2004年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究報告書

 

 

フリーエージェント社会における個の働き方とネットワーキングの研究

 

 

政策・メディア研究科博士課程3年 

昆野安里子(ariko@sfc.keio.ac.jp

 

 

キーワード:マイクロビジネス ネットワーキング ネットワーク組織 エージェント企業 組織機能

 

Abstract

 日本における自営業的な自己雇用者の割合は、就業者全体の24%に及ぶといわれるが、その経営環境は厳しく97年以降減少し続けている。マイクロビジネスの特徴は、組織に依存しないだけでなく、仲間同士の交流や協働、相互扶助、情報交換、信頼関係構築を重視するといわれる。

本研究では開業後も高い満足感で高付加価値を創造するマイクロビジネス(個人事業主と従業員5人以下の零細企業)の原動力を「ネットワーク」にあると仮定し、そのネットワークの拠点である「ネットワーク組織」のエージェント機能とその影響について探る。

This paper verifies the assumption that the participation of a network organization is the significant premise of greater successes of micro business. (In my previous research, micro businesses with network had higher autonomy in their work style and greater satisfaction.) 31 Interviews ware conducted to study the functions of those network organization. Based on this data, three typical organizations were classified by using cluster analysis and they were named as “Large-scale agent company”, “Small-scale agent company” and “voluntary network of self-employed”. Then services and functions were studied and compared among clusters. The results suggest that network organization can be essential if they use each type of network organizations properly.

 

1        研究背景

 

情報化の進化と企業経営のスリム化等によるビジネスシステムの構造的な変化は、組織に束縛されないワークスタイル、ライフスタイルを提供するようになった。典型的な働き方を、単一の雇用主の下でフルタイム定年まで働き続けるものとすると、90年代からは典型労働が激減し、非典型労働(有期契約、パート、派遣社員等)に従事する者が増加した。

日本では「情報通信機器を活用し、場所と時間を自由に使った柔軟な働き方」が「テレワーク」と定義され、80年代から徐々に普及し、90年以降は「SOHO(Small Office Home Office)」という言葉の輸入とともに、自ら独立・開業する自己雇用(Self-Employed)的な新しいワークスタイルが着目されるようになった。社会的にも、非典型労働者は企業の即戦力として、起業家を生み出すナーサリー機能としても期待されるようになり、「マイクロビジネス」「フリーエージェント」「インディペンデントコントラクター」等といった新しい名称のワークスタイルが続々生まれた。

フレキシブルで自律的なワークスタイルのイメージが一人歩きし始め、日本で現在テレワークを実施したいと考える人は、二人に一人といわれ、2000年に日本で「フリーエージェント」の定義に当てはまる人(フリーランスや小規模事業主を含む「雇い主のない業主」「家族従業者」「内職者」)は総数1540万人(就業者全体の24%)と、アメリカと遜色ないほど日本社会にも定着してきた。

しかしその一方で、営業やマネジメント等、すべてを独力で行う形でのマイクロビジネス事業は常にリスクにさらされ、開業後2年は経営的な試練にさらされ、「自営業者」の平均収入は同年齢のサラリーマンを上回ることはないといわれており(玄田2004)、依然として非典型労働者を取り巻く経済環境は厳しい。また、開廃業率から見る「自営業」人口は、他の先進国には見られないほど減少している(1997年1640万人→2000年1540万人「労働力調査年報(総務省)」OECDの各国比較)。このような経済状況の下で独立・開業後も高い満足感を得、高付加価値を創造し続ける自己雇用者はどのような特徴を持つのだろうか。

本研究では、自己雇用者の中からマイクロビジネス(個人事業主および従業員5人以下の零細法人の経営者)に焦点を当てる。また、彼らの成否の要因が、マイクロビジネス同士の協働、情報交換、信頼関係構築を促す「ネットワーク」にあると仮定する。さらに、そのネットワーク拠点として、マイクロビジネスによるネットワーク組織(マイクロビジネスを対象に交流、協働、相互扶助、情報交換等の機能や場を提供する組織)のエージェント機能を探る。

 

2        従来のマイクロビジネス研究の課題

 

