2004年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究助成金報告書
日韓における経済的相互依存と環境影響
政策・メディア研究科 グロ−バル・ガバナンス プログラム 名前:べ ユン
問題の所在
冷戦後、経済と環境の連携が貿易と環境連携に移行している。これまで、経済発展を達成するために発生した公害問題は各国内で対応してきた。
しかし、経済のグロ−バル化により環境問題も国際的な対策を求められている。
従来には環境側面のみに配慮したEIA(環境アセスメント)から社会・経済・環境の融合を図るSEA(戦略的環境アセスメント)に移行しつつある。一方、経済的相互依存関係が深化しているが、両国のSEAは政策段階に達してなく主要産業の重要な企業のポスコから日韓の経済・環境連携の現況を明らかにし共通のSEAをどのように導入するかを試みた。
研究目的
@世界の経済・環境連携の動向を明らかにした上で、日韓両国の戦略産業の代表的な企業であるポスコを通じ経済・環境連携の現況を明らかにする。
A日韓共通の戦略的環境アセスメント導入の可能性、必要性を明らかにし提言する。
研究意義
先行研究との比較
1.安藤 博 「日韓環境協力の現状と展望」『Human Security』(No.3、1998)
2.ユ ゾンソン 『北東亜環境問題と地域環境協力の模索』(集文堂,1999)
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個別問題の対策や日本により韓国内の環境技術開発力の低下、環境外交における不利を
懸念する慎重論である。日韓の深まる経済関係や経済・環境連携における世界的な動向に注目してない。しかし、本研究は日韓の戦略産業の代表的な企業であるポスコを通じ両国における経済・環境連携の現況を明らかにし世界的な動向と比較した上で改善案を提示するが国際競争力の強化に一助できる。
研究手順
@ポスコの経済的波及効果、日韓貿易構造:水平分業度、対外貿易推移
A四つのフィルドワーク
・日韓環境アセスメント学会共同ワークショップ参加
・韓国:環境政策評価研究院
・韓国:産業資源部、産業環境課長・FTA担当官とインタビュ−
・日本:光陽製鉄所(POSCOの第二工場)にて環境調査担当者とインタビュ−、浦項製鉄所( POSCOの第一工場)にて環境調査担当者とインタビュ−
研究内容
第一章 世界的経済・環境連携
第一節 環境問題に積極的な取り組みを行い始めたWTO
・GATT体制 → 自由貿易の優先:第20条の一般的例外規程の一部
・物の貿易を越えたURにおける貿易と環境に関する措置
・環境と貿易連携に矛盾を抱えるWTO
多国間 環境条約との整合性:環境規制により一方的な貿易措置可能
第二節 OECD
・貿易・環境政策の連携:PPP → PPMs
・予見的政策への取り組み:EIA、貿易自由化の及ぼす環境影響の評価(環境審査)」及び「環境措置・ 政策の及ぼす貿易への影響の評価(貿易審査)」
小 結
・WTO、OECD:公害対策、経済・環境連携(PPP、EIA)→ 経済のグローバル化に伴い貿易・環境連携の手法(PPMs、SEA)
第二章 ポスコにみる日韓経済・環境連携
第一節 相互依存関係の基礎であるポスコ
・日本の経済協力と技術協力によって設立
・日韓経済関係:
@輸出立国を掲げ経済発展達成
A日本の技術・資金の一方的依存 → OECDの加盟国になり相互依存関係
C水平分業度の向上:貿易不均衡の改善
・両国における鉄鋼業の重要性
@戦略産業の川上産業
A環境負荷が最も高い → 環境配慮が必要
B新日鉄と経営における戦略的提携や環境情報の共有:韓の産業体の中で最も経済・環境連携が進展
・2003年2月−6月に排水と大気汚染 → 製品無関連PPMs
第二節 浦項と光陽製鐵所の環境調査
・会社側の依頼による浦項製鉄所の環境調査 (1989−1990):日本の進んだ環境調査の技術
・地域住民側の依頼による光陽製鉄所の調査 (1993−1995):不足する環境デ−タ
・両調査の示唆点
@日韓における環境調査技術の格差
A環境情報の信憑性:カウンタ−パ−トの産業科学技術研究所(ポスコが全額出資で設立)
小 結:深まる経済関係、戦略産業の基礎のポスコの環境問題 → 国際競争力に影響
第三章 欧米諸国のSEAと日本、韓国のSEA
第一節 欧米諸国のSEA
・EU
@EIA指令(1985年)→ SEA指令(2000年) → 2004年まで、加盟国の制度化義務
A「EU持続可能性影響アセスメント(SIA)」の手法開発:WTO新ラウンド交渉で活用
