2004年度 森泰吉郎記念研究振興基金 報告書

「福祉ボランティアの力を生かした高齢者生活支援地域施設の研究」

宿谷いづみ

政策・メディア研究科 博士課程

 

 

1)研究概要

 

本研究は,福祉ボランティアに参加する「個人の活動」の視点から、日本において1960年代後半から現在に続くコミュニティケアにかかわる政策動向における、コミュニティにおける社会福祉を推進するための日常生活圏域の論理、都市政策の変遷の把握、この中でのボランティアの利用した活動拠点、及び活動の実態等、福祉ボランティアの活動拠点利用を巡る状況を,ヒアリング調査,文献調査を通して明らかにする。80年代より現在まで活発な住民参加型在宅福祉サービスを展開する福祉ボランティア団体を対象に、活動拠点利用状況と活動実態との関係をアンケート調査により明らかする。そこから地域の福祉ボランティアの活動活性化のための活動拠点の要件を導きだし、これまでの国、地方自治体等による政策が描いてきたボランティア活動に資する活動拠点と現状との比較を行い、活動実態に即した活動拠点整備の方法を、地域の既存地域施設の活用による地域活性化という枠組みの中で、既存地域施設の活用の可能性を検討することを試みる。そして高齢者の自立支援、ボランティアの自己実現に資することにより市民の力を活かす、高齢者生活支援地域施設の計画手法の提案を試みる。

 

 研究計画提出段階では,ボランティア活動のうち,地域福祉に関わるものについて扱う予定であったが,介護保険制度改正により食事サービス(会食サービスと配食サービス)の重要性が高まること,食事サービスが活動拠点に左右されやすい性質を持っていることを鑑み,本研究は配食ボランティアに焦点を当て,ボランティア活動を支援する地域施設の要件を探ることを目的とした。

 

2)調査報告

2−1)わが国における配食ボランティアの展開と既往研究

文献調査により,1962年からボランティアにより始められた配食サービス,東京武蔵野市,横須賀キリスト教社会館,東京老人ホームの先駆的事例,その後1980年代の住民参加型在宅福祉サービス団体によるふれあい型食事サービスの普及,介護保険制度前の生活援護型食事サービス,そして今検討されている介護保険制度改正にともなう介護予防事業における食事サービスの位置づけについて,歴史的変遷と諸制度,全国的食事サービスの展開状況,これらの展開に伴う既往研究の変遷について整理を行った。

     →調査結果の詳細は近日,学会論文等で発表予定。

 

2−2)配食ボランティアの活動拠点獲得過程

2003年度までのヒアリング調査・アンケート調査に基づき,活動拠点獲得過程において中心的な役割を果たした配食ボランティア団体代表者(会長,理事)および事務局担当者へのヒアリング調査および会誌(13年分)等の記録資料収集,専用施設計画時の担当行政職員へのヒアリング調査を行った。鎌倉市における配食サービスの萌芽期(1985年)から現在までの,配食ボランティアが利用した活動拠点の変遷とその獲得の過程を追うことにより,ボランティア活動の実態と活動拠点の関係を分析することを通して,ボランティア活動の発展段階に活動拠点利用の条件がどのように関わるのか,ボランティアの活動の特質を生かしながら活動を支援するための活動拠点の要件は何かについて明らかにすることを試みた。

特に,ボランティア活動の活動拠点支援は,活動の実績ができてからなされている現状,活動初期段階が最も大変であることから,活動が不安定な初動期の活動拠点利用に関する支援の必要性,今回のフィールド対象地の事例は,活動拠点を獲得するために複数の団体が緩やかな連帯を形成せざるを得ない状況になったが,結果として各団体の活動が地域社会で公的な立場を確保しつつ多様な活動を展開できるしくみとなったことが特筆すべき点である。

調査結果の詳細については,近日学会論文等で発表予定。

 

2−3)配食ボランティアと利用者と行政・民間企業・他の地域団体等との関係

200203年度に実施した社会実験での知見を元に,配食ボランティアの1団体のうち,年に1度会食会を催す団体があり,会食会当日に一参加者として参加し,ボランティア,利用者,行政・民間企業・他の地域団体等との関係について参与観察を行った。

会食会には,利用会員と賛助会員,ボランティア活動会員の他,ボランティア団体発足時から調査時までに関わった行政職員,社会福祉協議会職員,地元商店(米屋,魚屋,八百屋等),ボランティア学習のために参加したことがある高校生,調査研究で関わった研究者等さまざまな立場の人が参加した。利用会員,ボランティア活動会員等による作品の展示などもあり,会食会というイベントを通して,食事を楽しみながら,交流することによって,会への協力体制,信頼感を築き,また関係する諸機関,人々を繋いでいく活動を続けている。

 

2−4)配食ボランティアによるサービスの利用者の実態

鎌倉市における配食ボランティアによるサービスの利用者について,行政資料および鎌倉市高齢者給食サービス連絡協議会発行の冊子等を用い,変遷と現況を把握した。また,配食サービス1団体を対象に,会発足から2004年秋時点までの利用会員登録者748名について,会員カードに基づき,性別,年齢,住所,入会日,利用サービスの種類(この団体はホームヘルプサービス活動も行っている),退会日等について事務局担当者へのヒアリング調査を元にデータ構築を行った。さらに,20001月から7月まで,20024月から20047月までの配食担当表を入手することができた。配食担当表は1週間毎の配達担当者と配達先のリスト,利用者の状況についての詳細な記録である。利用者の基礎的なデータと合わせて,利用者個々人に着目すると利用者の配食サービス利用期間,利用停止の理由を把握することができ,マクロに見ると利用者の属性の変化を追うことができる。

現段階では作業途中のため,結論を導く段階ではないが,鎌倉市の高齢者人口と介護度の統計を利用し配食サービス利用者の実態を浮かび上がらせることにより,高齢期における配食サービスの意義を明らかにしたい。また,介護保険実施前と実施後のサービス利用者の属性の変化,団体の活動の変遷との関連による利用者の属性の変化,利用状況の変化等を把握することにより,ボランティア団体による配食サービスの意義についても分析を進めていく予定である。特に,長期利用者でヒアリング調査が可能な方を事務局の方と相談の上リストアップし,ヒアリング調査をすることにより,ボランティアによる配食サービスを利用することにより,他の地域福祉サービスや行政サービス等への連携がどのようになされたのかを明らかにしていく予定である。

 

3)まとめと今後の課題

 以上のように,今年度は配食サービスに的を絞った研究の枠組みへ移行するための文献調査と,2003年度以前の配食ボランティアへ実施したヒアリング調査とアンケート調査の補足調査を中心に進めた。今後,上記の作業の続きを進め,配食サービスというボランティア活動の一つではあるが,市民が参加しやすく,また利用者が増えやすい活動を取り上げることによって,ボランティアの活動実態に即した活動拠点整備の方法を,地域の既存地域施設の活用による地域活性化という枠組みの中で、既存地域施設の活用の可能性を検討することを試み,他の地域福祉に関するボランティア活動の支援のためのヒントとなる知見を得ていきたい。