2004年度 森泰吉郎記念研究振興基金 成果報告書

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 後期博士課程
小野田哲弥


 

 研究課題


“未来からの文化発掘”を基本コンセプトに、20世紀末の日本文化の有様を客観的なデータとして後世に残したい。これまでの文化事象の代表性は、マジョリティからの支持、あるいは専門家の権威付けによって成り立っていたが、将来的な多様化を前提とするとき、既存セオリーは変革を迫られるに違いない。その未来像を見据え、インターネット社会調査で得たデータと、ニューラルネットワークを応用した解析技法によって現代文化の構造を可視化する。熊坂研究室が社会調査サイトの実データを基に開発してきた分析モデルを用い、18の個別ジャンルと相互の関連性を分析し、それらを踏まえて分析モデルの精緻化をも達成するのが、本年度の研究目標である。

 



 成果概要


■方法と過程

本研究のメソッドの詳細およびプロセスは、以下のページを参照されたい。
http://www.mag.keio.ac.jp/~ond/som/

■成果一覧

9つのジャンルで解析を達成し、2つの論文を提出した。

ジャンル名
担当者
成果
1
男性タレント 伊藤江里 卒業制作 [PDF]
2
海外旅行 小野田哲弥, 井上裕史 観光に関する学術研究論文 [PDF]
3
洋楽 牧力爾 クラスターツリー図 [MS-PowerPoint]
4
文芸 大脇隆広※ クラスターツリー図 [〃]
5
洋画 中村有沙 クラスターツリー図 [〃]
6
雑誌 濱岡沙織 クラスターツリー図 [〃]
7
TVアニメ 荒井大樹 クラスターツリー図 [〃]
8
野球 小野田哲弥 クラスターツリー図 [〃]
9
都市空間 井上裕史 クラスターツリー図 [〃]

※特別指導:M2松尾妙氏(ありがとうございました)

 



 新規性と課題


■本年度の新規性

特筆すべき本年度の新しい成果として挙げられるのは、
「アイテム間得点のヴィジュアル化」と「クラスターツリー」の2点である。

◇アイテム間得点のヴィジュアル化

「アイテム間得点」とは、2002年に小野田が開発した、
アイテム同士の関係性の強度を測る尺度である。今年度、
伊藤貴一氏の協力により、下記のように可視化することに成功した。
これは解析と解釈の融合を図る上で非常に有効なツールとなった。


例)雑誌Layer3のアイテム間得点

◇クラスターツリー

申請時にはなかったのが「クラスターツリー」である。
これは解釈が困難な「メディアマップ」の問題点を軽減かつ補完すべく
開発された、自明性の再現を目的とした樹形図である。

その作成手順については、上記成果概要に詳しいが
レイヤー内でクラスタリングを行ったのち、全クラスターに相関ルールを適用する。
下位レイヤーのクラスターをBody、上位レイヤーのクラスターをHeadとした時、
最大のCofidenceを示すクラスター同士を結合させる方法である。

この開発も、解析と解釈の融合を大いに促進することとなった。


■課題

申請時には15ジャンルの解析を達成すると目標を述べたが
遂行できたのは10ジャンルに満たなかった。
来年度も継続的に研究を進めることで、ぜひ残りのジャンルの解析も完了し
トータル18ジャンルの相互関連性分析に着手したい構えである。

ただし本年度新たに得た上記ツールは、解析と解釈の融合を助けるばかりでなく
効率性の観点からも飛躍的な進化を我々にもたらした。
これらを活用することで、迅速かつ高精度の分析が期待できると考えている。

 

 
 2004年度の対外発表


■本研究の固有実績

  1. 小野田哲弥
    「インターネット社会調査データの統計的補正とSOMによる可視化」
    (応用統計学会第26回シンポジウム, 久留米大学医学部筑水会館, 2004.5.28)
    http://www.applstat.gr.jp/news/Sympo_2004_pgm.html
     
  2. 小野田哲弥
    「ネットワーク社会に適合した社会調査法とデータ解析技法の提案」
    (統計連合学会2004年度連合大会, 富士大学, 2004.9.5)
    http://www.ajss.gr.jp/2004R/all1.pdf [PDF]

  3. 小野田哲弥
    「多様化した文化事象の構造把握に向けた手法開発」
    (第38回数理社会学会大会, 山形大学小白川キャンパス, 2004.9.20)
    http://wwwsoc.nii.ac.jp/jams/japan/JAMS38NP_R.doc [MS-Word]

■本研究の応用実績

  1. 妹尾紗恵, 小野田哲弥
    「料理レシピサイトにみる現代家庭料理の実態」
    (日本消費者行動研究学会第29回コンファレンス, 早稲田大学, 2004.11.21)
    http://www.jacs.gr.jp/confarence_record/documents/program29_000.pdf [PDF]

  2. 小野田哲弥, 細田雄一, 妹尾紗恵
    「インターネット社会調査を活用したテレビ視聴質分析への取り組み
    〜2004年バラエティ番組相関図とその評価分析〜」
    (第39回数理社会学会大会, 新潟国際情報大学新潟中央キャンパス, 2005.3.5)
    http://wwwsoc.nii.ac.jp/jams/japan/JAMS39NP.htm