2004年度 森泰吉郎記念研究振興基金
修士課程研究助成金報告書
氏名: 戚 莉 学籍番号:80424998
所属 :政策・メディア研究科 修士課程 1年
グローバル・ガバナンス・プログラム
研究テーマ(変更):「中国農村部のエイズ問題」
1.研究の背景
中国衛生部の資料によると、現在中国のHIVキャリアーは約84万人、エイズ発病患者は約8万人に達した。感染者数はアジアで2番目、世界で14番目となっている。
中国におけるエイズ蔓延の原因は性的接触、静注薬物濫用、麻薬などの他に中部農村貧困に苦しむ農民が売血を行う過程で、医療器具の衛生管理不備により集団感染に発展したケースがある。こうした感染ルートは前代未聞で、中国特有の感染ルートだと考える。
周知のように、エイズ問題はすでに医療の領域を越え、社会問題になっている。エイズの感染者は働き盛りの年代に多く、家庭、労働、教育など多方面に影響を及ぼす。労働力不足、孤児の増加、医療にからむ社会福祉財源の枯渇など、経済に破壊的な影響を及ぼしかねない。特に経済の面ですでに遅れた農村部に対して、エイズの問題は新たな一つマイナス要因になっている。
2.研究の目的
本研究の目的は、今日までの中国農村部でのエイズ流行過程と現状を考察し、現行のエイズ対策を分析した上で、中央政府、地方政府、市民団体など各アクターに提言を行い、これからの中国農村部におけるエイズ蔓延の防止、問題の解決と経済の発展に貢献せんとするものである。
3.研究の手法、手順
本研究は主に文献資料を分析することに加え、重点感染地区における調査、関係者のインタビューを行う。
2004年4月 研究テーマの確定と初歩研究計画書の提出。
2004年5月―6月 中国におけるエイズおよびエイズ対策の情況につき資料を収集、必要文献の講読も行った。同時に、看護医療学部鎌倉光宏助教授の研究プロジェクトにおいて、エイズの病理学的知識や諸外国のエイズ対策について学んだ。
2004年7月 夏休みにおける第一回目のフィールドワークの準備と現地調査方法論についての勉強。
2004年8月 ボランティアとして「2004AIDS文化フォーラムin横浜」を参加した。日本の市民団体のエイズに関する活動の参加とインタビューを行った。そして中国河南省で第一回目のフィールドワークを実施して、現地のエイズ対策を考察して、エイズ感染者と地方官僚をインタビューした。
2004年9月 フィールドワークで入手したデータと情報を整理したうえで報告書を完了した。
2004年10月 グローバル・ガバナンスの共同プロジェクトにおいてのフィールドワーク報告書を発表。研究テーマの変更。
2004年11月 エイズ問題に関する社会学の勉強。「
開発とローカリズム」の授業を受けて、ネットワーク・ガバナンスの研究会も出席した。社会学の理論とフィールドワークの方法をいろいろ学んだ。
2004年12月 第二回目のフィールドワークを行った。大都市―北京のエイズ対策と宣伝についての考察。
2005年1月 修士研究一年間の小結
4.研究・調査実績:
「エイズの時代」などたくさんの本の購読を通じてエイズ発展の歴史を各国政府と国際組織と対策を明らかにした。そして看護学部エイズ専門家の鎌倉光宏助教授の研究プロジェクトにおいて、エイズの病理学的知識を身につけた。
さらに現場のPWA(People with AIDS)と接触する前に「エイズとソーシャルワーク」など本の勉強を通じてHIV感染者看護の基礎知識とNGOの役割が分かるようになった。さらに現地調査の演習として横浜のエイズ対策の調査を行った。横浜YMCAのエイズフォーラム事務局へ取材していろいろ横浜市エイズ予防の状況を手に入れた。そして今年8月の2004
AIDS文化フォーラムin横浜にボランティアとして参加するために育成講座も受けることをした。2004年8月、ボランティアとして「2004AIDS文化フォーラムin横浜」を参加した。横浜YMCAを代表とする市民団体らは講演、展示、ゲーム様々な活動を通じて、AIDS、HIV感染者に市民の関心を呼びかけた。市民団体の活躍と市民の熱心とも私を感動させた。
夏休みになると中国の河南省に赴き、第一回目のフィールドワークを実施した。現地でHIV感染者、農民、政府の官僚をインタビューして、貴重な生情報を入手できた。また、これまでのエイズ問題に対する認識は、文字、資料から実際の事件、人物へと進んだ。とても有意義な調査であったとしみじみ感じている。残念なのは現地で市民団体の姿が見えなかった。
学校に戻り、フィールドワークの成果の上で、また先端研究など授業の勉強を通じて、エイズに対する認識がより一層深刻になった。指導教官の田島先生と相談した結果、最初の「エイズと中国社会」という修士論文のテーマをもう一度絞り、「中国農村部のエイズ問題」に進化してきた。
秋学期の勉強は社会学においてエイズを位置する点を中心として、「
エイズと貧困」 、「 エイズと開発」、「 エイズと女性」 などいろいろの側面からエイズの社会学の意義を考察した。そして、農村部の状況と比べるために冬休みを利用して大都市―北京のエイズ対策を調べたし、関連組織と官僚をインタビューした。
5.今後の展望:
現在まで修士論文に関する理論の勉強と資料の収集はもう大体終わり、しかも第一、二回目のフィールドワークを通じて、大量貴重な生情報も入手した。しかし、また明らかにする必要なところは以下のとおりである。1、非疫区農村地区のエイズ対策と感染者の状況;2、社会保険におけるエイズの扱い;3、中国の市民団体の役割など。今年度はさらに3回目の現地調査を予定している。それらの疑問点を明らかにするうえで、中国のエイズ予防、治療の理想なモデルを構築する。これらの成果を、修士論文としてまとめる。
また今年度も同テーマにて引き続き研究を行う所存である。森基金の支持も期待している。
6.本報告書の主な参考文献
[1]「中国エイズ予防治療共同評価報告」
中国衛生部と国連エイズ合同計画(UNAIDS)中国対策チーム 1997/2003
[2]「公共衛生管理学」 王石雁 黒龍江人民出版社 2002
[3]日本エイズ学会誌 2003
[4]「公共衛生工程学」 上海科学技術出版社 1986
[5]「エイズとソーシャルワーク」 小西加保留 中央法規出版 1997
[6]「エイズの疫学、病因・病型」
鎌倉光宏 「脳神経」・56巻4号 2004
[7]「本当の中国を知っている」 山本秀や 草思社 2004
[8]「人民日報」 関連報道
[9]「三農問題を如何解決するか―かぎとなる労働力移動」雑誌「実事求是」 2004
[10]「中国年鑑」2004年版 社団法人中国研究所 創土社 2004