2004年度 森基金報告書

2004年度 森基金報告書

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士1年 上野貴士
学籍番号:80424249
 



ラグビーにおける1対1ディフェンス

     
  1. 研究背景

    ラグビーの勝敗は、いかに敵陣に攻め込み、ゴールラインまでボールを持ち込んでトライをするかにかかっている。基本的なスキルや判断の過ちがなかったと仮定した場合、攻め込む(Gain)ことができる要素として具体的に6つの要素が一般的に挙げられている。それは、(1)オーバーラップ(数的有利)(2)ミスマッチ(3)ウイークサイドへのムーヴ(ギャップやインサイドショルダー)(4)オフロードパス(縦のオーパーラップ)(5)モール(6)キックである。

    よって、攻撃パターンを練る際は、これら6つの要素をうまくゲームの中で利用し、有利な状況をいかに作り出していくかがポイントとなる。逆にディフェンスする立場から考えると、これら6つに対する対策さえきちんととられていたならば、相手に得点される心配はないと言える。先日、大学日本一を達成した早稲田大学が、日本選手権準優勝の社会人トヨタを相手に、残り時間10分までリードしていた試合のように、一見、力の劣ると思われていたチームでも、ディフェンスし続けることで、番狂わせを起こす可能性がある。ラグビーは15人という指定された人数で、オフサイドの原理のもとに、イコールコンディションを前提として成り立っているため、防御を完璧にすれば負けることはないという考え方もある。このようにGainさせないディフェンスを行うことが、試合に勝つための近道となる。

    既に、ラグビー界では、ドリフトディフェンスやゾーンディフェンスなど、数人がグループとして機能する防御システムは確立されているが、それらのディフェンスの根底に存在しているのは、1対1ディフェンスである。1対1でのディフェンスを成功させなければ、どんなディフェンスシステムも成り立たないのである。そのため、1対1の状況でのディフェンスが最重要事項となる。指導現場では、ディフェンスをするときによく、「相手の腰を見ろ」などという指導が行われているが、その根拠を示す視覚に関する科学的な研究は行われていない。

  2. 研究概要

    本研究では、眼球運動測定装置を用いて、ラグビーの1対1の状況におけるディフェンスプレーヤーの視覚探索ストラテジーを明らかにすることを目的とした。

    被験者として慶応義塾体育会蹴球部に所属する選手と一般大学生に、ボールを持って走りこんでくるプレーヤー(以下、ボールキャリア)をディフェンスしてください(止めてください)という教示を与え、実験を行った。

    結果として、熟練したプレーヤーには、2パターンの視覚探索パターンがあることが明らかになった。一つ目は、上半身から腰へ何度か視線移動させてディフェンスするパターンであり、二つ目は、走りこむ前のスペースから腰へと何度か視線移動させてディフェンスするパターンである。どちらのパターンも最終的には腰周辺に視線が収束しているものの、そこまでの経路としては、上からと下からの2パターンに分かれた。

    相手の走るコースや走りこむスピード、間合い、ボールキャリアの体格、ディフェンスプレーヤーの体格、プレーヤーのポジションなどが、これらの違いを生じさせる一因ではないかと推測される。

    一方で、 一般大学生の被験者は、ボールキャリアの動きに即座に反応できずに振り切られるケースが多く、熟練したプレーヤーと比較できるデータが測定できなかった。しかし、一般大学生には、体幹の中心を注視し、視線をあまり動かさない傾向がみられた。


    また、本研究とは別のアプローチからの研究(心理面)も進行中である。


  3. 今年度の研究報告


  4. 今後の活動


  5. 参考文献