慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科

2004年度「森泰吉郎記念研究振興基金」(研究者育成費修士課程)

§研究成果報告書§

 

1.研究課題名

『北東アジア天然ガスパイプラインのルート選定に関する研究』

【キーワード】北東アジア/天然ガス/パイプライン/ルート選定/「3E」/持続可能な開発/国際協調

 

2.氏名

山田 衆三(Shuzo Yamada/学籍番号80332825)

 

3.所属

Sustainable Developmentプログラム(グローバル環境システムプロジェクト)修士課程2年

 

4.成果概要

(1)本研究の背景

まず、北東アジア1)における持続可能な「3E」政策の必要性がある。具体的に言うと、北東アジアのEnergy security(エネルギー安全保障体制の構築)、Economic growth経済成長の確保)及びEnvironmental protection地球環境保全)である。次に、天然ガスの特長が挙げられる。天然ガスは世界各地に埋蔵分布しており、供給源の分散化となる。北東アジアにおいて日本で87%、日中韓で77%と言う高い中東原油2)依存度からの脱却が図れる。また、石炭や石油をはじめとする化石燃料のなかで、硫黄酸化物・窒素酸化物等の大気汚染物質や地球温暖化ガスである二酸化炭素の排出量が最も少なくクリーンである。さらに、LNG輸送3)と比較した場合のパイプライン輸送4)の 優位性として、陸路では必須、海路でも中短距離の場合は経済的であり、液化せず直接気体の状態で天然ガスを輸送するため輸送ライフサイクルにおける環境負 荷を低減できる。また、分岐支線によって輸送経路での需要波及効果が期待される。ただし、四方海に囲まれた日本はパイプラインが未熟であり、世界の天然ガ ス貿易の78%がパイプライン輸送である一方、97%をLNG輸送に依存する特殊事情を抱えている。

 

1)狭義には日本、ロシア極東、中国東北地区(黒龍江省・吉林省・遼寧省)、中国内蒙古自治区、朝鮮半島及びモンゴルであるがその範囲に定説はなく、必要に応じてエリアを拡大解釈する。

2)中東周辺は政情不安を抱えているほか、中東原油を輸送する船舶は、交通逼迫や凶悪な海賊事件が頻発しているマラッカ海峡及び中台関係の悪化によって中国の脅威が露呈される台湾海峡を通航することから、シーレーン防衛による海上ルートの確保が課題となっている。

3)LNG(液化天然ガス)輸送は、大型貨物船舶(タンカー)、天然ガス授受(液化・再気化)基地、配給パイプラインで構成。

4)パイプライン輸送は、大口径鋼鉄製パイプ(仕様は直径1m前後・ガス出力70〜100気圧程度・鋼板厚15〜25mm)、コンプレッサーステーション(昇圧基地)、中央制御管理システム(運転監視センター等)で構成。

 

(2)本研究の目的

 旧ソ連に存在する大規模な天然ガス田から、北東アジア市場を考慮して日本三大都市圏へ輸送することを目的とした国際高圧パイプラインの最適なルート選定について研究した。

 

(3)本研究の対象エリア

 主 な天然ガス田は、サハリン大陸棚、東シベリア、西シベリア、そして中央アジア(カスピ海地域)であり、これら供給地からパイプラインで輸送する北東アジア 市場向けのルート選定について研究した。ただし、西シベリアは欧州市場、中央アジアも欧州市場やインド・パキスタン等の南アジア市場と競合することから、 北東アジア市場のみを対象とし、未開発エリアであるサハリン大陸棚と東シベリアが有望であると考える。

 

(4)本研究の構成

  まず、先進事例に関する基礎調査を行なった。具体的には、欧州で域内外含め140万、北米で50万km以上ものパイプラインネットワークが形成された促進 要因等を把握・考察した。また、本研究は現在進行形の学際的領域であることから、対象エリアの情報収集を目的として、経済産業省資源エネルギー庁等の関連 省庁、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(旧石油公団)、公益シンクタンク(財)日本エネルギー経済研 究所、(財)日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団及び(社)ロシア東欧貿易会ロシア東欧経済研究所等の外郭団体、新日本製鐵鰍笂結档Kス 鰍はじめとする産業界等の専門家にヒアリングを行なった。そして、ルートモデルを構築し、本モデルを用い経済性を評価して最適なルートを選定した。さら に、選定ルートの検証として、現実的な課題に対する解決策を開発資金調達面・制度面・国際協力面においてリサーチした。

 