「テレワーク」「SOHO」「マイクロビジネス」等の新しいワークスタイルをめぐる研究は、ここ10年で急速に広がった研究領域であり、様々な課題が存在する。

1の問題は「定義の不明瞭さ」である。本研究で対象とする「マイクロビジネス」は(個人事業主および従業員5人以下の零細法人の経営者)であり、「フリーエージェント」にしても、「特定の組織に属さず、仕事単位で組織と取り引きする個人」と定義される。これらの業種や業態などは厳格には特定されていない。そもそも「自営業」「(中小)企業」といった概念の下「自律して自由に働くワークスタイル」は古くから存在し続けてきた中に、「新しい」と称して新たな概念が持ち込まれたのである。そこで「(IT、デザイン、翻訳、コンサルティング等)様々な専門知識・技能を必要とされる分野で複数の取引先から業務委託されて働く」「個人が自律して自由に働くワークスタイル」という偏ったイメージが厳格な定義がないまま使われるようになってしまった点が大きな問題である。

2の問題は、「母集団の曖昧さ」である。これまでの多くの研究が「弱者支援的な在宅ワーク政策」、「地域振興」といったアプローチから行われている。例えば、パソコンを使った女性や障害者の社会進出、自宅における労働環境の改善といった支援策を提言する等、周辺的課題や導入メリットが強調される研究成果である(日本労働研究機構1998等)。これらの研究は「在宅ワーク」であることを条件としているため(1)自宅や小さな事務所で開業している自営業(2)パートタイム労働の代わりに自宅でパソコンを利用して仕事を行う内職的な主婦の両者が研究対象の範疇に入る。そのため、両者の異なった実態とニーズを拾いきれないだけでなく、より支援を必要とする弱者の存在が浮き彫りとなり、「マイクロビジネス」「SOHO」「在宅ワーク」のすべてがマイナーな存在とみなされることとなった。またこのイメージが、ビジネスが順調な多くのマイクロビジネスが自身を「SOHO」「マイクロビジネス」「在宅ワーカー」と考えず、真の意味で独立的、自立的な個人が調査サンプルに含まれないという結果をもたらしている。

このような課題を抱え、マイクロビジネスの実態を探る研究のアプローチは、母集団も多岐で、その都度異なる抽出基準から研究対象者を抽出することになるため、調査結果の一般化も困難であり、マイクロビジネスの活動を探求する目的ではこれまでの研究成果では不十分であるということができる。

 

マイクロビジネス研究の課題と同様、定義や母集団の不明瞭さに問題を抱える企業家研究の領域では、「従来の企業家個人の特性を探るというアプローチ」に代わり、「多様な社会関係の中で存在している企業家」という視点をとり、「状況からの支援」の存在が、起業を決定付ける要因となるとし、そのネットワーキングに着目している(Aldrich1986、金井1994)。「状況からの支援」とは「人的ネットワークから得られる様々な情報、刺激、インスピレーション、資金の入手可能性、有形・無形の支援やアドバイス」であり、これは企業家を継続的社会関係のネットワークに埋め込まれた(embedded)ものとして認識し、社会的ネットワークによって企業家活動が促進されると見なすもので、マイクロビジネスの場合も同じ状況にあると考える。そこで本研究でも、個人と外部との接触状況を意味する「状況からの支援」を主要な概念として取り込み、マイクロビジネスの成否のポイントを、協働、情報交換、信頼関係構築を促す「ネットワーク」にあると仮定する。さらに、そのネットワーク拠点が、マイクロビジネスによる「ネットワーク組織(マイクロビジネスを対象に交流、協働、相互扶助、情報交換等の機能や場を提供する組織)」にあると考える。

 

3        調査概要

 

ここで本研究では、調査対象である「マイクロビジネスのネットワーク組織」を、@会員・登録制等で業務の受発注等を事業とするエージェント企業、A個人事業主の集まりによるNPO法人、B事業協同組合、C任意団体を対称に、それぞれの組織がマイクロビジネスのネットワーキングにどのような影響を及ぼしとどのような役割を果たすのか、インタビューによって探っていった。

本研究で対象とするネットワーク組織は、個人の人脈の広がり、協働の経験など日々の活動に伴い、設立と解散を繰り返す流動的性質を持つことから、母集団の把握は困難であり、ウェブやマイクロビジネスを対象とした情報誌などにも最新の実態を確実に示すものはない。とはいえ「SOHO」「マイクロビジネス」といったキーワードでのウェブからの推測では、実態と活動が伴う組織は最低200程度存在すると見られた。これらの組織を母集団として、調査対象を選定するに当たっては、マイクロビジネスの支援機関である等の会員リスト、情報誌、メールマガジン等を参考に行い、35組織に依頼し、31組織から回答を得た。