・環境・貿易連携のNAFTA
@カナダ:NAFTAがカナダに与える可能性がある環境への影響を文書化
Aアメリカ:環境審査を用いて貿易協定の潜在的な環境影響を明確化
BNAFTA内で連携活発
・自治体主導だった日本のEIA
@大規模事業をめぐる省庁間の競争により法制化が遅れ自治体が先駆
A事業ベ−ス(ダム、道路など)、社会・経済側面への配慮が欠如
BSEAの検討:方法、範囲、適応事業などに留まっている。
・政府主度の韓国のEIA:開発のため免罪簿(法制化が早かった、開発重視)
@事業ベ−ス(ダム、道路など)、社会・経済側面への配慮が欠如
ASEAの検討:方法、範囲、適応事業などに留まっている。
第二節 日本と韓国のEIA
類似点
@事業ベース:ダム、高速道路、産業団地
ASEAの検討
B社会・経済側面の配慮欠如
@法制化の期間
A制度実施主体
第三節 日韓のSEAの現況
・日本のSEA :EIAと同様、制度実施主体が国家ではなく地方自治体が様々な形。
・韓国のSEA(事前環境性検討制度):適応範囲の拡大、評価時期の早期化によってEIAよりは進歩したものの行政計画までに留まっている。
・欧米諸国と日本、韓国のSEAの比較
@EU:EIA導入と同様、欧州委員会が加盟国に対し指令案、WTOル−ルとの整合性を計ることで貿易交渉に優位な立場の獲得を試みる。
ANAFTA:環境・貿易連携においてSEAを用い自国の環境への影響を保護
B日本と韓国:実施主体の違い、政策段階までに留まっている。
小結
・EU:制度化の傾向はEIA導入と同様、貿易交渉に優位な立場の獲得を試みる。
・NAFTA:環境・貿易連携においてSEAを用い自国の環境への影響に対応することが前提。
・日本と韓国のSEA
@両国のEIAの制度化と同じ傾向、実施段階は政策段階に留まる。
A両国の深化する経済関係:貿易におけるSEAが導入されてない → 国際競争力への影響が懸念
第四章 日韓共通のSEA導入に向けて
・世界的動向:経済・環境連携 → 貿易・環境連携
・環境アセスメントの動向:PPPのEIA → PPMsのSEA
・日韓経済協力
一方的依存関係 → 相互依存関係、FTAの構想
・日韓環境協力:POSCOの環境技術協力
第一節 経済関係変化と日韓FTA
・一方的な依存から相互依存へ → FTA提携
@韓国は経済発展:日本の中間財
A日本の追い上げではなくよきパ−トナ−
B経済効果 > 環境影響:日本の環境技術が柔軟に韓国へ移行
第二節 国内調整と三つの機関の連携強化
・国内調整:政府内で開発推進省庁と環境保護省庁、既存のSEAを政策段階に引き上げ
・日韓環境保護協力合同委員会、日韓科学技術協力委員会、産業技術協力財団の連携
結 論
・多国間環境協力の障害(経済格差、環境技術格差、制度不備):徐々に改善、FTA構想
・2004年:鉄鋼製品の間に無関税になり自動車、電気・電子などの戦略産業への波及効果も期待
・両国の戦略産業の代表的な企業であるポスコ:経済・環境連携を進展
・ポスコの環境問題:相互依存関係が深化・水平分業度を鑑みれば一国で対応できない。
・共通のSEA導入 → 国際競争力の強化 → 持続可能な発展へ貢献
参考資料(一部)
B・サドラー, R・フェルヒーム著『戦略的環境アセスメント』国際影響評価学会日本支部訳(ぎょうせい, 1998)
原科幸彦『環境アセスメント』(放送大学教育振興会、2000年)
安藤博「日韓環境協力の現状と展望」『Human Security』(No.3、1998)
渡辺利夫・金昌男『韓国経済発展論』(勁草書房、1996年)
林倍根『浦項地域産業構造와地域経済活性化』1992年12月
朴昌烈『WTO体制下의貿易과環境連繫에關한硏究』1998年2月
유종선외『북동아환경문제와지역환경협력의 모색』(집문당,1999)
黃哨熙『国際環境規制가우리나라貿易에미치는影響과対応方案에관한연구』2001年6月
韓國鐵鋼協會編「韓國의 鐵鋼業과 産業發展」『철강보』185('90.12)
pp.69-76
日韓各種白書(環境、経済)
各種新聞(日本経済新聞、日経産業新聞、東亜日報)
『BusinessWeek』(August 30,2004)
韓国環境部ホ−ムペ−ジ http://www.me.go.kr/
韓国産業資源部ホ−ムペ−ジhttp://www.mocie.go.kr/
POSCO http://www.posco.co.kr/docs/kor/posco_index.jsp
日本外務省ホ−ムペ−ジ http://www.mofa.go.jp/
日本環境省ホ−ムペ−ジ http://www.env.go.jP/