2003年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究助成金報告書

「研究者育成費 修士課程・博士課程」

政策・メディア研究科 鴫原 史也(80331890)

 

GISによる都市緑地資源の環境価値の評価

 

概要

 

 都市部においては今だ緑地の減少が続いている地域が多く、残存緑地をいかに保全していくかということが自治体にとっての重要な課題となっている。どの自治体も予算が限られており、全ての緑地を保全できるわけではない。様々な緑地の特性と点検し、価値の高いものから保全を施すことが求められている。都市緑地の価値はサービス機能の優劣をもって評価し得る。緑地は生物の生息環境を提供するほか、気候制御機能、文化的な機能、農業生産機能などを有し、人がそこから様々な生態的サービスを受けていることから、緑地は人間にとっての重要な資源の一つであるといえる。これら緑地資源の機能やサービスはその空間的な形態や規模によって規定されていることが多く、GISや景観生態学の手法で定量的に評価することができる。本研究では、都市における緑地計画の支援を念頭においた、緑地資源の点検と評価を支援する手法の提案とシステム構築を行った。設定した評価項目は保全生態学・景観生態学における概念を取り入れた自然条件3項目7指標、文化・計画的な視点を含む社会条件4項目8指標である。評価の際にはひとまとまりの緑地をひとつのオブジェクト(パッチ)として捉え、それぞれの評価を行った。緑地の周辺条件を考慮するためにパッチの集合体をクラスターと定義して領域を生成、パッチ同様の項目で評価した。指標の作成に関しては既存研究を基に、パッチ単位での評価に適するようにデータ処理方法を改善した。そして、構築した評価方法とシステムを、実際に横浜市内4区で適用し、各緑地ごとのランク付けを行った。このように社会条件・自然条件の各指標、それを用いた総合指標を作成し、本研究の視点における価値基準で緑地のランクをつけることができた。これにより、ひとまとまりの緑地ごとに形態や周辺特性、文化特性など多面的な視点から定量的な結果をシステマティックに算出することができ、再現性の高い評価方法・システムを構築することができたと考える。

 

1.背景・目的

 

 市街地の拡大に伴い、環境汚染、生態系の衰弱、廃棄物の増加などの環境問題は今や地球規模の問題である。日本もまた、都市域の拡大・それに伴う自然域の減少・緑地断片化の増加に対する対策は大きな課題となっている。そして、その環境改善にあたっては自治体レベルにおける対策が要となる。なぜなら、市区レベルの自治体が都市計画基本法に基づいた都市マスタープラン、都市緑地保全法に基づいた緑の基本計画などにおいて都市計画・緑地計画の基本指針を示し、緑地の保全などの促進を進めているためである。

各地で対策が志向されているものの、市街化が進んだ都市では、緑は減少の一途をたどっており、緑地確保に向けて一層の対策が求められている。どの自治体でも予算は限られているため、すべての緑地を保全の対象とすることはできない。また周期的な点検・再評価が持続的な管理には必要である。効率よく重要な場所を保全し、地域の自然を確保できるような緑地資源の評価のシステム化が望まれる。

 一方で、環境アセスメントの項目に「生態系」が追加されるなど、生態学的な持続性に基づく保全(種の多様性・生息範囲の確保)の重要性が見直されてきており、緑地の連続性を考慮した研究も増加してきており、評価方法の改善が求められている。緑地を健康的に保全していくためには、緑地の機能の維持もまた必要であり、市街化による孤立を防ぎ、連続した緑地を残していくことはよりよい環境を創造するひとつの対策といえよう。

 これまで、緑地の保全、総量の確保に対する対策は、市全体、区全体の緑被率や森林率を出すなど、単純な数値と定性的な分析をもとに緑地の評価が行われ、緑化推進や緑地増進計画が策定されてきており、多面的な評価を実施している自治体は少ない。豊かな生態系を保持していくためには、生態ネットワーク形成へ向けての緑配置計画を目指し、面積だけではなくその形態や空間分布も分析し、評価の対象とすべきである。

