ストリーミング配信による短編映画の視聴評価システム
慶應義塾大学政策・メディア研究科 藤本 剛
慶應義塾大学環境情報学部 川島 高
慶應義塾大学総合政策学部 牟田陽子
泣Aテンション代表取締役 匹田岳人
潟iムコ 森田祐三
慶應義塾大学環境情報学部教授 稲蔭正彦
どのようなジャンル、上映時間の「短編映画」=「デジタルショート」にビジネス価値が潜在するのか調査し、デジタルシネマ時代におけるデジタルショート市場のビジネスモデル構築に役立てることを目的とする。また、独自の評点システムがデジタルショートのどのような趣向を示すことが出来るのか検証する。
ADSL以上の回線速度をメインPCとして扱う10歳代〜60歳代の58名。
2003年4月9日(水)0:00〜2003年4月14日(月)10:00
図1)ログイン画面 図2)コンテンツリスト 図3)作品視聴画面
図1のログイン画面で事前に登録してある「ログイン名」と「パスワード」を入力すると、図2のコンテンツリストが表示される。視聴者は、観たい作品を4つのジャンル「コメディ、ヒーリング、シリアス、アクション」の4つの上映時間「3分〜6分、6分〜9分、9分〜12分、12分〜15分」、計16作品の中から選ぶ。作品は、ジャンルごとに区切り、配置は選択の優位性で差が出ないようにランダムで位置が変化するようにした。視聴者は、観たい映像をクリックしてプレイヤーの再生ボタンを押すと、図3のように作品視聴画面が出現して作品を視聴することができる。
実際に見た時間を作品の上映時間で割り、それを二乗してテレビ放送の視聴率のようなデータを算出する。「見た時間」という客観的なデータを基準にして、公平かつ客観的な評点を実現する。
これらのデータを元に得点の総計である「総合点」、作品が見られた回数である「クリック数」、それと、「総合点」から「クリック数」を割った「平均点」の3つのデータを算出する。
視聴者にどのように興味をもたせて数ある作品の中から見てもらえるように出来るか、また如何にして視聴者を飽きさせないかが高評価のポイントとなる。
ポイント計算方法の例
上映時間180秒のうち 60秒見た=(60/180) × (60/180) × 100 = 11 point
上映時間180秒のうち160秒見た=(160/180) ×
(160/180) × 100 = 79 point
*全部見たら 100 point という基準
例)コメディの12分〜15分作品「純情魔女」の場合
総合点(1893) ÷ クリック数(21) = 平均点(90.14)
○コメディ
河合さん U.F.O スキージャンプ 純情魔女
ラージヒル・ペア
○ヒーリング
Qshami 春風 Magick
Lesson 列車人
○シリアス
Within an Insight The Day I was Born 落雷
Endless Sky
○アクション
MAILMAN dive
The
Yard ウマヌス
○作品提供者
デジタルシネマ研究コンソーシアム
Qshami、Magick Lesson、
The Day I was Born、落雷
稲蔭研究会
ウマヌス
SantaFe映画祭
河合さん、U.F.O、純情魔女、列車人
スキージャンプ・ラージヒル・ペア、
The Yard
Siggraph入選者
Within an Endless Sky、Insight
AQコンテンツコンテスト
春風
Active Film Makers
dive
図4) 視聴点システム
Active Xを使って、ブラウザ内に映像作品を埋め込み、そこからJava Scriptを使って視聴率データをサーバーに送信している。データ処理にはPerl言語で記述したCGIを用いている。視聴者が停止ボタンを押しても、ウィンドウを閉じても確実に視聴データはサーバーへ送信されるようにした。
図5) 配信システム
動画配信にはWindows Media Serverを使用して、ストリーミング配信を行っている。一般的なADSLの環境で見れるように映像のBit
Rateは500kbpsで統一した。
女性
: 19人 男性 : 39人
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10代 : 9人
20代 : 20人
30代 : 11人
40代 : 7人
50代以上 : 11人
トップページへのアクセス
: 333アクセス
視聴ログ
: 280ログ
作品を見た人数
: 42 /58人 (女性:15人 男性:27人)
作品ID |
題名 |
クリック数 |
平均点 |
総合点 |
1 |
河合さん |
25 |
87.24 |
2181 |
2 |
U.F.O |
18 |
79.05 |
1423 |
3 |
スキー・ジャンプ |
20 |
57 |
1140 |
4 |
純情魔女 |
21 |
90.14 |
1893 |
5 |
Qshami |
27 |
82.96 |
2240 |
6 |
春風 |
17 |
73.7 |
1253 |
7 |
Magick Lesson |
11 |
76.18 |
838 |
8 |
列車人 |
14 |
75.92 |
1063 |
9 |
Within an Endless Sky |
20 |
67.5 |
1350 |
10 |
Insight |
11 |
67.09 |
738 |
11 |
The day I was born |
14 |
73.78 |
1033 |
12 |
落雷 |
12 |
90.08 |
1081 |
13 |
MAILMAN |
34 |
90.85 |
3089 |
14 |
dive |
15 |
69.2 |
1038 |
15 |
THE YARD |
15 |
77.8 |
