2003 年度 森基金報告書
氏名: 渡里 雅史
所属: 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士課程 1 年
メールアドレス: watari@sfc.keio.ac.jp
研究課題名

「Netowrk Mobility における経路最適化に関する研究」
研究概要

現在 IETF において、移動ネットワーク技術が提案されている。移動ネットワークとは、自動車内などに構築されたネットワークが一つの集合体として移動するネットワークである。既存のインターネットアーキテクチャは、このような移動ネットワークをインターネットに接続しようとすると、移動に伴う通信の遮断や IP アドレスの変化に起因して通信相手が特定できなくなる等の問題が生じるため、これらの問題を解決するべく、研究が行なわれている。

しかし、現在提案されいる仕様では、経路の最適化が考慮されてない。その結果、移動ネットワークとの通信は、すべて非効率な通信経路となってしまう。非効率な通信経路は、データに遅延をもたらし、ホームエージェントに集中的な負荷を与えるため、問題である。

本研究では、既に Mobile IPv6 で提案してきた、Binding Proxy Agent (*3) を拡張することで、移動ネットワークにおける経路の最適化を実現する。

研究成果

Correspondent Router の設計
Correspondet Router(CR) は、通信相手ノードに対して Mobile IPv6 の Binding 機能を提供する。これにより、通信相手ノードは移動体ネットワークと最適化された経路での通信が可能となる。CR において Binding 機能を提供するためには、通信相手ノードの代理として CR が Binding を管理する必要がある。CR が Binding を管理することで、通信相手ノードのパケットを移動体ネットワークに直接配送できる。図1 に CR を使ったシステム概要を示す。


図1.システム概要


CR が通常のルータの場合は、ホームエージェントを経由した、点線の経路を通る。一方、CR において CN の代理として Binding を管理することで、実線の経路を通ることになる。すなわち、最短経路を使った通信が可能となり、遅延やネットワーク資源の浪費を軽減できる。

CR で Binding を管理するために、Correspondent Router Discovery Message と Correspondent Router Discovery Reply を定義した。これらのメッセージは、Mobile Router (MR)の要求によって、CR で Binding を管理するために使われる。

以下に、具体的な処理の流れを示す。
1. MR は HA 経由でパケットを受信する.
2. MR は CN と通信経路の最適化を行うため、CN が接続するネットワークに CR がいるか否かを確認する。CR Discovery Message を送信する。
3. CR は、CR Discovery Message を受信することで、移動ネットワークと通信する CN の存在を知る。その Prefix に対する Binding がなければ、CR Discovery Reply を返す。
4. MR は CR に対して Binding Update を送信する。
5. CR は、Binding Cache を作成し、Binding Ack を送信する。
6. MR は、Binding Update List に CR の IP アドレスを追加する。
7. Binding に一致する prefix 宛のパケットは、CR にて MR へ IP-in-IP tunneling される。

CR で管理する Binding Cache は、移動ネットワークと MR が移動先ネットワークで取得した CoA の Binding を管理するためのデータベースである。Binding 情報には、MR の IP アドレス、MR の Prefix などが含まれる。Prefix 単位で Binding を管理するため、CR 以下に接続するノードが増えても、各移動ネットワークに対して Binding は一つとなる。
Correspondent Router の実装
CR は FreeBSD 4.9-RELEASE(*1) 上に KAME プロジェクト(*2) の IPv6 スタックを拡張することで実装を進めている。
論文の執筆
国内学会に論文を執筆する予定である。また、IETF に Internet-Draft として執筆し、標準化を進める。
今後の課題

システムの評価
本システムの有効性を示すために、本システムを評価する。定量的評価として、本システムを用いた場合のオーバヘッド、また使わなかった場合との遅延の比較を行なう。また、規模性の検証として、シミュレータを用いた実験を行なう。さらに、本システムを広く普及させるためには、セキュリティに関する考察は必要不可欠であるため、IPsec などの技術の対応を行なう。
*1 FreeBSD http://www.freebsd.org/
*2 KAME Project http://www.kame.org/
*3 BPA http;//www.sfc.wide.ad.jp/~watari/research/bpa.html