2003年度森泰吉郎記念研究振興資金 研究者育成費成果報告書

修士課程2年 学籍番号 80232108
高島孝太朗
tksm@sfc.keio.ac.jp


「非利き手における書字行為の運動発達過程の解析」

1.  はじめに

本報告では,タイトルにあるように「非利き手における書字行為の運動発達過程の解析」を目的とし,その第一段階として取り組んだ成果を述べる.つまり,研究では「発達過程の解析」のための環境整備,問題発見にフォーカスを当てた.ゆえに(修士論文のタイトルでもある)「非利き手の書字行為における運動解析に関する研究」として,以下に述べることとする.

2.  概要

本研究の目標は,非利き手の書字行為におけるリハビリテーションに対し, 有用な情報を提供することである.本研究ではそのために, (1)書字行為の解析手法の提案,(2)非利き手書字行為における特徴の発見,(3) 学習方法の検討と評価,の3点に関して研究を行った.

交通事故や半身麻痺などによって利き手が使えなくなった場合,非利き手で日常 生活が送れるよう,リハビリテーションに取り組む必要が出てくる.このような事 態に対してリハビリテーションの現場で行われている利き手交換と呼ばれるリハ ビリテーションプログラムの中で,難易度が高いとされ,かつ必要性も高いとさ れる書字行為に着目した.

3. 解析手法の提案

最初に書字行為の評価方法を検討した.本研究では評価方法として,利用が簡便で あり,被験者負担が少ないと考えられる加速度センサデバイスを用いることと する.自作した加速度センサデバイスを(1)ペン後端(2)手首(3)前腕,の合計三 つの部位に装着する.これは「自由度の問題」に関する先行研究を参考にしたためである.この状態で予備実験を行ったところ,加速度情報として,各部位が一試行内にて傾きを変化させているかどうかが判断できることが分かった.また,ペン後端に取り付けた加速度センサデバイスによりペンが回転しているかどうかの情報が波形として得られることも分かった.なお,fig1がそのデバイスを手の三箇所の部位に取り付けた様子をし示す写真である.


fig1

4. 非利き手書字行為における特徴の発見

次に,書字行為における特徴を発見するために,リハビリテーションの現場で用いられ ている平仮名の要素16記号を描画するときの各部位の動きを観察した.その結果, (1)運動方向の切り換えの問題,(2)ポインティングの問題の2点が特に重要であること が分かった.(1)に関しては非利き手 では運動方向の切り換えが困難であることが分かった.また,(2)に関 してはポインティングは,(a)位置決めと(b)角度調整の問題が含まれているこ とが分かった.また,被験者が角度調整を行っていることが波形情報から分かった(fig2).


fig2
5. 学習方法の提案

最後に,上述の二つの特徴的な問題を克服すべく新たな学習補助の方法として,それぞれ一つの記号を取り上げ検討した.複数の候補の中から,(1)運動方向の切り換えの問 題には分節化の操作を,(2)ポインティングの問題には中継地点の設置(fig3)を提案し た.これら二つの提案方式の有効性を実験により確かめた.


fig3
6.結論

以上で述べた三つのプロセスにおいて,リハビリテーションへの貢献という目的のた めの足がかりを作ることができたと考えられる.なお対外発表として、3月に本キャンパスで行われる情報処理学会全国大会にて発表する予定である.