2003年度森泰吉郎研究振興基金

研究成果報告書

研究課題 コミュニティ・ポリーシングの日本への導入

政策・メディア研究科修士課程1年

ネットワーク・ガバナンスプログラム ネットワークコミュニティプロジェクト

80331636 木曽絵理香

(g131068c@sfc.keio.ac.jp)

 

 

研究課題

近年の日本の犯罪傾向は増加傾向が顕著に見受けられるけれども、反映するような警察のシステムが確立しているわけではない。その中で日本の警察が、権力や制度だけで現在の治安レベルを維持していくことは非常に困難であり、限られた財源を効率的かつ効果的に活用する新たな施策が必要となる。そこで本研究は、市民と警察の協働形態であり、アメリカ社会で成果を上げているといわれているコミュニティ・ポリーシング(community policing)を日本の警察活動に導入し、パートナーシップの可能性について考察する。問題とその解決策を含め、警察業務の一部をコミュニティに委譲する適正範囲を提案することを目的とする。

 

 

 

 

研究概要

 犯罪が増加傾向にある社会では、コミュニティの活性化のためには生活環境の改善や人と人とのつながりが重要視される。しかし、現在の警察と市民の関係は単なるサービスの供給者と受給者に過ぎない。

日本の警察は、ここ数年で業務負担の多い県警は毎年数百人単位での増員をしている(警察官1人当たりの負担人口は約551人)。その財源は非常に厳しいが、増加する犯罪に対応していくためにはその施策が最も有効的であると考えられていたからである。しかし、周知の通り、大規模の増員がなされても重要犯罪は増加し続け、検挙率は低下している。平成13年度の警察白書では平成12年度の重要犯罪(殺人、強盗、放火、強姦の凶悪犯に略取、誘拐、強制わいせつをくわえたもの)の検挙件数は前年度比28.8%の減少である。予算は、前年度比において警視庁は10.7%の増加している。

そこには近年の増員は地域に根ざした警察を目指しており地域警察の最たる「交番」に重点が置かれ、重要な組織犯罪や外国人犯罪に充分対応しきれていないというジレンマが生じている。現在の警察力を維持しつつ、民意を反映した警察を再構築するためにはコミュニティ側でも自助する新たな施策が必要になる。

したがって、警察は地域社会独自の課題解決能力を高めるために市民にエンパワーメントし、その地域特有の問題を把握していくことが求められる。そのためには、アメリカ社会で実践されているコミュニティ・ポリーシング(community policing)というアプローチを活用したい。それは、市民との協働のもとに犯罪の予防と解決をはかることで警察という組織自体が市民に積極的に活用され、コミュニティの質を向上させていくということである。

ここで日本の社会に適応したコミュニティ・ポリーシングを実行することでコミュニティに積極的に活用される地域警察官には自由裁量の余地が必然となる。地域警察官が地域からの支援依頼に応じようとすれば、市民の積極性による犯罪転移などの警察の不合理、不適当な行為とみなされる場合もある。コミュニティへの権限委譲とともに現場警察官の裁量の範囲についても考えていくことにする。

 

 

 

研究背景

警察の活動は主に2つに分類される。それは司法警察と行政警察(保安警察)とよばれる。前者は刑事課、捜査課、鑑識課などで構成され発生した事件を捜査する。後者は地域課、少年課、生活環境課、銃器対策課、薬物対策課、生活安全企画課などで構成される生活安全局である。行政警察(保安警察)は、犯罪が起きないように生活環境の面から安全を維持していく活動が中心である。組織としては警察活動を管理するのが公安委員会であり、行政機関として警察庁と道府県警察本部がおかれ、出先機関に警察署、出張所として交番・派出所・駐在所がおかれている。

 行政警察の基本となる交番制度に関して明治期の警察は、20年以上続いた駐在所・派出所を廃止し、集団的配置法という警察署を中心としたパトロール制度を採用した。しかし、民意を無視した末端組織の統廃合による合理化は警察力の弱化をもたらし、わずか3年で散兵的に配置する交番制度は復活した。しかし、高度成長期にはいると再び統廃合を繰り返し、結局地域に警察官が根付くことはなかった。一般的に日本の警察における交番制度は世界に名だたるものであると認識されているが、実際日本の警察組織の中では戦時は、特定の国策政策の遂行に住民を従わせるために地域社会を利用する関係だった。戦後は市民を監視・管理するために設置され、現在においてはその機能は軽視されたままである。最近では、治安維持機能の維持のために交番制度を見直す動きがあるものの、警察刷新会議の公聴会で「最近の交番は、鍵がかかっていたり、開いていても誰もいない。何のためにあるのか。」と評価された。

 司法警察活動では、犯罪捜査などの治安維持活動のような警察サービスをうけることによって住民は安心して生活している。しかし、この領域では市民は警察によるサービスの受容者に過ぎず非常に消極的な存在である。

 したがって本研究は、都市化の進行した国々においてほぼ共通して意識されつつある、地域住民に志向した警察活動であるコミュニティ・ポリーシングを導入し地域の安全に係る基礎的な条件を向上させることを目的する。それは、警察による治安活動の方針をもとに、専門的な技術が必要になる捜査活動は技術力のある民間へ委託し、スピード違反や駐車違反、防犯活動はコミュニティへ委譲していくことを意味する。

