初等中等教育における

ストリーミングコンテンツ配信・利用モデル

−著作権者と利用者の利益バランスを考慮してー

井上理穂子*

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科*

本研究では、初等中等教育におけるストリーミングコンテンツ配信・利用の汎用モデルを構築することを目的に、既存のデジタルコンテンツ配信・利用システムにおいて達成されている項目を抽出し、それらの項目を統合して汎用的なストリーミングコンテンツ配信・利用システムに必要な要件を明らかにした。さらに、ストリーミングの特性を生かして、オンタイムでの利用状況確認と微小単位の課金に関する項目を追加し、著作権者の権利保護を既存のシステムより強化しながらも、利用者の利益に配慮し、デジタルコンテンツの流通の促進にあたり有用と考えられるモデルを示した。また、著作権法上、ストリーミングコンテンツは自動公衆送信、ダウンロードは、自動公衆送信と複製にあたるという違いを指摘し、ストリーミングコンテンツに対してより緩やかな保護が行え、著作権者、利用者両者とって利益があり、コンテンツ流通の促進に供する契約や規約が作成できる可能性を示した。

キーワード:ストリーミングコンテンツ、著作権、自動公衆送信、複製、学習オブジェクト、デジタルコンテンツ、初等中等教育利用


1. はじめに

1.1  学校におけるITインフラの現状

平成15年度公立学校における情報教育の実態調査(文部科学省2003)によると、現在、小学校、中学校、高等学校における、インターネット接続率は、小学校で99.7%、中学校で99.9%、高等学校では100%となっている。また、インターネットに接続している教育用になっている。(文部科学省2004

 

Rihoko Inoue* :The streaming content delivery and the utilization model in the elementary and primary education

*Graduate School of Media and Governance, Keio University, 5322 Endou Fujisawa-shi, Kanagawa, 252-0816 Japan

 

コンピュータの割合は、それぞれ、91%、93%、82

である。コンピュータ教室においては、コンピュータ整備済みの教室は、99.1%、そのうちLAN接続をしている教室は、94.8%である。しかし、その他の教室では、コンピュータ整備済みの教室は2割程度、LAN接続をしている教室の割合はさらに少なくなる。今後は、コンピュータ教室以外の普通教室などにコンピュータを普及し、また、インターネット接続を行っていくこと

1.2      教育用デジタルコンテンツ

インフラ整備が推進されてきた状況において、教材などの教育用デジタルコンテンツの普及と利用の遅れが目立っている。教育用デジタルコンテンツの普及と利用は、教育の内容・方法などと直接関係があり、また、デジタルコンテンツは著作権で保護されているので、複雑な権利関係が存在することなどがその要因である。

デジタルコンテンツの定義は、様々である。教育における「コンテンツ」とは、「学習の対象となるものの集合」であり、CAIComputer Assisted Instruction)では、それらを学習ソフトウェアと呼んできた。(宮沢2004)ソフトウェアは、「プログラム(コード)」の部分と「内容情報」(データ)のどちらも含む。しかし、マルチメディア利用により、「内容情報」(データ)の比重が増加し、この部分を「デジタルコンテンツソフトウェア」と呼び、特に最近では「学習オブジェクト」(Learning ObjectLO)と呼んでいる。(宮沢2004)本研究では、デジタルコンテンツと学習オブジェクトを同義として扱う。学習オブジェクトは、広義では「コンピュータやインターネットを活用した教育において利用される、あらゆるデジタル、非デジタル素材」(情報処理振興事業協会ほか2001)とされるが、本稿では、デジタル素材だけを扱う。学校等で利用される教育用デジタルコンテンツには様々な分類の仕方があるが、普通教室にコンピュータとインターネット接続が普及していくことを考慮すると、ネットワーク接続の有無で分類をすることが、教育用デジタルコンテンツの普及と利用について考える場合に有益であると考える。

教育用デジタルコンテンツすなわち、学習オブジェクトを本研究では、2種類に分ける。

1)              ネットワーク接続の必要性のない、非ネットワーク型学習オブジェクト

2)              ネットワーク接続の必要性のある、ネットワーク型学習オブジェクト

さらに、1)の学習オブジェクトは、学習オブジェクトとプログラムなどがパッケージ化されていて利用するものとされていないものに分けられる。また、ネットワークからダウンロードすることのできる学習オブジェクトなども、ダウンロード後は、ネットワークに接続する必要性がなくなるので1)に含まれ、それらは学習オブジェクトだけをダウンロードする場合と、プログラムなども一緒にダウンロードする場合が考えられる。

