2003年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究助成金

森基金研究成果報告書

研究課題名

コンピュータモデルを活かした酸性雨対策の政策立案

研究代表者氏名

吉田 敦子

所属・職名

政策・メディア研究科・ 修士課程1年

 

研究成果報告書

1.研究の背景

 今後工業化を急ぐアジア各国では、酸性雨問題が深刻な問題となり、危機的な状況に陥ることが指摘されている。なかでも中国は人口増加、エネルギー需要の急増などにより、二酸化硫黄と窒素酸化物の排出量がアジア地域の中でも極めて多く、さらに今後加増加する可能性がある。中国の石炭の大量使用は、今後20年で日本の土壌の多くに破壊的被害を与える恐れがあると結論付けられている。

  日中間において、経済援助や、排煙脱硫装置などの技術の導入が行なわれているが実際にうまく機能していない脱硫装置などの問題がある。また欧米などでは条約が締結されたが、中国で円滑に機能していない現状がある。したがって、日中の酸性雨における効果的な政策立案をコンピュータモデルRAINS-ASIAを使用し、研究を進めていく。

  

2.研究の目的

 本研究は上述の背景を踏まえ、中国での酸性雨を抑制するための削減策と効果を求めることが目的である。またそのための科学的な根拠を立証する手段を確立する必要があり、そしてその際に使用するモデルとその他の実測結果を比較し、データを検証することが目的である。

本研究の成果は、コストの効果的な政策を立案することである。本研究では定量的モデルとしてRAINS-ASIA MODELを使用する。中国の現状把握より、高性能の技術を導入して削減いていくだけでは稼動における問題などが生じることがあり、コストが低価格でなければ政策として失敗を招くことになる。そのため単位ドルあたりの削減量によって効果的な地域別の技術を導入しシナリオを作成する。

 

3.研究の構成

 本研究の構成について以下に示す。

 はじめに、酸性雨問題の政策研究における現状と酸性雨問題の中国での現状を説明し、中国での環境政策の内容と説明、酸性雨における国際的な活動であるEANETやその他のプロジェクトを調査する。次に欧州、米加で行われた条約や議定書よりモデルの重要性を明らかにする。これらの現状を踏まえ、中国で使用できる政策を分析するためのモデルについて述べていく。

 第3にRAINS-ASIA MODELの導入とモデルの検証について述べていく。RAINS-ASIAのデータと実測値データとの比較検証を行う。その後RAINS-ASIAの特性などを見るために、感度分析にシナリオよりコストと排出量の変化を明らかにする。これらはRAINS-ASIAの整合性をみるためである。

 第4に、RAINS-ASIA MODELにおけるシナリオ分析について述べていく。まずモデルの中に組み込まれているシナリオの分析と解説を行う。これはRAINS-ASIA MODELのなかにあるシナリオであり、このシナリオを解説することによってシナリオの大まかな内容を把握できることになる。次にオリジナルに設定したシナリオの分析と説明を行う。このシミュレーション結果より対策を施した場合の効果をみる。最後に作成したシナリオの実現可能性と結果についてまとめる。

5にRAINS-ASIAにおける今後の提案と展望について統括し、今後の政策にむけての提案と展望、結果を述べる。

 

 

4.研究計画

修士課程においては、以下の手順で研究を進めていくことを考えている。

(1)   酸性雨問題の政策研究における現状と酸性雨問題の中国での現状(修士1年6月)

(2)   中国での環境政策、国際的な活動プロジェクトの調査、欧州、米加先行事例(修士2年7月)

(3)   RAINS-ASIA MODELの検証、特性の解析、(修士2年4月〜3月)

(4)   RAINS-ASIAでのシナリオの作成とシミュレーション結果

(5)   今後の政策にむけての提案と展望、まとめ(修士2年4月〜12月)

(6)   修士論文の作成(修士2年1月〜3月)

 

5.具体的な研究計画と研究方法

上記(1)においては、酸性雨研究センター、国立環境研究所でのインタビュー資料、調査から考察する。(2)では、EANET酸性雨測定所モニタリングセンター実施機関に現地調査に行く。

(3)においては、RAINS-ASIA MODELの検証、特性の解析、シミュレーション結果を明らかにする。欧州米加の先行事例と、比較検証、感度分析における特性などよりRAINS-ASIA MODELが十分使用可能で妥当なモデルであることを証明する。 (4)においては、RAINS-ASIA MODELで中国のためのシナリオを作成し、シミュレーション結果を出す。(5)で、今後の政策にむけての提案と展望、まとめを述べていく。

研究の成果

(1)   酸性雨問題の政策研究における現状と酸性雨問題の中国での現状


 中国の酸性雨問題においては、中国の酸性雨抑制区では、上記の図のようにpHにおいて回復傾向がみられた。しかしながら排出量を調べるとほぼ横ばいであったことから、雨の汚染度としては変化がなく依然としてSOxが多いことがわかった。

(2)   中国での環境政策、国際的な活動プロジェクトの調査、欧州、米加における先行事例の結果

 中国では国内の環境政策は整っていたが、排汚費徴収制度などにおける問題点があげられた。環境技術対策として脱硫装置の導入があげられたが、日本製高性能脱硫装置は中国においては非常に高額であり、今年度において一つの脱硫装置を停止させていたことが明らかにされた。したがって高性能ではない安価な脱硫装置の導入が対策として考えられる。