 従って本研究では、緑地の保全政策を有効に進めていくための評価軸の決定、評価軸に沿った評価手法の検討、その手法のシステム化に焦点を当てて論じていくこととする。

 そして、資源となる緑地がどこにどのような状態にあるかを示す情報を整理し(点検)、その都市緑地資源を評価するための評価項目及び評価手法を提案する。そして評価指標を用いて、総合的に都市の緑地を評価するシステムを提案することを目的とする。

 

2.意義

 

本研究では緑地の分布・配置を考えた空間指標を作成し、さらに周辺環境(土地被覆・アクセス・施設・文化財等)との関係を計量することで緑地の価値を決定している。

 連続した緑地の中にあるひとつの緑地の位置についての評価や生物の緑地の孤立度合いについての評価などは、緑地の連続性を保持していくための緑地政策において重要な情報となる。その他、歴史文化財と関わりの深い緑地やレクリエーション機能の高いものなどを優先することは、より親しまれ、活用できるる緑地の保全につながる。

 このような緑地の価値を定量的に評価することは、都市計画における緑地の保全政策における保全対象の選定を客観的な指標をもって後押しすることができると考える。数値化された評価指標は、定量的に比較することができ、地域の生態系保全のための重要な情報源となるのである。

 管理の点から考えても、システマティックな評価の重要性は明らかである。評価は1度きりというわけではない。持続的に緑地の保全をしていくためには繰り返し点検や評価は必要であり、周期的な作業に耐えられるシステムが望まれる。本研究ではシステマティックで面的な処理、データの統合・一括管理を前提にシステムを構築している。これらの要素は位置情報で地理データを統合・管理できるGIS(地理情報システム)でほぼ可能であり、GISを用いて緑地評価における機能的なツールを開発することは本研究の目的である緑地計画の支援につながることは明白である。本研究は点検項目の設定から、評価手法の確立まで再現可能なシステムを提案しており、保全区選定に寄与することができる。

 また、既往研究において、緑地の解析手法の取り組みはなされているものの、個々の緑地のネットワーク性評価を定量的に行っているものは少なく、緑地をどの機能を見ているかも曖昧であることが多いという問題がある。空間指標を活用した手法の開発という点においては、これまで行われてこなかった、パッチに対してネットワークの優劣における価値の評価を加えた点、透過性(移動しやすさ)を計量化した点において意義があると考えられる。

 

3.既往研究

 

 緑地分析の研究例とその分類を表3.1に示す。

 全国レベルや複数県にまたがる地域における状態の把握や類型化には基準地域メッシュなどによるメッシュ分析が行われ、市や区、さらに限られた小スケールの範囲では細密数値情報や衛星画像を用いた分析が行われてきたが、ひとかたまりの緑地単位での分析はあまり行われてこなかった。これらの方法の応用として、都市計画・社会データとの相互関係を見るために行政界でオーバレイを行い、社会状況との関連、市や区の間の比較をする研究も行われ、近年では、流域・小流域でのゾーンを用いて緑地の把握をする研究が盛んである。しかし、これらもまた画素ベースの分析であり、手法の点から見れば、行政界や小流域を単位としたマクロ分析へ拡張しているに過ぎない。

 これから課題と考えるものをまとめると以下のようになる。

・都市計画への応用について具体性が低い

・個別の事例で評価しているが、統合がなされていない

・画素ベースのものがほとんどで、オブジェクト(パッチ)単位の解析はしていない

 本研究ではこれらの課題を改善する、パッチレベルにおける総合的な指標の作成を試みる。具体的な指標作成において、既存のツールや研究の分析手法を参考にした。指標作成ツールとして景観分析ツールであるFragstatsが挙げられる。ラスターベースだが、数多くの指標を作成でき、パッチ分析が可能であるのが利点である。パッチごとに評価を返せないため本研究では直接使用していないが、指標化にあたって参考にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


