森基金報告書

回遊的群集行動と視覚情報に関する研究

 

 

都市における、街路空間や広場、アーケード等は都市における貴重なオープンスペースである。都市においては、このようなオープンスペースを歩行する事でシークエンス的に体感する事によって、都市を体感する。このような事から、都市のオープンスペースは、都市の重要なアイデンティティであり、重要な骨格であると言える。

しかしこれまで都市計画・建築設計において、このようなオープンスペースは、機能性に主体をおいた動線計画によって計画されてきた。その結果、オープンスペースにおける人々の交流が希薄になり、都市本来の楽しみの一つが減少してしまったと言える。本研究では、日常的に見る事が可能な回遊的群集行動の中の『ぶらぶら歩く』という行為に着目し、その行動をシミュレータの構築により再現する。そして、そのぶらぶら歩く行動が発生するメカニズムを解明する事によって、今後の都市計画・建築デザインにおけるオープンスペースの計画の指標となる事を目的としている。

<方法>

1:歩行者分析(MMD)によって、エージェント(シミュレーション時の歩行者)の設定を行う。

2:歩行者のマルチ・エージェントシミュレータの構築。

エージェントの回遊性の変化を、視覚情報と密度の二つの指標をから検証する事によってシミュレータの完成度を高める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<結論>

エージェントの動きを規定する視覚情報に、1正面回避、2視野角、3視野距離、4サーチ係数の4つパラメータを設ける事で現実の物に近い歩行者の動きを再現する事が可能になった。

 

ぶらぶら歩行には、密度係数が存在しており、この密度係数を越えると回遊的な群集行動、つまり自由度が高い歩行を行う事が困難になる。しかし、同時に本研究で開発したシミュレータ実験においては、群集密度が0.4人/m2に近づくにつれて、群としての歩行パターンが発生しやすい事がわかった。

キーワード

1:回遊的群集行動 2:マルチ・エージェントシミュレーション 3:視覚情報 4:群集密度

<本研究で使用する言語の定義>

本研究において使用する言語を以下のように定義する。

 

歩行  A点からB点まで移動するという事

歩行時間A点からB点までの移動にかかった時間

歩行速度=歩行距離/歩行時間

群集行動=歩行者同士が互いに影響しあいながら行う歩行

群集密度=人数/群集の占有面積 注1)

群集速度=群集全体の平均歩行速度

視距離 =形状が確認できる距離 注2

視野  =頭を動かさなくても、見る事が可能な範囲

速度係数 = 歩行速度の変化の割合

歩行可能領域 = 歩行空間において歩行が可能なエリア。

エージェント = シミュレーション環境での歩行者 

マルチ・エージェント =複数の自律的なエージェント群

シミュレータ = コンピュータ上に人工社会を構築するための仕

          組み

行動パターン = 歩行者の環境の変化に対して適応するための行

                                  動