2)のネットワーク型学習オブジェクトにおいては、WBTなどの場合、学習者がブラウザを介して、一定のシステム上で学習オブジェクトを利用する。一方、ストリーミングコンテンツの学習オブジェクト(ストリーミング学習オブジェクト)を利用する場合は、学習オブジェクトである配信されてくるデータを学習者がコンピュータ上でストリーミングコンテンツプレーヤーなどを介して利用する。また、Webページなどを閲覧する場合は、ダウンロードする(複製がコンピュータに残る)ことも可能であるが、ほとんどの場合、利用者は閲覧するのみなので、利用者のコンピュータにはキャッシュしか残らず、ネットワークに接続しなければ学習オブジェクトを利用できない。

現在は、学習オブジェクトは、国や自治体などの公的機関が開発提供しているものが多く、NICER(教育情報ナショナルセンター)は、国に準ずる公的機関として教育用デジタルコンテンツ(この場合は、いわゆる学習ソフトウェアに近い概念の、データとプログラムが一体化されたものも含む)の所在を紹介しているサイトを開設している。これらのデジタルコンテンツについては、LOMLearning Object Metadata)が登録されており、検索が可能である。しかし、有料デジタルコンテンツについての紹介データはない。また、様々な人が、自己のデジタルコンテンツを教育利用のために無料で提供し、そのコンテンツを授業や学習で利用できることが可能な仕組みを構築したサイトは存在するが、継続性がなく、一部のコミュニティに限られ、一時的なもので喪失しているものがほとんどである。(JAPETe-Japan構想U」検討委員会2004

1.3      本研究の目的

本研究では、ストリーミング学習オブジェクトを初等中等教育において配信・利用するための汎用モデルを検討する。そのため、既存のデジタルコンテンツの配信・利用システムから達成されている項目を抽出し、それらの項目を統合した要件を明らかにする。さらに、ストリーミング学習オブジェクトが、他のネットワーク型学習オブジェクトと比べて著作権法上扱いやすい点を考慮し、権利者、利用者の利益バランスが取れ、さらにコンテンツ流通の促進が見込まれるシステムとするための項目を検討し、モデルを構築する。そのうえで、明らかにされたモデルに関して、著作権法の観点からの考察を行う。

2. ストリーミングコンテンツの特性

2.1       ストリーミングコンテンツと非ネットワーク型動画コンテンツ

ストリーミングコンテンツは、通常の動画コンテンツと比べて、ネットワーク接続を行う点に特徴がある。非ネットワーク型動画コンテンツについては、児童生徒の学びの向上に寄与することが示されている。埴岡他(2004)は、小学校5年理科において、学習指導要領の「地面を流れる水や川の様子を観察し、流れる水の速さや量による働きの違いを調べ、流れる水のはたらきと土地の変化の関係についての考えをもつようにする」の記述に関する授業実践を行い、その中で動画コンテンツを利用している。出水中の河川や流速・水深のデータ、また、増水していく時や減水して行く時の舞い上がる砂や急流で押しあがる石の様子に関する、15秒から30秒の動画コンテンツを、3度繰り返しコンピュータにつながったビデオプロジェクタにおいて再生している。「水中を確認し捉えた情報の理解と、段階によって事象を異なる角度から捉え理解が進んでいる」ことが示されている。また、同様に、吉富他(2004)も、水辺からの観察では認識できない視点で捉えた複数の映像を組み合わせた展示システムにおいて、児童が現象を動画コンテンツによってより直接的に捉えやすかったことを示している。

しかし、これらの動画コンテンツ利用においては、授業中やその展示において、限られた時間、限られた場所においてだけ閲覧でき、また児童が時間や場所にとらわれず自由に利用することができない。また、これらの作成した動画を、教師の間で利用しあうことが、教材作成の時間的経済的コストを削減することになるが、教師の間の相互利用を前提としていない。動画コンテンツをネットワーク型配信を前提にすれば、児童は時間的場所的に自由に利用でき、また、教師の相互利用も可能である。さらにそれらは、個々の事例や授業だけにとどまらない汎用性があり、非ネットワーク型の動画コンテンツと比較して、ストリーミングコンテンツの有用性は明らかである。

