2003年度森基金活動報告書
日本の情報化の現状と課題−日本電信電話株式会社法の改正に焦点を当て て−
古川園智樹
80232700
zono@sfc.keio.ac.jp


研究活動の概要

  • 今年度はこれまでの研究を踏まえて、修士論文を執筆した。本報告書では、今年度の活動に加えて、修士論文の概要を紹介する。
  • 研究企画段階では、日本電信電話株式会社法の改正を事例に、日本の情報化の現状と課題を明らかにすることになっていたが、修士論 文では、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)を事例に、内閣官房の機能強化によって法案作成過程に変化が生じていることを明らかにし た。

研究のテーマ

  • 2001年の省庁再編で、内閣官房の機能が強化された。
  • 内閣官房の機能が強化されたことで、法案作成過程 に変化が起きた。
  • IT基本法を事例に、法案作成過程の実態を明らかにする。

具体的な研究活動

本研究を行うにあたっては、関係者へのインタビューを調査を重視した。具体的には、以下の方々にインタビューを行った。
  • 折田明子(慶應義塾大学政策メディア研究科)
  • 木本祐司(内閣衛星情報センター主任開発官)
  • 鈴木寛(参議院議員)
  • 武田博之(総務省情報通信政策局情報通信利用促進課デジタルディバイド企画官)
  • 田中秀幸(東京大学助教授)
  • 原一郎(日本経済団体連合会産業本部情報グループ長)
  • 古田肇(外務省経済協力局長)
  • 広実郁郎(経済産業省文化情報関連産業課長)
  • 村井純(慶應義塾大学教授)
  • 森喜朗(衆議院議員)<書面回答>
  • 森島聡(日本経済団体連合会産業本部)
  • 安延申(ウッドランド株式会社代表取締役社長)

約束によりお名前を挙げることはできないが、他にも、国土交通省、通産省、内閣官房IT担当室の方から各1名づつお話を伺った。

(注)肩書きは、インタビューを行った時のもの。

研究要旨

  • 本論文のテーマは、内閣官房の機能強化によって法案作成過程に変化がうまれ、内閣官房が法案を作成する「内閣官房立法」が確立し たことを明らかにすることにある。高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)を事例として取り上げ、内閣官房立法の特性を考察する。
  • 憲法と内閣法は内閣総理大臣の権限を制限している。行政を実際に運営するには、総理大臣や内閣官房長官が省庁間の調整を行う必要 がある。そのために、内閣官房には「総合調整機能」が付与されている。2001年の省庁再編では内閣官房の機能が強化され、「総合調整機能」に加えて、 「企画立案機能」が内閣官房に付与された。
  • 内閣官房の機能強化によって、法案作成過程が変化した。省庁再編以前の法案作成過程は、省庁が法案を作成する「省庁立法」であ る。省庁再編以後の法案作成過程には、内閣官房が法案を作成する「内閣官房立法」が確立した。内閣官房が企画立案を行うことが可能になったからである。
  • さらに、内閣官房立法の事例として、IT基本法の法案作成過程を分析した。IT基本法は約1ヶ月という極めて短期間で法案が作成 されている。分析の結果、法案作成期間が極めて短いのは、IT基本法が内閣官房立法であることも要因の1つであることが明らかになった。
  • 最後に、内閣官房立法の特性を分析した。2000年以降の内閣官房立法の法案作成期間を分析すると、全ての内閣官房立法の法案作 成期間が短いわけではないことが明らかになった。総理大臣がリーダーシップを発揮した内閣官房立法の法案作成期間が短いのである。
  • このように、内閣官房の機能強化は法案作成過程を変化させたのである。

キーワード

  • 内閣官房
  • 法案作成過程
  • 省庁立法
  • 内閣官房立法
  • IT基本法