中国携帯電話利用に関する社会学的調査

2004年 森泰吉郎記念研究振興基金研究報告書
華金玲(はな きんれい)hana@sfc.keio.ac.jp
政策・メディア研究科博士課程2年 80366269
February 5,2004

研究概要                                                       

 携帯電話を媒体とするコミュニケーション様式は、われわれの日常生活の諸側面、人間関係、コミュニケーションのあり方に直接・間接的に影響を及ぼしている。本研究は、特に世界一の携帯電話ユーザー数を有する中国を中心に広がりつつある携帯電話の諸事情を研究対象とする。

研究課題                                                       

 2004年一年間にわたる研究活動は、大きく分けて3つある。
 1.)携帯電話普及の地域間格差が激しい中国における携帯電話市場の成長、

 2.)中国における携帯電話の利用調査、
 3.)大学生の携帯電話利用の特徴から「中国大学生の携帯電話文化」的要素の考察。
 以下のようにそれぞれ報告することにする。

1.携帯電話普及の地域間格差が激しい中国における携帯電話市場の成長
 中国では国家全体の政策はもとより、各地域は経済状況や地理環境によって、携帯普及状況が大きく異なっている。例えば2003年末北京の携帯普及率が77.48%であるのに対して、全国一番低い地域である貴州省がわずか8.6%で、その差が9倍以上である。このような違いが各地域の携帯利用にも影響し、地域ごとの携帯利用もそれぞれ異なった特徴をもっている。
 3大地域(沿海部・中部・内陸部)ごとの携帯電話普及のシフト(5年ごとの変化)

 各地域の携帯電話普及率とそのユーザー数の伸び率を明らかにし、軸別に分析する。以下の公式を用いて、2カ年度(19982003)における各地域携帯電話普及率(当該年度の各地域携帯電話普及率/全国平均携帯普及率)とユーザー数の伸び率(当該年度の対5年前の伸び)を算出し、グラフ化した。全国平均値を交差点の1とし、中国各地域の普及率対全国平均の倍率、伸び率対全国平均の倍率を象限横軸と縦軸に示した。
 ここでは中国で大分けしている3大地域ごとのシフトをグラフ化した。3大地域とは、沿海地域10地区(北京、天津、遼寧、上海、江蘇、
江蘇、福建、山東、広東、海南)、中部9地区(河北、山西、吉林、黒竜江、安徽、江西、河南、湖北、湖南)、内陸部12地区(内蒙古、広西、重慶、四川、貴州、雲南、西蔵、陜西、甘粛、青海、寧夏、新疆)のことであり、中国による行政的区分である。
 この3つの地域における携帯電話普及率と伸び率を以下の方程式で指標を算出しポートフォリオにした。

  98(03)年同年度各地域携帯普及率       98(03)年各地域ユーザー数/93(98)年各地域ユーザー数 
98(03)
年同年度全国平均携帯電話普及率    98(03)年全国平均ユーザー数/93(98)年全国平均ユーザー数

 これにより2つの結果が出た。
 (1)特に、中国携帯電話が急速に伸び始めた1998年より2003年までの5年間では、地域間の格差はあるものの、その差は縮まり、交差点1の全国平均値へと集中し始めている。
 (2)3大地域内の格差も縮小し、特に内陸部の携帯電話の伸び率が高い。 
 しかし、これらは3大地域の枠でみたシフトであり、今後は31地区ごとの分析が必要不可欠である。これにより3大地域の枠ではとらわれない各地区における携帯電話の成長パターンが抽出可能と考えている。

2.)中国における携帯電話の利用調査
 移動通信技術の進化で、新しいメディアとしての携帯電話が身分や社会的地位といったステータスから、日常生活の一部になってきた。このような携帯電話には、ニューパーソナルコミュニケーションツール(メディア)としての機能と24時間装着可能という両面性がある。この両面性から携帯に付随しているコミュニケーションの取り方や、メディア利用に関する中国人の使い方と考え方の可視化が可能になった。

公共空間(地下鉄、レストラン、天安門広場)における携帯電話の利用
 
中国清華大学新聞与伝播学院(マスコミュニケーション学院)の協力で、北京市の電車や、地下鉄にて携帯電話を利用する場面について調査した。調査結果は整理中であるが、現時点の結果が以下にまとめる。
 日本では公共空間、特に電車内では携帯電話の利用が望まれていないようですが、中国では携帯電話の利用を「遠慮してくだい」というような掲示は全く目にしない。電車内や地下鉄内での携帯電話利用もその他の公共空間と同様に無意識に行われている。
調査期間:予備調査4月23日〜05月9日
      10月20日〜10月31日
調査場所:北京地下鉄1号線、2号線、13号線
調査手法:携帯電話利用者と携帯電話利用者に対する周囲の非携帯電話利用者の反応についての参与観察とその場の観察ノートの記録
調査対象場面:携帯行動(携帯でメール、電話、ゲームなど携帯を手にする行動)者、その他の乗客
調査結果(整理中):
@ノイズについて(電車内)
 携帯電話の着音について、周囲の乗客は95%が無反応に近い振る舞いをしている。中では着音がなる前の姿勢や視線をを保っている人が96%。
A携帯電話が鳴ったときの反応(電車内の携帯電話利用者として)
 車内では、着音が鳴った人のうち、席を立って場所移動してから通話開始した人がわずか5%。それ以外の人は場所移動をしないままで通話をしている。