ストリーミング配信は、高等教育または企業内教育などにおいて、教授者が行う授業を個別学習向けにまるごと行っている場合がほとんどである。しかし、ストリーミング学習オブジェクトは、高等教育だけではなく、初等中等教育において利用の可能性が高いといえる。

初等中等教育の現場は、予算の関係などで、著作権者が経済的利益を主張するような有料コンテンツの利用や、著作者が利用について条件を限定する場合などにおいて、利用することが困難な状況にある。一方、デジタルコンテンツの著作権者は、有料コンテンツの利用の普及が滞っている中、経済的利益や権利を保護しながらも、デジタルコンテンツが流通することができないか模索しているところである。

2.2 ストリーミングコンテンツの著作権法上の特性

ストリーミングコンテンツが著作物と認められる場合、およそ公衆に対して送信する場合、送信者(アップロードする者)は公衆送信権を有していなければならない。公衆送信権は、無線及び有線、また、放送形態及びオン・デマンド形態の全てを包括するものであり、およそ公衆に対して著作物を送信する場合に働く権利である。また、インターネットのような自動公衆送信(公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送は除く))にあたる場合は、送信可能化権(著作物を自動公衆送信し得る権利)も権利者は有することとなり、送信者は、権利者の許諾を得なければならない。ストリーミングは、自動公衆送信を行うだけであるが、ダウンロード(キャッシュも含め)を受信者に許すような送信の場合は、キャッシュや複製物を受信者のパソコンに残すこととなる。日本においては、Webページを閲覧する際などの一時的な蓄積が「複製」に該当するかについては、明らかではない。一部では、一時的蓄積は複製とはみなさないとの説もあるが、公的には議論されていない。(作花2002)よって、ストリーミングは、自動公衆送信にあたり、ダウンロードは、自動公衆送信と複製にあたると言え、違いがあると考えることが可能である(井上2005)実際、米国では、ストリーミングコンテンツを閲覧する行為は、performance displayと呼ばれ、複製とは著作権法上区別されている。また、米国著作権法の教育目的利用に関するTEACH ACTTechnology, Education and Copyright Harmonization Act)においては、教育目的で著作物を利用する場合の著作権制限について、非同期の配信においては、授業の開講期間にストリーミング配信する場合のみに関して権利者に無許諾で配信することを認めている。ストリーミングコンテンツの保護をダウンロードする場合より緩めた形である。米国の著作権法と日本の著作権法は異なり、一概に米国と同様にすれば良いとは言えないが、日本の著作権法上で、ストリーミングとダウンロードの違いを考えられる可能性を考慮すると、少なくとも契約などにおいてストリーミングとダウンロードに違いを設けることは、日本の著作権法に抵触しないといえる。このことは、著作権法上、ストリーミングコンテンツとダウンロードコンテンツの異なって扱える可能性があり、著作権者、利用者両者にとって利益がある、その上、コンテンツ流通の促進に供する利益バランスのとれた契約が作成できる可能性があることを示している。

3. 初等中等教育におけるストリーミングコンテンツ配信・利用モデル

現在、ストリーミングコンテンツは、高等教育において講義をまるごと配信して、学習者が個別学習するために利用されていることが多い。その場合、ストリーミングコンテンツは、ある一定の時間の長さを持つ学習オブジェクトとなる。

しかし、初等中等教育においては、授業時間の短さや生徒児童の集中力などを考えると、ごく短い単位のストリーミングコンテンツが有効であると考える。埴岡他(2004)では、ごく短い単位の動画映像は、繰り返し見せられ、それにより理解が深まることも示されている。さらに、菅原他(2004)も、「映像クリップの視聴は、文章や静止画ではわかりづらい、事象について学習するには有効である」と述べる。また、亀井他(2003)は、授業において教師が動画コンテンツを利用する場合は、指導のねらいにそって、短い単位で選択を行うことを指摘しており、短い単位のストリーミングコンテンツは、有益であるといえる。