1167 |
16 |
ウマヌス |
8 |
43.37 |
347 |
どの時点で何人が映像を見ているかを示したグラフ。映像を途中で「きる」に掛けて、KILLグラフと名付けた。
「河合さん」
時間:4分18秒
クリック数:25回
「スキージャンプ・ラージヒル
・ペア・特別編」
本編と特別編の切れ目として黒コマが入るため、終わりと勘違いされた。
時間:10分28秒
クリック数:20回
「U.F.O.」
時間:8分8秒
クリック数:18回
「純情魔女」
時間:15分
クリック数:21回
「Qshami」
時間:3分
クリック数:27回
「Magick Lesson」
時間:9分58秒
クリック数:11回
「春風」
時間:8分6秒
クリック数:17回
「列車人」
このkillポイントは、それまであったセリフが急に途絶えてしまったためと思われる。
時間:15分
クリック数:14回
「Within
an Endless Sky」
ムービーのゆったりとしたテンポに視聴者の中で好みが分かれ、始めの方で切る人もいた。
時間:5分7秒
クリック数:20回
「The
day I was born」
ムービーのゆったりとしたテンポに視聴者の中で好みが分かれ、始めの方で切る人もいた。
時間:10分31秒
クリック数:14回
「Insight」
時間:7分48秒
クリック数:11回
「落雷」
時間:14分45秒
クリック数:12回
「MAILMAN」
時間:3分24秒
クリック数:34回
「The
Yard」
時間:10分45秒
クリック数:15回
「dive」
ハンディカムのアクションシーンであり、年代によっては受け入れられにくい場面であった。
時間:7分6秒
クリック数:15回
「ウマヌス」
開始直後にゆったりした部分が見られ、ストリーミング視聴者には切るものもいた。
時間:15分
クリック数:8回
ジャンル別 上映時間別
*男性と女性の比率を計算に入れた数値
「デジタルショート」をインターネットで視聴する際のポイントの一つとして、まず一目見て作品が面白そうでなければ「選ばない」、視聴しても内容が面白くなければ「途中で視聴を止めれる」という選択肢が常に視聴者サイドにあることになる。そのような前提の中で最終的に総合点の高かった作品、また低かった作品にはそれぞれどのような特徴があったかを調査することで、より「選ばれやすく」「最後まで視聴されやすい」作品の方程式(らしきもの)を見出すことができたのではないか。
ここで言う視聴方程式とは、あくまでも視聴する側が考える「選ばれやすく」「見つづけられやすい」作品という意味であり、作り手側から考えた表現したい映像作品という意味ではないかもしれないが、よりユーザーサイドに近いモデル=ビジネスとして成り立つ可能性の高い作品モデルと定義つけることができるのではないか。
上記Vの検証結果からも、「デジタルショート」に視聴者が何を求めているかといった価値基準をあらためて確認することができた。
W―1 デジタルショートは3〜6分のコメディーが外さないポイント!
■
ジャンル別では「気軽に笑えそうな作品」が選ばれやすく、シリアスで重そうな作品は敬遠されがち。
■
短いほど気軽に視聴して見たくなる。(3〜6分)
まずは、作品群の中で短い時間の作品の方が選ばれる確立は高いといえる。インターネットでの視聴前提とした作品の場合はまずいずれのジャンルの作品であれ、作品の総尺を選ばれ易い時間(6分以内)に設定をすることが「まず見てもらう」条件。
W―2 比較的長い作品を(12〜15分)途中まで見ると、やはり切るのがもったいない!?
実験結果として12分以上の作品も平均点が高く比較的継続的に視聴される傾向にあるように見えるが、単に長く見ていると途中で切るのがもったいないから最後まで視聴していると考える方が妥当か。
V―5 ジャンル、上映時間別グラフ参照
W―3 まず「見てもらう」ためのFirstクリックが重要、面白そうな作品から数作品だけ視聴が一般的
一度視聴サイトを訪れたモニターは1作品だけ見て、視聴を止める場合も多い。まずは最初にクリックして
視聴した作品を最後まで見ることが、2作品・3作品と連続してクリックさせる(視聴する)ポイントである。ただ1日に視聴する作品は4作品程度が限界であるため、長めの作品が多いと視聴作品数が少なくなるおそれもある。
V―8、V―9参照
視聴者例―A 66歳男性 視聴者例―B 20歳女性
@ 「Qshami」 76 of 183
seconds -14:18 @ 「U.F.O」
489 of 480 seconds -10:37
A 「ジャンプスキー・ペア」 320 of 629 seconds -14:31 A 「Qshami」 183 of 183 seconds -10:42
−視聴終了 B 「MAILMAN」
205 of 205 seconds -10:46
C 「河合さん」 259 of 259 seconds -10:51
−視聴終了
W―4 「台詞なし」「スローな場面展開」「見にくい字幕」「長いスタッフロール」は要注意!
V―3の実験データ(KILLグラフ)を検証すると、途中で視聴を中止するポイント(KILLPOINT)は上記の4つの原因に起因すると考えられる。
このポイントは、作品を最後まで視聴してもらうために、制作サイドが注意を払わなければいけないポイントに他ならない。逆に言えば、この4つのポイントをクリヤーしていれば、比較的総尺が長い作品でも視聴される可能性が高いと考えられる。
・モニターの数を増やせば、より性格な趣向を計ることが出来る。
・実験期間を長くすれば、より多くの人がデジタルショートを観ることが出来る。
・配置に関する検証をするべき。
・ランキング形式に表示した場合に視聴者がどのような選択をするのか?