2004年度森基金報告書
1 研究目的
本研究は、災害などにより突如住居を失った人々に快適な住環境を提供するために、被災直後に使用する仮設住居を開発することを目的とする。具体的には、環境問題を考慮し身近な廃材を用いることで素人でも設置可能な災害用型住居を研究提案する。また、現地にて実際に制作し、その利用過程も考察する。同時に、実際の現地使用に向けた、新たなネットワーク構築も行う。
2 研究背景
研究に至る経緯として、現在世界中で発生している自然災害や人為災害により、多くの人々が危険な住環境のもとでの生活を余儀なくされていることへの懸念がある。特に大地震や土砂崩れなどの自然災害は突如人々から住宅など生活基盤を奪うため、建築を学ぶ我々には無視できない状況にある。特に、行政が提供する仮設住宅に入居するまでの1ヶ月から2ヶ月の間は、避難施設での大人数生活を余儀なくされるため、被災者に高度な身体的・精神的苦痛を与える。 被災し傷ついた人々にとって、住宅は心身の保護と安定を担う、重要な要素である。我々日本が世界に誇るべき技術力とデザイン力を、この分野においても発揮すべきである。このような思いが、本研究にいたる要因となっている。
3 研究内容
3−1 身近で普遍的な素材を用いた災害用緊急仮設住宅の実験の統括
以下の材料または構造に着目し災害時仮設住宅として使用可能な工法を考察した
新聞紙 →新聞紙粘土を組積する壁構造
新聞紙と緩衝剤の分量調節による新聞紙粘土固形化の実験
タイヤ →自動車のタイヤと梱包用プラスチックベルトによるドーム構造
タイヤとベルトの固定方法の実験
ビニール袋→内部を充填させ組積する壁構造
ビニール傘→骨組みを連結させるアーチ構造
段ボール →ハニカム段ボールを四隅に
土 →ビニール袋とのハイブリッド利用 土の成分の検討
竹 →ユニットとユニットの固定方法について試作検討
目的に応じて自在に変形するジタバッグ型シェルター
基本寸法の検討
構造実験(特別協力・日本大学斎藤研究室)
線材(集成材、アルミ)と面材(ナイロン、膜)の材料検討
3−2 新潟中越地震現場での組み立て設置と経過の調査(坂茂研究室プロジェクトの一環)
3−1の実験により、即効性・組み立て解体時の簡易性・生産性・コストパフォーマンス・安全性・快適性の観点から、新潟中越地震に際し「ハニカム段ボール」を主構造とした屋内用仮設住居を開発し、
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3−3 災害時にむけた学生間・市民とのネットワーク構築と住環境への意識政策
3−2において、現地学生と共同制作を行ったことにより、学生・市民等の枠を越えた災害時に向けたネットワークの構築を行うことが大変重要であると認識した。また、避難所を実際に拝見し、市民全員が住環境に対する意識を高く持ち、創意工夫の意を持って対処することが重要であると認識した。
そこで、社団法人日本建築学会主催・阪神大震災10周年企画展 地震と防災を考える「サバイバル&ネットワーク」(日本建築学会 建築会館)にボランラリー建築家機構が特別協力を行い、市民が主役となった防災と地震対策のあり方についての展示を共同で企画、運営した。(学生実行委委員長就任)
尚、展示に関してはボランタリー建築家機構の3大学(慶應義塾大学、横浜国立大学、日本大学)と新たな呼びかけにより加わった6大学(神奈川大学、関東学院大学、東京電機大学、広島大学、前橋工科大学、明治大学)が共同して企画・制作・展示を行った。
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村上
A1/8-1/29 イベント広場展示 災害時、誰でもできる住環境の改善方法について
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近隣小学校の小学生(
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自衛隊、政治家、行政、防災学者、建築家による講演とディスカッション
4 研究成果
一連の研究開発、現地制作、展示発表は、新聞・雑誌・書籍などの各メディアで報道、発表され、建築学を越えた様々な分野の専門家から高い評価を受けた。また、新潟を含む全国11大学の学生と新たなネットワークを組み、災害時の住環境の改善に向けた体制を整えることができた。
5 助成金用途
@現地使用可能となるノート型パソコン