2004年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究助成金
「研究者育成費 修士課程・博士課程」
研究報告書
制作・メディア研究科
修士2年 木口 貴行
修士1年 臼井 昭子
平成16年7月報告
研究名 |
航空機カメラ映像を利用した新デジタルコンテンツの制作 |
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研究概要 |
本研究では、航空機カメラが捉える映像を用いた新しいデジタルコンテンツを考案し、その制作を行う。必要な技術研究と通信知識を習得し、実際にこの新しいデジタルコンテンツを運用するためのビジネスモデルを構築する。 |
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研究組織 稲蔭研究室 「デジテイメント」プロジェクト |
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氏 名 |
所属・職名・学年等 |
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木 口 貴 行 |
政策・メディア研究科 修士課程2年 |
研究代表者 |
臼 井 昭 子 |
政策・メディア研究科 修士課程1年 |
研究分担者 |
1.
はじめに
研究代表者本人の9月卒業にともない平成16年7月時点での活動報告をする。本研究は今後、研究分担者によって進められ、最終的な成果としては実証実験の
検証を経てビジネスモデルへの可能性を図っていくことである。研究は、機外カメラが捉える映像をコンテンツに利用する際に考えられる技術的な問題点を探るため、
機外カメラの実態調査を行った。
2. 研究の目的
新しいデジタルコンテンツとして「航空機カメラが捉えるライブ映像」に着眼。概要は「航空機外カメラが捉えるライブ映像にエンタテイメント性を付加させた新デジタルコンテンツを、世界で始めて配信する」ことで、配信にあたり機外カメラ性能の技術革新と航空機のネットワーク通信知識、またカメラ映像に、エンタテイメント・コンテンツとして配信する価値を付加する演出とWeb以外での活用の可能性も探るという一連の研究テーマが存在する。本研究の展開においては、最終的な配信に至るまで航空会社の協力体制は絶対である。このような企業との共進過程を通して、産業界においてひとつのデジタルコンテンツを実際にプロデュースするビジネスモデル構築もねらいとする。
3.
機外カメラの実態調査
航空機の機外カメラという「特別に撮影する映像」を使用するにあたり、株式会社日本航空インターナショナルにその協力を依頼し、機外カメラの実態調査を行った。また以後何回かの取材にもご協力頂いた。以下は、ご協力や情報提供を下さった社員の方々。
株式会社 日本航空インターナショナル
上海支店長 田島伸一氏
整備本部 羽田整備事業部 副事業部長 酒井忠雄氏
整備本部 技術部 電装・客室仕様グループ マネージャー 矢古宇慎一氏
3−1. 航空業界の動向
総務省は、現在ユビキタス時代における航空・海上通信システムの在り方に関する調査研究を行っている。航空・海上通信システムも今後急速な発達が進む。参照: http://www.soumu.go.jp/s-news/2003/031125_1.html
総務省のそのような取組みを背景に、株式会社JAL日本航空インターナショナル(以下JAL)は、世界で初めてのインターネット接続サービスを2004年度末に提供する(e-mailはCBB社、インターネット接続は衛星のブロードバンド回線を利用)。陸と空の通信が可能になることによって、新しいサービスやビジネスのチャンスも広がった。
世界を飛び回る航空機、乗客はその閉ざされた空間に長ければ十数時間も滞在することになるため、娯楽や外部交信に対する欲求が強く、 JALでは、1990年後半より機内エンタテイメントの充実を進めていた。
参照: http://www.jal.co.jp/press/2003/111201/111201.html
http://www.connexionbyboeing.com/
IFE(In
Flight Entertainment)関連 http://www.airfax.com/airfax/
3−2. 機外カメラの仕様
JAL保有のカメラ装備機種は、B747SR 3機、B747-400 42全機、B767 32全機、MD-11 3全機、B777 26全機、A300以前のJAS機と貨物機には搭載されていない。合計 280機中(貨物機込)106機。主要路線を飛ぶ機種にはほぼ装備されている。
3−2.(1) 機外カメラの写真
現在運用されているJAL航空機(ボーイング777-300型)の写真
(写真―1)
(写真ー2) 右側の一番小さい黒っぽい枠に機外カメラが納入されている
( 写 真 ― 3 )
機体前方コックピット下部のこの枠内に設置
20p×20pの想像以上に小さい窓
その内部に前方撮影と下方撮影の二台
3−2.(2) 機外カメラの特性
・
この機外カメラは、離発着時の安全確認のためではなく、 もともと「乗客へのサービス」として1980年代に世界で始めて設置された。 ・
機外カメラによる地上風景の撮影に対する規制は明確になっていないようであるが、一部の国では敏感な風潮があるようである。(JAL見解) 「人口衛星では各国の建造物が確認できる」「機内窓からのカメラ撮影が可能だ」を考えれば納得できるように、機外カメラ撮影にセキュリティ上の制限は実はない。東アジアは敏感だが、中国は緩和傾向、韓国は強化傾向。(個人見解) ・