(5)ルート選定の論理(ロジック)

  まず、@既存のパイプライン及び計画策定済みルートを最優先とし、日本・朝鮮半島・中国・旧ソ連を対象に、パイプラインの整備動向を調査した。また、ルー トのはっきりしない未確定区間に関しては、天然ガス需要が見込まれるA人口5万人以上の都市並びにB輸送回廊及び国家級開発区を網羅した。輸送回廊とは、 鉄道・道路網や港湾施設を指し、欧米では、パイプラインの埋設空間や天然ガスの貯蔵施設として活用されている。そして、@〜B・通過条件を満たす全ての ルートを抽出し、各ルートの経済性を重視した評価基準によって最適なルートを選定した。なお、Microsoft社の電子地球儀ソフトであるDynamic Globeを用いて各ルートの敷設距離を測定した。

 

(6)ルートの評価基準

@建設効率(万円/人)=建設費/沿線人口

 建設効率とは、Dynamic Globeを用い測定した敷設距離、前提条件となる敷設費単価5)に基づき算出した建設費を、経済的なポテンシャル、つまり潜在的市場規模の代理変数であるルート周辺を対象とした沿線人口で割った値である。

 

5)敷設費単価は、欧米の一般陸上で1kmあたり1〜2億円であるが、国際パイプラインの実績がない北 東アジア(ユーラシア大陸部)においては、一般陸上で3億円、永久凍土や山岳部等の特殊陸上では9億円と試算されている(内閣府の認可法人総合研究開発機 構より委託を受け潟Rーエイ総合研究所試算)。また、日本列島の場合、山間部の多い地形・地権者への賠償・法的な規制等もあり現状では10億円、規制緩和 後は8億円となる試算(アジアパイプライン研究会事務局且O菱総合研究所試算)であるが、本研究では規制緩和の進捗具合等を勘案し中位値である9億円を採 用した。海域は海底パイプラインで4億円と試算されている(潟Rーエイ総合研究所試算)。

 

A建設効率指数=@建設効率/一人あたりGDP係数

 所得格差を考慮して沿線各国の一人あたりGDP6)を参考に、日本=1とした場合のGDP係数を求め、@の建設効率から割った指数である。なお中国は、内々所得格差が大きいことから、直轄市・省・自治区別の一人あたり地域内総生産(GRP)を採用し、日本=1とした場合のGDP係数に換算した。

 

6) GDP(国内総生産)は、1年間に同一国内で生産された全ての粗付加価値を市場価格で評価した総額である。国内の景気変動や経済成長の程度が分かることか ら各国の経済力を示す指標として用いられ、三面等価の原則に基づき生産=所得=支出となる。GNP(国民総生産)との違いは、海外進出した企業の海外から の要素所得及び国内で得られた外国人の海外送金等の差額をGNPから控除した値がGDPである。

 

B建設効率指数危険度=A建設効率指数/安全係数

 経済的なリスク、つまり投資リスクを考慮して安全係数7)を求め、Aの建設効率指数から割った危険度である。

 

7) A〜Hの8段階に分かれた投資リスク表(2004年10月29日現在)に基づいた。Aにランクされている日本が最も投資リスクが低く、Hにランクされてい る北朝鮮、モンゴル、キルギス、ウズベキスタン、トルクメニスタンの各国が最も高い。出所は経済産業省の業務を継承して設立された独立行政法人日本貿易保 険で、本法人は、対外取引において生ずる通常の保険によって救済不可能な危険をカバーする事業を実施している。投資リスクの種類としては、不可抗力的な非 常危険及び相手方の責めに帰し得る信用危険がある。本研究では、各国のランクを安全係数として数値化したうえで使用した。

 

よって、@の建設効率及びAの建設効率指数の値が小さいほど経済的であり、Bの建設効率指数危険度の値が小さいほど投資リスクが低いこととなる。

 