つまり、警察活動の新たな方向性を示すと同時に警察の職務をコミュニティへ委譲する範囲を示し、各方面へ提案していくことである。

 

 

研究内容

 本研究では、警察行政から市民にエンパワーメントするための適正な範囲を明らかにしていくものである。2003年度は、第一期として実態調査の前段階である資料収集やヒアリング調査をおこなった。

 

community policingのイメージ)

 

 

 

 

 


楕円: 破れ窓                                         管理者のいない建物は

テキスト ボックス: 修復された状態                                          ますます荒れていく

 

 

 


        建物が修理されていれば、

管理者がいることがわかり

これ以上荒らされる事はない

楕円: 犯罪の温床
 

 

 

 

 

 


                                                        犯罪が集中し住民の恐怖は高まる

 

 

     軽微な不安要因が解消されることにより

秩序が保たれる

 

1982年、アメリカの政治学者J.Q.ウィルソン(J.Q.Wilson)と犯罪学者のG.ケリング(G.Kelling)による「Broken Windows」により提唱された理論である。これは、警察とコミュニティとの関係に注目し従来の政策を転換させることによって犯罪を減少させ生活の質を向上させることを目的にしている。コミュニティに住む人々がその維持管理に注目しない場合には、破れ窓のイメージを用いることによってコミュニティが物質的文化的の両面から衰退していく過程を論じた。

 

 

(行政)

生活安全条例:全国で1,467(2003.4.1.現在)

「自治体と住民双方に安全なまちづくりを推進する責務を課す」

@  警察主導

A  コミュニティの強化・・・相互の監視社会化が特徴

 

防犯意識に関しても自治体間で大きな格差が生じている:犯罪可動の危険性

市町村合併にかかる自治体の多くは硬直化している

 

 

 (市民の治安活動)

 ・自警団、民間交番(PMBOX)

  二次的効果をねらったもの 

  わんわんパト(世田谷区):公園に犬を自由にできる場所がほしい→奉仕活動の一環としての園内パトロール

  児童見守り隊(春日井市):安全安心まちづくりボニターが受け皿→高齢者ボランティア生きがいの場

  Broken Windows:住宅地のライトアップ(三鷹市)

  防犯環境設計:ニュータウン、白沢小学校コミュニティ道路(名古屋市)     など

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


事務局による会合は不定期に開催されるが、各団体同士のノウハウの提供のような情報の共有は積極的には行われていない。

加えて、住民活動のきっかけは「警察が近くにいない、住民の意向を反映していない」ことに端を発することが多い。つまり、警察機能が硬直化しているため活動が後手にまわっているという状況が生じている。

 

 

(警察)

空き交番対策には、全国の警察官を1万人増員しなければならない→費用に対する効果は評価しにくい

警察庁の増員要求に対し、財務省は地方財政対策のために増員抑制の見解を発表した

 

楕円: 財務省
 


                 2002-04年度で1万人

 

8,500人

 
当初                          04年度分

                                   1,500人が未増員            増員認める

 

 

 


現在      04年度分として

               3,000人                                      増員抑制へ

 

                                04-06年度で1万人

(埼玉新聞2003年11月09日付朝刊)

 

(警察官・交番相談員・市役所職員へインタビューの実施)

いずれも、community policing に関して否定的な見解だった。行政側は「治安活動は警察の仕事」という意見が多く、市役所内に設置されている防犯関係の組織も形骸化していた。

 

警察官に関しては、「通常業務におわれている、組織的時間的に無理だ」という見解が圧倒的である。また、治安活動に全力を注ぐとアピールしている都市でさえ、住民の要望ではじめて対応するという事後的な発言が目立っていた。

 

最近設置された防犯装置はいたずら、誤報(東京82%、神奈川97%、愛知80%)が多く初動縮小の動きがでている。

(読売新聞2004年02月05日付朝刊)

 

また、犯罪の動向を示す「クライム・マップ」は各警察本部HPに掲載されているが、軽微犯罪の流動性は示されていない。

 

 

 

今後本研究によって期待される効果

2003年度調査の結果から、警察から市民へ委譲が可能な実務や権限の範囲を設定し、警察官の効果的な配置を行えば犯罪は減少すると考えられる。また、警察と市民とのパートナーシップが形成された場合には、市民にとって利用しやすいアドバイザーのような警察になると考えられる。

  一定の財源の中で、効果的な治安維持システムがつくられる

  警察サービスを受ける市民のニーズに適い、同時に市民が過度の警察依存を生まないコミュニティの形成する

  警察が法にだけ責任を負うことなく、犯罪予防やコミュニティの平穏のために必要な裁量権を確保する

 

本研究は、従来の「対処型の警察」研究とは異なり、コミュニティ・ポリーシングというアプローチを用いて「予防型の警察」の形成を目的としている。このモデルは警察のサービスの質を向上させるものであり、この研究により確実の犯罪を予防できるという保障はないが、行政資源が減少する中で有効性を減ずることのない協働モデルの開発や警察活動をより民主化するモデル開発の一助になるのではないかと考える。

また、市民の問題解決能力を高めることで治安だけにとどまらず、地域のかかえる諸問題に自主的に取り組むようなコミュニティが形成される。