 

表1 調査対象

組織形態による分類

調査組織

エージェント企業

15株式、2有限会社

NPO法人

6法人

任意団体等

6団体・グループ

事業協同組合

2組合

合計

31組織

 

調査は、対象組織の形態だけでなく、マイクロビジネスに提供する機能も多種多様であることから、回答範囲を狭めずに深堀が可能な定性調査の形式で行った。調査項目は以下の通り。

 

表2 調査項目

質問項目

主な内容

運営の

仕組み

ミッション、コミュニティの特徴、

サービス内容、組織体制、教育

外部との

関わり方

他組織との連携、情報交換、

顧客・スポンサー確保

ネット

ワーク支援

協働支援、交流会、コミュニケーション手段・頻度、知識情報交換

協働

仕事情報提供、プロジェクト運営、

マッチング、協働のコーディネート

 

4 調査結果

 

4.1 組織形態別の特徴

 

マイクロビジネスが仲間同士で、そのネットワークを組織化する際は、目的に応じて、任意団体、NPO法人、事業協同組合など様々な組織形態が採用される。一方で、マイクロビジネスだった個人が、業務拡大や顧客増加に伴い、営業専属のプロデューサーとしてコーディネートに専念しエージェント企業が法人化される。

それぞれの組織形態は、その事業目的、組織の根拠となる法律に基づき、事業者同士の馴れ合いや揉め事を起こしにくい組織体制を整える。以下、NPO法人、事業協同組合とエージェント企業について形態別に特徴をまとめた。

 

表3 組織形態別の特徴

 

NPO法人

事業

協同組合

エージェント企業

主体

NPO社員

個人事業主

企業

事業

特定非営利

事業

組合員の

支援事業

定款の

事業

主目的

ネットワーク

教育等

相互扶助

仕事仲介

ネットワーカー

個人

組合員

企業

つながり

横関係

横関係

縦関係

営業主体

 

組合員

企業

議決権

平等

平等

応出資

組織の拠り所

NPO法

協同組合法

商法等

4.1.1 NPO法人、事業協同組合

まず、NPO法人と事業共同組合についての主な特徴をまとめる。

 

これらの組織の設立母体は、同業者同士での仕事獲得、あるいは、同業者同士の交流を目的とした自然な横のつながり、インフォーマルな交流会などを通じたネットワーク、発起人の知り合いのネットワークである。

 

そのため、仲間同士が組織化することで仕事獲得を目指す場合は、NPO法人、あるいは事業協同組合の形態を採用し、組織化を行う。特に、事業協同組合の場合は、「組合員の事業支援」自体を事業とする特性を持つため、独力では困難な規模・種類の仕事獲得等、業務獲得に主眼を置いた活動、互いの利益を考慮した活動が行いやすいという特徴がある。ただし、事業協同組合では、組合員が組合の営業マンであり、仕事獲得ができる組合員の存在が組織の発展の鍵であり、横の連携関係はある程度ビジネスライクな関係となっている。

 

一方で、仲間同士のネットワークが目的の組織では、「交流」「相互扶助「情報交換」「地域振興」等が主な活動内容で、組織としての仕事仲介や斡旋は公には行われない。しかし、組織での活動を通じ仲間同士の交流が深まった結果、付随的に仕事や協働関係が発生するといった傾向が見られ、その組織への参加が仕事獲得にも間接的に貢献する様子が見られた。

 

このような任意団体、NPO法人、組合組織からは、習熟度合いが進むに連れ、力を付けた個人がそのネットワークから自立・退出し、一方で新規のメンバーが次々入ってくる循環が常に存在する。しかし、紹介や口コミからネットワークを広げる性質があり、急激なメンバーの増加や入れ替わりは稀であった。

 

このような組織の運営はほとんどの場合はボランティアが担当する傾向があるが、組織の代表として外部と関わることで自身のネットワーキングの間口を広げ、より組織化のメリットを享受する様子が見られた。

 

4.1.2 エージェント企業

 

エージェント企業では、参加するマイクロビジネスはエージェントと請負の縦の関係であり、営業や意思決定の主体は企業にあるため、マイクロビジネスは複数の同様の組織を使いわけ、様々な組織から仕事獲得を目指すことが可能である。

