研究課題名:「東京における屋上緑化政策の現状と今後の展開に関する研究」

所属:政策・メディア研究科 修士課程2年

氏名:伊藤彩子

 

研究要旨:

 

・目的

本研究は、東京都が都市環境問題の改善に向けて設けた、建築物上での緑化を義務づける条例(東京における自然の保護と回復に関する条例)に基づいて実施された屋上緑化事例を対象とし、@これまで明らかになっていない実施状況を定量的に把握する A本制度によって創出された建物緑化の事例とこれまでに制度と関係なく創出されてきた事例を、平面形態、立面形態、植栽の内容から比較し、これらの特性を明らかにする B本制度によって創出された事例について、管理や利用状況などのより詳細な情報を加えて分析し、計画特性と今後に向けての課題・可能性を把握する、以上の分析結果から、より効果的に建物緑化をすすめるための指針を提示することを目的として行った。

 

・対象

@     においては、建物の新築・増改築の際に東京都に提出義務のある緑化計画書の台帳(平

9年度から平成14年度までの分)を借用し、それに記載された事例を対象とした。

A     及びBにおいて、制度によらず自発的に実施された事例については入手可能なあらゆる

雑誌、文献、行政資料等に記載されて見学可能であった事例35件を対象とした。

本制度によって創出された事例については平成13年度以降に緑化計画書が提出され、完成された公共施設18件と、屋上緑化業界最大手のA社での平成13〜14年度の実績のうち、制度に基づいて実施され、見学可能であった17件、計35件を対象とした。

 

・分析結果

@     に関しては、件数、規模、内容を、立地区別分析、公共施設と民間施設の比較、新築と

増改築での比較などから把握した。その結果、建物用途別に制度の実施状況に差があり、医療施設や福祉施設、学校など公共性の高い建物では、建物緑化の実施率が高く、緑化内容も豊富であることが判明した。

 A、Bに関しては、「都市環境の改善」を目的とした制度によって設けられる事例は、地被類で「覆う」緑化・単一的な緑地の形成の傾向が見られた。一方、医療施設や福祉施設のように、建物緑化に「都市環境の改善」以外の意味を見出して実施している施設、および地域の景観の改善に寄与することを意図する施設では、内容が豊富で多様なものができていることが証明された。

 以上の分析に基づき、より現場の状況に即した緑化のための指針(ガイドライン)とそのための手続きのフローを提示した。