4.緑地資源・点検とは

 

 生態系が環境に与える効果をサービスとみなせば、緑地もまたサービスを提供できる生態系の一つであり、資源と捉えることができる。森林をはじめとした緑地空間は大気や水質の浄化、土壌の生成、生物の生息、食料や燃料を提供するなど多様な機能を持っている。このような緑地の持つ機能は生物や人間に対して便益を提供しているとみなすことができる。よって生物や人間にサービスを提供する緑地は資源と位置づけられる(図4.1,Wilson and Boumans,2002)。この考え方に従えば、緑地は何らかのサービスを提供できる機能を有しており、資源と見なせる。緑地の価値はこれらのサービス(制御、生育・生息空間、生産、情報)機能の優劣によって価値を定めることができる。

 ここで述べられている"緑地"であるが、具体的に何をさして緑地とするかは、目的によって変化するため一意的に定められない。一般な定義においてはオープンスペースや荒地も含めて緑地とされるが、緑地の評価においては緑被分布、森林分布、緑被率といったものによって解析することが多い。よく使われるのは緑被率であるが、緑被は樹林地、農地、草地、水辺地、公園緑地など(緑被地)に加え、建ぺい地に導入された緑も含めている。本研究においては衛星画像で捉えることができる樹林地、農地(湿性耕地/乾性耕地)、草地、水域を緑地とする。そのうちコアとしての要素が強い樹林地を評価対象としている。樹林地は主な保全対象でもある。

 点検とは、緑地計画において資源となる緑地がどこにどのような状態にあるかという価値を評価するための情報を整理することをさす。そして、緑地評価は点検によって得られた情報を基に必要な情報を追加し、価値の上限をつける行為である。

 都市計画において点検は管理へとつなげるためのものでもある。つまり、計画→点検→評価→管理という流れで結びついており、円滑な保全政策のためには管理体系を考慮した点検項目の策定、及び再評価が可能な評価システムが重要な要素となる。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5.用語定義

 

・緑地

 衛星画像で捉えることができる(225m2以上)樹林地、農地(湿性耕地/乾性耕地)、草地、水域を緑地とする。

 

・パッチ

 景観生態学において環境を構成する最小単位。同じ属性が連続しているまとまりをひとつのオブジェクトとして考える。

・コア

 緑地の中心となる部分。種の分布から見て分布の中心域を指すこともある。

    クラスター

 緑地のパッチが近接して集まったパッチの群れをクラスターとして定義する。

 

6.本研究における緑地分析の捉え方

 

 樹林地を対象とした評価システムを構築していくにあたって、その他緑地、農地(湿性耕地/乾性耕地)、草地、水域も評価指標作成に用いる。樹林地周辺にそれらが存在している場合によりよい環境創造に寄与していると考える。

 分析の特徴として以下の4点があげられる(図6.1)。

・形状特性

 規模を評価するために緑地そのものの面積の大小や形状性質(深さ[細さ])など形状の特徴の評価をする。

・空間関係

 近接パッチ(同族性の樹林地)との距離と近接しているパッチの規模。

・立地環境

 評価対象となるパッチの周辺環境。この環境の把握に樹林地以外の属性(農地や水域など)を考慮して評価を行う。

・社会条件

 周辺の施設や文化財有無を指標に取り入れ、利用・管理の条件のよさを評価する。

 

 さらに周辺環境の考慮する際には、クラスターを生成し、その評価をパッチに反映するという方法を提案する。

 図6.2はラスター・パッチ・クラスターの関係を示している。

 ラスターはパッチ生成の基ととなるデータの型である。また周辺環境把握に用いる土地被覆もラスターを用いている。連続した緑地の塊をパッチとして判別し、パッチのマップを生成し、それを基に基にクラスターが作られる。パッチの集合体であるクラスターは、パッチの集塊性及びパッチ間距離から密集しているものを判別し、クラスターとする。

 