 国外で他国との協力のもとで酸性雨における活動があるEANETとその他のプロジェクトについて調査した。なかでもEANETにおいては活動範囲も広く、東アジアでの酸性雨問題の状況に関する共通理解を図るために政策決定に有益な情報を提供し、モニタリングなどによる情報交換、政府間会合などがあり、さらにモニタリング結果の情報開示の進捗状況も早く、UNEPが事務局でありことなど国際的な政策の場として最もふさわしい場所と考えられた。

また今後の展望として、モニタリングネットワークを構築するだけではなく、大気汚染物質の排出目録・発生源推計をも含め、包括的な条約・協定について合意していくことが望ましいということがいえる。

(3)   RAINS-ASIA MODELの検証、特性の解析、

まずRAINS-ASIA MODELについて説明する。RAINS-ASIAは、ヨーロッパにおける酸性雨に関するRAINS MODELをアジア地域に当てはめたものである。1990年代に入り、RAINS版統合評価モデルとして開発された。国際応用システム解析研究所(IIASA)が全体的な取りまとめをし、アジア開発銀行と世界銀行がスポンサーになり、実施されたものである。RAINS-ASIAはアジア地域のSO2排出における環境影響を減らすためのコスト効果的な対策を分析するためのツールである。バージョン1ではRAINS-ASIAフェーズ1プロジェクトの結果よりこのモデルが開発された。その後フェーズ2プロジェクトによってさらに改良されバージョンが新しくなり、更新された。ただ元となるRAINS MODELと全く同じではない。RAINS-ASIAはまだ発展途上段階であり、NOxなどにおいてはまだ導入されていない。

比較検証においては、RAINS-ASIA MODELのインプット及びアウトプットデータが正確に反映されているかどうかを調べるために行った。RAINS-ASIA MODELのデータとの比較においては、東アジア地域における大気汚染発生源インベントリー(EAgrid)と行った。手法はエクセルを用いて相関係数で表している。EAgridに対するRAINS-ASIAの相関係数は、90年度が0.95、95年度は0.90であった。90年度は総量で0.73%の誤差で一致していることが明らかになった。この結果定量的にも妥当な範囲内であり、シミュレーションとして十分精度のあるものであることがわかった。

感度分析においては、このモデルの特性を示すために行った。 技術の導入におけるコストの効果の結果、RAINS=ASIA MDOELで設定可能な技術全てを0%、50%、100%と変化させていったのに比例してコストも上がっていることが確認できた。この結果より、間違いなくコストのアウトプットが正確に動いていることがわかり、モデルの正確性も明らかになった。


3-3-1 個別技術の導入におけるコストの結果

 


(4)   AINS-ASIAでのシナリオの作成とシミュレーション結果

  第4章では、RAINS-ASIA MODELにおけるシナリオ分析として、モデルの中に組み込まれているシナリオの説明を行った。その結果と感度分析におけるコストと排出量の結果から、最も排出量の多い地域15箇所を選択し、それぞれ地域別における効果的な技術の導入を単位ドルあたりで計算し設定した。この結果、15地域ごとの技術の導入は低硫黄石炭燃料への転換と、脱硫装置(発電用)がふさわしい技術となった。全体的な2030年のコストとしては5680MUS$であり、その時の排出量は24900ktになった。またこれを現在導入されている技術を含めて1tbl_cleシナリオとし、再度結果を出した結果、コストは約71億ドルとなり、排出量としては22000ktに抑えることができた。この場合排出量としては1990年代とほぼ同程度のレベルに相当する。そのため2030年に増加するであろうと予測されていた予測から、90年代のレベルに止めることができたことになる。また酸性沈着においてもマップで赤くなっていた非常に高い部分が解消された。さらにこの実現性としては日本の過去の例で大気汚染防止装置を取り入れた1974年と比較してみた。その結果61億〜79億が妥当な範囲になり、このシナリオのコスト71億ドルが範囲内であることが明らかにされた。このようなことから日本においても過去に実現できた実績があるということから、コスト面においても妥当な費用内であるということがいえた。

 

(5)   今後の政策にむけての提案と展望、まとめ

 第4章では、RAINS-ASIA MODELにおけるシナリオ分析として、モデルの中に組み込まれているシナリオの説明を行った。その結果と感度分析におけるコストと排出量の結果から、中国の地域15箇所を選択し、それぞれ地域別における効果的な技術の導入を考察した。この結果、コストとしては5680MUS$であり、その時の排出量は24900ktになった。またこれを現在導入されている技術を含めて1tbl_cleシナリオとし、再度結果を出した結果、コストは約71億ドルとなり、排出量としては22000ktに抑えることができた。この場合排出量としては1990年代とほぼ同程度のレベルに相当する。そのため2030年に増加するであろうと予測されていた予測から、90年代のレベルに止めることができたことになる。また酸性沈着においてもマップで赤くなっていた非常に高い部分が解消された。酸性沈着が長期的に続くと森林生態系などに影響を及ぼすことになるため、地域で減少させていかなければならない。さらにこの実現性としては日本の過去の例で大気汚染防止装置を取り入れた1974年と比較してみた。その結果61億〜79億が妥当な範囲になり、このシナリオのコスト71億ドルが範囲内であることが明らかにされた。このようなことから日本においても過去に実現できた実績があるということから、コスト面においても妥当な費用内であるということがいえた。

(6)   修士論文の作成