2003年度 森泰吉郎記念研究振興基金 報告書
政策・メディア研究科修士課程2年 梅香家絢子 地域住民の学校参加の効果と実現要因 ― 序:研究内容の変更について
1:研究の背景と目的 □研究の背景 近年、地域住民の学校への参加が注目されている。これまでの学校の閉鎖的側面を見直し、「開かれた学校」のもとに、学校が保護者や地域住民をはじめとした地域と協力して子どもへの教育を行うことによって、学校教育の改善を試みようとする動きである。「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第一次答申)」(中央教育審議会)では「学校・家庭・地域の連携」の重要性が示されている。 実際、地域の協力がよりよい授業運営の鍵となる「総合的な学習の時間」には、多くの学校で地域住民が参加した授業が取り組まれている。また、保護者や地域住民の意見を校長が聞くための学校評議員や学校評価といった政策も実施されている。このような流れにおいて、保護者や地域住民の協力を得た教育活動を進めていくことは各学校にとって迅速に対応しなければならない課題となっている。 一方で、これまで閉鎖的であった学校にとって、学校を開き、保護者・地域住民と連携をしていくことは決して容易なことではない。多くの学校が試行錯誤をしながら、協働による学校の教育活動のあり方を模索しているというのが現状と言える。そこで研究の目的を以下のように設定した。 □研究の目的 以上から、本研究における目的を以下の2点とした。
まず、地域住民の学校参加が実際にどのような効果や影響を持っているのかについて調査・分析を行う。その調査・分析の結果を踏まえて、地域住民の学校参加を実現していくためには学校がどのような取り組みやはたらきかけを行っていけばいいのか、その要因を抽出することを試みる。 2:研究の手法 本研究では、 まず、各学校の取り組みの実態や成果を知るために、区内全小学校・中学校(計111校)を対象としたアンケート調査を実施した。また、各校につき学校代表として校長先生、地域代表として「開かれた学校づくり協議会」会長、保護者代表としてPTA会長の計3者に対して調査を依頼した。回収率は全体で83%となっており、学校に関してのみ見れば94%となっている。実施主体は教育委員会であり、アンケート作成は筆者が担当した。 さらにアンケート調査の分析結果を踏まえて、より詳細な情報の獲得のために、10校に対してインタビュー調査を行った。以上をまとめたものが図1である。 図1:研究手法 3:分析(1)―地域住民の学校参加の効果―
まず、「開かれた学校づくり」実施後の変化として、@学校・家庭・地域の関係性の変化、A学校の変化、B地域の変化、C子どもの変化の4項目を取り上げた。これらの4項目について各学校の実施後の変化を算出した。また、これらを総合したものを「開かれた学校づくり実施後の変化」として算出した。すると、各変化について改善の度合いが高い学校と低い学校とが示された(図2)。 図2:「開かれた学校づくり」実施後の変化 次に、地域住民の学校参加の度合いを算出した。縦軸に学校運営への地域住民の参加をとり、横軸に教育活動への地域住民の参加をとり、各学校の地域住民の学校参加の度合いを4つのパターンに分類した(図3)。 図3:地域住民の学校参加の度合い(モデル図) 図3に、実際の各学校の値をあてはめたものが図4である。 図4:地域住民の学校参加の度合い 図4からは、各学校の地域住民の学校参加には実に様々な実態が見られることがわかる。そこで次に、各学校の地域住民の学校参加の度合いと「開かれた学校づくり」実施後の変化とを比較する作業を行った。 地域住民の学校参加の度合いに、「開かれた学校づくり」実施後の変化を重ね合わせたものが図5である。実施後の変化が高い学校が赤、実施後の変化が低い学校が青で示されている。図5を見ると、地域住民の学校参加が高い第4象限には、実施後の変化が高い学校が集中していることがうかがえる。 図5:地域住民の学校参加と「開かれた学校づくり実施後の変化」 以上の分析の結果、地域住民の学校参加の度合いが高い学校は、「開かれた学校づくり」の実施後の変化も大きい学校であることが示された。つまり、地域住民の学校参加を実現することは、「開かれた学校づくり」の効果を高めることにつながっていた。 ここから、地域住民の学校参加は、「開かれた学校づくり」の効果を高めるという点において有効であることが示された。 4:分析(2)―地域住民の学校参加の実現要因― 地域住民の学校参加を実現することが、「開かれた学校づくり」の効果を高めるならば、次に、ではどうしたら地域住民の学校参加を実現することができるのか、について考察を深めることが期待される。 そこで、地域住民の学校参加の度合いが高い学校と低い学校とでは、学校の取り組みにどのような違いがあるのかについて調査・分析を行った。 調査・分析の結果、地域住民の学校参加の要因として以下の2つが示された。