 

組織形態としては、(1)一般に登録者を募り、数百人から数万人規模のマイクロビジネスを抱えるエージェント企業(多くは株式会社)と、(2)仲間同士の協働ネットワークのエージェント企業(有限会社や個人事業主)の2パターンが存在する。

 

(1)の場合は、多数の応募者の中から選抜し仕事を受注する形態であるため、スキルが高く信頼が厚い人が常に仕事を獲得する傾向にある。そのため、エージェント企業での業務に合ったスキルやエージェントとのつきあいがなければ、新規登録者にとっての仕事獲得は困難という側面を持つ。

 

(2)の場合は、仲間に対する業務依頼は仕事の一部であり、請負業務の一部を行うこともある。また協働するマイクロビジネスも各自で仕事を獲得する力を持つため、対等な関係にある場合が多い。そのため、単なる請負関係で協働をするのではなく、自分の顧客や将来の利益を見越し、相互発展できる仲間を常に求める。また、事業拡大に伴い一般に登録者を募る(1)のようなエージェント企業へと変貌する場合もある。

 

3.2 ネットワーク組織が提供する機能による類型化

 

 それぞれのネットワーク組織に対するインタビューの結果、組織機能、運営の仕組み、マイクロビジネスに対して提供するサービスには、ある程度傾向があることがわかった。ネットワーク組織の機能は以下の「@業務の仲介機能」「A組織の体制化機能」「B自律支援機能」の3つにまとめられる。ただし、すべての機能を満たす組織が存在するということではなく、一つ、あるいは二つの機能に注力した組織も存在し、その多様性をまとめるため、それぞれの機能を尺度としてクラスター分析を実施した。

 

表4 ネットワーク組織の機能

業務の

仲介

機能

プロジェクト

仕事ごとにマイクロビジネスをプロジェクトにまとめる

マッチング

クライアントからのニーズで登録者の中から人選し仕事を受注する

仕事情報の

提供

顧客からの仕事情報の直接的な提供

組織の

体制化

機能

 

人材登録

自分のプロフィールなどの登録による会員整備

人材選抜

登用

継続的に仕事を請けるマイクロビジネスを優先し、最終的にはリーダー的存在に登用する

必要人材育成

継続的に仕事を請けるマイクロビジネスを

対象に必要な知識・スキルを教育

自律

支援

機能

交流・

ネットワーク

ML・掲示板、交流会等による

マイクロビジネスのネットワーキング支援

相談・

アドバイス

トラブル対応、事業拡大などを含む

相談窓口の設置

仕事以外の

情報提供

交流会、講演会の予定、行政や自治体の支援等についての情報提供

営業力支援

マイクロビジネスが独力で仕事を獲得するための営業支援

業界底上げ

教育・啓蒙

一般的なマイクロビジネスの業務についての

研修、講演会など・啓蒙活動

 

ここでは組織形態に関わらず、それぞれの組織が持つ機能の有無を独立変数とし、階層型クラスター分析(郡均等法、平方ユークリッド距離)から樹形図を作成し、サンプルの類型化を試みた。その結果、調査対象組織は大きく3タイプに分類された。

 

表5 階層型クラスター分析結果(デンドログラム)

 

 

 

まず、類型1の「小規模エージェント(8サンプル)」は、限られた人と協働を行う、一般向けの登録、教育、仕事情報は行わないといった、自律したマイクロビジネス同士の業務を媒介にしたネットワーク組織であるということができた。次に、「大規模エージェント(17サンプル)」は、登録会員数も多く、協働、斡旋、仕事情報提供、交流会、育成、交流等の多機能を備えるネットワーク組織であった。最後に「個人事業主ネットワーク(6サンプル)」は、各種情報提供、交流、教育、相談受付を中心とし、業務仲介機能を持たないという特徴が見られる。

