは、より自由な拡張性を得るべく

 今後はJavaを用いて改良、実装を行う予定である。





◎今後の課題について



 本研究では人間そのものを取り巻く情報環境全体をデザインすることにより

 従来から残されてきた問題を決し、本研究が子供を含むユーザにとって重要である

 創造的および教育的な価値を生み出すことも目標としてきたが、このデザインを

 より良いものにするためには、ユーザからのフィードバックだけではなく、

 特に認知科学の見地からも検討する必要があると考えられるし、

 また「音響合成とプログラミング」、そして「楽器と演奏」の両面を自在に行き来する

 音楽の新たな可能性を提示するような新しい作品の制作も、

 ソフトウェア/ハードウェアの開発同様に重要である。この横断的な活動を続けることで、

 新しい音/音楽デザイン理論の確立を実現していくことが、今後の課題である。




 なお、本研究にて実装中のソフトウェアを一部利用して作られた作品「catnap」は、

 コンピュータミュージックにおいて最も重要な国際会議であるICMCに入選を果たしている。