そこで、本稿では、初等中等教育における、ごく短い単位のストリーミングコンテンツを「学習オブジェクトモジュール」と呼び、それらの配信・利用モデルを考える。

3.1       先行研究において達成されている項目の検討

既存のデジタルコンテンツ配信・利用システムに言及して、現在達成されている項目を抽出する。

Nicer1)は、日本におけるあらゆる教育情報を扱う中核的なWebサイトである。主に、初等中等教育用学習オブジェクトが登録してあり、LOMを付与することによって、利用者が検索をすることが可能である。(清水2002LOMの分類は、新学習指導要領に基づいているため、実際の学習用語で検索できる。20052月の時点において、142607個の学習オブジェクトが登録されている。学習オブジェクトに関するLOMについては細かく規定されており、IEEEの標準以外にもNICERで付け加えたものもある。学校の現場での使用が想定されている学習オブジェクトが多数掲載されている。さらに、Nicerでは、1つ1つの学習オブジェクトに対して、教科書の目次に即したキーワード検索、利用者の属性(小学生、中学生、教師などの属性)に応じた検索などが用意され、利用しやすくなっている。LOMによるキーワード検索や、属性に応じた利用者の使いやすさを考慮した検索が達成されているといえよう。LOMには、権利者や使用条件が記載されていて、著作者の権利に配慮をしている。

商用では、MPEG Archive Station2がある。これは、KDDIが開発をした、MPEG資産を1台のサーバーで簡単に登録、検索、配信、編集、管理することができるMPEGデータベース システムである。1台のサーバーに集中してMPEG映像などを登録し、他のクライアントPCから直接WWWブラウザを通してそれらの映像を、再生、検索、編集、管理できるというものである。WWWブラウザを通して、検索や編集を実現している点に特徴がある。このシステムにおいては、ネットワーク上にあるストリーミングコンテンツに対してメタデータを付与と、検索、編集などの項目が達成されている。

さらに、ストリーミングコンテンツのみを扱っているシステムにPartage3がある。これは、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の博士課程1年谷内正裕氏が開発したシステムである。WWW上にあるストリーミングコンテンツを、ユーザーはPartageサーバーを通して閲覧する。Partageサーバーでは、ユーザーは各ストリーミングコンテンツを自己の好きな長さにカットし、またそれらのあらゆるカットしたストリーミングコンテンツを好みの順番に並べ替えて、あたかも一つのコンテンツであるように閲覧することができるようなしくみになっている。個々のストリーミングコンテンツは、コンテンツ所有者のサーバーから閲覧の度に直接配信される。従来の一方方向の授業だけではなく、児童生徒の発表用などにも利用することを前提として、ストリーミングコンテンツを、教師や児童生徒それぞれの要求にあった長さや組み合わせに並べ替えることができ、さらに、各児童生徒や各教師が、検索し、抽出し、つなぎ合わせて作成した、いくつかのストリーミングコンテンツのかたまりを、他の各児童生徒や教師がさらにそれらを検索し、閲覧できることを可能にしている。

インターネット上にあるデジタルコンテンツについて、相互利用を目的としたシステムにHTSHyper Transaction System)がある。HTSは、Ted Nelson氏が提唱したTransclusionTranscopyrightという考え方を、実装したシステムである。Transclusionとは、インターネット上の他人の創作物の一部や全部を、インターネット上の自己の創作物をに掲載する際、他人の創作物の複製を自己の創作物に貼り付けるのではなく、閲覧する者に対して、その部分を創作物のあるオリジナルサーバーへアクセスさせて閲覧するようにする考え方である。(Ted1998)閲覧者は、ある創作者の創作物を見ながら、そこに他人の創作物が存在する場合、その創作物に関しては、そのオリジナル著作物を閲覧していることとなる。Transcopyrightは、そのTransclusionの形で自己の創作物の利用を認めるという約束である。Transclusionを行って表示している他者の創作物を、自己のネットワーク上の創作物上に置くことにより、自分の閲覧させたいデジタルコンテンツを自己の要求にあった長さ、組み合わせなどで見せることができる。また、創作物の著作権情報は、Transclusionを行う際に、画面上にできるように設定され、著作者の権利に配慮がされている。

Merlot4はアメリカの高等教育向けのオンライン教材を容易に利用できるように提供しているものである。学習オブジェクトを検索できるのではなく、あらゆる教育用デジタルコンテンツの掲載Webなどのリンクが張られている。特徴的なのは、利用者はそのオンライン教材に対してお互いにpeer reviewを行い、learning communityを形成し、コンテンツの利用効果や質を高めていることである。また、権利者は、自己のコンテンツが登録されると、事後的にメールで知らせを受ける。

 

