2004227

 

2003年度森泰吉郎記念研究振興基金 研究助成に関する活動報告書

 

政策・メディア研究科 修士課程1年

岡本 岳大(okamoto@sfc.keio.ac.jp

 

 

研究テーマ:日本の防衛法制の研究

 

1 活動概要

 本研究会は、日本の安全保障法制に関する政策提言を行うべく、03年度春学期より勉強会を行ってきた。研究成果は、来年度の早い段階に、かや書房より書籍として出版する予定である。

 なお、本研究会、次のメンバーから成る。

 

¨         長井 祐介        (研究リーダー/政策・メディア研究科修士課程)

¨         正司 光則        (政策・メディア研究科博士課程)

¨         古川園 智樹       (政策・メディア研究科修士課程)

¨         井口           (政策・メディア研究科修士課程)

¨         岡本 岳大        (政策・メディア研究科修士課程)

¨         近藤           (政策・メディア研究科修士課程)

¨         福田           (政策・メディア研究科修士課程)

¨         金田 秀昭        (研究指導/総合政策学部特別招聘教授)

 

2 研究の概要

 本研究は、日本の防衛法制の内、国内の各種緊急事態に係る法律を(1)有事法制[1]、(2)領域警備[2]法制、(3)防衛法制と防衛政策の歴史の3つの観点から検討し、今後の法整備にあたっての政策提言を行う。

 

3 研究の背景

 現在の安全保障環境は、伝統的な安全保障の脅威(=国家が戦争に巻き込まれる危険性)を完全には拭いきれない上、地域紛争、大量破壊兵器の拡散、テロ組織などの非国家主体の脅威が顕在化し、予測困難で複雑、かつ多様な脅威の重層化・常態化が今日の安全保障環境の大きな特徴となっている[3]。従って、軍隊が持つ実力と大規模な組織力は冷戦期に引き続き重要な安全保障の供給者となっており、各国の軍事力の機能は多様化する傾向にある[4]

 一方でわが国の体制を見ると、2003613日に武力攻撃事態法(有事法制)は成立したが、国民保護法制等の事態対処法制[5]の制定は見送られ、今後1年以内に法整備を行うこととなっており[6]、法整備は中途段階である。また、当該法は「外部からの武力攻撃[7]」のみを想定しており、当該法単独では射程に収めることができない事項、すなわちテロリズムや不審船等への対処は盛り込まれず、将来的な検討方針が示されるに留まっている[8]

 

4 研究の目的

 (1)有事法制に関する研究と(2)領域警備に関する研究は、それぞれの法制の現状と課題を明らかにし、今後の法整備にあたっての参考となる諸外国の法制度との比較を通じて、日本の法制の特徴を明らかにする。また(3)防衛法制と防衛政策では、対米依存的な安全保障体制の歴史を文脈として、防衛法制と運用の過程を読み解く。

 

5 活動状況

 2003年度春学期には、文献調査をもとに基本事項に関する勉強会を行い、秋学期には研究計画の策定を行い、個人作業に入った。また、合計4回にわたって有識者によるレクチャーを開催し、研究の一助とした。

 

¨      海上自衛隊幹部学校研究部国際法研究室室長 中村進 一等海佐 626日): 『軍事に関する国際法と国家の防衛法制について』

¨      防衛庁海上幕僚監部人事教育部補任課 佐伯精司 一等海佐 723日):『周辺事態安全確保法から有事法制までの法整備計画とマイナー自衛権の国内法制について』

¨      拓殖大学教授 森本敏 氏(922日):『現在の安全保障の課題について』

¨      拓殖大学教授 安保公人 氏(1222日):『安全保障に関する国際法と憲法について』

 

 かかる活動や文献の購入・複写費用として、助成金を利用した次第である。

以上。

 



<注釈>

 