(7)サハリン大陸棚⇒日本のケース

サハリン大陸棚の天然ガス確認埋蔵量が2.7兆m、推定埋蔵量は3〜3.5兆mとされており、これは日本の天然ガス輸入量(730億m/年)の40〜50年分に相当する量である。まず想定ルート@ としては、サハリン大陸棚からサハリン島を縦貫し同島南端のコルサコフから宗谷海峡を渡り稚内経由で石狩湾に向かい、道央圏(石狩→札幌→北広島→恵庭→ 千歳)、そして苫小牧から津軽海峡を渡り日本海を経由して新潟に至る場合と、苫小牧から太平洋を経由して仙台で中継、なお、新潟より仙台に向かう既存のパ イプラインで接続されている。さらに南下し千葉県白子町に至り、既存のパイプラインと接続して首都圏、さらに清水から近畿・中部圏に向けて輸送する。次に 想定ルートAとしては、サハリン大陸棚から間宮(タタール)海峡を渡り、ロシア極東のラザレフ、コムソモリスク・ナ・アムーレ、ハバロフスク、ウスリース ク、北朝鮮の羅先、清津、金策、咸興、さらに元山を経て、韓国の江陵、浦項、慶州、蔚山、釜山より対馬海峡を渡って北九州から姫路までは新設し、既存のパ イプラインと接続して近畿・中部圏、さらに豊橋から首都圏に向けて輸送する。あと、北朝鮮有事のバックアップとしての日中韓ルートとして、ハバロフスクか ら中国東北地区の各都市(黒龍江省チャムス→依蘭→ハルビン→吉林省長春→公主嶺→四平→遼寧省鉄嶺→瀋陽→遼陽→鞍山→海城→営口→瓦房店)を経て、大 連から黄海を渡り韓国の平澤、さらに天安、鳥致院、大田、金泉、亀尾、大邱、永川、慶州、蔚山を経由し釜山、そして日本に至る。

 

(8)(7)の評価結果

 想 定ルート@は、建設効率及び建設効率指数の値が想定ルートAより小さく、経済的であることが分かった。また、安全性の高い日本に直接輸送するため、建設効 率指数危険度の値も想定ルートAより格段に小さく、投資リスクを抑制し得ると考える。想定ルートAは、北朝鮮を迂回し日中韓に輸送する有事の際のバック アップルートが経済的かつ投資面で優れているが、現在、北朝鮮が抱えるエネルギー不足は深刻な事態であり、朝鮮半島を縦貫するパイプラインも考慮すべきで あるものの、建設効率指数危険度が最も高い結果となった。よって、現状は想定ルート@、特にパイプライン敷設距離・建設費・経済性・投資面全てにおいて最 も有望であることが分かった日本海経由の整備優先度が高いと評価する。ただし、日本領内整備の際には多額の先行投資を要することから、欧米等の事例を参考 に公設民営方式が望ましいと考える。

 

(9)東シベリア⇒日本のケース

バイカル湖近郊のイルクーツク州コビクタ天然ガス田が供給地である。コビクタ天然ガス田の確認埋蔵量は1.1兆mであるが、東シベリア全体では未開発もあって推定埋蔵量が30兆mと されており、これは日本の天然ガス輸入量の410年分に相当する量となることから、天然ガス資源に大変恵まれている。まず、コビクタ天然ガス田よりイル クーツク、ウラン・ウデを経てモンゴルの首都であるウランバートルを経由し、中国の内蒙古自治区二連浩特、河北省張家口、北京に至り、さらに天津の薊県、 河北省唐山、秦皇島、遼寧省錦州、瀋陽、本渓、丹東から朝鮮半島を縦貫し北九州より首都・近畿・中部圏に輸送する。次に、モンゴルを迂回するルートとし て、ウラン・ウデ、チタを経由しザバイカリスクから中国の内蒙古自治区満洲里、東北地区の各都市(黒龍江省チチハル→大慶→ハルビン→吉林省長春→公主嶺→四平→遼寧省鉄嶺)を経て瀋陽に至る。また、北朝鮮を迂回するルートとして、瀋陽から大連に向かい、黄海を渡り韓国の平澤に至る。このほか、内蒙古自治区の集寧より分岐して同自治区内の各都市(呼和浩特→包頭→東勝→烏審旗)を経由し、西気東輸8)の 中継地である陝西省靖辺に至る場合と、北京より分岐して河北省永清、石家荘、山西省太原、陝西省楡林を経由して靖辺に至る場合である。靖辺より西気東輸の 経路である江蘇省南京で分岐し、揚州、泰州、海安、東台、塩城を経て同省最大の港湾都市である連雲港から黄海を渡り韓国の木浦に至り、韓国南部(羅州→光 州→順天→光陽→晋州→馬山→昌原→金海)を通過して釜山、そして日本に向かうルートである。あと将来的な追加補充源としてサハ共和国のチャヤンダ天然ガ ス田(確認埋蔵量1.2兆m)が有望である。

 