7.評価システムの構築

評価の流れは図7.1のように4段階にわかれており、評価項目の選定後、それらの評価項目に対応する指標を計算する。パッチの指標の計算、クラスターの生成を行い、クラスター内におけるパッチの位置やクラスター内における相対評価値をパッチに反映させる(表7.1クラスター特性)。

 

評価項目の選定と指標

 これまでの研究および横浜市が作成した点検項目を元に評価項目を定めた。緑政計画に寄与することを想定しているので、自然的な条件だけでなく、社会的な条件を項目に加え、最終的に総合指標を作成し、それによるランク付けを行う。

 項目に取り入れたのは自然条件3項目、社会条件4項目の7項目である。表2.1、2.2に各項目と評価方法の一覧を載せる。

 自然条件は今までの研究成果を基にパッチ単位の評価に有効な項目及び指標を選出、作成した。

保全生態学、景観生態学において重要とされるパッチの性質、パッチの境界、パッチの状況、連結性を評価できるように設定している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

評価指標の統合

 

 前節で定めた各指標を統合し、総合指標を作成する(図7.2)。統合の際、各指標を正規化する。

 乗算で統合するとどれかひとつの値に引っ張られ、他の値を反映できない。そのため正規化した値を加算することで総合指標を作成する。評価項目はそれぞれ重要と考えられるものを選出している。よって項目間の別はなく、一つ一つの重みは同一と捉え、単純加算を用いた。

 

8.評価システムの適用

 

対象地域

 

 対象地域には横浜市北部に位置する港北区、都筑区、青葉区、緑区を選んだ。横浜市は東京へのアクセシビリティが高く都市化が進んでいる地域であり、現在は急激な緑地の減少が起こっているというわけではないが、今だ減少の一途をたどっており、残存する緑地を保全することは重要な課題となっている。

 都心に近い地域から、郊外の自然が比較的多い地域と変化に富み、市街地や公園、農地と様々な土地利用がモザイク状態にあるという都市的な特徴を持っている。区ごとの比較をすることにおいても緑化や緑地保全に力を入れている港北区、緑区、緑の7大拠点を保有する緑区・青葉区と比較材料が揃っており、評価を行うにあたって適した地域といえる。

評価対象としては、主な保全対象である樹林地を取り上げ、分析を行う際に他の属性との関係を含めて評価する。

 図8.1に横浜市北部の図を載せた。対象となる地域の色が異なっている。

8.1 対象地域

 

使用データ説明

 指標を作成するためのデータを表8.1に示す。評価対象となる樹林パッチは横浜市が提供する緑地分布図(空中写真からデジタイズしたデータ)の各ポリゴンである。親和性や環境特性の算出において必要となる周辺の土地被覆は衛星画像から作成した土地被覆データを利用している(小澤, 2002)。

 社会条件の指標作成で使用する施設や保全区データは横浜市が保有している都市計画情報システムをベースに利用し、不足分を環境特性図(そのうちの地形区分及び文化財分布図等を利用)や公園緑地配置図などをデジタイズして補完した。

 年度や縮尺・解像度は表8.1の表にある通りである。

 

緑地評価指標の作成

 

 ArcGIS8.3やERDAS IMAGINE 8.7などのソフトを利用し、これらで不可能な作業はC言語でプログラムを組んで指標を算出し、描画を行った。

 各項目の計算の前に、評価対象の樹林パッチ(緑地分布図)の面積0.1ヘクタール以上をクリッピングしそのパッチに対して指標を与えた。パッチ数3867、総パッチ面積4070ヘクタール(40706084.1861416m2)となった。

 

・自然条件:広域性

 

 広さはパッチの面積、深さはパッチの円形率からなる。各ポリゴンの計算結果がそのまま指標となる。その結果を用いて図8.2の式にあてはめ広域性指標を計算する。円形率は小さいパッチほど重要な指標となるので、面積が少ないほど、円形率が反映されるように式を作成した。閾値である20000m2は市が管理する保全区(市民の森)策定の面積(2ha=20000m2)から定めた。作成フローを図8.2に、結果を図8.3に示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