以上の考察について簡潔に述べていきたい。 @学校運営への参加の活発化(協議会の波及効果) アンケートの分析結果から、地域住民の学校参加に関して「教育活動への参加」が高いよりも「学校運営への参加」が高い方が、実施後の変化も大きいという傾向が表れていた。そこで、学校運営への参加が活発であれば、つまり本研究においては協議会の活動が活発であれば、地域住民の学校参加が高まるのではないかという仮説を立てた。 分析の結果、地域住民の学校参加が高い学校では、その協議会の果たす役割というものが他の学校と異なっていた。それは、協議会の活動が協議会内の議論のみにとどまるのではなく、実際に実働的な役割を担うことで、一般の人をも巻き込む活動となっていた点である(図6)。 図6:協議会の役割 このことから、地域住民の代表によって構成されている協議会の活動が活発になることで、一般の人々の教育活動への参加も高まることが明らかになった。協議会がこのような波及効果を持つことが重要であり、協議会が波及効果を持つという意味において学校運営への参加の活発化が実現されると、地域住民の学校参加がより高まることが示された。 また、インタビュー調査の分析からは、協議会を活性化させるための学校運営について、以下の3つの項目を挙げることができた。 ■学校から協議会への情報提示 学校から協議会へ期待することや、学校の課題等を協議会に提示すること ■協議会の主体性 立ち上げ時期は学校主導で行い、その後は協働等により協議会の主体性を育てること ■協議会と教職員との交流 協議会が学校を知ると同時に、教職員が協議会を知る機会となる両者の交流を持つこと A教職員の意識改革 教職員の意識変革については、「開かれた学校づくり」や協議会の取り組みを行う中で、外部から人が入ってくることによって教職員の意識変革が自然発生的に起きることがわかった。しかしながら、地域住民の学校参加が高い第4象限の学校では、それに加え、校長がそのような外部の力を“意図的に”活用して教職員の意識変革を促したり、外部との連携の良さを訴えかけているという取り組みが見られた。 このことから、外部から人が入ってくることで教職員の意識変革が自然発生的に起きている学校では、教職員の意識変革と地域住民の学校参加が相互作用の関係にとどまるが、校長が積極的なはたらきかけを行っている学校においては、教職員の意識変革が地域住民の学校参加の実現をより促していることが示された。 校長のはたらきかけ次第で教職員の意識変革が可能になり、それが地域住民の学校参加の実現のための要因になると考えられる。 5:まとめ 以上の考察をまとめたものが図7である。 図7 地域住民の学校参加の効果と実現要因 □本研究の意義 本研究の意義は、その重要性が認められ、近年取り組みが盛んに行われている地域住民の学校参加や「開かれた学校」に関して、 また、全数調査をもとに調査・分析を行ったことで、地域住民の学校参加や「開かれた学校」をより円滑に進めるための要因を「学校運営」の観点から抽出することができた。文部科学省や教育委員会の施策といったものではなく、現場である学校がどのような取り組みを行っていけばいいのかを明らかにしたことも、本研究の意義であると考える。 □今後の課題 今回、 本研究では、地域住民の学校参加を実現する要因として「学校運営」に注目したが、実際はそれのみが要因となるわけではない。その他にも例えば教育委員会の施策や、その学校を取り巻く地域性といったものがある。今回、これらについて実証できる程の資料もなく全く触れることができなかったが、インタビュー調査で訪問した学校においても、地域性等の話が出てきたのも事実である。もちろん現場である学校がどのように取り組みを展開していくかということは重要であるが、それを支える教育委員会の施策や地域がどうあるかということが同様に重要であることは言うまでもない。 地域住民の学校参加や「開かれた学校」に取り組んでいる、現場の学校の取り組みを支援するためにも、様々な方向性からその実現要因が検討されることが望ましい。 以上のことをさらに深めることで、地域住民の学校参加をより円滑に進める要因を様々な視点から提供することを今後の課題としたい。 2004年2月 |