2003年度森基金研究者育成費 研究成果報告書

「エチオピアにおける歴史的環境の形成過程に関する研究」

 

政策・メディア研究科環境デザイン専攻 D2

設楽 知弘

 

 

□研究背景と概要

エチオピア連邦民主共和国には、古代アクスム朝〜中世ザグウェ朝〜近世ゴンダール朝〜第二次世界大戦時までの間に築かれた多くの歴史的都市が存在する。主な都市としてアクスム、ラリベラ、ゴンダール、ハラール、メケレが挙げられ、宮殿、宗教施設、住居、橋梁など様々な歴史的建造物が現存している。これらの中にはユネスコ世界文化遺産に登録されているもの含まれ歴史的建造物の周辺は地形、植物、河川、などの自然的な要素や人間の生活が合わさった地域特有の景観を有し歴史的環境を形成している。エチオピアでの歴史的環境に関しての認知度は極めて低く、ユネスコ世界文化遺産に登録された幾つかの建造物群を除いて、歴史的な建造物や町並みに関する満足な調査が行われていないのが現状である。エチオピアでは近年、安価で加工に優れたトタンやセメントブロックなどの建材普及による建造物の増加や燃料不足からの森林伐採により、歴史的都市にも急激な変化が起こっている。今後、これらの貴重な歴史資源の保護・活用や都市計画における政策方針を決定する上で歴史的環境に関する実態を明らかにし、持続可能なものとするための基盤となる基礎的アーカイブの構築は急務の課題である。そのためにはエチオピア政府や学術機関、現地の行政機関と協力した研究体制を確立することで最終的には都市計画や観光などの地域政策へと反映させる必要がある。

(※参照1、2)

 

 

□研究成果

本年度研究成果としては以下の項目が上げられる。

・ゴンダール市における都市計画マスタープラン改訂事業における活動

・ティグレ州グンダ・グンド修道院修復事業における予備調査活動

 

「ゴンダール市における都市計画マスタープラン改訂事業における活動」

研究者が所属する三宅研究室では2000年3月よりゴンダール市役所、アムハラ州政府、アジスアベバ大学と共同体制で都市計画マスタープラン改訂事業を実施している。研究者は本年度より年間の半数以上ゴンダール市に滞在しマスタープラン改訂事業に携わってきた。

 

1)ゴンダール市の電子地図作成

近年、先進各国において電子地図は都市計画のみならず多岐の分野において一般的な情報として活用されている。エチオピアにおける電子地図の普及は数年前に始まったばかりで首都アジスアベバですら全域が完成していない状況にある。研究者は2003年5月より7ヶ月間にわたりゴンダール市役所に勤務し1:2000スケールのゴンダール市全域の既存地図の電子地図化を実施した。主な地図として以下が挙げられる。

・地形図 

・道路計画図

・土地利用図

・歴史的建造物図

・電話配線図

・水道配管図

・電気配線図

・スロープ図

・建築高さ規制図

・地価図 (※参照3、4)

これらの地図は現在、ゴンダール市の都市計画マスタープラン改訂事業の基礎となり各組織に配付され作業が進行中である。また、電子地図データはゴンダール市の歴史的建造物調査を実施する上で重要な基盤となる。

 

2)ゴンダール市における歴史的環境調査

ゴンダール市は17世紀にゴンダール朝の都として栄えたエチオピア有数の歴史都市である。当時建設された宮殿などの建造物群はユネスコ世界文化遺産に登録されている。他にもゴンダール朝時代には既に見られた土着的構法により建設された円形住居や1937年〜5年間イタリアに占領さえた際に建設されたイタリア軍建築が数多く現存する。

ゴンダール市の都市の骨格は、イタリア占領当時に実施された都市計画を下地として発展してきたと考えられている。研究者はマスタープラン改訂事業の一環としてこの60年間でのゴンダール市の拡大プロセスやイタリア軍建築の分布や現状調査を遂行中であり、この調査は新たなマスタープランにおいて歴史的建造物に関する政策へと反映されることとなる。

また、これらに関する調査結果の一部は2004年度の日本建築学会にて発表予定である。

(※参照5)

 

 

「ティグレ州グンダ・グンド修道院修復事業における予備調査活動」

研究者はゴンダール市における調査とは別にティグレ州に存在するエチオピア中世協会建築に関する調査を実施した。その成果に関しては以下の日本建築学会に提出した梗概を参照して頂きたい。

1)設楽知弘、三宅理一、米倉立子、出佳奈子

「グンダ・グンド修道院の成立と空間的特質に関する論考 エチオピア中世教会建築研究 その6」

日本建築学会大会 名古屋 2003年9月 2003年度日本建築学会学術講演梗概集 F-2 p413-414

2)米倉立子、三宅理一、設楽知弘、出佳奈子

「ティグレ州における中世岩窟教会の内部空間の構築とその装飾 エチオピア中世教会建築研究 その7」 

日本建築学会大会 名古屋 2003年9月 2003年度日本建築学会学術講演梗概集 F-2 p415-416

3)出佳奈子、三宅理一、設楽知弘、米倉立子

「アブラハ・アツバハ聖堂ナルテクスの特異性に関する論考図像分析を通じて エチオピア中世教会建築研究 その8」

日本建築学会大会 名古屋 2003年9月 2003年度日本建築学会学術講演梗概集 F-2 p417-418

 

 

 

 

参照1 ゴンダール市:宮殿ファシル・ゲビ(世界遺産)

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


参照2 ゴンダール市:中心部の風景

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


参照3 ゴンダール市全域の電子地図:地形図

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


参照4 ゴンダール市全域の電子地図:土地利用図

 

 

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


参照5 ゴンダール市全域の電子地図:歴史的建造物の分布