以下にこれらの既存のシステムの達成項目を整理する。

a)   IEEEに準拠したLOMLearning Object Metadata)を学習オブジェクトモジュールに付与して、キーワードなどによる検索が可能である(Nicer, MPEG Archive Station

b)   キーワード以外の検索条件(検索者の属性、目的など)に適した検索結果の表示順、表示方式が実現されている、教科書の目次に準拠したLOMを付与する(Nicer)

c)    必要な学習オブジェクトモジュールだけを抽出し閲覧することを容易に可能にする(例えばWebブラウザ上で可能にするなど)(MPEG Archive Station, Partage, HTS)

d)   さらに抜き出した学習オブジェクトモジュールを要求に応じていくつか組み合わせて、好きな順で好きなときに閲覧することを可能にする(MPEG Archive Station, Partage, HTS)

e)    学習オブジェクトモジュールの組み合わせを記憶し、それに対してもLOMを付与し検索可能にする(Partage)

f)     学習オブジェクトモジュールについて、利用者が評価しあっていく、評判システムを備える(Merlot)

g)   掲載されている学習オブジェクトモジュールに対しての著作権情報を画面上で表示する(Nicer, Partage, HTS, Merlot)

h)   学習オブジェクトモジュールがシステムに利用されているこという事実をメールで知らせる(Nicer, Merlot)

 以上が、デジタルコンテンツ一般に対して実現されている項目で、さらに、以下のような項目がストリーミングコンテンツに対して実現されている。

i)     権利者の(または権利者のコントロール下にある)ストリーミングサーバ以外には、ストリーミングコンテンツの複製をおかないようにする(Partage

3.2 初等中等教育におけるストリーミングコンテンツ配信・利用モデル

3.1で述べた項目が、先行研究で達成されていると考えられる。それらの項目を統合した汎用的なストリーミングコンテンツ配信・利用システムは以下である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(図1)既存のシステムの機能を統合したシステム

LOMには、著作者の情報や、その他の著作権情報が記載される。

さらに、LOMの評価について、LOM検索画面において、LOMに対する評判などを掲載していき、検索結果などにも反映させる。

 

1で示したシステム概念図では、非ネットワーク型デジタルコンテンツではなし得なかった、ストリーミング学習オブジェクトを児童が時間や場所にとらわれず自由に利用できることや、ストリーミング学習オブジェクト教師の間でお互いに相互利用することが可能である。

しかし、LOMに著作者の情報や、著作権情報を記載しただけでは、権利者の保護に欠け、有料コンテンツを提供するビジネスからは、コンテンツの提供を受けることは難しい。さらに、有料コンテンツの提供者ではなくても、いつどこで誰が自己のコンテンツを利用しているかについて情報の提供を受けたいという要望があると考えられる。また、現在の有料コンテンツの利用に際して、学校における予算と実際の価格に開きがあり、学校でそれらを購入する余裕はない。しかし、ビジネス側としては、無料では成り立たない。そこで、システムの項目に、

 

j)        権利者が、自己のコンテンツの利用状況をオンタイムで把握できるようにする

k)      オンタイムで把握できる利用に際して、微小の利用単位に対して、微小課金が可能にする

 

という項目を追加することにより、上記の問題が解決され、著作権者の権利保護を既存のシステムより強化しながらも、利用者の利益に配慮し、デジタルコンテンツの流通の促進にあたり有用と考えられるモデルを構築した。

3.3 初等中等教育におけるストリーミングコンテンツ配信・利用モデルに関する著作権法の観点からの考察

著作権法の観点から考えて、あらゆる学習オブジェクトモジュールを、閲覧者のニーズに合わせて、あたかも一つの作品となるように閲覧可能にすることが著作権法上どう扱われるのか考える必要性がある。問題となるのは、同一性保持権である。同一性保持権は、著作者が「その意に反して」著作物の「変更、切除その他の改変を受けない」権利である。「変更、切除その他の改変」と規定されているが、事実と異なる説明文の下に写真を掲載したことが同一性保持権の侵害と認定された事例(平成9年1月30日判決「古代遺跡石垣写真」事件)もあるため、各事例ごとの判断が必要であるといえる。事例のような事実と異なる説明が、ストリーミング学習オブジェクトモジュールを次々と閲覧する場合において行われるとは考え難い。また、閲覧者も学習オブジェクトモジュールを利用していることを理解しているので、その学習オブジェクトがどの単位までが誰の著作物であるのかを考慮することはさほど難しいことではない。「意に反する」かどうかについての判断は、著作者の主観そのものというよりも、法的安定性の見地から、その分野の著作者の立場からみて、常識的に、そのような改変は著作者の意に反するものと通常言えるかどうかの観点から判断するべきである(作花2002)。よって、ストリーミング学習オブジェクトモジュールをあらゆる組み合わせで閲覧することは、同一性保持権侵害とまでは言えない。しかし、個々の事例において判断があいまいになる可能性があるので、本モデルの利用規約、著作権者に対する契約などに、その旨を記載する必要性がある。さらに、個々の学習オブジェクトモジュールの閲覧にあたって、それらの出所を表示する必要性があるが、クレジットとして各モジュールの最後に表示することは考え難いので、何らかの方法で表示することも必要となると考える。