    自然条件:ネットワーク性

 

 近くに緑地があればあるほど、近くのパッチが大きければ大きいほど、値は上昇する指標が各パッチに返される。

 集塊性指数は面積・重心位置を算出後、図中の式のようにC言語で計算した。

 透過性はパッチと最近隣のパッチを外包するポリゴンレイヤを組み合わせが重ならないよう複数作成し、そのレイヤで土地被覆データに対してゾーン統計を行った(この土地被覆データはピクセルに重み付けの値を持っている)。ゾーン内の平均値を透過性とした。ゾーンに利用した外包ポリゴンの図を図8.5に示す。このポリゴンをゾーンとすることで、パッチ間にある土地被覆の重みがわかる。

 この指標はパッチ間の接続性を示すものである。パッチ間の土地被覆要素から算出した透過性は近接パッチへの移動しやすさ(ストレスの少なさ)をあらわし、周辺パッチの面積と距離から算出した集塊性は周辺パッチ、つまり同属性の樹林パッチとの連続性をあらわす。それらは密接に関わり合うため、集塊性指数を正規化したものと0〜1で算出された透過性指標を乗算してネットワーク性指標とした(図8.2)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


結果を図8.6に示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


クラスターの作成

 

 集まったパッチを同じクラスターと判定し、IDを与えていくという方法をとった。具体的にはコアとなりうるものを集塊性指標が平均以上のものとしてそのパッチに対して広域性指標で重み付けした距離でバッファを作成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    環境特性(S1,S5)

 

 親和性の算出にはバッファ(パッチ周囲100m)を用いた土地被覆ラスターのゾーン内平均(周辺パッチ要素BP)と周長面積比率(PA)を使用した。土地被覆データは透過性計算と同じデータを用いている。BPと正規化したPAを掛け合わせ、面積に対する周囲と接する比率が面積周辺の親和的要素の大きさ(ストレス要素の少なさ)で重み付けされた親和性が算出することができる。

 クラスター特性は重心間距離と各指標(広域性・ネットワーク性)におけるクラスター内平均とパッチの値との差を正規化後加算して求めた。これによって周囲のパッチ内での重要性、パッチが含まれるクラスター環境の状態をパッチに返す形になる。

 統合(環境特性指標の作成)においては各指標を加算して求める。表3.4に指標の特徴、作成フローを図8.7に、作成した結果を図8.8に示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


・社会条件:文化特性

 

 3つの指標から成り立つ。それぞれの算出方法は以下の通り。

 ・歴史・文化資源

  文化財分布図の文化財(建造物・記念物・旧跡・歴史的資産)、社寺林を含むまたは接してい る場合に0.5、それ以外を0とする

 ・名木・古木

  文化財分布図の名木・古木を含む場合に0.5、それ以外を0とする

 ・ふるさと景観

  農業施策マップの農業専用区域・農用地区域に接している、または200m以内にある場合に0.5、それ以外を0とする

 

・社会条件:利便性

 

 ・アクセシビリティ(駅)

 数値地図2500の駅データから駅からの距離(ラスター)をつくり、オーバレイによってパッチに 距離最小値を与え、それを指標化した(駅から400m以内:0.2、100m以内0.8)。

 ・アクセシビリティ(道路)

 同道路データから主要道路(国道・県道)を抜き出し、他の道路と区別して計算した。主要道路 に接続している場合0.8、その他の道路の場合0.2とした。

 

・社会条件:活用度

 

 ・市民活動

  愛護団体が存在する樹林地(市民の森やふれあいの樹林、保全区など)に対して0.5、それ以 外を0とした。

 ・利活用可能性

  作成した施設マップの文化・スポーツ施設、福祉施設、自然に親しむ施設との距離が200m以 内のものを0.5、それ以外0とした。

 

