2004年度森泰吉郎記念研究振興基金による研究助成

研究報告書

 

患者が求める医薬分業制度(採択番号114)

 

 

 

 

慶應義塾大学政策・メディア大学院

ネットワークガバナンス 医療福祉プロジェクト所属

高濱武史

 

 

 

 

  診療報酬の改定をはじめとする政策誘導により、医薬分業は近年急速に進展してきた。当初、医薬分業を推進させてきた理由が医療費の高騰や薬価差益の問題で あったとしても、医薬分業が一般的な医療システムとなりつつある中で、サービスの受け手である患者の評価を正確に汲み取り、医療の質を高める努力を行うこ とは必要不可欠であると考える。ところが、医薬分業についての患者調査はほとんど行われておらず、患者にとって望ましい医薬分業の在り方を知る判断材料が 乏しい。

 そこで本研究では、患者アンケートを基に現在の医薬分業に対する評価を明らかにするとともに、医薬分業の評価がどのような要因によって決定されるかについて定量的に分析した。新たに作成した調査票を基に、神奈川県内の3病院・2薬局でアンケート調査を行い、309の有効回答を得た。医薬分業の経験の有無と調査場所により回答の偏りが発見されたため、5つのデータセットごとにモデルを作成して多変量解析を行った結果、以下の結論を導き出した。

1)半数の患者が医薬分業している状態を望ましいとするなど、医薬分業に対して肯定的な意見が多数を占める。しかし、現在の医薬分業の形態に満足している患者は27%にとどまった。

2)回答者の年齢・性別などの基本属性と医薬分業に関する知識は、医薬分業の総合評価に対して、関連性がほとんど無いことが判明した。

3)医薬分業自体の望ましさを説明する要因としては、影響の強い順に、@調剤場所選択の自由、A移動の負担感、B副作用のチェックをしてもらっているという実感、があることがわかった。

4)現在の医薬分業の形態への満足を説明する要因としては、データセットの違いを超えて安定して影響を与えるものは発見されなかったが、保険薬局で提供されるサービスと時間コストに関する項目がいくつかのモデルで有意となった。

5)医薬分業を推進すべきかどうかという意見に影響を与える要因は、医薬分業自体の望ましさと医療の質が向上していると思うかの2つであった。

6)医薬分業によって医療の質が向上していると思うかどうかという意見に影響を与える要因は、影響の強い順に、@薬剤師の質が向上しているという実感、A調剤のミスの可能性が減るという実感、であった。

7)薬の説明を受けるとき個人情報(プライバシー)が守られているかどうかが、薬剤師への信頼感やかかりつけ薬局の有無と強い相関があることが判明した。

 

本 研究は、患者(病院利用者)のデータを用い、望ましさ、満足度、推進の可否という医薬分業自体に対する評価項目と、医療の質、調剤ミスの可能性などの、医 薬分業に関係する諸要素との相互関係を明らかにし、患者から見た医薬分業の評価に関する決定要因構造を定量的に分析した初めての研究となった。