8)西気東輸は、主力供給源として新疆ウイグル自治区タリム盆地北部(起点は輪南鉱区)が あり、補完的供給源として、陝西省、甘粛省、寧夏回族自治区及び内蒙古自治区に跨るオルドス盆地の長慶天然ガス田があり、陝西省靖辺が中継地となってい る。西気東輸の特徴としては、将来の天然ガス需要拡大を見越した供給先行型パイプラインであり、全長は新疆ウイグル自治区から甘粛省、寧夏回族自治区、陝 西省、山西省、河南省、安徽省、江蘇省、浙江省を経て上海の白鶴鎮に至る東西横断4167kmである。西気東輸の整備は、沿岸部と内陸部の経済格差解消を 目指す西部大開発の一環として実施され2002年に着工、2004年末に竣工した。西部大開発の拠点は重慶で、第10次五カ年国家計画(2001− 2005)では、内蒙古及び広西壮族の2自治区が西部に編入されたことで、12の省や自治区、直轄市が対象となり、中国全土の7割以上に相当する広範囲で ある。また、2004年に中国東北地区の老(旧)工業基地を振興する戦略が策定され、西部大開発を補完する国家事業と位置づけられている。

 

10)(9)の評価結果

  西気東輸経由は巨大な中国市場を擁して沿線人口が多く、建設効率では優位であるが、所得格差を考慮した建設効率指数では他のルートと差がないことが分かっ た。また、西気東輸経由については2020年までの中国全土に及ぶ分岐支線完成を前提としており、中長期的なルート設計であることから、採算面等で即効性 に欠ける。モンゴルを迂回するルートは永久凍土区間が長くなり非効率であり、現状計画案とされるモンゴル及び北朝鮮の両国迂回は整備優先度が最も低い結果 となった。モンゴルを通過するルートは西気東輸経由の場合においても必須であることから、経済性と国際協調の観点からモンゴル及び北朝鮮の両国通過が推奨 ルートであり、モンゴルを通過し北朝鮮を迂回するルートは両国通過のバックアップになり得ると考える。

現実的な課題として、北朝鮮は核開発問題等で国際社会から孤立し、中国においてはモンゴル及び内蒙古自治区との民族問題を抱えていることが大きな障壁である。また、ロシアが提示した天然ガス販売価格に対し、中国は半額を要望する等、隔たりが大きく交渉は進展していない。

 

11)選定ルートの検証<現実的な課題に対する解決策>

@開発資金調達面

 まず、ア ジア開発銀行(ADB)の既存特別基金に追加設置がある。ADBにはアジア開発基金、技術援助特別基金、そして日本特別基金と言う大別して3種類の基金が あるが、アジア開発基金が主に東南アジアを対象としていることから、北東アジア開発基金を新たに設置することが考えられる。また、ADB及び国際協力銀行 (旧日本輸出入銀行)等との協調融資も考えられるが、ADB非加盟国であるロシアや北朝鮮には直接援助はできないことから、既存機能の範囲内での制限的な 活動に留まってしまう。次に、北東アジア開発銀行(NEADB)構想の実現がある。1997年、第7回北東アジア経済フォーラムでスタンリー・カッツ元 ADB副総裁らが、北東アジアに特定したサブ・リージョナルな地域専用開発金融機関9)であるNEADBの創設を提唱した。よって、基盤インフラ整備を通じた機動的な開発金融スキームの構築が必要であると考える。

 

9)アジアには存在しないが、欧州には北欧投資銀行や黒海貿易開発銀行、米州には中米経済統合銀行やカリブ開発銀行等がある。

 

A制度(ルール)面

北東アジアエネルギー憲章の制定がある。政治的な安定性を維持する最大限の努力を払い相互融通し合うことが主眼であり、協調性の遵守が狙いである。そこで、欧州エネルギー憲章European Energy Charter)が手本になり得ると考える。エネルギー資源の流通促進及び自由な国境通過を保証する通過(Transit)の 義務規定等により、法的な拘束力を確立している。また、パイプライン通過国間での利害調停や紛争解決手続き等を規定し、危機管理対応を明確にしている。 よって、統一的な対応と連帯を確保する北東アジアエネルギー憲章のような多国間協定の執行機関として、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)10)の支援対象を北東アジア全域とする北東アジアエネルギー開発機構に改組することが望ましいと考える。

 