表6 類型別にみた組織機能の有無

組織が提供する機能

クラスター別平均

1

2

3

全体

業務

仲介機能

プロジェクト

1

0.94

-

0.77

マッチング

0.50

0.76

0.33

0.61

仕事情報の提供

-

1

0.33

0.61

組織

体制化

人材登録

0.13

1

0.33

0.65

人材選抜登用

0.38

0.65

-

0.45

必要人材育成

-

0.76

-

0.42

自律

支援

交流・ネットワーク

0.13

0.94

1.00

0.74

相談・アドバイス

0.13

0.59

0.33

0.42

仕事以外の情報提供

-

0.82

0.83

0.61

営業力支援

0.13

0.35

0.83

0.39

業界底上げ教育・啓蒙

-

0.76

0.83

0.58

サンプル

8

17

6

31

(機能がありは1無しは0で、クラスター毎の平均値を示す)

 

 以下は、「業務仲介機能」「組織体制化機能」「自律支援機能」という3つの機能からそれぞれの類型別特徴を探っていく。

 

4.2.1 業務仲介機能

 

 業務仲介機能がどのような影響を持つのか、マイクロビジネスのネットワーク化と業務の関連性を見るという視点からで考察した。(1)プロジェクト機能は、仕事ごとにマイクロビジネスを選抜し、協働で仕事をまとめる機能、(2)マッチング機能は、クライアントからのニーズで登録者の中から人選し仕事を受注する機能、(3)仕事情報提供機能は、ML等によって顧客からの仕事情報を流す機能である。

表7 類型ごとの業務の協同と斡旋の様子

類型

協働の

タイプ

具体的な仕事の協働と斡旋

(1)

小規模

プロジェクト型

業務をプロジェクトとして、マイクロビジネスが対等な立場で協働する。

(2)大規模

斡旋型

業務を一人単位に細分化し、マイクロビジネス個人に丸投げする。進捗管理や納品・検品はリーダーか社員が行う。

(プロジェクト+斡旋の)

複合型

@とAの複合型。限られた力のあるメンバーがプロジェクト型の業務を行い、その他の人が斡旋型で業務を行う。

 

類型1の「小規模エージェント組織」では協働・プロジェクト機能のみが提供され、限られた仲間とのみ協働でプロジェクトを行う傾向にある。業務は組織のトップが口コミで信頼できる同業者を探し、プロジェクト都度協働の依頼を行う。そのため、協働相手はスキル、信頼性に加え、人柄、コミュニケーション力、相性など、厳しい目で見極められる。このことから、一度信頼関係を築いた相手とは長期に渡って協働関係を続け、相手の仕事状況まで理解する程の関係になる。

 

一方、類型2の「大規模エージェント」では、「プロジェクト」「マッチング」「仕事情報提供」の機能を持つ組織が類型化されている。業務は、登録者に仕事情報を流し、応募者を募り、選抜したメンバーに業務を委託する。そのため、常時限られた力のあるメンバーが協働プロジェクトを行い、比較的キャリアの浅いメンバーが斡旋型の仕事を行う傾向にあり、その進捗管理や納品・検品はマイクロビジネスのリーダーや社員が行う。

 

4.2.2 組織体制化機能

 

組織体制化機能は、規模が拡大した際に組織として対応できるか、専門性が高く信頼のおけるマイクロビジネスを如何に確保するか、新しい登録者・仲間を如何に組織に加えるか、という視点で捉える。

 

(1)人材登録は、一般からの登録であり、「登録制」を採用することで、仕事量の増減に対応できる体制を整えられる。(2)人材選抜登用は、長期的な協働関係を結ぶ個人を業務の一部を束ねるトップリーダー的な位置づけに登用する機能である。また登用する際に、営業やマネジメントの方法を研修するといった(3)必要人材の育成を行う場合もある。

類型1、3の場合は徐々にそのネットワークを広げる性質から、組織体制化機能を持ち合わせない場合が多く、主に類型2の大規模エージェントが充実した組織体制化機能を持っている。

 

4.2.3 自律支援機能

 

自律支援機能は、主に類型2の大規模エージェント、類型3の個人事業主ネットワークによって提供される。

 

タイプ2の大規模エージェントは、支援の対象者を広く募り、情報提供(仕事情報含む)、講演会・交流会、相談機能等を提供する場合が多い。これは、組織として確保したい人材が常に仕事を継続できる環境を整備するためであり、交流機能等も充実している。

 

一方で、類型3の個人事業主ネットワークの場合は、交流・ネットワーク支援が、組織の目的である場合が多く、情報提供や交流会、相談・アドバイスなどの機能も持つ。しかし、これらの組織が相互扶助の枠を超え、一般を対象として啓蒙教育、講演会や交流会の主催、相談窓口を設置する場合は、運営コストが大きく収益性がないため、完全なボランティアになることが多い。また、規模が小さい組織ほど、支援機能の提供は困難となっていた。