  

   

Bレストランでの携帯電話利用
 電車以外の公共空間として、レストランでの携帯電話を観察し、記録した。
 結果は整理中であるが、一緒に食事する人によって携帯電話の利用が異なることが言える。
 上司や先生、仕事仲間といった人たちの場合と親友や家族との場合が明らかに違う。前者の場合は、相手から「電話だよ」と進めてくるケースと、自ら断って場所移動してから出るケースがあるが、家族の場合は回りに対してほとんど無意識のうちに携帯に出て、場所移動はほとんどしない人が多い。
 また、一緒に食事している人の反応も、前者と後者の間で明らかに違う。前者の場合は、携帯電話利用者が場所移動しているので、その場のコミュニケーションは継続されている。しかし、後者の場合は、親友や家族たちはその携帯電話利用者の電話が終了するまで待っていることが多い。後者に対してインタビューしたところでは、「今電話中なので、今ほかの話をすると後で携帯電話利用者にもう一度はなさなければならないので、待っている」という。
 これについては、携帯電話利用者が場所移動していないから周囲の人が「電話中」であることを気を使っているのか、もしくは携帯電話利用者が「この場」でのコミュニケーションが成り立つのに不可欠な存在であるため、「待っている」のかは再調査し、検証する必要がある。

3.)大学生の携帯電話利用の特徴から「中国大学生の携帯電話文化」的要素の考察
調査場所:大連市
調査時間:予備調査4月23日〜05月9日
     10月31日〜11月07日
調査手法:大学生16人に携帯電話利用履歴日誌を記録してもらい、その日誌をもとにとインタビュー
調査対象:大学生の携帯電話利用
調査結果(整理中):
@利用対象
 今回調査した16人の大学生の携帯利用履歴から、寮友(同じ寮に住む友達)が最も多いことが分かった。
 中国では、大学に入ると大学寮に入ることが一般的で、一つの部屋に4人から6人が入り、お互いが同じクラスや同期の学生が多い。場合によっては大学4年間まったく仲間と一緒に送ることもある。このような寮友は家族同然のような存在であり、寮にいないときは、お互いの行動を確認しながら、コミュニケーションをしている。中では日常的なことが多い。例えば、「テキストを忘れたので、教室まで届けて欲しい」や「雨降りそうだから、洗濯物を片付けて欲しい」、「寮の鍵をわすれたので、学校の近くにいるなら帰ってきて!部屋を開けて欲しい」のような連絡が多い。同時に、「寮友が今自分にとって一番親友であり、一番大切な存在」だと言っているが多かった。

A利用ツール:SMS(ショートメールサービス)
 もっとも多く利用しているのがショートメール。これを選ぶ理由として、「通話よりも低料金でメッセージを伝えられる」が一番多く、その次に「相手の都合の良い時間で見れる」であった。

2004年研究成果                                                               
1.華金玲,小檜山賢二,「普及状況からみる中国携帯の地域性」情報処理学会・情報システムと社会環境研究会, 2004.03.23,専修大学
2.華金玲,小檜山賢二,「中国における携帯電話ユーザーの分布と普及率」,第21回情報通信学会大会, 2004.06.19,明海大学(千葉)
3.華金玲,小檜山賢二,「中国における小霊通(PHS)の急増要因分析―北京小霊通市場を中心に―」,第21回情報通信学会大会,2004.06.19,明海大学(千葉)
4.華金玲,小檜山賢二,「中国小霊通(PHS)の動向」,日本コミュニケーション学会第34回年次大会,2004.06.19, 拓殖大学(八王子)
5.華金玲,小檜山賢二,「中国における小霊通(PHS)市場戦略に関する一考察ー小霊通の政策と事業者の戦略からー」,電子情報通信学会無線通信システム研究会,2004.08.26, 北海道大学

今後の予定                                                                  
 北京市における公共空間と大連市における大学生の携帯電話利用についての調査結果を整理しつつ、論文をまとめていく予定である。
  また、地域間の格差研究でが、更なる調査地域の選定や、より厳密な調査手法の見直しを今後の課題としていきたい。