森基金研究助成

成果報告書

 

「政策金融と住宅ローンの関係について」

〜住宅ローンのデータを使った期前償還の分析〜

 

                         

政策・メディア研究科修士2年    

                               村井良成   

 

 

概要

 

n現在政府系金融機関は、毎年3000億円近くの税金を金利リスクによる損失の補填に使っている。

この税金を用いた、金利リスクによる損失の補填をとめるためには、政府系金融機関が、金利リスクから、リスクフリーになる必要がある。

 

nこのため、政府系金融機関が、金利リスクから、リスクフリーになるために、期限前償還をオプション(権利)と捉え、これを金利へ反映させるべきである。

 

nこのためには、住宅ローンの売買市場をつくることによってMBS Mortgaged Backed Security)商品によってリスクを市場で広く負担してもらい、貸し手側である住宅金融公庫がリスクフリーなポジションを確保するべきである。

 

n市場によるリスク負担ならば、情報弱者である通常の借り手ではなく、     

   投機的なプレイヤーが参加する市場がリスクを応分のメリットの対価として負担するのであるから、政府金融としても受け入れやすい。

 

このような非常に望ましい特性を有するMBSと政策金融の関係についての研究は、その意義の割に不十分である。

 

このため、このたび森基金の研究助成をいただいて、MBS市場成立に必要な要因を研究を行うこととした。

 

そして、

債権(MBS)売買市場を作る為には、

具体的には、債権の期前償還のデータと、期前償還に影響を与える要因について研究した成果を、広く共有できるようにする必要があると考えました。

 

このため、ある金融機関の住宅ローンのデータを基に

債権の期前償還のデータと、

期前償還に影響を与える要因についての研究結果を蓄積して、

債権(MBS)売買市場の成立につなげるべく、本分析を行いました。

 

 

ここで用いる金融機関の住宅ローンのデータは、あくまで研究目的にのみに利用するものであり、決していかなる営利目的にも利用するものではないことを予め断っておく。

 

そして、この成果報告書は、不特定多数の方が閲覧することが考えられるため、

この研究に用いたデータは、本報告書には載せないこととする。

 

この点については、予め申し上げておきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1、データの概要
  被説明変数

n      80,000件の顧客のクラス別データ

n      顧客クラスは、1が最も高所得層であり、9が最も低所得層となっている

 

n      .12年分の年次データ

 データは、個別データではなくて、プールされた集計量のデータを用いている。

 

n      3.説明変数などは、基本的には、Schwartz=Torous 論文の枠組みで行う。

  

n      .総件数のなかで、5%で何らかの形の期前償還が行われている。

 

n      .期前償還は、ある年に非常に多く、以降は、増えることはなくて、ほぼ一定となっている。

  (=バーンアウト効果が確認できている。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2、説明変数
期前償還に影響を与える要因

 

n     説明変数としては、SchwartzE.S.,andW.N.Torous(1989)の説明変数を用いる

 

期前償還に影響を与える要因

要因1、借り換えコスト

c:約定金利

l:現在t期よりs期まえの借り入れ金利(=長期金利により近似)。このs>0は借り換えの決定にsだけ時間がかかることを表している。

 

要因2、借り換え金利要因の加速性

借りたときの約定金利が大きいほど期前償還確率が加速されることを表している。

 

 

 

要因3、過去の期前償還の影響=バーンアウト効果

:t期のモーゲージの残額

:t-1期に期前償還がおこらないとしたときのモーゲージの残高

このが大きくなるほど期前償還が多くなると考える。

このことは、過去に期前償還が多くおこなわれたモーゲージのプールにおいては期前償還がおこりずらいということを表している。

 

要因4、AGE融資経過年数

      AGESQ融資経過年数の2乗

過去の研究によれば、融資経過年数の影響は時間の経過に比例して高まるわけではなく、一定期間の経過後はこうした影響は次第に薄まってくる。

このため、AGEは+の影響が、AGESQはーの影響があるものと予想されている。

 

 

 

 

 

 

3−1、推計結果

 

理論

推計結果

金利の差

-

金利の差^3

+

経過年数

-

経過年数^2

-

+

残高

+

 

回帰統計

重相関 R

0.98

重決定 R2

0.961

補正 R2

0.928

標準誤差

8E-04

観測数

12

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3−2、推計結果

要因、要因、金利差

n     金利差は有意で、理論的な予想に反して、

  負になっている

n     借り換え要因の加速性(三乗効果)は、有意でなかった

 

n     過去の期前償還の影響(=バーンアウト効果)は有意で正になっている。

n     このことは、過去に期前償還が多くおこなわれたモーゲージのプールにおいては期前償還がおこりずらいということを表している。

 

 


要因3、バーンアウト効果

n     過去の期前償還の影響(=バーンアウト効果)は有意で正になっている。

n     このことは、過去に期前償還が多くおこなわれたモーゲージのプールにおいては期前償還がおこりずらいということを表している。

 

 

 

 

推計結果
要因4、融資経過年数
      融資経過年数の2乗

n      融資経過年数(融資期間の前半)は、有意で負の影響
融資経過年数の2乗(融資期間の後半)は、有意で正の影響

n      この結果から、融資経過年数の影響は時間の経過によって高くはならない

  しかし、一定期間の経過後はこうした影響は次第に高くなってゆくと言える。

n      この結果は、バーンアウト効果が、理論上は、6年目に始まるはずだが、実際は1〜2年目から始まった為と言える。

 

 

 

理論上の期前償還の期間構造 
Shwartz モデル)

n             期前償還率は、発行直後がら次第に上昇し、ある特定に時期において最大となり、それから減少する。このことは、モーゲージの期前償還と経過時間の実際の事実と適合する。

n             期前償還率が最大となるのはt=6.265年のとき の時点において最大となることが分かる。

 

n     説明変数間に強い共線性が予想されるため、

  期前償還に対する「金利の差」の符号が、事前の仮説と違う推計結果となっている。

n     一方、主要な独立変数に関しては統計的に有意性が認められる。

n     制約条件が厳しいモデルであることと、

  データの数が少ないなど、利用可能なデータ面での制約を考慮して、これから改良する予定です。

 

 

4、まとめ

 

債権(MBS)売買市場を作る為には、

債権の期前償還のデータと、期前償還に影響を与える要因について研究した成果を、広く共有できるようにする必要があると考えました。

 

このため、ある金融機関の住宅ローンのデータを基に

債権の期前償還のデータと、

期前償還に影響を与える要因についての研究結果を蓄積して、

債権(MBS)売買市場の成立につなげるべく、本分析を行いました。