2003年度 森泰吉郎記念研究振興基金 報告書

研究テーマ『地域における自主的ファンディングモデルに関する研究』

政策・メディア研究科 修士2年

宇都宮クララ
80231326
clara@sfc.keio.ac.jp

 

研究課題

本研究は、「コミュニティファンド」という資金提供モデルを対象とし、その実態を調査・分析し、今後の展開へ向けての提案を行うものである。

 

研究背景

近年、金銭的利益の最大化を追求するという通常の金融機関による従来型の資金提供とも、社会性の追及のみを行う財団や公益信託などによる寄付型の資金提供とも異なる性質を持つ資金提供が行われ始めている。本研究では、このような資金提供の特徴として、@資金提供者はファンドの設定する社会性を持ったテーマや価値観に「共感」し、「コミットメント」を示す。Aファンドの各アクターの関係性は継続的であることを前提としている。という2つのポイントに着目した。そしてコミュニティファンドを「特定の目的に賛同する個人・企業等から資金を集め、目的に合致した事業に対して資金提供を行うことにより、事業の円滑な実施を図るための仕組みであり、出資者、事業者、それをつなぐ仲介者とその背後にあるコミュニティの存在によって、出資者に対して(i)ある種の社会的リターンを可能にしつつ、(A)出資金の返済に関する不確実性が軽減しているものである」と考えることにした。

 

研究概要

本研究においてはまず、他の資金提供の方法と比較をすることで「コミュニティファンド」の特徴を明らかにした。次に、現状では少数ではあるが各地で行われている先進事例に対してヒアリング調査を行い、その活動実態の把握を行った。その上で、資金提供において存在する不確実性の軽減のさせ方について取引コストのアプローチを用いて分析を行った。

 

研究成果

本研究を通して得られた知見は以下の2点である。1つは、社会性を重視しながらも経済性を確保しているコミュニティファンドは、従来の融資とは異なる多様な方法を用いて取引コストの低減がされており、資金提供における不確実性を下げていることである。もう1つは、その取引コストの低減を可能にするのは各アクターの背景の問題意識を共有したコミュニティであり、それはアクターに社会的是認を与えているということである。

最後に、「コミュニティ」によって支えられるコミュニティファンドの発展に向けてその制度設計に関する提案を行い、今後の展望とした。

 

研究意義

これまでこのような資金提供モデルに対する包括的な調査・分析はあまり行われておらず、今後の新しい資金提供のあり方の一つを提示する事が出来たことが、本研究の意義である。

 

研究助成金の活用方法について

本調査で対象とする「コミュニティファンド」は確立された制度ではなく、その取り組み自体も新しいものである。そのため調査資料、統計データ、研究報告などがほとんど存在しない。また、各ファンドの運営団体に関する情報も十分に公開されている状態ではない。本研究ではいかにしてコミュニティファンドが運営されているのかを詳細に分析するために、団体の概要、仕組みなど書面からわかる情報だけでなく、通常は記録として残されない日常的な活動のあり方や関係者の相互行為を考慮するため、現場の関係者に詳細な話を聞く必要があった。

 以上の理由により、本研究を進めるに当たり現場で実際に関わっている人々に対してヒアリングを実施する事が事実上唯一の調査手法であり、従ってこの手法を採用した。今回研究助成を受けたことで各地に数日間滞在し、多くの関係者へのヒアリング実現した。

 

 

本研究は、2003年度修士論文「コミュニティの力を活かしたファンディングモデルに関する研究」(政策・メディア研究科 宇都宮クララ)にまとめている。