[1] 武力攻撃事態法案が2002年の第154通常国会に提出されるまで政府は、「有事法制」の研究対象を「自衛隊法第76条の規定により防衛出動を命ぜられるという事態において自衛隊がその任務を有効かつ沿革に遂行する上での法制の諸問題」とし、「防衛庁所管の法令(第1分類)、他省庁所管の法令(第2分類)、所管省庁が明確でない事項に関する法令(第3分類)」に区分して研究を行ってきた(防衛庁編『平成14年版 防衛白書』財務省印刷局、2002年、323頁)。第154通常国会において法案を提出するにあたっては、当初第1分類および第2分類のみの法整備(自衛隊法の一部改正のみ)が検討された。しかし、「防衛出動を命ぜられるという事態」、すなわち武力攻撃事態に際して、国家が包括的な対処方針や要領を示す必要性があることから、武力攻撃事態法および安全保障会議設置法の改正を盛り込んだ3法案が国会に提出されるに至ったのである(森本敏・浜谷英博『有事法制』PHP研究所、2003年、46頁)。本研究においても、「有事法制」という言葉の指す射程を、武力攻撃事態に際して国家が包括的な対処方針や要領を示すにあたっての法制全般とする。

[2] 領域警備の概念は必ずしも明確ではないが、富井幸雄「領域警備に関するわが国の法制度」『新防衛論集』第28巻第3号、2000年、3頁によれば、「大規模テロ行為や工作船などの領海侵犯を含むわが国領土への違法な侵入であって、目的と規模あるいは装備の面において軍事色のあるものに対して、わが国の治安や法秩序を維持するために国家が実力を行使すること」を指す。本研究においても、同様の定義を用いることとする。

[3] 防衛庁編『平成15年度版 防衛白書』2頁。

[4] 山本吉宣「安全保障概念と伝統的安全保障の再検討」『国際安全保障』第30巻第1-2合併号、2002年、28-29頁。

[5] 事態対処法制は、武力攻撃事態法には規定されていないが武力攻撃事態への対処にあたって必要な法制のことを指し、当該法第21条および第22条において言及されている。具体的には、1. 国民保護法制、2. 米軍支援法制、3. 捕虜の取り扱いに関する法制、4. 傷病者、捕虜への非人道的な行為をした者への処罰を定めた法制、5. 自衛隊の行動を円滑にするための電波利用制限や船舶・航空機航行制限を定めた法制の5つに大別される。

[6] 国民保護法制については、1年以内に法整備を行う旨の附帯決議によって決定されたが、政府は残る4つの事態対処法制についても、2004年の通常国会において一括して提出することを決めた(『読売新聞』2003712日)。

[7] 「武力攻撃」は、武力攻撃事態法第2条における定義によれば、「我が国に対する外部からの武力攻撃」を指すものとしているが、「外部からの武力攻撃」については、過去の政府答弁において、「他国のわが国に対する計画的、組織的な武力による攻撃」を指すものであり、国連憲章第51条の自衛権発動要件である「武力攻撃(an armed attack)」の概念と一致するものである。西修・浜谷英博・高井晉・松浦一夫・富井幸雄『日本の安全保障法制』内外出版、2001年、133頁を参照されたい。

[8] 武力攻撃事態法では、「その他の緊急事態対処のための措置(第4章雑則)」として第25条において、「武装した不審船の出現、大規模なテロリズムの発生等(第252)」を念頭に、「武力攻撃事態等以外の国及び国民の安全に重大な影響を及ぼす緊急事態に迅速かつ的確に対処する(第25条)」ことを明記している。なお、現行法制下ではテロリズムや不審船に対して第一義的に自衛隊が対処することは想定されていない。防衛白書によれば、不審船事案や武装工作員などによる破壊活動など、平時(有事、すなわち武力攻撃事態には該当しない状況)における不法行為への対処は、第一義的には警察機関の任務と位置付けられており、警察機関で対処が困難となった場合に、海上警備行動や治安出動により自衛隊が対処する方針となっている(防衛庁編『平成14年版 防衛白書』、118頁)。