10)1994 年に署名された米朝枠組み合意に基づき、北朝鮮にある既存の原子力関連施設全ての凍結・解体、より核爆弾の製造に利用しにくい軽水炉への転換を図るため、 1995年に米国、日本及び韓国等を中心とする国際事業体KEDO(本部:ニューヨーク)が発足し、日本海に面した新浦の琴湖に代表事務所を置いた。軽水 炉2基(100万kW×2基)を建設・提供すること、1基目の軽水炉が提供されるまでの間、KEDOを通じて米国 が暖房・発電用の重油50万トン/年を支援することになった。ところが、資金調達や原子炉選定が難航したほか、1996年の北朝鮮潜水艦の韓国海岸侵入事 件、1998年の弾道ミサイル「テポドン」の発射疑惑等で、当初の軽水炉提供目標である2003年から大幅にずれ込む結果となった(1基目は2008年、 2基目は2009年に提供予定)。さらに、2002年に北朝鮮が米国に対して核開発の継続を認めて以降、国際原子力機関(IAEA)の査察官を追放し、 2003年には核拡散防止条約(NPT)の脱退宣言を行って寧辺原子力研究センターにある実験用黒鉛減速型原子炉の再稼働に着手する等、核開発問題に係る 緊張の度合いはさらに強まり、2002年から重油支援は中止され、2004年には米国がKEDOの軽水炉建設事業存続は事実上困難との見解を示している。

 

B国際協力面

ま ず、サハリン大陸棚の朝鮮半島縦貫のケースでは、ロ中朝国境の図們江下流域開発計画の推進がある。図們江周辺に、ロシアは沿海地方ハサン地区を中心とした 大ウラジオストク自由経済圏、中国は吉林省琿春辺境経済合作区、北朝鮮は羅先経済貿易地帯と、各国個別に国家級開発区を有しているが、1991年からは国 連開発計画(UNDP)のイニシアチブにより集約され、世界的に注目されている。次に、東シベリアの朝鮮半島縦貫のケースでは、中朝国境の鴨緑江沿岸開発 区構想の推進がある。鴨緑江を挟み、中国には遼寧省丹東辺境経済合作区、北朝鮮には香港式経済特区である新義州特別行政区があり、中朝による共同開発事業 を目指している。このほか、南北経済協力事業として、金剛山国際観光特区及び開城工業団地特区の推進がある。また、モンゴル縦貫のケースでは、モンゴル国 境地帯ロシア側のアルタンブラグ及び中国側のザミンウードにある2ヶ所の国家級自由経済特区を活性化することが挙げられる。よって、これら開発区がバッ ファーゾーン(緩衝地帯)となって、朝鮮半島・モンゴル縦貫パイプライン敷設の障壁を払拭するものと考える。また、メタン11)が漏洩する老朽化したパイプラインのリハビリ(改修)やルート沿線に石炭を代替する天然ガス火力発電所を建設する目的で、先進国であるロシア向けの共同実施(JI)及び中国等の途上国向けのクリーン開発メカニズム(CDM)による京都メカニズムを活用する。

 

11)天然ガスの主成分であるメタンは、そのまま大気中に放散されると二酸化炭素の21倍に相当する地球温暖化効果となる。

 

12)評価結果の総括

 サハリン大陸棚及び東シベリア以外の供給地について、中央アジアはロシアとの微妙な関係や北朝鮮と同様、独裁政権に起因する地政学的リスクを有している。また、西 シベリア及び中央アジアには競合市場がある。一方、サハ共和国ヴィリュイ盆地は北東アジア市場のみを対象とするものの、永久凍土の僻地に位置し開発条件が 劣悪である。よって、サハリン大陸棚の想定ルート@日本海経由が、パイプライン敷設距離・建設費・経済性・投資面において、全ルートで最も有望であること が分かった。

ま ずはサハリン大陸棚及び東シベリアを先行的に整備する。また、地域間相互の有機的な共用を考慮するならば、両ルートの重複区間において共同敷設が考えられ る。その他は供給源の追加補充や多元化に寄与してパイプラインのネットワーク化に資することから、中長期的なルート設計と捉え段階的に整備する必要性があ ると結論づける。

 

13)本研究の成果

 旧ソ 連の各供給地から、北東アジア市場を考慮し日本三大都市圏へ天然ガスをパイプラインで輸送するマクロなルートモデルを構築した。次に、本モデルを用いて沿 線人口や所得格差、投資リスクを反映した経済指標で評価し、最適なルートを選定した。さらに、経済性を重視した評価結果と併せて、現実的な課題も絡め選定 ルートを検証し、その実現可能性を確認した。

 

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なお、本成果報告書の詳細に関しましては、筆者の修士論文及びホームページ(http://www.geocities.jp/shuzo_yamada/)をご覧ください。

 

以上