1.オーストリアの基本情報
人口:810万人 面積:8.4万km2(北海道とほぼ同じ) 一人当たりGNP:26,100ユーロ(2001年) 高齢化率:21.5%(2002) 9つの州に分かれている ・全国で施設サービスを提供しているのは72,000床(Kuratoriumにてヒアリングした結果) うち12,000−14,000床が生活用(自立した人が対象) 60,000床が看護を必要とする人用(nursing-care対象者) 以前は、家事サービスのみを望む人が半数近くで、看護が必要な人も半分程度だったが、現在 は9割近くが看護を必要としており、重度化が進んでいる。2.オーストリアの介護(nursing care)制度
英語情報(Oesterreichische Sozialversicherung)a.社会扶助制度と地方分権
オーストリアにおいては、介護については税方式による。1993年から、本人に対し、介護扶助金 を支給することで援助される仕組みになった。 1.7段階の介護レベル 2.不足の場合の援助は、個人の収入、総資産を計上し、それに応じてなされる(means-testing) 3.扶養義務の有無 4.年齢制限がない に応じた額がそれぞれの人に対して計算され、コミュニティ(州より小さい単位の自治体)から 支払われる。2に関しては、州が独自に計算方法を決めることができるため、支給基準は州によ って異なる。 ウィーン州においては、親に対する扶養義務がないため、個人が自分の資産でサービスを購入で きない場合、社会保障の力を借りるのが一般的になっている。9つの州のうち、7つの州において は家族が経済的に援助することが義務付けられている。 その金額の使い道は個人の自由であり、それは民間業者・公立・NPOなどの主体との個別の契 約となり、行政からの関与はない。 ウィーン州においては、入居を伴う介護施設サービス利用については、不動産を含む、全財産を 計算し、その80%までは自分で負担することが義務付けられている。それでも足りない分に関 しては、最低限のサービスに対して州が援助をする仕組みになっている。カリタスのようなNP Oでは、独自に、自らの資金を使って多少援助する仕組みをつくっている。 民間の施設においてはサービスにかかる費用が高いため、入居者の経済水準はおのずと平均以上 になる。 介護状態にある人全員に適用され、特に年齢制限はない。(下記参照)level of care benefit 2002(Oesterreichische Sozialversicherung参照)
Class 1(EUR 145.5): 平均して月に50時間以上の介護を必要とする人 Class 2(EUR 268.0): 平均して月に75時間以上の介護を必要とする人 Class 3(EUR 413.5): 平均して月に120時間以上の介護を必要とする人 Class 4(EUR 620.3): 平均して月に180時間以上の介護を必要とする人 Class 5(EUR 842.4): 平均して月に180時間以上の介護を必要とし、例外的なレベルの介護が必要な場合 Class 6(EUR 1148.7): 平均して月に180時間以上の介護を必要とし、 1.時間単位には換算できない介護手法が必要とされ、昼も夜も定期的に なされなければならない場合 2.昼も夜も見守りが必要で、そうでなければ危険を伴う場合 Class 7(EUR 1531.5): 平均して月に180時間以上の介護を必要とし、 ほぼ寝たきり、もしくはそれに近い状態にある場合b.財産の取り扱い
社会保障については公的な関与がなされるため、不動産も含めたすべての財産が、州の計算方式に よって計上されることになる。公的な援助が受けられる代わり、財産を持っている人は、不動産で あり、現金価値がなくとも支給が減り、場合によっては売却する必要性もでてくる。サービスを選 ぶことは個人にまかされており、財産をすべて使うという点で自己責任も伴っている。c.現状
・親子の同居率が低い。 一般論として、ヨーロッパは南に行くほど家族 主義的傾向が強く、北に行くほど個人重視、 社会で個人を支えるという傾向が強いということであった。 ・外国人労働者が多い。 東欧、アフリカ、フィリピンを中心として、看護士の資格を保有する高学歴の労働者を、安い 賃金で雇用しているところが非常に多かった。施設においては、どこの施設でも半数が外国人 労働者であった。中心的な役割(チーフナースなど)を担う外国人も存在していた。 ・在宅では、個人契約によってヘルパーを雇っている人が少なからずいる。 この場合、外国人労働者も多いということで、不透明性が強く、労働条件が今後の課題とされ ている。しかし、現物支給の日本と違い、現金支給によってこの形態が取りやすくなっている 部分はあり、家族による介護負担の軽減という意味では興味深い。3.考察
オーストリアの制度(他のヨーロッパ諸国にもいえる)では、障害者に対する介護と高齢者に対 する介護に、特段差を設けていないため、シンプルな制度となっている。 自己責任、自由契約の一方で社会扶助方式をとっており、means-testingを行っているため、貧 しい層の人は、高い水準のサービスを受けることができないが、どんな人でも最低限のサービス は要求することができ、保障が確実になされているため、制度からはみ出すことはない。 現金で給付することに関して、日本では「家庭内での女性の介護役割を固定することになる」と して反対がおこった。 親子の同居率が低く、首都ウィーン州では親に対して経済的に援助する義務がないと定めるなど、 個人の独立性が比較的高いと考えられ、日本ほど否定的な意見はあがっていない。しかし、オー ストリアにおいても家族や女性の介護負担に関しては議論があり、給付した現金の使い道をモニ ターすることが非常に難しいことから、現金給付によって負担を軽減することができているかど うかは不明である。 また、東欧に非常に近い位置にあるオーストリアでは、プラハなど東欧圏、アフリカやフィリピ ンなどで看護士の資格をとった労働者が多数流入しており、施設においても、在宅においても雇 用することができるという現状がある。 彼らの労働条件についても、個人契約を結んでいるため、同様にモニターすることは難しい。 今後日本において介護者不足が予測されるなか、外国人労働者を活用するということは多いに考 えられる。質の良い労働力を、正しい条件で確保していくための方策が必要になると思われる。 この調査を通して、日本においては二つに分断されている高齢者介護と障害者介護の問題を、シ ンプルに捉えなおしていく必要性を強く感じた。今後高齢化が急激に進む中で、介護保険制度の 改革、障害者支援費制度との統一などが言われているが、「介護」という点で共通に必要とされ ている部分に焦点をあて、シンプルな制度設計を行い、介護労働者の確保など、具体的な問題解 決へ論議を進めていく必要があるのではないかと考える。