・社会条件:計画特性

 計画特性の指標作成にあたって、横浜市の保全区指定を参考に重要度を定めた。ここでいう重要度は市の管理がどれだけ入るかというものである。基本的に規模の大きな保全区は市が直接管理し、中規模以下は市民団体に管理を委託するという形態をとっているため、保全指定基準の大きさと比例するように指標を設定した。市有緑地は規模にかかわらず市の管轄であるので別個指標として取り入れた。対象地域には緑地保全地区6箇所、市民の森6箇所、ふれあいの樹林2箇所、風致地区5箇所が保全指定地区として指定されており、市有緑地は3箇所存在している。

 ・緑の基本計画等

  緑地だけでなくそれを含む形で指定されている区域内にあるか否かで指標を作成した。利用し た区域は七大拠点と風致地区で、この区域内にあるパッチに値(風致地区:0.2、七大拠点:0.5) を加え、それ以外を0として指標を作成した。

 ・緑地保全事業の実施状況

  ふれあい樹林地:0.6、市民の森:0.6、市有緑地:0.4、緑地保全地区:0.8というように市の管理が深いものに重みが強くなるように指標を作成した。

 

ランキング結果

 

・自然条件:総合結果(図8.11)

 

 図3.20は総合指標を標準偏差で分類したものにランク30位以内のパッチに対してラベリング及び各項目カラムを重ねた図である。

 青葉区、緑区の規模の大きい緑地周辺に上位のパッチが集まった。この地域は都市部というより都市郊外の形態をとっているため、樹林地だけでなく、草地や農地の土地が残っているため、どの指標も高くなったと思われる。港北区側で高い値をとっているパッチはどれも保全指定がされている地区の周辺であり、広域性・環境特性が高くなっていた。都筑区にある線状のパッチはあまり大きな規模ではないがネットワーク性が高いため上位ランクにきている。そして、値の高い地域とそのほかが明瞭に分かれてしまっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


・社会条件:総合結果(図8.12)

 

 全体の特徴として、大きなパッチは複数条件と重なることが多く、値が高くなっていることがあげられる。自然条件の評価においては周辺パッチが必要であったため対象地域外であるが、指標作成のために市外のパッチも用いている。社会条件データのほとんどが横浜市内に限ったものであるが、統合指標作成のため自然条件の場合に合わせて横浜市外のデータもともに用いている。

上位のランクに来ているものはどの評価項目においても高い値をとっている。中央に中堅ランクのパッチが集まり、両脇に高い値をとっている。高い値が西と東によっているのは計画特性の値に偏りがあったことが一因にあると思われる。

 西側で高い値を示した7大拠点周辺はスポーツ施設や文化施設がある場合が多く、文化特性・活用度が高くなっている。

 一方港北区は、全体で交通利便性がよく、利便性が高い。また、人口の多さが反映してか、利用可能施設も多いため活用度が高くなり、総合指標が高くなったと考えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


・総合指標の結果(図8.13)

 

 社会条件・自然条件の各総合指標を統合した結果を図3.26に示す。社会条件で東側が、自然条件で西側がランク上位に順位付けられたことが明瞭に示された。東側は、人口が比較的多い地帯であり、残存緑地の規模も小さい。社会条件が高いという結果は緑地資源(この場合樹林地)に対する需要が高く、希少性が高いと思われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


9.考察評価手法について

 

評価手法について

 緑地の自然条件、社会条件それぞれ想定した価値の優劣を指標で表現するためにGISデータ、GISツールを最大限に活用し評価を行った。計算機演算による自動処理が含まれているため、理想通りの結果が得られるわけではないが、各指標の性質を損なわずに評価できたと思われる。

システムの特長として

 

 ・再現可能

 ・比較的対象サイトに依存しない

 ・データの追加応用の簡便さ

 ・評価結果の応用利用の幅広さ

 

が挙げられ、ツールがそろっていれば、誰でも実行可能であり、都市緑地地域であれば他サイトでも行える。

欠点としては

 