機外カメラの設計に係わる標準規格としては、米ARINC628、同じく米RTCA DO160などがあり、それぞれ、航空機システムとのインターフェースなどの仕様、および、耐振、耐湿、耐温などの環境試験基準を規定している。 ・
画面の切り替えや操作は、コックピット入り口付近に設置されたパネルタッチ方式で、乗務員が必要に応じて対応。 ・
GYRO機能は近距離撮影用ぶれ防止機能なので、遠方を撮影する機外カメラには必要ない。 ・
JALが装備している機外カメラは光学ズームである。 ・
機外カメラは、常時作動しており、客室乗務員が状況に応じて機内放映を実施している。個人テレビがある場合、常時見ることが可能であるが、高度3千m以下(離着陸態勢下)では放映は中止される。 ・
垂直尾翼の前縁に「Bird’s Eye View」と呼ばれる、上方角度からの撮影用カメラを装備している航空機もある(JALは今のところ装備していない)。 ・
B777-300では、水平尾翼の前縁および前脚後方の胴体下部にカメラが装着されており、航空機が地上滑走時に車輪の位置を確認することが出来る。これはパイロット専用である。 ・
JAL保有のカメラ装備機種は、B747SR 3機、B747-400 42全機、B767 32全機、MD-11 3全機、B777 26全機、A300以前のJAS機と貨物機には搭載されていない。 *合計 280機中(貨物機込)106機。主要路線を飛ぶ機種にはほぼ装備されている。 |
3−2.(3) 機外カメラ〜今後の活用方向
機外カメラ映像の機内放映はそこそこの人気を得ている。GPSナビゲーションシステムナビゲーションマップ(機体位置表示システム:間接的にはGPSを利用しているが、カーナビとは若干仕組みが違う)と同時に表示し楽しむ乗客もいる。現段階ではJAL社内要望は出ていないものの、映像を左、中央、右の3つに切り分け、デジタル補正。乗客が3つの映像を選択できるようなことも可能。
3−2.(4) 機内インターネット接続について
・ 長時間フライト(ロンドン線)を皮切りに順次導入
・ 通信速度は上り(衛星⇒航空機)最大20Mbps、下り(航空機⇒衛星)最大1Mbps
・ 料金設定(コネクションバイボーイングの料金体系 U$)
「定額制」 6時間を越えるフライト 29.95 3−6時間のフライト
19.95 3時間未満のフライト 14.95 |
「従量制」 最初の1時間 9.95 以降1分につき 0.25 *定額、従量は任意選択可能。 |
3−2.(5) 機外カメラ映像インターネット配信の現在の可能性
2004年末の機内インターネットサービス開始に際し、機外カメラ映像の利用については、現段階ではJAL一切考えていなかった。そのような経緯を考えると「機外カメラがのライブ映像」は新規性に富み、JALへの新しい提案ができるコンテンツであると言える。現在JALは「JAL TV」というWEBサイトを運営しており、このサイトでは固定カメラのライブ映像を配信している。なかなかの好評を得ているという。今回実態調査した機外カメラが捉えるライブ映像も、インターネット通信網を利用して世界に配信が可能となった。今後「JAL TV」などでの発信も含め、航空機会社には「コンテンツ価値」をアピールしていく。
4. 今後の研究について
研究分担者が引き継ぎ、進めていく。
研究内容の特性から、飛行機を使用することが必要であるため航空会社への協力を引き続き求めていく。年度末まで飛行機による実験が望めないようであれば、他の移動体として電車や船舶などで実験を行うことも視野に入れている。移動体からのライブ映像の受信具合を検証し、機外カメラへの応用はもちろんのこと、電車や船舶からの映像の場合どのようなコンテンツとして発信可能かも探ることができる。
5. 研究スケジュール
航空機カメラの性能の可能性として、リモートセイシング技術やパノラマ動画についてのリサーチもすすめ、機外カメラが捉える映像の解像度おいて必要な技術を適用していく。
本研究は、主に稲蔭正彦研究室において新規プロジェクトという形で進めたい。今後は航空機カメラが捉える映像をどのようにデジタルコンテンツとして演出できるのか、またそのクオリティ向上に必要な技術と航空機カメラの映像を受信するシステムについても実装していく。実際の飛行機での実験受信の見通しが難しい場合は、電車または船舶で代替実験受信を敢行し、検証結果を反映させる。その際は、移動体の捉える映像をデジタルコンテンツに取込んで配信できる技術を完成させるため、通信衛星の研究を進めているプロジェクトにも協力をお願いしていく。その後エンタテイメント性を付加した商品として「移動体カメラ映像を利用したデジタルコンテンツ」を産業界へプレゼンテーションし、商用の可能性を探る。
6. 研究成果、その社会的性
機外カメラが捉える映像を利用したデジタル・コンテンは「移動体からのライブ映像」という新規性を持ち合わせている。また「デジタル放送やWEBサイトにおいて、新しい発信の形を創る」という社会的に強力なインパクトも持ち合わせている。つまりは、デジタル放送や通信において、新しいデジタルコンテンツの形を提案することが本研究の成果となる。
7. 商用の可能性
「JAL TV」などWEB配信以外での活用の可能性も探る。CSチャンネル24時間放送まで視野に入れてみる。航空機カメラ映像をより楽しんでもらえる演出をより具体的に考案していく。
『航空機ライブカメラを利用した放送』のビジネスモデルとして企業に提案できる。
『ライブカメラを利用したモビタリティエンタテイメント』として機外カメラの実用化と実際のビジネスに役立てる方法も考案していく。