2004年度 森泰吉郎記念研究振興基金 成果報告書

リアルな質感を有する3次元モデル生成の研究
森田正彦
慶応義塾大学 政策・メディア研究科 後期博士課程1年


1. はじめに 2. 透過率・拡散率の測定 3. 任意照明条件に対応した色情報の取得 4. デモシステム 5. おわりに  References

1. はじめに

近年、3次元画像計測技術の向上に伴い、高精度な3次元形状計測と色情報の取得を可能とした製品が普及しつつある[1][2]。今後、これらの製品を用いることで誰もが手軽に3次元モデルの作成および利用が可能になると予想できる。このような3次元画像計測の現状から次世代の3次元画像計測に要求される要素を考えた場合、”リアルな質感を表現するための情報の取得”ということがあげられる。そこで下記項目について研究を行った。

また、本研究の有効性を示すために、立体投影システムを利用したインタラクティブコンテンツの開発、デモンストレーション展示を行った。



2. 透過率・拡散率の測定

2.1. 透過率とは、入射した光を物体が吸収する比率をあらわしたものである。半透明物体の色をd=[dR, dG, dB]T、半透明物体の各色成分の透過率をa=[aR, aG, aB]T、背景像の色ω=[ωR, ωG, ωB]Tを、背景像をバックに半透明物体を見た際の色をψ=[ψR, ψG, ψB]Tとした場合、ψ,ω,d,aには次式の関係がある。

ψ = ( I - a [1,1,1] I )  + a ω.  (1)

ここでI は単位行列を表す。

物体の透過率を測定する透過率計についてはJISの全光線補償法に規則が詳細に定められており、それに則ったさまざまな製品が販売されている。しかしながら、これらの製品が対象とするのは、レンズ、フィルタ、ガラス、ガラス基盤シリコンウェハなどの人工物であり、さまざまな物質が複雑に混ざり合った半透明物体の透過率を画像の画素ごとに測定するといった用途に利用することは難しい。そこで、画像から式(1)を利用することで画素ごとの透過率を簡易的に測定する手法を提案した。
※特許出願に向けて準備中のため詳細は伏せさせていただきます。

本手法を用いることで、昆虫の羽根などといった複雑な自然物の透過率を取得することが可能となった(下図参照)。


(Keio University, Japan)
 

2.2. 本研究が扱う拡散率とは、例えば印刷された用紙の上に無地の用紙を重ねて置いた際に、印刷された文字が無地の紙に写りこむような現象のことを言う。この拡散率には下図に示すように、距離に応じてボケ率が増加するといった特性がある。

※特許出願に向けて準備中のため詳細は伏せさせていただきます。

本手法を用いることで、画素ごとの簡易的な拡散率を取得することが可能となった(下図参照)。

実際の映像 本手法によって生成された映像
 



3.任意照明条件に対応した色情報の取得

今年度はまずは実験段階として下図に示すような900本の光ファイバーを用いて、プロジェクターから照射された像を対象物体に照らすシステムを作成した。

目的:物体表面に任意の照明条件を作り出すための装置を開発する。
期待される効果:利用環境の照明条件を考慮した任意の照明を容易に再現できるようになる。これにより映画などCGを用いて実映像に3次元モデルを合成する際に違和感のないテクスチャを提供することが出来る。また、あらゆる照明条件を取得しておくことでインタラクティブコンテンツに対応することも期待できる。

実際には照射部の先端に結像用のレンズが必要となった。また、受講部とプロジェクターの間に集光用のレンズを挟むことで、より効果的な照射が可能であることが判明した。本照明は光ファイバーによって接続されているため、照射部の位置を容易に調整可能である。

これを踏まえ、来年度はドーム型の照明装置を開発する予定である。



4. デモシステム

本研究の有効性を示すために、偏光式の立体投影システムを利用した、インタラクティブコンテンツを開発、展示した[3][4]。コンテンツの内容は次の通りである。

web3Dとして作成したデモを示す。web3D版ではマウスをクリックしている間、蝶が集まってくる。

また、実際にデモコンテンツの開発、展示を通して利用面から要求されるリアル性について下記の項目が重要であると感じられる。

今後はこれらの項目を意識したコンテンツ開発を行うとともに、新たに要求される項目について意識していく必要があるといえる。



5. おわりに

本年度の研究成果によって、半透明物体の透過率・拡散率の測定、および表現法はほぼ完成した。また、試作した照明装置を改良することで来年度には任意照明条件に対応した色情報の取得を完了させる予定である。

本研究プロジェクトでは3次元画像計測装置の開発も行っており、前年度までの研究成果として1通の論文を投稿した[5]。来年度の研究の準備として市販のビデオキャプチャ装置を利用した撮影の高速化のための基礎実験も行った。昨今のビデオキャプチャ装置にはリアルタイムに利用可能な高精度の補完機能が実装されているため、コンピュータはノイズ除去等の負荷から開放され、流れ込んできた情報をリアルタイムに3次元モデル化できるものと期待している。

本研究プロジェクトでは他にも本撮影装置によって作成されたweb3Dコンテンツを公開しており[6]、来年度はコンテンツの充実を図るとともにあたらしいコンテンツの開発にも挑戦したいと考えている。これらの目標を達成するためには、2005年度、森泰吉郎記念研究振興基金に採択されることが重要である。



REFERENCES

[1] JFEテクノリサーチ株式会社, "3次元形状計測装置TRiDY", , Nov, 2004.

[2] NEC, "Danaeシリーズ", 2003.

[3] Micro Archiving Project, "OPEN RESEARCH FORUM 2004”, 2004.11.23〜24.

[4] Micro Archiving Project, "第3回 湘南四大学 産学交流テクニカルフォーラム", 2005.3.11〜12.

[5] 森田正彦, 斎藤達也, 栗原聡, 小檜山賢二, “スリット光を用いた3次元モデル撮影システムの設計と実装”, ビジュアルコンピューティング特集号, vol.33, No.4-B, 画像電子学会, 2004.

[6] Micro Archiving Project web site