・統一アプリケーションでないため一連の動作手法を評価者が熟知している必要がある(集塊性指標及び透過性計算においてはC言語を利用)。

 ・データ属性が増えた場合の定義が定まっていない

・全ての指標を計算するのに数多くの手順を踏む必要がある

 ・分散が大きい指標とそれ以外のもので指標統合後の貢献度が大きく異なる場合がある

 

 が挙げられる。

 また、GISによる景観解析手法の面から考えて、これまで面積のみ、あるいは集塊性のみで行われていたものに規模、連続性、周辺環境を加えて指標化することができた。これまでにも行政エリア全体、流域全体などで複数条件結果を算出する手法はあったが、パッチ単位ではほとんどみられなかった。社会条件も含めた評価をしていること、点検→評価の考え方を組み入れた評価手法であり、保全区指定の際の評価システムとして機能し得ると考えられる。

 

・評価結果について

 

 統合前の指標については指標作成の概念にかなり近い結果が得られたと思われる。少なくとも作成した指標それぞれの特性がそこなわれているということはなかった。ただ、分散が大きい指標とそうでない指標の統合後の指標への貢献度が大きく異なるという問題がある。保全区域に対する指標など該当パッチが一部に限られている場合に起きる。こういった特殊な状況に対する重み付けをどういった形で行うかは検討の必要があるであろう。類似した問題で土地被覆要素の重み付け方法やクラスター生成の際の閾値は絶対の値ではないので、定量的に設定する方法が必要であろう。

 

まとめ

 

5.1.結論

 

 都市緑地の保全政策を視野に入れ、評価方法の開発を行った。評価項目の作成、指標の検討、指標演算手法の開発、評価の適用とシステム設計から適用まで、一連の作業を行い、パッチ単位の総合指標作成および総合指標によるランク付けまで行った。

 評価項目は総合的な評価ができるように市民との関わりや文化財を指標に取り入れた社会条件4項目、面積、形状、連続性、周辺環境の指標を取り入れた自然条件3項目の評価項目を設定した。設定した項目を指標であらわすために、概念に基づき、GISツールの利用やC言語によるプログラミングを行うことによって指標を作成した。各指標をパッチ単位に集計して、個々の緑地の性質を指標化することができた。指標作成の際、パッチ解析において、難点とされていたグループ単位の解析を行うために、クラスターの概念を取り入れ、集まっているパッチをクラスターとして定義してクラスター単位の評価もパッチの指標に取り入れた。これらの作業を横浜市北部の樹林地に適用することによって、実際に評価結果を得ることができた。社会条件、自然条件、総合とそれぞれ統合指標を作成し、樹林地のパッチをランク付けすることができた。

まとめると

 

 ・緑地の連続性や周辺環境についての指標化をGIS上で可能にした。

 ・緑地資源の評価システムの構築・適用を行い、パッチ単位の指標作成および総合指標によるランク付けまで行うことができた

・ひとつの視点における評価結果として、緑政計画への定量的な情報として寄与できると思われる

 

 この構築したシステムは再現性に優れ、比較的データに依存しないため、計画管理に寄与する評価システムとして適していると考える。

 

5.2.今後の課題・展開の可能性

 

 今後の課題としては、まず評価システムのフレームを設計し、実現できることを証明したが、統一したアプリケーションを開発することで、解析手法を熟知していない人にも簡便に評価が適用できるようにすることが挙げられる。また、今回はシステム設計と開発に重点をおいて行ったが、シナリオを作成し、実際に予算シミュレーションをしてみることで、より明確に有効性が検証できるであろう。

 その他に社会条件において、人口の誘致距離を取り入れた指標を項目に追加し、住民ニーズの指標の強化を行うことなどが考えられる。

 評価手法は様々なパターンが考えられ、1つに定めることができない。保全区の選定・管理においては、各地域で試行錯誤が必要であると思われるが、本研究のような比較的適用範囲の広い一般化されたものが、多方面から提案していくことによって実際の管理形態や、保全区選定の手法の改革につながると思われる。