2003年度森泰吉郎記念研究振興基金 研究報告書
政策・メディア研究科 ノーベルコンピューティングプロジェクト
博士課程1年 楠本宏樹 (80366109)
- 自己組織化手法を応用した衛星画像処理による農地分析
研究概要
ニューラルネットワークの教師なし学習手法の1つである自己組織化1)
(Self-Organizing Map, 以下SOM)アルゴリズムを応用した提案手法を用いて
ハイペリオン画像から農地の分析を試みた.ハイペリオンは衛星EO-1から地表面を,
波長430〜2400nmの範囲を約10nm幅で242枚撮影している.農地の土壌や作物はその
成分や状態の違いにより様々な波長において異なる反射率を示すと考えられる.
本研究ではハイペリオン画像から各点における分光曲線の特徴を捉えて,
カラー画像として特徴の相違を可視化することを目的としている.
SOMはコホネンによって開発された手法であり,
複数次元の要素を持った複数個の入力ベクトルをこれとは別の格子状に標本化された
2次元空間にマッピングするものである.マップ上の距離によって入力データの特徴を
可視化することが出来る.提案手法は従来のSOMを改良して計算量の大幅な削減と,
3次元マップを使うことによって色の塗りわけによる特徴の可視化を行う.
- 提案手法
提案手法はSOMを以下の点で改良した。
- 勝者ベクトルの探索: 初めは大雑把に探し,徐々に細かく探していく.
- 学習空間: 初めはサイズを小さくしておき,徐々に大きくしていく.
- 学習: 従来は近傍学習を行なっていたが,提案手法は近傍学習を必要としない.(勝者ベクトルのみの学習)
- カラーリング: 学習空間に対してRGBの3軸を割り当てることで,ピクセルをそのピクセルがマッピングされた座標の色でカラーリングする.
- カラーリングの改良: カラーリングする時に,これまでは学習空間全てに対してRGBの3軸を割り当てていたが,
学習空間の一部分にRGB3軸を割り当てる.
- 実験
- 入力データ
2002年8月に撮影された長野県から山梨県にかけての地域のハイペリオン画像を入力する.
上図はその1部分を切り出したものである.(下図も同様の場所を切り出しいる.)196枚,
256×3128ピクセルの12bitグレースケール画像から,196次元の要素をもった256×3128個の
ベクトルを入力値として作成した.
- マッピング結果
右図は左図と同一のマッピング結果にカラーリングしたものであるが,
左図がマップ全体に対してRGBの3軸を与えたのに対して,
右図はマップから一部分を切り出して,
切り出した直方体にだけRGBの3軸を与えてカラーリングしたものである.
各軸の値は0〜200の範囲にしておき,マップの残りの部分にマッピングされている
ピクセルに対しては白色に着色した.左図でピンク色に見える部分だけを
取り出したのが右図である.特徴の似たピクセルだけを取り出すことによって,
左図はでは見づらかった微細な色差を強調して表すことが可能となった.
- まとめ
本論文ではハイペリオン画像の農地部分の土壌を分析するためのSOMを応用した
高速SOMカラーリング手法を提案した.ハイペリオン画像を入力したシミュレーションでは
雲,山地,牧草地や農地を異なる色で適切に塗り分けることができた.
また似た特徴をもったピクセルに対しても微細な色の差をつけることができてた.
本研究は財団法人リモート・センシング技術センターの御協力により,ハイペリオン画像を
使わせて頂きました.