 

このような中で仕事への気概を持つ人は、複数の組織から徐々に自身のネットワークを構築し、力をつけて自立する。あるいは、支援機能を提供していたエージェント企業や個人事業主ネットワークに登用されていく傾向があった。

 

表8 類型別、組織形態別の自律支援機能の特徴

類型

(2)

大規模エージェント

(3)個人事業主

ネットワーク

支援主催者

(エージェント)企業

NPO・

任意団体

自治体

募集するマイクロビジネス

初心者

初心者

中心

自営業者

中心

支援以外の目的

登録者の拡大

ネットワーク拡大

地域振興

拡大手段

ウェブ・

広報

口コミ・

紹介

地域ベースの交流

(情報提供以外の)自律支援

教育事業

講演・交流会開催

講演・交流会

相談会

相談事業

講演会・交流会

参加者への意識

お客様

仲間

利用者

 

5 まとめ

 

5.1 ネットワーク組織が抱える課題

 

ネットワーク組織の機能をまとめると、(1)業務仲介機能、(2)組織の体制化機能、(3)ネットワーキング機能、(4)自律支援の4機能があげられた。ただし、それぞれの組織形態毎にその提供機能の有無、力の入れ方が異なることから、ニーズに応じてそれぞれを使い分けることが重要である。

 

このようなネットワーク組織は、人の出入りについての自由度は必然的に高い。そのため、組織として、傘下のマイクロビジネスや顧客が満足するような成果を出しても、その経験・ノウハウは組織外部のマイクロビジネスに蓄積され、組織内への集約は困難である。そのため、これに対応できる組織体制、仕組みを如何に作りこんでいくかが課題となる。また、これに関連して、他者からの信頼性が高く多様なネットワークを持ち、他組織でも評価されるような人材をどのように組織に取り込めるかが組織の発展の鍵となる。また、一人のマイクロビジネスからネットワーク組織を立ち上げ、事業を継続し、拡大するに当たっては、(1)組織拡大や組織機能の意味を戦略的に考えられない、(2)人材不足、適切な人がリーダーシップを発揮できない、(3)組織運営上のルールや組織図が作れない、(4)必要なネットワークや支援を作り出せない、(5)登録者に対応する適切な仕事を生み出せない、といった課題がみられた。

 

これに対して、事業規模が大きいエージェント企業は、マネジメントの一部を社員が行い、データベースを作る、マニュアル化するなどの作業を行い、組織トップは社長業に専念する、提供サービスを増加させるということで対応してきた。その一方、個人事業主のネットワークによる組織、支援組織の場合、多くはボランティアでマニュアルやデータベースを整え、徐々に組織体制を整える。

 

しかし、組織として「仕事」「人」が絶えず出入りする環境の中では、規模が小さい組織ほど、組織拡大を見越した組織の体制化は困難であり、高コストの設備投資、教育投資、知識集約等までは手が回らない。そのため、小規模の組織ほど試行錯誤が常に繰り返されていた。

 

5.2 本研究の課題

 

最後に本研究に関する限界を幾つか述べる。第1に、調査対象であるマイクロビジネス組織が、日本全国にどの程度の母集団があるのか、特定できておらず、サンプルにも偏りが否めない点である。第2に、定性調査結果から主観的に組織機能を解釈したデータセットを作成し、類型化を行った点である。それゆえ、本研究で見出された傾向が母集団全体にどの程度当てはまるか、類型化と組織形態の多様性が不明瞭な点である。今後、これらの点を勘案しながら、マイクロビジネスのネットワークを規定する組織要因をより定量的に特定する試みが望まれる。

 

6 参考文献

 

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中小企業総合事業団(2001)「SOHOビジネスの動向調査―SOHO事業者および支援機関の日米比較―」

(財)社会経済生産性本部(2000)「SOHO支援機関(エージェント)の実態に関する調査研究報告書」

玄田有史(2004)「ジョブ・クリエイション」日本経済新聞社

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生命保険文化センター(2001)「ワークスタイルの多様化と生活設計に関する調査」

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日本労働研究機構(1998)パソコンネットワークに集う在宅ワーカーの実態と特性