2004年度(平成16年度)

 

バスケットボールにおける熟練プレーヤーの知覚‐運動スキル

 

                   慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科

落合 祐輔

 

 本研究の主題は、熟練バスケットボールプレーヤーの知覚‐運動スキルを明らかにすることである。スポーツ場面における主たる感覚器官は眼であり、入力される情報の多くが視覚によるものである。つまり、ここでいう知覚とは、主に視覚から得られる情報のことである。また、スポーツ場面では入力した情報を優れたパフォーマンスとして出力することが求められる。見ることは動作につながり、逆に動作は見ることから始まるといえる。よって本研究では、入力としての知覚と出力としての運動の関連性を明らかにすることを目的とし、バスケットボールの、ファーストブレイク状況とゲーム状況下でのオフェンスプレーヤーの視線移動パターンと、同時発生するプレーヤーの身体運動を調査した。

本研究では、慶應義塾体育会バスケットボール部に所属するプレーヤーと一般学生を対象に、フィールド実験を行った。その結果、各状況において熟練者と非熟練者の視線移動パターンには大きな違いがあることが示された。熟練者は周辺視の使用が優れているため、コート上の一点に視線を配置させた状態でコート全体を把握可能であるのに対し、非熟練者は常にコートの様々な場所に視線を向けていた。つまり、熟練者は次のプレーを予測するための手掛かりとなる箇所に視線を向けつつ、その周囲の必要な情報源にも選択的注意を払う一定の視覚探索ストラテジーが確認された。さらに、熟練者はパスを出す祭にも、最も素早く効果的なパスを行うために常に上体を安定させていることが明らかになった。

 この結果は、バスケットボールという複雑に変化するゲーム状況下での熟練者のパフォーマンスを支えるための視覚探索ストラテジーを明らかにすると共に、パスという運動へつなげるための情報処理プロセスを明らかにした。こうした知覚と運動の関係性は、バスケットボールに関する研究のみならず、その他の多くのスポーツにおける競技者の行動特性を解明する上で、貢献できるものだと考えられる。

 

キーワード:

1 バスケットボール  2 知覚‐運動スキル  3 視覚探索ストラテジー  4 周辺視  5 フィールド実験