4.まとめと今後の課題

本研究では、初等中等教育におけるストリーミングコンテンツ配信・利用モデルを明らかにした。既存のネットワークを介するデジタルコンテンツ配信・利用システムを検討し、それらで達成されている項目を整理し、まとめた。そして、それら全ての項目を統合して満たすシステムを明らかにし、それらが、非ネットワーク型のデジタルコンテンツと比較して、児童生徒の学習オブジェクトの自由利用、教師の学習オブジェクト相互利用が可能になっている点を指摘した。さらにストリーミングコンテンツの特性を生かし、特に著作権者と利用者の利益バランスの保たれたシステムの実現のための項目を検討した。

あらゆる要因によって不足しているといわれている初等中等教育における教育用デジタルコンテンツの利用に対して、新たなるモデルの提案ができたといえる。

しかし、LOMの付与に当たっての検討、検証、実際の教育効果については、更なる検討が必要である。具体的には、学習オブジェクトモジュールの時間的分割の基準の作成、検証、LOMの項目についての再検討(キーワードの選出の仕方、教科書の目次に対応しているだけではなくあらゆる児童生徒、教師の要求に対する検索結果の表示のためのLOMなど)などである。また、オンタイムに把握できる利用に対して、微小利用単位で、微小の課金を考える場合、その金額が問題となる。教科書が無償で配布される義務教育課程においては特に、その金額について、権利者と利用者の利益バランスを考えた課金の金額や制度設定が必要である。さらに、評判システムによって、一定の学習オブジェクトに対する質などのリライアビリティは保たれるとしても、それらは、利用者の利用しやすさなどに関するものである。学習オブジェクトの質(倫理問題なども含めた)、量、データの損失などの管理、LOM付与に関する管理などの責任の所在をもつ機関が必要である(具体的には、オーサリングサーバーを管理するなど)。教育委員会単位などで、イントラネットを構築し、それにサポートセンターなどを設けて、各学校のサーバーやファイル装置を集中して管理するようなセンターを設けることが進められている。(JAPETe-Japan構想U」検討委員会2004)そのようなセンターにおいて、オーサリングサーバーなどを管理させるなどが考えられる。また、システムの利用を登録制にして、利用者に対する規約、著作権者に対する契約などの整備を進めていく必要性もある。

1http://www.nicer.go.jp/

2http://w3-mcgav.kddilabs.jp/mpeg/marc/

3http://partage.sourceforge.net/

4http://www.merlot.org/Home. po

参考文献

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井上理穂子(2005)Eラーニングにおける第三者著作物利用に関する考察-著作権法第35条におけるダウンロードとストリーミング-. 小宮山宏之ほか(編)インターネット時代の著作権. 慶應義塾大学出版会, 東京(20054月刊行予定)

JAPETe-Japan構想U」検討委員会(2004)ポスト2005年に向けた「教育の情報化」の課題と提言. 社団法人日本教育工学振興会, 東京, 41

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謝辞

本研究にあたって、新しい視点を常に与えてくださった慶應義塾大学熊坂賢次教授、論文の構成などから細かくご指導いただいた慶應義塾大学大学院苗村憲司教授には、深い感謝の意を表します。

Summary

This paper revealed the streaming content delivery and the utilization model in the elementary and primary education.  The utility of the streaming content was clarified by comparing with non-network type moving picture content. And extracting the each function achieved in existing digital content delivery and the utilization model, the model came out by aggregating these functions. In addition, concerning the balance of those stakeholders (copyright owners and students, teachers), the function which have copyrights owners figure out utilization aspects and which can allow copyrights holders to cost users micro money.   And interpreting the copyright law, streaming is said to be "interactive transmission" and “downloading" is said to be "reproduction".  So, less tight agreement or contract can be made for streaming compared with downloading .